話は変わりますが前回の第五話にて、オレンジカーソルとなりました。とても嬉しいです。応援して下さって本当にありがとうございます。これを励みに頑張っていきたいと思います。
ハチがボス攻略のパーティーを結成している時、広場の端で一人のプレイヤーは驚愕していた。
アルゴside
「・・・・・・ありえないだロ。」
思わず口からそんな言葉が漏れてしまう。
広場には今、トッププレイヤー達が集まっている。そんな中、さっきありえない光景があった。他のプレイヤーはパーティーについて話していて見ていなかったし、キーちゃんは気づいていないみたいだけど。
ゆっくりと、さっきまでの光景を思い出す。
レイピア使いが神速の《リニアー》を放ったこと?
フードを被ったプレイヤーが垂直跳びからの華麗な土下座を決めたこと?
キーちゃんがそのプレイヤーを押し倒したこと?
どれも違う。ならばその前だ。
これだけのプレイヤーが集まったこと?
ディアベルのボケで場が賑わったこと?
好き勝手にパーティーを組ませたこと?
これらも違う。ならばなんなんだろうか?
「・・・・・・見えなかっタ。」
あの土下座をしたプレイヤー。そうハー坊だ。見えなかった・・・・・・キーちゃんがぶつかるまで。
本来、現段階ではありえない事だ。隠蔽を発動しているとはいえ、ぶつかるまでプレイヤーに気付かないなんて。少なくともベータテスト時代には報告が無かった。
レベルが上がってくればもしかしたら熟練度、装備を駆使して出来るようになるかもしれない。しかし、わずか一ヶ月足らずでそこまで熟練度を上げるなんて出来るだろうか?この第一層にもそこまで隠蔽を補助する装備が有るなんて聞いたことがない。
せいぜい例の三人が被ってるフードに僅かな補助効果があるくらいだ。
それにキーちゃんは索敵スキルを持ってるだろうし、カンもとても鋭い。いくら圏内といっても少しでも違和感を感じたらすぐに《看破》するはずだ。
そんなキーちゃんがぶつかるまで気がつかなかった。この場にいる全プレイヤーが彼の隠蔽を看破出来なかった。
夕方とはいえまだ明るい中、なんの遮蔽物も無いこの広場で。
これがどれだけ異常な事なのか、普段から情報収集のために隠蔽を愛用しているオイラには分かる。
「ハー坊・・・。」
あの腐った目のプレイヤーがどんな男なのか。少し興味が湧いた《鼠》であった。
ハチside
「っ!!」
なにか今殺気を感じたような・・・。刺されないよな?気のせいだよな。うん。
パーティー間での打ち合わせも終わり、広場が落ち着きを見せたタイミングで、ディアベルは口を開いた。
「よーし。そろそろ組み終わったかな?」
広場を見渡し確認した後、続けようとしたのだが・・・。
「じゃあ――。」
「ちょお、待ってんか!」
広場の後方から一人のプレイヤーが現れ、会議の進行を
止めた。なんだ?
そのプレイヤーは階段をとばしながら下り、最後にひときわ大きな跳躍をし、広場の中央に着地した。
「わいは《キバオウ》ってもんや。ボスと戦う前に、言わせてもらいたいと思うことがある。」
自己紹介を終えた後、広場のプレイヤー達を指差しながらそいつは言った。
「こん中に、今まで死んでいった二千人に、詫び入れなアカン奴がおるはずや。」
広場がどよめきだす。えっ詫び?今まで死んでいった二千人に?おいおいどんな大罪をやらかしたんだよそいつ。ってかこの中にいるの?怖っ?
「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり・・・、元ベータテスター達の事・・・・・・かな。」
「決まっとるやないか!!」
・・・・・・ああ〜なるほど。そうゆうことね。しかし、よくこの場で言うよな。KYなの?いや、違うな。空気は吸うもんだ。読むもんじゃない。
「ベータ上がり共は、こんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えおった。奴らは美味い狩場やら、ボロいクエストを独り占めして、自分らだけポンポン強なって、そのあともずーっと知らんぷりや。」
キバオウは変なジェスチャーをしながら憎々しげに語り続ける。
「こん中にもおるはずやで!ベータ上がりの奴らが!そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん!!」
正義は我にあり!とでも言うかのようなキバオウの宣言。はぁ、ビギナーの大半はそう思ってるのか。しかし、それをこれだけ直接訴えてきたのはおそらくコイツが一番最初なんじゃないか?
