「注文二つ入ったよっ!」
屋台裏で作業する俺と
「どうしてこうなった?」
「まあ、ありがたいんじゃない。猫の手も借りたいくらいだったし」
「それはそうだが。ただこき使われてるだけのような気が......」
「オマエら、客を待たせるんじゃないよ! ボサっとしてないで急ぎな!」
なぜ、この女子が手伝いをしてくれているのかというと。今から一時間ほど前まで遡る。
* * *
「アンタたち、ちょっとツラ貸しな......!」
敵意を剥き出しの声で言い放った女子に、俺と
「悪いけど、今忙しいから」
「冷やかしなら、
後ろに並んでくれている客が居る。絡んできた女子はテキトーにあしらい、何ごともなかったかのように接客へ戻ることにした。
「ちょっ!? 逃げるんじゃないよ!」
ベニヤ板で作ったカウンターから身を乗りだした女子は、近く居た
「お、おい、離せ......!」
「離して欲しかったら、おとなしくツラ貸しな!」
「忙しいと言っているだろ! 営業妨害で、生徒会に通報するぞッ!」
「上等だっ、やってみな!」
「ちょっとそこっ! 何を騒いでいるのかしらっ?」
男女関係のもつれではないか、と根拠のない憶測が出回り始め。いよいよ事態の収拾がつかなくなりだしたところへ、見回りをしていた
「これは、いったいなんの騒ぎっ?」
「
「え?
「チッ......!」
安堵の表情をして助けを求める
「ハァ、この件は生徒会で預かるわ。ほら、あなたたちは散りなさい」
「それで、どうしたの? 騒ぎの原因はなに?」
「ああ、実は――」
「ちょうどよかった。あんたにも話があったんだよ」
女子生徒は
「アンタら最近、手芸部に......」
「待ちなさい。今は、文化祭の真っ只中よ。あなたの話しは、後夜祭で聞いてあげるわ。それより
「予想以上だね。猫の手も借りたいくらいに」
収支報告をまとめた伝票を手渡す。
「さすが、私ね! でも、これじゃあ休憩も取れないでしょ? ねぇ、あなた、私の代わりにお店手伝ってくれないかしら」
「はぁーっ!? どうして、アタシがッ!」
「あーら。何か不満があって?」
「ああ、不満しかないねっ!」
「そう、それは困ったわ。ところで、あのパンダのぬいぐるみは大事してくれているかしら? ねぇ、
「なっ!? お、おまえ、アタシのこと覚えて......?」
してやったりと言った感じに
「詳しい話は、また後でしましょ。じゃあお願いするわね。
「あ、ああ......わかった」
「了解」
ナンシーは見回りへ戻っていった
そして、現在に至る。
「カップサラダ二つお待ちどうさま、普段からちゃんと食べるんだよ!」
絡んできた女子生徒......ナンシーの元気な声が辺りに響いている。彼女とは、まだ一時間ほどの付き合いだけど。顔立ちは整っているし、話をするとサバサバしていて気持ちの良い性格をしている。前に出れば、男女共に人気が出るタイプだと思う。裏付けるように、ナンシーが接客をしてくれているおかげで客層にも変化が生まれた。今までは、販売している商品がサラダということもあって、ほぼ100パーセント女性客だったが、ナンシーが来てくれてからは男性客が明らかに増えた。
「ナンシー!」
と言ったそばから、彼女目当ての男子が店先に現れた。ナンシーと同じ系統で、学校指定の制服をアレンジして着崩している。
「ん? シドじゃないか、どうしたんだい?」
「どうしたじゃないぜ。中々帰って来ないから様子を見に来たんだよ。そうしたら、エプロン着けて売り子やってるじゃねぇか」
「ああ~、そいつは悪かったね。この店案外忙しくってさ。おっ、お客さんだ。ほら、退いたどいたっ!」
ナンシーは、シドと呼んだ男子を横に押し退けて他校の女子生徒三人を相手に接客を始める。彼女から送られてくる注文を、俺と
「コイツをナンシーに渡せばいいだよな?」
