花火大会当日、午後6時過ぎ。
天候にも恵まれ、空には雲一つない青空が広がっている。時刻でいえば夕刻にも関わらず、このまま沈まないのではないかと思うほど、真夏の太陽はいつまで高い位置に留まり。今なお、焦がすような熱い日差しを燦々と地上へ降り注ぎ続けている。
そんな夏空の下、
「お二人も、お兄ちゃんのお友だちですかっ。妹の
「
「いるよー。呼んできますから、ちょっと待っててくださいっ」
妹さんは面識のある
「夜なのにアチィ~なぁ、やっぱ行くの止めようぜ。人混みダリィーしよ」
「強がるなって。んなこと言って、ホントは楽しみなんだろ~?」
「バッ......! ち、ちげぇーし!」
うちわを扇ぎながら愚痴を漏らした
「相変わらず分かりやすいヤツだなぁ。お、
意地悪く笑っていた
「家の用事で遅れるそうだ。先に行ってていいってよ」
「そっか。じゃあ行こう」
「なぁ、みやむー。今日来る女子はみんな、浴衣なんだよな?」
「おうよ。今日に合わせて新調したって、
「ってことは、
会場の河川敷に近づくにつれて、人数が多くなってきた。橋の欄干に寄りかかっている
「お待たせー」
待つこと数分、女子の声に顔を向ける。
制服マジックというやつだろうか。いや、制服じゃないから正確には違うけど。まあ、細かいことは隅に置いて。とにかく、普段目にしている学校の制服とも、私服ともまったく違う雰囲気の見目麗しい五人の少女たちの浴衣姿に、俺たち男連中は計らずも揃えて声をあげた。
「どう? 似合うっしょ?」
そして、もうひとりの女子。話では聞いていたけど、彼女とは初対面。ナチュラルウェーブのポニーテールの
身長は、
「ねぇ、
「家の用事があるみたいで後から来るって」
「あら、そう。ところで、何か言うことがあるんじゃなくて?」
自分の浴衣姿を褒め称えろと言わんばかりに
「すげー似合ってる可愛いぜ、
「ふふーん、まあ当然ね。って、アンタに言われてもまったく嬉しくないわ!」
やたらと恥ずかしいセリフを軽々と言ってのけた
「何でだよ。本心だぜ?」
「どうかしらね? 普段のアナタの振るまいをみてるから信用できないわ」
「ヒデェーなぁ、とんだ偏見だ。んじゃあ、
「そうね。少なくとも、アナタの軽いノリの言葉よりは信用できるわ」
「だそうだぜ?」
――さて、どうするかな? と
「その髪止め、似合ってるね」
「あら、ありがとう。わかってるわね」
左頬にかかる髪をそっと触りながら、嬉し混じりの満足げな
「さて、社交辞令も終わったし、屋台見て回ろうぜ」
「社交辞令ですって? やっぱりからかってたのねっ!」
ニヤニヤと俺たちのやり取りを見ていた
すると
「よし、全員揃ったことだし。ここいらで余興といくか」
先端を隠して両手に五本づつ分けて持ち、余興の趣旨の説明を始めた。
「この割り箸の先には、それぞれ1から5までの数字がふってある。で。同じ数字の割り箸を引いたペアで、しばらく二人で見て回るってワケさ」
つまりは、浴衣姿の女子と二人きりで花火見物をするための下心満載の下世話な企画。だが、面白そう、と意外にも女子も乗り気。
「右引け」
自分の番号を確認しているみんなには聞こえない様に
「俺たちも行こっか」
「ええ。あ、ワタシ喉乾いちゃったんだけど」
「じゃあ、スムージーの屋台に行こうか。向こうで見かけた」
「うんっ」
俺は、
「たまや~っ、あっはっは!」
雲ひとつない夜空にきらびやかな大輪の花が咲く度に、
「あっははっ! 花火って、キレイだよね。ホント来てよかったわ」
「ん?」
隣を見ると
「ふふっ、
「予知能力だよね」
「そ。旧校舎の解体作業を
彼女が手を振った先で、食べ物を大量に持った
「おーい、二人ともー、そろそろ時間よー!」
「はーいっ!」
時計を見る。確かに待ち合わせの時間まであと少し。先に立って、着なれない浴衣で立ちにづらそうな
「ありがとっ。あ、そうだ、すっかり聞くの忘れてたわ」
「なに?」
手を取って立ち上がった
「ワタシのクラスで話題になってたんだけど。体育祭の決勝戦出てなかったのは、どうして?」
「ああ、ちょっと怪我してて時間制限があったんだ」
「へぇ~、そうだったんだ。もう平気なの?」
「うーん、今後の経過次第だね」
「そうなんぁ。ねぇ、キスしよっか?」
「......はい?」
唐突な提案に思わず、すっとんきょうな声を上げてしまった。何を言ってるんだ、この子は? 突然のことで思考がうまく回らない。
「ほら。キスしたら、キミのケガがいつ治るか分かるかもじゃん」
「じゃん。って、そんな軽いノリで......」
「だって、キスなんて挨拶みたいなモノだし。ほら、ワタシ帰国子女だから」
――ここ、日本ですから。過激なスキンシップはしません。
説得力が有るのか無いのかよくわからないけど......。それに、そんな都合良く、ピンポイントで知りたい未来を視えるモノなのだろうか? と、想いながら地面目を落として考えていると、不意に良い香りがして、とても柔いモノが口に触れた。完全な不意打ちで、彼女にキスされた。
そして「....視えたわ!」と、
最後の花火が打ち上がり、花火大会は滞りなく終了を告げた。帰宅をする大勢の人波の中を、みんなで歩いていると
「ちゃんとキス出来たか?」
「やっぱり、お前が仕組んだんだな」
「まーな」
悪びれる様子は微塵も見せずに笑う。
「で、どうだったんだよ?」
「視えたらしい。みんなで、スタジアムのスタンドから朱雀高校サッカー部を応援してる姿が」
「おおー、やったじゃん! じゃあ来年のどっちかには間に合うんだな」
「たぶん、な」
「どうした? 何か浮かない
先を歩くみんなの後ろ姿を眺める。
「後で話すよ」
「ふむ、ワケありだな。
「止めろ! 暑苦しい!」
「なんだよ、ツレねぇな~。おーい、置いてくぞー」
一足早くみんな輪の中へ戻っていった
「じゃあ、聞かせてくれ。
自宅に着き、テーブルを挟んで
一呼吸置いてから話し出す。
「応援スタンドに居なかったんだってさ」
* * *
右膝の抜糸が済み、バイトへ復帰した八月の半ばのある日の夜、一人の女性が自宅アパートを訪ねて来た。
「
「あなたに聞きたいことがあるの。教えて......あなたは、何を知っているの......?」
一枚の写真を差し出し、とても真剣な