同じ魔女の組み合わせで儀式を行えるのは、一度限り。
再び儀式を行うためには、魔女を以上入れ替える必要がある。魔女の入れ替えは、魔女が学校を卒業・退学、もしくは
しかし、魔女の能力を得ることが出来るのは現状に問題を抱えている生徒のため、場合によっては、新たな魔女がしばらくの間生まれない可能性がありうるため、安易に儀式を行うことは出来ず。一刻を争う重大な事案が発生した場合にのみ、生徒会長の権限において儀式を執り行う。
これが、
とは言ったものの。儀式については以前、ナンシーから聞いていたこととほぼ酷似していたから正直、そこまで驚きはしなかった。
「......儀式か。魔女には、特別な能力以外にも秘密もあったなんてな」
「確かに。けれど、記憶を操作してまで、魔女の存在をひた隠しにしてきた理由も理解できたね」
「ああ。このことが生徒に知れ渡れば、学校の秩序は崩壊するだろうな」
「ふぅ。正直、会長選に負けて少しほっとしているよ。
「まっ、オレはお前が、会長戦に立候補してたことも覚えてねぇけどな!」
まったく悪気なく笑う
「それはそうと。約束していた魔女の能力を奪う件は、
「はぁ? 何でだよ?」
「やれやれ。少しは、頭を使って考えてみたらどうなんだい? 会長は、7人の魔女全ての存在を把握していたんだ。それは、“7人目の魔女”の協力があってのことだろう。魔女が能力を失えば、新たな魔女が現れる、その魔女を把握出来るのは“7人目の魔女”だけ。つまり、“7人目の魔女”を味方に出来なければ、新たな魔女を探すのは至難の業とうわけさ」
「それが何だよ?」
「簡単に言うと。
生徒会長就任後も仮に協力を得られなかった場合、超常現象研究部のみんなや、
“7人目の魔女”の
結局のところ儀式も、記憶も。どちらにしても、“7人目の魔女”の協力が必要不可欠であることに変わりはない。
「会長は、儀式を最後の最後。いざって時の奥の手だと考えてる。もし
「なるほど。会長を味方につけて話が上手くまとまれば、
「そんな面倒なことしなくてもよ、生徒会長になった
確かに、
「もし
「ゼッテー聞かねぇ!」
「おいコラ」
「つまり、そういうことだよ」
特に“7人目の魔女”は、記憶を操作出来る能力を持っている。
「結局のところ、
「うむ。約束通り、
「はあ? お前ら、そんな約束してたのか?」
「
「......いや、やっぱダメだ」
黙ったままうつむき加減で何かを考え込んでいた
「き、キミは、僕との約束を反故にするつもりなのかい!?」
「その話じゃねぇよ、記憶の話だ。やっぱり、儀式を使って記憶を取り戻す......!」
「もう呆れて言葉も出ないね。
「違うっての。
超研部のみんなだけじゃない、どういうことだろう。
「実はな......」
真剣な
* * *
中間試験初日の放課後。俺は一人、屋上のいつもの場所に座って、空を眺めていた。雲ひとつない空、どこまでも続く青。今日は風も穏やかで、降り注ぐ暖かい日差しが心地いい。
ゆっくり目を閉じて、昨夜、
『“7人目の魔女”に記憶を操作されてるのは、アイツらだけじゃねぇ。
まさか、会長に就任する以前に魔女の能力にかかっていたなんて考えもしなかった。
「隣いいかなぁ?」
突然掛けられた声。目を開けて最初に視界に飛び込んで来たのは、チェック柄のスカート。そのまま視線を上に向けると、見知らぬ女子生徒が微笑んでいた。
どうやら、待ち人が訪れたようだ。
毛先を外へカールさせたセミロングヘア。ぐるッと渦を巻いた柄のフリルが装飾された日傘、白い手袋を身に付けて、紫外線対策は万全といった感じだ。
「どうぞ」と返事をして、校舎出入り口の方へ一歩移動して作ったスペースに彼女はしゃがみ。そして、まじまじと観察するような眼差しを向けてきた。
「ふ~ん」
「何か用事ですか? 7人目の魔女さん」
「へぇ、分かるんだね」
特に驚いたようなしぐさも見せず、自分が“7人目の魔女”あることをあっさり認めた。
「まあ、なんとなく」
彼女が
「記憶を操作しに来たんですよね?」
「うん、そうだよ」
初対面で喧嘩腰だったナンシーとは正反対。優しく、穏やかな口調に、ちょっと拍子抜け。
「でも、その前に自己紹介がまだだったね。私は、三年の
「二年の、
どうせ、すぐに忘れてしまう無意味な自己紹介。
「うん、知ってるよ。キミのことは、はるちゃんから聞いてるからね」
「はるちゃん?」
知らない名前だ、誰だろう? と思っていると、
「さて、それじゃあ......」
何かを言いかけて、リカの動きが止まった。彼女は一瞬遠くを見てクスッと笑い、そして何事もなかったかのように、手袋を付けたまま俺の左右の頬にそっと両手を添えて、少しだけ顔を横に傾けた。
「ひとつだけ聞いてもいいかな?」
「なんですか?」
「キミは、魔女の能力についてどう思うかな?」
「特に、なにも」
「う~ん、自分も欲しいとか思わないの?」
「思わないですね」
「ふ~ん、そっか。叶えたい願いもないって言ってたんだから、そうだよねー」
「会長から聞いたんですか?」
リカは言葉の代わりに、笑顔で答えた。
これでリカの
「最後に、もうひとつだけ。どうして、儀式を使ってケガしてる足を治そうと思わないの?」
今までの雰囲気とガラリと変わった。彼女の
ちゃんと答えた方がいい、どうしてかそう思えた――。
目を閉じて、頭を整理し、口にする言葉をしっかりと吟味して目を開く。
「意味がないから......」
「意味?」
小さくうなづく。
「もし本当に都合のいい儀式なんてものがあったとして。仮にケガが治ったら、みんな喜んでくれると思う。でも、そんな夢みたいな方法を使ってまで治す意味を、俺には見出だせない。ずっと支えてくれた人たちを、俺自身がやって来た二年間を全部否定するようなことは絶対しない。そんな頼るつもりもないし、頼るくらいなら諦める」
青臭いことを言っている、そんなこと自分でもわかっている。それでも俺は、アイツらを裏切るようなマネは絶対にしない。
「......刺さるなぁ」
「はい?」
「ううん、何でもないよ。はるちゃんが、キミを気に入った
手を引っ込めると、何もせずに立ち上がった。
「話、聞かせてくれてありがと」
「あの、記憶は?」
「あれー? もしかして
やって来たときと同じ笑顔で手を振りながら、俺たちが話をしていたすぐ近くの扉を開けて、校舎へ入っていった。
これで本当に、記憶を操作されたのだろうか。今のところ違和感の類いはない。確か
ただ、ひとつだけ気がかりなことがある。
「約束、守れなかったな......」
あの時交わした約束。
最低だな、ホント最低だな。