知らぬ間にカウンターのこちら側に来たシドが、出来上がったカップサラダを両手に持っていた。聞いたところ、ナンシーに手伝えと言われたらしい。俺たちとしても運ぶ手間が省けてありがたい。好意に甘えて、手伝いをお願いする。
当初売れ残ることを計算に入れていたが。ナンシーとシド、二人のお陰で販売効率は格段に上がり、午後3時前には商品は全て完売。結局二人は、その後の店の片付けまで手伝ってくれた。
「じゃあ俺は、銀行へ行ってくる」
「うん、よろしく」
売上金の両替するため、近くの銀行へ向かう
「お疲れさま。はい」
「おっ、気が利くじゃないかい」
「オレにもくれるってかッ! オマエ、いいヤツだな~」
手伝ってくれたナンシーとシドにお礼の飲み物を渡す。好みは分からなかったから無難な炭酸飲料を選んだけど、特に嫌な様子もない。正解だったみたいだ。ハズレを選ばずに済んでほっとした俺も、中身が半分ほど残ったペットボトルの蓋に手を伸ばしたその時、ポケットのスマホが震えた。一旦ペットボトルをベンチに置いて、画面を確認する。
「
「
「悪いけど、もう少し時間がかかるから。時間と場所を決めて落ち合うことにしましょう。だってさ」
「なんだいもったいぶって!」
「なあナンシー、いったいどういうことなんだ? オレ、何が何だか......」
ナンシーを呼びに来た途端いきなり手伝わされたあげく、ちゃんとした事情を知らされていないままのシドは、状況を飲み込めず腕を組んで頭を傾げている。
「とりあえず、
「了解」
ナンシーの伝言を打ち込み送信ボタンをタップ。すぐに「わかったわ」と、
「サンキュー」
「いえいえ、外そうか?」
「ああ、知らないあんたは関わらない方がいい。もしもの時は――」
「消さなきゃいけなくなる」と、ナンシーは語気を強めて警告してきた。
* * *
ナンシーたちと別れた俺はひとり、各クラス・部活動の催し物を見物しながら校内を、超常現象研究部の焼きそばパン屋へと向かって廊下を歩いていた。
「ねぇ、例の占い行ってみない?」
「ああ~、あの絶対当たるってやつね。あれもう店じまいみたいだよ」
「ええ~っ、そうなのー?」
「お前、占ってもらったんだろ? なんて言われたんだ?」
「強く生きてください」
「は? なにそれ」
すれ違う人たちから時おり聞こえてくる占いの噂。会話の内容から、かなり高い確率で当たっているようだ。まるで
「あれ、売り切れ?」
部室の前には、メイド服姿の売り子がウェルカムボードの片付けをしているだけで。ドアには「完売しました!」と貼り紙がしてあった。
「あ、ごめーん、もう売り切れたの......って、
メイド服の売り子は、
「
「
「そっか、ありがとう」
ナンシーの件を伝えておこうと思ったけど、居ないのなら仕方ない。
「ちょっと待って! あんた今、ヒマ? ヒマよね? 片付け手伝って欲しいな~っ」
呼び止められ、普段の
「みやむー、反対側もってくれ」
「おう」
部室では
「これよ」
「100%アタル占いつき焼きそばパン屋?」
異質な光景に立ち尽くしていた俺に、
「
「ああ~、なるほど」
さっきすれ違った人たちが話ていたのは、
「内装終わった~! 手伝いありがと。はい、これ」
「焼きそばパン?」
「そ。打ち上げように取っておいたやつよ」
「
テーブルに広げたお菓子を、
「後が怖そうだから遠慮しとく」
「正解、あいつ食にうるせーからな」
外の装飾品を外しに行った
「例の件は?」
「前に言った通り停滞中。そっちは?」
「もしかしたら進展あるかも」
「マジか?」
返事の代わりに頷いて答える。
「そっか。それでお前は、
「ああ、
スマホを立ち上げ、
「......だな。んじゃ、連絡入れとくわ」
「頼む。さて、そろそろ行くよ」
「おう、またな」
礼を言って、部室を出る。片付けをしている
「お待たせ」
「来たか」
「お疲れさま。さ、軽音楽部へ行きましょう」
俺たちは三人揃って、ナンシーに指定された軽音楽部の部室へと向かった。