生徒会長に呼び出された翌日の昼休み。ここ数日、屋上へ顔を出さなかった
「ちょーけんぶ?」
「そっ。超常現象研究部、略して超研部」
「超常現象ねぇ。ここのところ来ないと思ったら、そんなことしてたんだな」
個人的な印象だが、生徒会長を目指している
「ま、最近まで部員がオレひとりだったから、実質休部状態だったんだけど。とある事情で復活させたのさ」
「へぇー」
聞き流しながら箸を進め、自炊した弁当を食べる。自炊は手間はかかるが、その日の体調に合わせてメニューを変更することが出来る利点がある。今日のメニューは数種類の野菜と、高タンパク低脂肪のおかず中心の健康メニュー。自分で言うはあれだけど、我ながら上出来の味。
「もう少し興味もってくれよ、話が始まる前に終わっちまうだろ?」
ひとつ大きなため息を吐いた
「ほれ」
「んー?」
箸を一旦弁当箱の上に置いて、受け取った用紙に書かれた内容を確認する。用紙の一番上に、部活動入部届けと記されていた。
「前に、
「なるほどね」
ついでに部員が増えれば、割り当てられる部費も増えて、超常現象研究部にとっても願ったり叶ったり。むしろ、そっちが本命だろう。受け取った入部届けを四つ折りにして胸ポケットにしまって、再び食事に戻る。
「って、入らねえのかよ!」
「とりあえず、保留。バイトもあるし。そもそも、超常現象を研究って何をするんだ?」
「そいつは、入部してからのお楽しみってやつさ!」
含みを持たせ、興味を持たせようという魂胆が見える。
「あっそ。なら、別にいいや」
「一秒でいいから悩むそぶりくらい見せろよ。まったく、友だちがいのねぇーヤツだなぁ~。うっま!」
正面に立った
「ああ、そうだ。話は変わるけどさ。明日から、林間学校だろ? オレらの班の班別自由行動って、結局何すんだ?」
「寺で、座禅」
「はぁ!? っんだよ、それ!」
「一昨日の放課後お前がめんどくさがって『オレ、生徒会だから先にあがるわ。あとは、よろしく~』って、逃げる前に遊び半分で出した
「マジかよ。うちの班エキセントリック過ぎるだろ......?」
――やっちまった、と頭を抱えてうなだれる
林間学校の件を話題にテキトーに時間を潰し、授業終わりの放課後は、いつものようにバイトなのだが、その前に近くのショッピングモールで、明日の林間学校に必要な物の買い出しをして、一度家に返って準備を済ませてから、改めてバイト先へと向かう。
「おつかれさまです」
「おう、おつかれー。今日もよろしく~」
店長と、同僚のスタッフと挨拶を交わして、更衣室で着替えを済ませ、子どもたちが集まるコートへ向かう。
「お待たせー。ちょっと早いけど、もうみんな居るし始めよっか?」
「はーい。せーれつー!」
待ち構えていた子どもたちの練習を開始。一組目が終わり、二組目の練習時間も終わりに近付いた時だった。フットサルコートの敷地の外に朱雀高校の男女――
ミニゲームのチーム替えをしている間に、二人に声をかける。
「入らないの?」
「いいのか?」
「どうぞ」
「お邪魔するわ」
ピッチ横のベンチに座った二人は、共に制服姿。どうやら今日は、客ではないらしい。ピィッ! と短くホイッスルを吹き鳴らし、ミニゲームを再開させる。子どもたちのプレーを見ながら用件を尋ねる。
「それで、今日は? また勧誘?」
「まあ、そんなところよ」
「それはそれはごくろうさまです。はい、フォロー来てるよ! 周り見てー!」
基本的にあまり声をかけずに見守りながら、要所要所で指示を出し、今日最後のミニゲーム。
「
「なぜだ?」
「一人、面子が足りないんだよ」
「だが、何で俺が......」
「あら。別にいいじゃない。入ってあげたら?」
「......仕方ないな」
「みんな、そのお兄ちゃん初心者だから手加減してあげてねー!」
