「あなた、いったい何を考えているのかしらっ?」
「慎重に行動しなさいって言っていたわよね? いったい何のために秘密裏にことを進めて来たと思っているのよ。記憶を操作されないためでしょ、違うっ?」
「は、はい、そうです」
彼女がここまで怒っている理由は、説教を受けている
ひとしきりの不満を言い終えた
「そもそも、どうして校内で記憶を戻したのよ? リスクが高いのは、あなたにだって分かっていたでしょ」
「そ、それは、ノアのヤツを少しで早く安心させてやりたかったっつーか」
「どういうこと? 私が見た限り、すぐに問題行動を起こしそうな様子はなかったわよ、あの子」
確かに。昨夜訪れたファミレスでも、
「放課後、ノアの様子を見に行ったんだよ。表向きには元気だったけど、たまにキツそうな
「ハァ、仕方ないわね。とにかく、会長の任期満了まで大人しくしていなさい。
「あ、ああ、分かった」
素直に頷いた
「お前の言い分は分かったけどよ。それがなんで、姉貴と関係あんだよ?」
「それな。一昨日
――覚えてるよな? と、俺たちに目を向ける。頷いて肯定すると、どこか安心した様子で続きを話す。
「だからさ。超研部のOGで、魔女の調査をしてたレオナなら何か知ってるんじゃないかって思ってよ。もしかしたら、7人の魔女全員の名前を知られちゃいけねぇ答えがそこにある気がするんだ......!」
「ふむ。
「俺にしてはって、どういう意味だよッ!」
「だって、オレの中じゃお前は学校一の問題児で、突然、超研部に入部を申し込んできたあげく、
「ぐっ......」
指摘が的中したらしく、顔を背けた
「あのさ。行動するなら、早くした方がいいんじゃない」
「あん? なんだよ、急に」
「記憶を操作されたんだったら早くしないと。今の話も、いつ書き換えられるか分からないんだから」
時刻を確認するのに使ったスマホを、三人に見やすいようテーブルの中央に置く。時刻は既に21時近くを表示していた。
以前
「今度は俺たちも、覚えていられるか分からないし」
「そうね。みんな、あなたの素行については覚えているみたいだから、きっと信じないわ」
「記憶を戻す方法を知ってても信じてもらえなきゃキス出来ねぇーワケだし。記憶は戻せないわな」
「......だよな」
同じ超研部の仲間でさえも、
そこへ、安心させるような優しい言葉。
「大丈夫よ、
「
「あら、起きたのね。気分はどうかしら?」
「平気。全部思い出したわ」
横になっていた体を起こした
「もう一度記憶を失っても確実に思い出せる方法があるわ」
「ま、マジかよ、どうすりゃいいんだ!?」
「簡単よ。記憶を失った時、キスせざるを得ない状況であればいいの」
――キスせざるを得ない状況......ああ、そういうことか。
とある方法を思いついた。でも仮に、思いついた方法が的中していたとしても、結構難題な気がしないでもないけど。
「キスせざるを得ない状況ってなんだよ、それ?」
「なんだよ、わかんねぇのか? 簡単じゃねぇーか。今のうちにエロ写メ撮って脅すんだろ!」
「なッ!? っんなことしねーよッ!」
「サイテー! 絶対協力しないからっ!」
「だから、撮らねぇっての!」
否定しても疑いの眼差しを向ける
ほんの少し前まで、よく見た光景。
今回の件がすべてが片付いたら......今、ここに居ない
* * *
あの後すぐ、行動に移すために、
「じゃあ俺は、レオナと話をしてくる」
「待って。私も行くわ」
「気を付けろよ、
「わかってるわ。行きましょ、
「お、おう!」
入れ替わったままの二人は、
簡単にいえば、目を覚ましたときお互いの身体が入れ替わったままなら必ず戻ろうとする、と寸法。
「これで、最後のひと組ね。それにしても――」
