帰宅途中の学生、買い物客などの大勢の人たちが行き交う商店街を通っての帰り道。難しい表情をして私の隣を歩く
これは今から数十分前、学食のラウンジで話をしていた私たちの前に突如現れた、
「それにしても、いったい何を願うつもりなのかしら?」
――願い。それは私たち、魔女7人を全員を集結させると、どんな願いでも叶えることが出来るという話。
まるでおとぎ話のようなこの話は、先日、
* * *
「会長......!」
「お邪魔させてもらうよ」
意味深な笑みを浮かべながら私たちの前に現れた会長は、隣のテーブルの椅子を引っ張って来て座り、手と足を組んだ。
「警戒しなくていいよ。“7人目の魔女”、
そう告げると、さっそく本題に入った。
テーブルに差し出された、私たちの宛名が記された二通の封書。封を切って、手紙の内容を確認したところ、明日、代表生徒による特別集会を行うむねと、集合時間と集合場所が記載されていた。
「特別集会とは、なにをするんですか?」
「二人とももう、儀式のことは知っているかな?」
静がに頷いた
「それなら、話は早い。招待状に書いてあるとおり明日、急遽、儀式を執り行うことが決まった。だから今、魔女であるキミたちに能力を失ってもらっては困るのさ」
テーブルに両手をついて、
「儀式の協力をしろと言うのっ!?」
「儀式を行うには、魔女七人全員の協力が必要だからね」
「イヤよ! 絶対協力しないわ!」
「ふむ、それは困ったな。これは、生徒会長の権限に基づく正式な要請だからね。拒否するとなると、それなりの処罰を受けてもらうことになるよ」
「謹慎でも、停学でも、好きに処罰すればいいわ! あなたの願いを叶えるための儀式に協力するくらいなら、罰を受けた方がマシよ!」
怒気を込めた声で言い放った
「
「何を言われても改めるつもりはないわ」
呼び止められた
「いい女になったね。以前も魅力的だったけど、今のキミになら、僕のあとを任せてもいいと心から思えるよ」
「ふんっ!」
「やれやれ、ずいぶんと嫌われてしまったみたいだ。まあ、今までの行いからすれば自業自得かな」
聞く耳持たず立ち去ってしまった
「会長」
「ん? 何かな」
「私たちの記憶は、消さなくていいんですか?」
一度記憶を消された私には効かないとしても、“7人目の魔女”と儀式のことを知った
「もう、その必要はなくなったんだ」
――必要なくなった。言葉からすると、儀式を使って魔女全員の記憶を消すつもりなのかもしれない。それなら、必要なくなったという理由にも説明が付く。
「それは、どういう――」
「会長」
「意味ですか?」と尋ねようとしたところで、
「招待状、配り終わりましたわ」
「こっちも終わりましたー」
「そうかい、助かったよ」
「いいえ、とんでもないです」
「もう、帰っていいですか? 試験勉強したいんですけど」
「ごくろうさま」
「それじゃあ、お先に失礼しまーす」
おさげの女子は会釈して食堂を出て行き、会長は座っていた椅子を元の席に移動させて、テーブルに付く。
「さてと。
「どうぞ」
「ありがとう。さて、話の途中だったね。理由は、明日になればわかるさ」
手紙にペンを走らせながら、私の言いかけだった質問に答えてくれた。とは言ってもやっぱり、核心の部分は濁して教えてくれない。
「安心したまえ、決して悪いようにはしない。キミも、
ペンを置き、書き終えた便箋を生徒会の印が押されていない封筒に入れて、私に差し出した。
「頼まれてもらえるかな? これを、
「わかりました。お届けます」
「お願いするよ。では、僕たちは戻るとしよう。
「はい。それではまた明日、生徒会室でお会いしましょう」
預かった封筒をスクールバッグにしまって、急いで
「
「えっ? ああ......どうしたのよ? 汗かいてるじゃない、髪も乱れてるわよ」
近くのベンチに座り、指摘された汗をハンドタオルで拭いている間に、走って乱れた髪を
「もう、いいわよ」
「ありがとう」
「別に。それで、なに?」
「これを預かったわ」
会長から預かった封筒を見せると、
「手書きの手紙、ね」
「さっき、ラウンジで書いた物よ」
あらかじめ用意した代物じゃないから、きっと何か重要なことが書いてあると思う。
「......納得出来るの?
