Episode43 ~始動~
日を追うごとに、頬を撫でる風は厳しさを増し、通学路の樹木が赤や黄色に色づき始め、少しずつ姿を変えていく東京の街並み。校庭に舞う、黄色く染まったイチョウ葉。木枯らしに紛れ、微かに香る金木犀の花の匂いが本格的な秋の訪れを感じさせる。そんな、連休明けの月曜日。
中間試験も終わり、11月に入った。授業も通常の時間割に戻り、今学期も残すところ二ヶ月あまり。残す行事は期末試験と、終業式だけになった。そのため、授業後のホームルームも連絡事項の普段より早い放課後を迎える。
今日付けで正式に生徒会長に就任した
ひとつは今日のように、日直や係りの代行。そして、もうひとつは――。
「あれ、
「あっ、
特別教室棟の廊下でバッタリ出会った
「あなたも、
「新生徒会発足に当たって頼みたいことがあるからって」
「私も同じよ。部室へ行く前に来て欲しいって」
『どういうつもりかしらっ?』
生徒会室の近くまで来ると、部屋の中から大きな声が漏れ聞こえてきた。よく知っている女子の声、
「どうしたのかしら?」
「さあ? とにかく入ろうか」
「ええ」
両開きの戸を軽くノックをし、ドアノブに手をかけて、生徒会室の扉をくぐる。入ってすぐに、生徒会長の椅子に座って頭の後ろで手を組んでいる
「ちょっと、聞いているのっ?」
「ああ、聞いてるって。つーか、いったん中断」
「中断って、アナタねぇ!」
テキトーな返事を返した
「おつかれー、これで全員そろったな!」
「全員? どういう意味よ。そもそも誰に......って、
振り向いた
「し、
「これはいったい、どういうことなんだい?
「そ、そうよっ!」
「それを、今から説明するのさ。
「......チッ!」
命令を下された山田《やまだ》が小さく舌打ちしたのを、
「んー? 返事が聞こえないなー、これは困ったなー。仕方ない、秘書はしら――」
「わ、分かりましたーッ!」
何か弱味を握られているのか、
「会長、どうぞッ!」
テーブルに置かれた湯気の立つお茶をひとくち運び口に含むと、静かに湯飲みを置いた。
「ヌルいな。
「な、なァーッ!?」
「茶番はいいから、ちゃんと説明しなさいっ!」
「
「へいへい。
「あん? んっだよ......?」
「じゃあ、説明するぞ。今、
「生徒会の? 私も?」
不思議そうに首をかしげる
「
「待ちたまえ、
「仮に今、ここに居る全員が生徒会役員になるとするなら現時点で6人。更にここから次期会長候補を二人立てると仮定すると計8人。これは、歴代最多の数字だよ」
「あら、ずいぶん詳しいわね。生徒会役員じゃなかったのに」
「会長を目指していた身だからね、この程度のことは予備知識の範囲さ」
得意気に歴代生徒会のあり方話す
「それに、役職はどうなるんだい?
「それに関しては問題ねーよ。
「二人にはオレの、エクスターナルアドバイザー。つまり外部相談相手を務めてもらいたい」
「私たちが、アドバイザー? 具体的にどういうことをするの?」
「読んで字の通り、オレの相談役さ。基本的には生徒会の会議で方針を決めるけど、どうにも意見がまとまらない場合に意見を仰ぐこともある。オブザーバー的にな。あとは、学校行事の協力を頼んだりだな」
「お手伝いなら、生徒会直属のボランティア部があるじゃない」
「言っちゃ悪いが、ボランティア部は部下だ。けど二人には、あくまでオレと対等に近い関係で意見を仰ぐ」
「しかしなぜ、今になって、今まで存在しなかったそんな役職を?」
「それにも、ちゃんとした理由がある。歴代の生徒会は魔女たちの協力の元、学校秩序を守り、体制を維持してきた。けど、
「協力を約束してくれていた
「うぐっ、し、仕方ねーだろ? リカも、能力に苦しんでたんだからよ!」
儀式で記憶を戻すことを願わずに、魔女の能力そのものを消しさったのは、それが理由だったんだ。
そして、
「まあ、そう言う事情だ。生徒会だけじゃ対処出来ないことが起きる可能性がある。さすがに、生徒会と無関係な奴に助言を求めるワケにはいかねーから。客観的な立場で意見を仰げるオブザーバー的にな存在を置きたいってワケさ」
それらしいことを言っているけど、結局のところ今までとあまり変わりない気がするのは、俺の気のせいだろうか。
「......そう。
ややうつむき加減で考えながら聞いていた
「俺は、構わないけど。バイトとかはいいんだよな?」
「もちろん、プライベートを優先してくれて構わないぞ。用事があるときに連絡する」
先日あらかじめ聞いていたとは言え、念のために確認すると
「部活も、塾も、今まで通りでいいのね。だったら、私もいいわ」
「サンキュー! それから、まだ先の話にはなるけど、クリスマスイヴに生徒会の冬合宿を予定してる。それには参加してくれ!」
特に予定も入っていないし、今の時期ならシフトも融通が利くから大丈夫だろう。
「わかった、バイトは入れないでおく」
「ええ、勉強なら合宿所でも出来るから。私も平気よ」
「それで、お前らはどうするんだ?」
「ふむ。いや、やはり
「そこまで言うなら、協力してあげるわ。仕方なくね」
「
「あら、そうだったかしら?」
「さあ、オレは身に覚えねーけどぉー」
「......ふんっ!」
白い歯を見せて笑いながら惚ける
「あとは、
「
「よーし、決まりだな!」
グッと膝に力を入れて立ち上がった
「さっそく初仕事と行くぜ! もちろん、副会長二名の選出だ。兎にも角にもまずは、ここからだからな!」
副会長の選出は、次期会長候補を兼ねているため正式な生徒会役員の仕事。立場的に部外者の俺と
「......待ってたよ!」
昇降口で靴に履き替え、校門を出たところで声をかけられた。足を止めて、声の主を確認。アレンジされた制服、どこか不機嫌そうに眉尻を上げた、見知ったツインテールの女子――。
「オマエに、ちょっと聞きたいことがある。ツラ貸しな......!」
待ち構えていたのは、もう一人の“7人目の魔女”、ナンシーだった。