客間から持ってきた人数分の布団を敷き終えると、
「ほんっと広いわね。これだけお布団を敷いても、ぜんぜん余裕じゃない」
――まったくだ。
「物は、少ないね」
「それに意外と片付いてるわね。生徒会の仕事は、いつもテキトーなのに」
部屋に設置してある冷蔵庫の缶ジュースを俺たちに差し出て、
「家政婦さんが、完璧こなしてくれてるからな。まっ、オレ自身あんま、部屋にいねーからってもあるけど」
「家政婦さんが居るって。どれだけお坊っちゃんなのよ......?」
ごく普通の一般家庭では考えられない別世界の生活に、少し頭が痛くなってきた。ノックもなしにドアが開いて、レオナの部屋へ行っていた
「姉貴から、話は聞けたのか?」
「あ、ああ......一通りな」
「何よ? ハッキリしなさいよ」
「仕方ねぇだろ。よくわかんねーんだよっ」
「私も同じ。少し整理する時間が欲しいわ」
二人はよほど衝撃的なことを聞かされたのか、動揺している。
「それなら先に、お風呂にしましょ」
「おっ、いいな。よし、
「ああ......って、ふざけんな! 俺は今、
「だからじゃねーか」
両手を胸の高さで前に出して、ワキワキ動かす
「お風呂は1階にもあるみたいだから、私たちが先に使わせてもらうわ。行きましょ、
「ええ、
「って、入れ替わったまま入る気かよっ!?」
「お風呂で記憶を失ったら困るでしょ?」
「それは、そうだけどよ......」
躊躇する
「んじゃあ、電気消すぞー?」
「......そうね。普通は、男女別々だけど」
「
「そ、それは、三人だけだと危険だからよ。あんた、
「いくらなんでもそれはねーよ。寝込みを襲うのは、オレの美学に反するからな。行くなら真っ向から行くぞ」
――それは、それでどうかと思うぞ。
目をつむったまま、心の中でツッコミを入れておく。
「うっせーな。寝れねえだろー」
「へいへい、悪かったな。じゃあ、おやすみ~」
深夜0時を過ぎに就寝。眠りについてからしばらく経って、ふと目が覚めた。周りからは、小さな寝息が聞こえる。枕元のスマホを手に取る。
「四時か......」
環境が違うせいか。普段起きる時間より二時間も早く目が覚めてしまった。
「何だ、お前も起きたのか」
「ん? ああ、お前も早いな」
小さな声で話かけてきたのは、
「何か目が覚めちまってさ」
「俺も同じ」
「そっか。そう言えば、どうなったんだ? 例の子とはよ......!」
また唐突もいいとことに、俗な話題を持ち出しやがった。
「別に、特に進展はないよ」
「仲は良いだろ?」
「そりゃまあ、悪くはないと思うけど」
「なんだよ。意外と奥手なんだな~」
「どっちが?」
「どっちもだろ?」
声を殺して笑った
「何するつもりだよ?」
「まっ、そのうちわかるって。安心しろよ、悪いようにはしねぇからさ」
そう言うと背中を向けて、毛布を深くかぶり直した。
ただ面白がっているようにも思えなくない笑顔に一抹の不安を覚えながら、俺も再び目を閉じた。
* * *
週末。俺は一人、都内のスタジアムに足を運んだ。
緑色の鮮やかな芝のピッチでは、これからここで試合を行う選手たちが、芝の状態を確かめるようにボールを蹴り、アップを行っている。ゴール裏の大型ビジョンに表示された、朱雀高校と帝王学園の文字。
そう、今日は朱雀高校サッカー部がベスト8をかけて戦う試合が行われる日。
ただ、明日から中間テストが始まるため、朱雀高校の応援席には部員の保護者と関係者が居るだけで、学校の生徒の姿はほとんど見当たらない。
「どうやら、間に合ったようだね」
「はい。ちょうど今から、試合開始のですわ」
「さて。隣いいかな?」
両校の選手が入場し、試合が始まろうとした、正にその時――。
朱雀高校生徒会長の