午前の授業を終えて、昼休みを迎えた。いつものように、弁当箱と飲み物を持って屋上へ行こうとしたところを見計らったように、
「最近、校内で盗撮騒動があること知ってるか?」
「ああ~。そういえば、クラスの女の子から聞いたことがあるな。確かまだ、犯人の目星はまだついていないんだろ?」
最近朱雀高校で多発している、女子生徒を狙った盗撮事件。
窓から人影を見たり、体育の授業後戸締まりをしていた更衣室のカーテンや窓が開いているなど、クラスの女子から聞いたことがある。
「女子の間では、犯人は
「
「そうだ」
制服をだらしなく着崩したり、耳にピアスを着けていたりと見た目は不良っぽいが。隣に座る
こいつも左耳にピアスしてるしな、しかも三カ所も。これで生徒会副会長というのだから、俺は人を見た目で判断することは止めている。
「で。犯人は、
「授業はサボるし、ケンカはする。マークしてる一人ではあった」
「じゃあ別にいたんだな」
「ああ。昨日2-Bの体育の授業中他校の生徒三人が、職員室へ連行された」
「へぇ......」
連行された他校生のスマホには、被害にあった女子生徒の写真が保存されおり、盗撮写真を売買している証拠が保存されていたことが発覚、即座に警察へ引き渡された。
これで
「だがな、どうも妙なんだ。教師の話によると、盗撮犯を連行してきたのは、あの
「
「相手は不良の男子が三人、しかもボコボコだったらしい。
確かに、妙だ。俺の知っている
「それと、もうひとつ引っ掛かることがある。
「それが?」
「アイツ、退学寸前なほど成績が悪いにも関わらず、全ての教科で100点満点中99点をとって退学の危機を免れた」
「全教科? もしかしてカンニング?」
俺の疑問に、
同じ教室で追試を受けていたのは
「奇特なことが二件同時に起きた。これは何かあるんじゃねぇか、と俺は思ったワケよ」
「で? 俺にどうしろと」
ニヤリ、と気色悪い笑みを浮かべると俺の肩に腕を回してきた。
「ちょっと探りを入れようと思ってな。ってことで頼む、
そういえば
提示した条件は――セクハラ発言厳禁。
二つ返事で快く条件を飲んだ
「電源が入ってないみたいだな」
「マジか。まあ、
立ち上がって、
「教室に居るってさ」
「よっしゃ、じゃあ行こーぜ」
弁当箱を片付けて、
「
「んぐっ......!」
背中から声をかけたことで驚かせてしまった。彼女の机にある飲み物を手渡す。
「あっ! C組の
「二人ともカッコイイよね。
一緒に昼食を食べていた女子たちのことは一先ず置いておいて、
「
「メシ食ってるところ悪ィけどさ。ちょっとツラ貸してくれよ」
一瞬躊躇したように見えたが、立ち上がった
「え、ええ。いいわよー! さあ行きましょうっ」
2-B教室を出て廊下を歩きながら
「お前から見て、今の
「......正直、違和感しかない」
一昨日、
「なるほどな。じゃあ、ここまででいい。後は自分でやる。とりあえず放課後に誘ってそれとなく探り入れる。いいよな?」
「何で、俺に聞くんだよ。まあ、あれだ、セクハラは犯罪だからな?」
にぃ、と白い歯を見せて親指を立てた。
さてさて、どうなることやら。
そして、放課後を迎える。俺はいつも通り、バイト先のフットサルコートで子どもたちを相手にコーチ。今日は、16時からとやや早めのシフト。 そこへ例の二人が、車道を挟んで向こう側の歩道に通りかかった。俺に気づいた
「アイツ、本気だったんだな......」
「コーチ、危ない!」
「おっと」
死角から飛んできたボールを胸で落とす。
「ナイスパス。今度は相手へ蹴ってみて、今みたいな感じにね」
「はーい。行くよー!」
もう一度歩道を見ると、もう二人の姿は見えなかった。小学生二組の練習計二時間の仕事を終えて、コート内に散らばった練習道具の片付けて回る。今日はこの後、別の予定が組まれているから忙しい。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「はい?」
背中に声をかけられて振り返る。ボールの飛び出し防止のネットの向こうに