「はーい!」
「なんだと......!? ナメやがって!」
見事に挑発に乗ってくれた。
「それで、今日は勧誘しないの?」
「どうせ、引き受けてくれないでしょ? それより
「ああ、うん、昼休みに聞いたよ。確か、超常現象研究部」
「そっ、それそれ。しかも部員は
「へぇー、そうなんだ」
それはまた奇妙な組み合わせだと一瞬思ったが、体育祭の時にも三人で集まっていたし。俺が知らないだけで、存外仲は良いのかもしれない。
「今さら、また部活だなんて......。あの男いったい何を考えているのかしら?」
「さあ? あ、でも俺も勧誘されたよ。先に別の部活に入っていれば、
「......考えたわね。それであなたは、超常現象研究部に入ったわけ?」
「ううん、一旦保留してある」
アゴに手を添えて険しい
「別に迷惑とか思ってないしね。それに――」
「ん? 何かしら?」
「もし入部したら、こうして会いに来てくれなくなるでしょ?」
「なっ!? あ、あっ、あなた、いったい何を言っているのかしらっ? い、今さら効いてきたっていうのっ? でもでも......」
――効いてきた。何のことだろうか?
「すまん......」
「ひゃぁっ!」
「おっと」
突然目の前に現れた
「大丈夫?」
「え、ええ、ありがと......。どうしたのよ、
「......代わってくれ、限界だ」
大量の汗を流し、今にも倒れそう。
「なーに? だらしないわねー」
「そう言われても......あのガキども上手すぎるぞ?」
「あっはは。あの子たち月に一度大人の大会に出てるから無理もないよ。サンキュー、ビブス借りるよ」
「今日は、これで終わりなの?」
「もう一時間あるよ。この前二人が参加したのと同じ、初心者クラスの個人フットサル」
「ああ......。あの
「地獄って、大袈裟だな」
先日経験した疲労感を思い出したのか、二人とも
「明日から林間学校だけど、二人とも帰らなくていいの?」
「私は、既に準備万端だから平気よ!」
「俺もだ」
「そっか」
時計を見て席を立つ。そろそろ時間だ。
「じゃあ、一緒にやっていく?」
「そ、そう言えば、洗顔フォームを買い忘れていたかも知れないわっ」
「お、俺も念のため、もう一度荷物を確認しておこう」
「あはは、それは残念。そう、じゃあまた明日」
慌てて席を立った二人は荷物を持って、急いで帰り支度を始めた。挨拶をして、コートへ出る。個人フットサルのレフェリーを務め、忘れ物を確認して今日の仕事を終えた。シャワーと着替えしてからクラブハウスを出る。
すると、フットサルコート前の横断歩道を渡ったところの建物の影から意外な人物が、さっき帰ったハズの
「おつかれさま」
「あれ? どうしたの? 何か忘れ物でもあった」
「ええ、ちょっと忘れ物をしたの。少しかがんでくれるかしら?」
「え? ああ、うん」
言われたまま、軽く膝を曲げる。すると
――二度目のキス。
一瞬ぴったりと合わさっていた彼女のぬくもりが、ゆっくりと離れて行く。顔を上げた
「どうかしら......?」
「えっと......どうって、何が?」
「その、何も変わらない?」
彼女が何を言っているのか、いまいち理解できない。
ただ一つ分かるのは、キスされたとわかった時から鼓動がものすごく速いということだけ。
「そう......そうなのね。さあ、帰りましょ」
「へっ?」
何かに納得したように伏せたていた顔を上げた
「ちょっと、早くなさいよ。あなた、こんな時間にか弱い女の子を一人で帰らせるのかしら?」
「はいはい、今行くよ」
ひとつ大きく息を吐いて呼吸を整えてから、数歩先で振り向いた彼女の隣を歩く。明日から始まる林間学校のことを話しながら、最寄り駅の改札前まで彼女を送り、ホームへ向かう背中を見送った。