やだなー、この空気。このお互いに疑心暗鬼になってるような気まずい雰囲気。誰がベータテスターかなんて分かるわけないだろ。パーティー結成して数分で崩壊の危機じゃないですか。中学校の頃、誰かが学校のガラス割って、学級会開いた時の空気に似てるわ。ちなみに俺が犯人にされた。解せぬ。
その点うちのパーティーは大丈夫そうだ。・・・・・・キリトが震えてることを除けばだが。この反応を見るからにキリトは十中八九ベータテスターだろう。だが俺も、おそらくアスナもそんなことは気にしない。あまりうちのパーティーメンバーに心労をかけないでいただきたい。
「発言いいか?」
バリトンボイスが広場に響きわたる。声の主に目をやると、スキンヘッドの色黒マッチョがそこにはいた。なにあれ外国人?でっけぇな。
ミスターバリトン(仮)が広場の中央に降りていく。その容姿にキバオウが若干たじろいだ。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん。あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったから、ビギナーが沢山死んだ。その責任を取って謝罪、賠償しろ。ということだな。」
「そっそや。」
「このガイドブック。あんたも貰っただろう。道具屋で無料配布してるからな。」
エギルはポケットから一冊の本を取り出してそう言った。ん?ガイドブック?なにそれ?横のキリトは、ありえない・・・。と驚いている。なにが?
「もっもろたで。それがなんや!」
質問の意図が読めないのかキバオウは声を荒らげる。
「配布していたのは・・・元ベータテスター達だ。」
エギルの発言で広場が再びざわめき出す。まぁガイドブックなんて経験者以外作れない訳だしな。それにしてもキバオウはそこまで驚いてないな。むしろどこか悔しそうだ。あいつ知ってたんじゃないの?
「いいか。情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのに沢山のプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、俺達はどうボスに挑むべきなのか、それをこの場で論議されると俺は思っていたんだがな。」
エギルの発言にほとんどのプレイヤーが聞き入っている。あの声と容姿でこれだけ説得力のある話をしたんだ。当然ともいえる。見ればキリトもひとまずの落ち着きを見せていた。エギルには感謝しなければ。
何が言いたいことは?とエギルが目で尋ねると、キバオウは渋々といった様子で広場の端に座った。あれは絶対納得してないな。あとで問題にならなければいいが。
「よし、じゃあ再開していいかな?」
広場のプレイヤー達が頷く。よかったー。もう言いたいことがあるプレイヤーはいなそうだ。キバオウ?知らん知らん。
「ボスの情報だが。実は先ほど、例のガイドブックの最新版が配布された。」
なんとも微妙なタイミングだな。
「それによると、ボスの名は《イルファング・ザ・コボルドロード》。それと、《ルインコボルド・センチネル》という取り巻きがいる。ボスの武器は斧とバックラー。四段あるHPバーの最後の一段が赤くなると、曲刀カテゴリのタルワールに武器を持ち替え、攻撃パターンも変わる。ということだ。」
微妙なタイミングどころじゃないな。ある意味最悪と言っていいタイミングだ。よりによってベータテスター達とビギナー達との確執が浮き彫りになったときにきた。こんだけボスの情報量があるんだ。誰もがベータテスターが関係してると思うだろう。
それを裏付けるかのように、広場のプレイヤー達は皆、微妙な表情をしている。しかし、反対にキリトはどこか焦ったような顔で広場を見回している。また誰が探しているのか?横目で様子を見ているとキリトは呟いた。
「・・・・・・アルゴ・・・。」
アルゴ?あの情報屋のことか。このタイミングでその名前が出るってことは、あのガイドブックの情報はあいつが提供してることか。
そうなるとキリトがこんなに心配するのも頷ける。アルゴ本人がベータテスターであろうとなかろうと、少なくともアルゴはベータテスター達と繋がりがあるということになる。するとキバオウのようにベータテスターに反感を持つプレイヤーが何を言い出すか分からない。
つられて広場を見渡していると広場の端、柱の影にアルゴを確認できた。
ん?俺を見てる?
すると目が合った瞬間、すごいスピードで柱の影に隠れた。そんなに怖がられると傷つくんだが・・・・・・。
心に深いダメージを負っているとディアベルが経験値、金、アイテムの分配について話し、他の連絡事項を伝え、ボス攻略会議は終了し、解散となった。早く帰って寝よう。
「じゃあ俺は―。」
「待ってください!」
服の裾を掴まれる。反応速いな、おい。ってかまだ帰るってすら言ってないんだけど。なんで分かったの?
「あの、明日のボス戦のために《スイッチ》とか《POTローテ》について確認しませんか?」
「「スイッチ?」」
アスナとセリフが被る。俺達、気が合うのかもね。あっごめんなさい。やめて、レイピア抜かないで。
キリトはというと目を見開いて驚いている。えっ?セリフ被ったのがそんなに珍しい?