「
「
「俺は、
お互いの自己紹介を済ませてから、用件を尋ねる。今度は、予め予防策を講じて。
「また勧誘ですか? 答えは変わらないよ。ところで、その格好は?」
「今日は、勧誘じゃないわ。お客として来たのよ」
突然のことにあっけにとられていると、
「あなたが、サッカーとフットサルは違うって言ったから確かめに来たのよっ!」
「あ、ああ~、そうですか。では、こちらへどうぞー」
二人をクラブハウスのロビーに案内して、空いている席に座ってもらう。カウンターにある会員登録書を用意してテーブルに戻る。
「うちは会員制だから登録が必要なんだ。面倒だと思うけど、お願いするよ」
「そう、わかったわ」
「うむ」
書き終えた登録書に記入漏れがないか確認。
「女性は、一時間700円。あら、思ったより良心的なのね」
「......男は1400円か。思ったより高いな」
「それは、一般価格だから。学生割引とかあるから安くなるよ。生徒手帳持ってる?」
「今は、持ってないわ」
「俺も家だ」
二人とも生徒手帳は制服に入っているため持っていないらしい。とりあえず、記入漏れがないことは確認出来た。紹介者の項目に自分の名前を記入し、店長に確認を取る。
「店長。同じ学校の友達が二人来てくれたんですけど、スタッフ割引と学生割り適応して良いですよね?」
「いいよー」
カウンター裏から声だけが聞こえてきた。トップの許可をもらえたことで、割引適応で無事に登録完了。 二人を連れて、初心者が集まるエンジョイクラスのコートに入り、先に来ているお客さんと挨拶を交わして、三人でボールを回す。
「始まるまで少し時間があるから少しボールを蹴ろうか。二人ともフットサルの経験は?」
「ないわ。けど、サッカーなら体育の授業でしたことあるわよ。ゴールを決めたこともあるんだからっ」
「参加人数的に中途半端に別れることになるので、人数が少ないチームにはスタッフの自分が入ります。ケガには十分注意してください。それでは始めましょう」
俺は、タイマーをセットして試合開始を告げるホイッスルを吹いた。
「はぁはぁ......。な、なによ。これ......? 授業のサッカーより全然大変じゃないっ」
「くっ......!」
7分プレー5分休憩を挟んで計五試合のインターバル。一時間のプレーを終えた二人は、息絶え絶えといった様子。ぺたんと座り込む
「お疲れさま。はい、どうぞ」
「すまん......」
「あ、ありがと......」
水分補給をして息を整えている間にコートの片付けを済ませ、二人の元へ戻る。
「あなた、なんで息どころか、汗一つかいてないのよ......?」
「まったくだ。バケモノか......」
酷い言われようだ。
「いや、だって俺、ほとんど動いてないし」
やや後方のポジションに取って、極力動き回らずにパスを出す役目、パサーに徹していたため殆ど動いていなかった。
「結構ボールに触ってたじゃない」と、納得いかない不満
「ねぇ、手貸して」
「はいはい。どうぞ」
自力で立ち上がれないのか、近くに居た俺に手を差し出した。
「大丈夫?」
「え、ええ。もう平気よ」
抱きかかえていた身体を放して、クラブハウスのロビーへ三人で移動。疲れが少し和らぐのを待って、二人は帰っていった。よほど疲れたらしく、サッカー部への勧誘はなかった。俺としてはありがたい。帰り支度を済ませて家路を歩く。角を曲がったところで見知った後ろ姿を見つけた。
隣に行って、声をかける。
「
「えっ? あ、
「塾の帰り?」
「ええ、あなたはアルバイトの帰り?」
「うん、そう」
「こんな遅い時間まで大変ね」
「それは、お互いさまでしょ?」
――そうね、と小さく微笑んだ
「
「ええ、平気よ」
「そっか。それなら、よかった」
とりあえずひと安心、と思っていると彼女の家の前に到着。家の中には入ったことはないが、三階建ての立派な家。
「じゃあお休み。また明日」
「ちょっと待って」
「ん? なに?」
「ねぇ、
振り返ると
――あなた、キスしたことあるかしら、と。