「そこまで。鉛筆を置いて、解答用紙は後ろから集めるように」
試験官を務める教師は腕時計の針を確認して、試験の終了を告げる。各列の最後尾の席で試験を受けていた生徒が解答用紙を回収して、教師が待つ教卓へ持っていき。回収し終えた解答用紙を教卓で整えた教師が、教室を出ていった。直後、後ろから声をかけれた。声の主は、
「やっと、終わったなー」
試験は、中間・期末共に出席番号順に席を振り分けて受ける。二学期始めの席替えで、ひとつ前の席で授業を受けている
「ああ、長かった」
机の筆記用具を片付けながら返事をかえす。都内屈指の進学校だけあって、試験科目も多く、比例して試験期間も長い。それに今回は、それだけじゃない。
「ホントに、な!」
試験のことだけじゃなく、言葉の本質を汲み取った
テスト期間中......いや、今回はテスト前から色々なことがあった。
結論を話すと、結局、俺の記憶は消えなかった。
記憶を失う前に生徒会主催の儀式が行われ、消えてしまった全員の記憶を取り戻すことを、
儀式を行うことに慎重な態度を取っていた
「さっ、部室へ行くわよー」
普段の席で連絡事項だけのホームルームを終えた担任が教室を出ていくとほぼ同時に、
「オレら、購買で飲み物を調達して来る。
「アタシ、オレンジジュースね。100パーセントのっ!」
分かれ道の階段までは一緒に行き、
「それで? 話があるから、ここへ来たんだろ?」
今日の放課後超常現象研究部の部室では、文化祭の打ち上げを兼ねた
「察しが良くて助かるぜ。実は、折り入って頼みたいことがあってな......!」
目線の高さまで紙コップを持ち上げた
* * *
超研部の戸を開けて入るなり、先に来ていた
「おそーい。ジュースを買うのに、どれだけ時間かかってるのよー」
「まだ来てねーんだからいいだろ。ほらよ」
「あっ、ありがとー」
オレンジジュースの紙パックを
「イテ」
「ダーメ、主役が来てからっ。それよりアンタたちも、
「おっし、これでどうだ?
「ええ、ちゃんとまっすぐ揃ってるわ。ありがとう」
教室の後方へ目をやると、昨日まで「文化祭、中間テストお疲れさま!」と書かれていたホワイトボードの文字が「
「でもまさか、アタシたちの方が記憶を消されちゃうなんてね。全然気がつかなかったわ」
「おれもおれも。つーか、知ってたなら教えてくれよ」
「ごめんなさい。
「うららちゃんは、悪くないのっ。悪いのは全部、
「ヒデーな、
「だって、シスコンだし~」
「オレは、シスコンじゃねーッ!」
理不尽な責任転嫁をされた
「それにしても、
「だな。
「
「ハァ、なんか、
「ああ、いつもの
「けど、それにしちゃ遅すぎないかー?」
「ちょっと見てくるよ」
「私も、行くわ」
「大丈夫。入れ違いになったら、サプライズにならないでしょ」
「そうね。じゃあ、お願いするわ」
立ち上がろうとした
「
「おう、お前か。まだ行ってなかったのかよ」
「遅いから様子を見に来たんだよ。日直って聞いていたけど、お邪魔しちゃったみたいだね」
後ろに居る
「チゲーよ! これは、そう言うんじゃ......」
「そうですよ~。先輩の本命は、ノアなんですからっ。ねぇ~、せーんぱいっ」
「だから、違うっての!」
腕に抱きついた
「
「
「そっか、探してみる。みんなは先に、部室に行ってて」
「いいのかよ?」
「これ以上待たせると、
一瞬めんどくさそうな
「あっはっは!
「マジで勘弁してくれ! アイツ怒らせると、電子レンジ没収されちまう!」
「あのー、
「そうだったな。
「こっちも連絡取れ次第知らせる。また、後で」
四人と別れて、スマホを取り出し「もうすぐ、
まだ時間がかかるそうで、
「いやー、来てくれて助かったよ。猫の手も借りたいくらいだったからね」
「会長、手を動かしてくださいね。このままのペースでは、下校時間までに片付きませんわ」
「私、友達と約束をしてるから急いでもらいたいんですけどー」
「わかっているよ、
「はぁ~」
廊下を歩いていると、隣で
「重い? 持つよ」
「大丈夫よ、ありがとう。いつになったら能力を消してくれるのか考えていただけだから」
「ああー、そっか」
「もしかしたら
「そうだといいんだけど。とにかく、片付けちゃいましょ」
「だね」
生徒会の片付けを済ませ、俺たちは超研部へと急いだ。
そして、
「まさか、私たちの能力が既に消えていただなんて、夢にも思わなかったわ。でも、もっと早く教えてくれてもよかったんじゃないかしら!」
大勢の人が行き交う商店街を歩きながら、ちょっとだけ口をとがらせる
「まあ、
「私は、むしろ気になって集中できなかったわよ」
「ところで
「ええ、そうよ。それが、どうかしたの?」
「......俺も儀式が行われた日に、
「......私も、思い出せないわ」
「これは、どういうことだ......?」
「そうね......前に、ナンシーが言っていたわ。ナンシーの魔女のグループと、リカ先輩のグループはお互い干渉出来ないかもって」
「それだと、二人が記憶を取り戻すには、ナンシーのグループの儀式じゃないと無理ってことなのかもね」
「そうなるわね、きっと」
「そもそも、ナンシーは今も、魔女の力を持っているのか?」
「連絡もないし、消えていないと思うけど。念のため確認してみるわ」
再び歩みを進め、いつもの駅前へ到着。この駅から電車に乗る
「二人はこれから、予定はあるかしら?」
「いや、特にないが」
「俺、バイトが入ってる」
試験でもらっていた休暇も終わり、今日から復帰。ボールに触れるのも、約二週間ぶり。
「そう、じゃあ私も、久しぶりに寄っていこうかしら。
「まあ、構わないが」
「じゃあ、行きましょ。使用料も部費でまかなえるわ」
「毎度ありがとうございます」
二人に向かって丁寧に頭を下げると珍しく、
「そういえば俺たちは、フットサル部だったな」
「そうよ。ちゃーんと活動しないと部費を削られるんだから」
「それは、大問題だね。部室ないけど」
「お前の家があるだろう」
「あら、
「いやいやいや......」
冗談半分で話をしながらバイト先のフットサルコートへ。
疑問は残ったものの、魔女の件が一旦終わりを迎え、俺たちは、久しぶりの部活動を楽しんだ。