「私は......、
「なによ、それ。ちょっとズルいんじゃない?」
――私も、そう思う。
でも、
最初は仕方なしに渋々といった感じだった
そして、手紙を読み終えた彼女と、駅前の広場で別れる。
「じゃあ私は、電車だから。また明日」
「ええ、また明日」
彼女は改札へ向かい、私は、塾へ足を運ぶ。
会長直筆の手紙を読んだ
この条件は手紙を受け取った
「信じるの?」と問いかけると「100パーセントは信用しないわ、あの会長だもの。でも今回だけは、信じてみる。......信じたいの」と言った声、表情からは、他にも別のことが書かれていたことを示唆していた。
だって、その話をしていた時の
* * *
「
「
翌日の放課後、元魔女の
「どうして、
「それは、僕たちのセリフだよ。
「
「お、お久しぶりです、
「ヤッホー、
「せんぱ~いっ、ノアを心配して会いに来てくれたんですねー!」
「ちげーし! つーか、離れろ!」
――どうして私を気にするのかしら? 記憶を失っていた時に受けた告白は、私を説得するためにした偽りの告白なのに。
「あなた、完全に空気ね」
「ハッキリ言わないでくれるかなっ!?」
「つーか、お前らこそ、なんで居るんだよ?」
「会長は、儀式を行うつもりなのかい!?」
「ええ、そうなの。
「リカに頼まれたんだよ。どうしても話がしたいから、レオナを学校に連れてきてくれ」
「レオナさんを? 居ないみたいだけど?」
「それが、どこかへ消えてしまったんだ。二人だけで合わせるのは危険だから、試験終わりに教室へ迎えに行くと伝えたんだけどね」
「ちょっと、無責任にも程があるわよ!」
「だ、だから、
声を荒げた
「やあ、お待たせ」
出てきたのは私たちを呼び出し、
「どうやら、役者は揃っているようだね」
「おい、
「ああ、
「......あん?」
私たちは、会長に案内されて別室へ入った。
まるで古い教会のような造りの部屋。部屋の奥でレオナさんと、知らない女子が木組みで作られた祭壇を動かしている。
「遅いぞ、
「心配して探してたってのに、いきなりかよ!?」
「みんなも手伝って~」
手伝いをする間に、会長や
この部屋は「儀式の間」といわれ、文字通り魔女の儀式を行う部屋。祭壇を退かして現れた五芒星の魔方陣を囲んで付けられた目印に、七人の魔女が輪になって立つ必要があるらしく、これはその準備。そして、
これで、七人の魔女全員が儀式の間に集結。
「準備も済んだし、始めよっか」
「じゃあ
「はぁ? 俺? なんで俺が?」
「願いを叶えるには、もう一人協力者が必要だからだよー」
「だから、なんで俺なんだよ? 別に
「やれやれ、キミは女心と言うものを理解できないみたいだね。
「ああ、まったくだ」
会長とレオナさんは、タメ息をついた。
「あん? どういう意味だよ?」
「いいからさっさと行け!」
「おい、刃向けなって! チッ......!」
レオナさんにハサミの刃を向けて脅された
「これで、いいのか?」
「オッケー。じゃあみんなは、手を繋いで目を閉じてね」
私たちは、言われた通りに目を閉じる。
一瞬、不思議な感覚に見舞われたと想った次の時には、
儀式の間を片付けが終わり生徒会室に戻った私は、帰り支度をしている
「変わったことある?」
「特に違和感は感じないわ。みんなのことも覚えているし、あなたは?」
「私も同じ」
「そう......いったい、どんな願いを叶えたのかしら?」
「
「
スクールバッグを肩にかけたところで、
「それで話って、何かしら?」
「お、おう......」
どこか言いにくそうに、頭をかきながらそわそわしている。
「どうしたの?」
「さ、さっきの儀式だけどよっ!」
「うん」
「願いを叶えたのは、実は俺なんだ......!」
「え? そうなの?」
「おう。真ん中に立ったヤツの願いを叶えるだってさ」
じゃあ、会長は自分の願いじゃなくて、
「もしかして、みんな記憶を?」
「ああ、たぶん戻ってるハズだぜ」
「そう」
――よかった。それならきっと、
「そうだ、
「お、おう!」
「うん、じゃあ、帰りましょ」
早くみんなに教えてあげたい、
「――待ってくれ!」
「なに?」
「こ、この前の告白だけどさ」
――告白。あの、偽りの告白。だから、言いにくそうにだったのね。
「うん、わかってるわ。あれは、私を説得するために必死でしてくれた嘘の告白......」
「違う、嘘じゃねぇ!」
大きな声で、否定された。
――嘘じゃない? 嘘、じゃない。
頭の中で今の言葉を反復して繰り返す。じゃあ、あの告白は......。
「あれは、嘘なんかじゃねぇ。だから、全部終わったら、もう一度言おうって思ってた......!」
「俺、本気で
――
それなのに私は、記憶を取り戻した後も信じられなくて。そんな私に、この人はもう一度、真摯な想いを伝えてくれた。
だけど私に、この人の想いに答える資格はあるの?
私の、返事は――。