夏休みが残り一週間を切った、八月下旬。記憶について相談したいことがある、と
「んだよ、これ? 俺、こんな写真撮った覚えねぇぞ!」
「オレもだ。にわかには信じ難い」
「知らねぇウチに面白いことになってんな!」
「どうして、あなたが話に入っているのかしら?
例の写真に映る当事者の
「まあ確かに、
「......サイテーね」
「まあ、そんな冗談は置いておいて、と」
腕で胸を隠して身体を背ける
「この写真に、心当たりは本当にないんだな?」
「ああ、ねぇよ、あるわけねぇ......!」
「私もないわ。けど、じゃあこの写真はいったいなに? どうして、私の手帳に挟んであったの?」
「お前は、どう思う?」
「......そうだね。ひとまず整理してみようか」
この写真に触れる前に、
「私たちが、あなたを陥れたですってっ!?」
「そんな卑劣な
「だ、だけどよ......」
当事者の二人にものすごい剣幕で言い分を否定された
「俺の記憶だと、不良に絡まれてた女を助けるために......」
「あの日の放課後確かに私は、他校の不良たちに絡まれたわ。でも、自分で追っ払ったし。そもそも、あなたを陥れて何の意味があるのよっ?」
「うむ」
「ああ~、そうだな。何のメリットもねぇな」
「た、確かに......」
それでも、当然のことながら互いの記憶に相違があるため、自分だけが停学処分を受けたことに関しては、
「そこで、謎を解くカギがコレ」
テーブルの中央に置かれた写真を指す。
「この写真を見る限り、二人は和解してると思う」
「ええ、そう思えるわ」
「そのようだが、しかし......」
「この写真、マジでなんなんだ?」
写真を拾い上げた
「記憶になくても、身に覚えはあるんじゃない」
「は? どういう意味だよ?」
「三人が三人とも覚えていないなんてこと。あり得ないだろ? 否定出来ないほどの物証があるんだから。つまり――」
「魔女の仕業ね」
「――魔女ッ!?」
「なるほど、記憶の操作・消去する魔女か。それなら俺たちが、この写真の出来事を覚えていないのも、六月の暴行事件の見解に相違があることも頷ける......!」
「
記憶喪失が魔女の能力の可能性があることを事前に話した、
「けどよ。魔女じゃない
「私が自分の能力に気づいたのは、去年の冬よ。この写真に映ってる樹木は落葉が始まったばかりだから、秋ね。だから、私たちが能力を得る前に、魔女の能力をかけられたと考えれば辻褄は合うわ」
「あっ! 俺も能力を知ったのは、二年になってからだ」
「......私は、記憶を取り戻したいわ」
「あなたたちは、どうする?」
二人は無言のまま一瞬目を合わせると、すぐにそっぽを向いた。写真があるとはいえ、蓄積された確執があるにだから簡単には割り切れないだろう。
「まっ、今すぐに決めなくてもいいだろ。どうせ、新学期にならきゃ調べようもねーんだからよ」
「......それもそうね。ゆっくり考えて決めてちょうだい」
話しは、ここでお開き。それぞれの気持ちの整理をつけるため、いったん解散。みんなテキトーに遊んだあと、人も疎らなスタンダードな25メートルプールをリハビリがてら歩いていると、
「いいかしら?」
「ん? どうしたの」
さっきまで、フードコートで
「もし、
「そっか」
「それでね、一緒に探すの手伝ってくれるかしら?」
期待半分、不安半分そんな感じの聞き方。その不安を払拭出来れば思って、二つ返事で答える。
「手伝うよ」
「ありがと」
彼女は、胸をなで下ろした。
「二人とも、少しいいかしら?」
「あら。
「どうしたの?」
「私たち、帰ることになったの」
「
「はあ? 夏休みって、あと四日よ?」
「ええ。それで今から、勉強合宿することになったの。二人は、どうする?」
みんなに合わせる。俺も
「二人に話しておきたいことがあるんだ」
「なに?」
「なにかしら?」
正直、伝えるか否か迷った。
それでも今、伝えておかないと後悔する。
何故か、そんな想いが頭を過った。
「俺、選手として復帰出来るみたいなんだ」
一瞬、二人の動きが止まり。
「よかったわね!」
「もう、痛くないの?」
* * *
俺が一人暮らしということもあり、気兼ねなく過ごせると言う理不尽な理由で異議を唱える機会も与えてもらえず。結局
「だぁーッ! 集中できねぇーッ!」
俺が普段使っている折り畳み式の机に向かって、夏休み宿題をしていた
「お前ら、少し静かにしろよ!」
アルバムを見ている女子と、
「なによ、宿題サボってたアンタが悪いんじゃない」
「仕方ねぇだろ? 魔女探しで散々な目にあうし、
「おれのセイにするなよ~。おれ、ちゃんと終わらせてるぜ?」
「何だよ、ただの怠慢じゃねーか。ほい」
「言い訳にもならんな。チー」
「うぐっ......」
一緒に麻雀を打ってる三人に論破された
「私が見てあげるから、一緒に頑張りましょ」
「お、おう......」
「じゃあ、アタシたちは帰るから。
「わかってるって......」
帰り支度を済ませた
俺と
「ちょっと待ってて、支度してくるから」
明かりが灯っていない家に入っていった
「あ、そうだ。アンタたち、文化祭はどうするの?」
ふと、思い出したように
「そういえば、私たちも部活に所属してるんだったわね」
「完全に忘れていたな」
「そもそも、部室もないしね。二学期になったら、生徒会長に相談してみるよ」
「ええ、お願いするわ」
という形で話しはまとまり。
そして、二学期最初の登校日の放課後。
「失礼します」
来月の始めに開催される文化祭でのクラスの出し物を話し合うロングホームルームが終わった後、生徒会室を訪ねた。用件は夏休みの終わりに話した、部活動の出し物について。特定の部室を持たないフットサル部の文化祭で活動について、責任者の意見を乞う。
いつかと同じように、生徒会長の席で書類に目を通している
そして待つこと数分、羽根ペンを置いて顔を上げた。
「お待たせ。それで、僕に何か用かな?」
「文化祭のことで相談したいことありまして」
「ああ~、そっか。
「はい。現在、空き教室は存在しません。旧校舎の解体及び新校舎建設のため、運動部の部室を空き教室に振り分けていますので」
「うん、そうだね。う~ん、じゃあこうしよう。学校内での活動していないけど、一応運動部ということで模擬店の出店を許可――」
「許可しよう」と、
「失礼します」
「おや、
生徒会室に入ってきたのは、
「会長、ご報告があります」
「何かな?」
俺の隣に立ち、かしこまって
「
「本当かい。それは、よかった」
「それから――」
彼女は目を閉じて、深くゆっくり呼吸をして、真っ直ぐ
「私は、生徒会長選を辞退します」
この時の彼女の顔は、悩み抜いた末に選択した覚悟を決めた