ただ、軽く触れるだけの一瞬のキス。
まさかの行動に出た
「なっ、なにが......っ!?」
喉から発せられた思いもしない高い声に驚き、更に身体にあり得ない異変があることに気がついた。
右膝に懐かしい感覚がある。長い間感じられなかった感覚の正体を確認するため目を落とす。すると、まるで女子の制服のスカートと同じ柄の生地の裾から、あるハズの手術跡も内出血もない、白く細いキレイな足がスラリと伸びていた。
「これは......?」
「これが、
聞こえた声に、自分のモノとは思えない足を注視いた顔を上げる。自分と思しき男子が目線まで上げた両手を確かめる様に、何度も開いたり閉じたりを繰り返したり、無駄に腕を回したりていた。身に覚えのある言葉遣いと柔らかな物腰に、ついさっきまで目の前に居た少女の顔と、名前が頭の中に浮かんだ。
「......
声にして、確認を求める。この俺は......いや、彼もしくは彼女は、俺に視線を移して頷いた。
「実験は思った通りの結果だったわ」
「実験......まさか、これが入れ替わり?」
「ええ、そうよ」
――本当に、キスで互いの身体が入れ替わったのか......? にわかには信じがたいが、確かに今、目の前には
それと、少し冷静になって気がついたことがある。本当にお互いの体が入れ替わっているのであれば、今俺が動かし感じているのは
「......
「それより、今は話の続きを」
「ん? ええ、それもそうね」
下半身に視線を向けていた
「先ず、入れ替わりについてだけど。
「ええ。私にも入れ替わりの能力があったということになるわ。だけど――」
「考えられることは、二つあるわ。
「
「......二つ目は?」
「まだ確信はないのだけれど、あなたがキスをした相手に要因があるのかもしれないわ。前にも聞いたけど、何か心当たりはない?」
「心当たりかぁ。う~ん......」
特異な能力を持つ二人以外でキスをした相手は、
「えっ......?」
彼女と初めてキスしたときからの記憶を辿っていると突然、目の前の俺が倒れ込んで来た。とっさに支えようとしたが、体格差で支えることは出来ず押し倒される形になってしまった。
「大丈夫? とりあえず戻ろう」
「え、ええ......」
そのままをキスして、お互い元の体に戻って座り直す。
「普段と右足の感覚が違うから、どんな感じなのか立ってみたのだけれど。ごめんなさい......」
右足に上手く力が伝わらず踏ん張りきれずにバランスを崩して倒れしまった、と。まあ俺も、慣れるまで同じだったからよく分かる。
「ケガしなくてよかった」
「そうね」
気にしなくていいと微笑みかけると、ふせていた顔を上げてくれた。
しかし、いくら入れ替わるためとはいえ、女友だちと二度もキスをしたことにこの上ない気まずさを覚える。そんな複雑な心境も、
「じゃあ、さっそく
どうやら彼女の中では、一緒に行くこと前提のようだ。移動にかさばる弁当箱を片付けてから行くことを伝え、校舎に入ろうとしたところで、
「居たわ。中庭」
「あ、ホントだ」
「どこへ行くのかしら?」
「あっちは......たぶん、旧校舎かな?」
中庭に目をやると制服をだらしなく着崩した
けど彼女は、近くまで来ても存在に気づかない。声をかける。
「
「――っ!?」
驚かせてしまった。ビクッ、と小さく肩を振るわせた。おそるおそる顔を上げた女子生徒――
「ち、違うっ、これは違うの......!」
手で涙を拭いながら、何かを必死に否定している。
しかし、
あの黄昏時の教室と同じで、必死に強がりながらも目の前で涙を流したあの涙とダブって見えて、どうしようもないやるせなさが込み上げて来る。
この溢れ落ちる涙を止めるにはどうすれば――次の瞬間、俺は無意識のうちに、彼女の頭に手を置いて撫でてていた。
「......なによ?」
「なんとなく。こうしたら泣きやんでくれるかなって」
