「イ・ヤ・よ!」
「何でだよ! 別に、お前に調べて来てくれって頼んでるワケじゃねぇよ。お前の能力をコピーさせてくれるだけで......」
「お断りよ! 私は、会長戦を辞退したの。だから、次期会長にどっちが近いかなんて興味もないし、あなたたちに協力する理由もないわっ」
「うぐっ......」
これ以上無いほどの正論を叩きつけられた
「そう邪険に扱ってやるなよ。
「泣いてねぇーよッ!」
「それに、ちゃんとした理由もあるんだぜ」
自分でイジっておきながら無視して話を続ける辺りは、さすが
「理由? 別に知りたくもないわ」
「身も蓋もねぇーな。話聞くくらいいいだろ?」
「聞いても変わらないわ。私は、もう二度と私利私欲で能力は使わないって決めたの!」
腕を組んでぷいっと顔を背け、聞く耳を持つ素振りを微塵も見せない
「おい、
「いや、本人が嫌だって言ってるし。無理強いは良くないと思うぞ?」
「深い理由があるんだって。実はな――」
「何を話しているのかしら......?」
小声で話している俺たちに、
「連れション行こうーぜって話。
「行かないわよ、行くわけないでしょ! ほんとサイテーねっ!」
「はっはっは、そう目くじら立てんなって。そう額に青筋立ててると美人が台無しだぜ? おい
「みやむー、俺は!?」
部室に
「
「さーな。
チラっと俺に目を向けてきたけど、俺にだって理由は分からない。ただ前に、もう使うつもりはないって言っていたから、よほどの事情がなければ能力は使わないと思う。
「それで、理由ってなんなの?」
「ああ、それな。
「おう、実はな。魔女の能力を消すためなんだ」
「魔女の能力を消す?」
「
「魔女殺しの能力を持つ僕というわけさ」
――魔女殺し。
昨日、
しかし現在、
その条件が、次期会長戦の現時点での評価を調べること。そこで、虜の能力を会長に使って聞き出そうと、
「なるほどね。要するに会長選の情報さえ手に入れば、
「まあ、そりゃそうなんだけどよ」
「フゥ、どうやらキミも
「だから、
「ふーん......」
二人の話しを一通り聞き終え、背中を向けて、生徒会室へ行くため廊下を歩き出す。するとすぐに、
「ちょっと待て。お前、どうするつもりだ?」
「要はどっちが優位かわかればいいんだろ。まあ、なんとかなるよ」
「オレも行く」
* * *
「失礼します」
差し向けたと誤解を生まないよう、
「あら、
部屋に入ってすぐ応対に来てくれたのは、秘書の
「すぐに戻って来ますので、少々お待ちください。お茶でよろしいですか?」
「いえ、お構い無く。お心遣いありがとうございます」
かしこまった受け答えで返すと、
「
「将棋ですか。一応、指せますけど」
麻雀と同様に入院生活中、歴戦の猛者たちを相手に花札、麻雀、囲碁・将棋と一通り経験済み。将棋を指せると知った
「では、会長が戻ってくるまで一局お手合わせお願いできますか?」
こんな成り行きで、彼女と将棋を指すことに。
「まあ、なんていやらしい責め方。きっと女性に対しても同じ扱い方をするんでしょうねっ」
「......人聞きの悪いこと言わないでください」
ふふっ、と上品に笑って優しい笑顔を見せる。
それにしてもこの人相当強い。入院生活で対戦して来た、経験豊富な猛者たち以上だ。
こちらが数手後に王手を狙える位置へ誘い込もうと、攻めやすいようにわざと隙を作り、こちらが駒を移動させたあとのスペースを虎視眈々と狙っている。一手間違えれば、即詰みまで持っていかれ兼ねない。けど、勝利はリスクと等価交換、攻めっ気をなくせばそれこそ相手の思うつぼ。
「おや、ずいぶんと楽しそうだね」
対局に夢中になっていると、いつの間にか
「ふぅ。それで今日は、どうしたんだい。僕にどんな用事なのかな?」
「はい。生徒会長戦についてお尋ねしたことがあります」
「会長戦? ああ、そうか。ついにキミも、生徒会長になる気になったのかな? 僕、個人としては賛成だよ」
「いえ、それはないです」
きっぱりと答えると、つまならそうに背もたれに寄りかかった。
「次期生徒会長の最有力候補を教えていただけたらと」
空気が、一変。
張り詰めるような緊張感が、生徒会室を包み込んだ。
「なぜ、そんなことを知りたいのかな?」
「実は、女友達の悩みを解決してあげたくて」
「......女の子?」
彼らにとっては意外な返答だったようで、
かいつまんで事情を話す。魔女の存在を把握している二人は、すぐに状況を把握して納得してくれた。
「魔女の力を消したい、か。なるほどね~」
「会長、私からもお願いします。
「
「実は、彼女も魔女だったんだよ。
「お恥ずかしいですわ」
ということは今、
「
「あ、教えていただけるのであれば。今回の件で、体育祭の目録を使用した体で構いません」
「ああそうか、それがあったね。それじゃあ無下には断れないね」
これで一応の体裁を保てたという事なのだろう。嫌々だった雰囲気が薄れた。そして、本題の会長選について語り始めた。
「実は正直、まだ決めかねているんだ。どっちも決定打が無くてね」
「
「そうですか。では、五分五分として伝えておきます」
「うん、そうしてくれると助かるよ。緊張感は重要だからね」
「ええ」
「ところで目録の件、本当に今ので良かったのかい? 私利私欲じゃないから、別のことでもいいんだよ。例えば、次期生徒の推薦とかね?」
「ああ......まあ、別にいいです。自力で勝ち取れないようなら所詮その程度、はなっから人の上に立てる器じゃない。そんなヤツには誰も着いて行かないですよ」
「あっはっは! キミは、クレバーだねぇ。やはりいい素質を持ってる、もったいないな~」
「謹んで遠慮させていただきます。じゃあ、失礼します。ありがとうございました」
席を立ち、頭を下げて礼を述べて扉へ向かう。
扉横で待っている
「
* * *
「ふむ、なるほど」
「7人目の魔女を......。残り一人の魔女を見つけた方が、次期会長か。分かりやすくていいな」
「そういうことだから。じゃあ、俺はバイトあるから」
超常現象研究部の部室へ戻り、二人に頼まれた条件を伝えた俺は、スクールバッグを持って部室を後にする。今から塾へ行く
「しかし、どうやって聞き出したんだ? あの狸が、そう易々と口を割るとは思えねぇんだけどよ」
「素直に、女の子が困ってるって言ったら教えてくれた」
「......は?」
別に嘘は言ってない。
「その手があったかぁーっ! 会長が無類の女好きだったのを忘れてたぜっ!」
「悔やんでる暇があったら、魔女探しをした方が有意義じゃないの? 勝負はもう、始まってるんだからさ」
「ああ、そうだな。また夜に連絡する、じゃあな。
「ええ、また明日」
部室へ戻って行く
「大丈夫だった?」
「ん、何が?」
「体育祭のこともあって、みんな心配していたから。
「そっか。あとで連絡しておくよ」
「うん、そうしてあげて。心配してると思うから」
その後は
「じゃあ俺、こっちだから。気を付けてね」
「ええ、ありがとう。また明日」
歩行者信号が青に変わるのを待つ間に
「了解。バイトが終わったら送るよ」と返事を打って、俺はクラブハウスの扉を開いた。