連続した電子音が耳元で聴こえる。まぶたを閉じているのに、目の前が眩しい。どうやら、朝みたいだ。ベッドから降りてカーテンを開け、降り注ぐ朝日を受けながら大きく伸びをして、ふわついている頭を半ば強引に起こしてから、朝食と弁当の支度に取りかかる。
コーヒーメーカーのスイッチを入れ、フライパンに火を入れる。弁当のおかずを作りながら、昨夜の出来事について思い返した。
「えっと、なんで......?」
「だ、だから、おまじないよ、おまじない。美少女の
身を翻し、逃げるように早足で行ってしまった
家に帰ってからスマホで調べてみたが、「美少女の
結局、あれは何だったのだろうか? どうして、唐突にあんなことを。考えても仕方がない、答えは出ないのだから。朝食と着替えを済ませ、顔を水で流して頭を切り替えて、登校。いつもとほぼ同じ時間に教室に到着。ひと通りクラスメイトと挨拶を交わして一時間目の授業の準備を始める。するとそこへ、
「おはよーっす」
「ああ、おはよう」
手を止めず、
「昨日さ、生徒会役員にあった。ショートボブの子」
「ああ~、
「ご明察。生徒会はどうして、ブランクのある俺に拘るんだ?」
ようやく軽い運動ができるようになったが、ケガの影響でまともには動けず、長期間実戦を離れていて試合勘もない。何よりチームプレーが大事な集団競技でブランクのある人間に拘る必要性を、俺は感じない。
「今年、
「ふーん。つまり、部活動でいい成績を残して受験者を増やしたいってところか」
「まーな。このご時世だ、学校としては学力だけじゃなくて、運動部関係でも名前を売っておきたいのさ。お前、バイトの申請で書類提出しただろ?」
新年度になって、主治医からも許可をもらえたためアルバイト先の変更を知らせる書類を学校側に提出した。
しかし、断念の意向を伝えたため、今度は
「
「とまあ、オレが知ってるのはそれだけ。一時間目なんだっけ?」
「ああー......物理だな」
「マジかよ......。登校一発目の教室移動はダルいなー......って、オレたちしか居ねえじゃねぇか!」
話し込んでいたため、教室には既に誰も居ない。急いで教科書を持って移動。
階段へ差し掛かった時、悲鳴と何かが落ちるような大きな物音を聞き付けた俺たちは、急遽方向転換して悲鳴が聞こえた階段下へ向かった。
「おいおい、マジかよっ!」
「
男女が階段下で倒れ込んでいた。ひとりは、俺がよく知っている女子生徒、
「って、
「
「こっちもだ。外傷は見当たらねーけど」
「仕方ねえ、保健室に運ぶぞ。つーことで、
両手をワキワキして
「冗談だって。
「ああ、頼む」
膝を考慮してくれた
その後は特に問題もなく、昼休みを迎える。いつものように弁当を持って屋上へ足を伸ばす。ただ今日は、飲み物を用意するのを忘れていたため少し遅れた。ドアの横の壁に背を預ける形で腰を下ろす。午前中日差しに当たっていた壁が程よく温かく気持ちいい。ほんのり蒸し暑さを感じ始めた初夏の陽気の中昼食を食べ終え、転落防止用のフェンスの手すり両腕に乗せ、遠くに広がる高層ビル群を眺める。ふと、中庭を視線を落とすと、
そして授業も終わり放課後は、今日もバイト。教室を出たところで、
「
「へっ!?」
妙に驚いた様な
「大丈夫? もしかして、頭打ったから目眩があるとか?」
「う、ううん。もう全然だいじょうぶよっ」
「そう? ならいいんだけど」
変に腰を動かしたり、不自然な作り笑顔だったりと、いつもの
「ああ、そうだ。一緒に倒れてた、
「え、ええっ。
「そっか、そらよかった。じゃあ俺バイトだから、また明日」
やや挙動不審気味な
「もう一度聞くわ。サッカー部に入ってくれるわよね?」
少し不機嫌な
彼女の質問に対する俺の返事は――。
「いや、入らないけど」
「な、なんでよっ! 昨日、キスしたじゃない......!」
「もう一度聞くわ......。私のために、入ってくれるわよねっ?」
「はぁ......」
一体なんなのだろう。何度聞かれても俺の返事は変わらない。
「入りません」
「なっ!?
「お、おお......」
「これは、一体どういうことなのかしらっ?」
「さあな、わからん。だが、お前の――は人を選......」
「――そうね......」
話がまとまったのか、俺が座るベンチへ戻ってきた。
「今日のところは一旦これで引くわ。でも......私は、絶対にあきらめないからっ! 行きましょ、
「うむ。時間を取らせて悪かったな」
男子生徒は軽く謝罪すると、先を行く