幼い頃、こうしてあげると泣き止んでくれた。
胸に軽く衝撃が走る。
「......バカ」
俺の胸に一瞬だけ顔を押し付け、小さな声で呟いた
「はい、どうぞ」
「ありがと」
日陰になっている中庭のウッドベンチで待っている
「......聞かないの?」
風に揺れる木々のざわめきに耳を傾けていると、
「話して楽になるなら聞くよ」
しばしの沈黙、そして――。
「あのね、私――」
「
「ゴホッゴホッ、ハァハァ......」
「ちょ、ちょっと大丈夫なの? キズだらけじゃない」
「......いや、大丈夫だ。
「えっ? どういうことなの?」
「いいか、よく聞け。お前は、自分の――」
「ちょっと待って!」
振り向いた
「じゃあ、行くよ」
「え、ええ......。ジュース、ありがとう」
「どういたしまして。
「あ、ああ、そうする」
ベンチに二人を残し、本来の目的である旧校舎へと再び足を進める。目的地の旧校舎の昇降口に
「よう、
「アンタも来たのね」
「どうも」
「
「ええ。ちょっと遅かったみたいだけど?」
「ごめん、ちょっと友だちと話してた。それで、どうだった?」
「うん。やっぱり思った通りの結果だったわ」
「んー? 何の話よ?」
俺たちの会話に頭にクエスチョンマークを浮かべている
「つまり、
「そうなるわ。
「なるほど......」
林間学校二日目以降
「それで、
「
「その通りよ」
「おお~、すげぇーな、お前」
「どうしてわかったのよっ?」
「まあ、なんとなくね」
昨夜と、今しがたの
あの言葉の続きは――自分の能力に捕われているんだ、とまあ、おそらくこんなところだろう。大きく外れてはいないと思う。
「噂をしたらみたいね」
「
二人が、俺たちの前へやって来た。険しい
「どうして、あなたがっ!?」
「また会ったね。もういいの?」
「え、ええ、平気よ。それより、話は
「はぁ!? 何でだよ、別にここでいいじゃねぇか!?」
着いていくこよを拒否しようとする
「チッ! しょーがねぇな、さっさと済ませよーぜ」
「それはこっちのセリフだわ。さあ、こっちよ」
旧校舎の中へ入りものの数秒で戻ってきた
* * *
バイトを終えて、フットサルコートを出る。
既に午後八時を回っているが、今日は真っ直ぐ帰らずに隣のファミレスに立ち寄る。応対してくれた店員に待ち合わせをしていることを伝え、ついでに注文を済ませてから待ち合わせ相手がいるテーブルに着く。
「お待たせ。それで?」
「......聞いたんでしょ? ぜんぶ」
待ち合わせの相手――
「うん、聞いたよ。元に戻れてよかったね」
「......怒ってないの?」
「どうして?」
「どうしてって。だって私、あなたを......!」
「虜の能力をかけて、利用しようとしたから?」
「そ、そうよ」
目を逸らした。
今まで能力を使って次期会長戦を戦っていたことを
「だって、別に利用されなかったし」
「......あっ! 確かに言われてみればそうね。だけど、どうしてあなたには能力が効かなかったのかしら?」
「さあ~? どうしてだろうね」
適当に返事を返しながら、運ばれてきた飲み物を口に運び乾いた喉を潤す。
「う~ん......まあ、いいわ。それで、今日のお礼をしたいのだけれど」
「お礼?」
「ジュースくれたじゃない」
「あれくらい別に――」
「借りを作るのはイヤなの! それに、一応お詫びの意味もあるから......」
お礼と能力を使って利用しようとしたことの詫びも含めて、か。スマホを立ち上げて、スケジュール表を開く。明日は、バイトが入っていない。
「じゃあ明日、買い物に付き合ってもらえる?」
「へっ? 買い物。それって......」
若干動揺しながら聞き返す
「デートしよう」
動揺してながらも「い、いいわ。デートしましょ」と、頷いてくれた。
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