「もしかして、パーティー組むの初めてですか?」
「おお。」
「ええ。」
「だからさっき二人ともあぶれてたんですか?」
「あぶれてねぇよ。まわりがお友達だったみたいだから遠慮したんだよ。」
「あぶれてないわよ。まわりがみんなお仲間同士みたいだったから遠慮しただけ。」
「「「・・・・・・・・・。」」」
俺達気が・・・・・・辞めておこう。今度こそ命の危険を感じる。
「えっと、それじゃあ私の泊まってる部屋に来てくれませんか?そろそろ暗くなりますし。」
「いや、そこら辺のベンチでいいだろ。圏内だし危険がある訳でもない。」
むしろ俺が危険人物と間違われるまである。
「でっでも・・・。」
「そうね。わざわざお邪魔する訳にも・・・・・・。」
「あっあの。」
キリトはなおも諦めない。勘弁してくれ。密室で女子二人と長時間過ごすってのはなかなか苦行なんだ。
諦めるかと思っていたがオロオロしていたキリトは突然何かを思い出したようで、アスナに近づいて何かを耳打ちした。
その瞬間である。
二メートルくらいは離れていたであろう俺とその二人だが、気づいた時にはアスナが俺の胸ぐらを掴み、至近距離で睨みつけていた。
近い!近い!怖い!怖い!
「行くわよ。」
「ふぁ?」
なんだ突然?動揺で口が回らない。ってか近いって!
「キリトちゃんの部屋に行くわよ。」
「ふぁ・・・ふぁい。」
拒否権はないんだろうな。思わず逸らした目線の先、キリトはイタズラが成功したかのような無邪気な笑みを浮かべていた。
・・・・かわいい。
「この部屋です。どうぞ。」
キリトが部屋を借りているのはどうやら農家の二階ようで、その農家はトールバーナの町の東に広がる小さな牧草地沿いに建っていた。
キリトが借りている部屋は予想以上に大きく、他にも部屋があるらしい。
「広い・・・・・・わね。これで30コル差・・・。」
ブツブツとアスナが呟いている。自分の泊まってる部屋と比べてるんだろう。
「こういう場所を見つけるのも立派なスキルなんですよ?」
少し誇らしげにキリトが胸を張る。「かわいい。」
「ふぇ?!」
「っ!!」
「えっ?」
場の空気が変わる。キリトは顔を真っ赤にしてショートし、アスナはレイピアに手をかけ、こちらを睨んでいる。
・・・もしかしなくても声に出てた?
「あはは、ありがとうございます。」
赤くなった頬を指でかきながら照れている。アスナもレイピアから手を離してくれた。とりあえず危機は去ったな。
「あっアスナさん。お風呂場はこっちです。」
「わかったわ。」
キリトはアスナをバスルームに案内するようだ。ん?
「おいちょっと待て。」
「なによ。」
「お前風呂入るつもりか?」
「ええ。」
なるほど。コイツが食いついたのはそこか。キリトもそれで悩んだ経験があったんだろう。だからアスナの食いつくネタがわかったと。ってかこのタイミングはおかしいだろ。
「なによ、覗くつもり?」
「んなわけねぇだろ。」
「アスナさん、先にどうですか?」
いやいや、キリトさんや。あなたもですか。
「さっさと作戦会議とやらをして帰りたいんだが。」
別にやましい思いがなくても思春期の男子には辛いものがある。さっさと用事をすましてトンズラしたいところだ。
「・・・ハチさん。」
「ん?」
「駄目・・・・・・ですか?」
「ごふぁ!!」
「ハチさん?!」
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!なんだ今の?!あれを素でやったのか?一切狙わずに?可愛すぎだろ。
いや、それだけではない。薄々わかってはいたが最近の俺は慢性的な《妹不足》だ。愛しのマイシスターに会えないことで影響が出始めてる。
初めて森の中で見かけた時も思ったが、おそらくキリトはまだ小町くらいの年齢のはずだ。そんな娘が上目遣いで聞いてくんだぞ?これを断ったら千葉県の兄としてどうなんだ!いやしかし!俺には小町がいる!他の妹にうつつを・・・いや違うだろ!!他の妹ってなんだよ!もう妹認定しちゃってんじゃん!いや!昔のえらい人は言ったじゃないか。
逆に考えるんだ。認めたっていいさと。
そうだな。うん。何を悩んでたんだ俺は?まったく、らしくなかったな。
「なんでもない。気にするな。別に用事がある訳じゃないからな。ゆっくり入ってこい。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
天使だ・・・。
天使を送り出し、近くにあったイスに腰掛けているとつめたーい視線を感じた。いうまでもない。アスナさんである。
「・・・・・・・変態。」
「ごふっ!」
技の冴えは言葉にも宿るようで、アスナの放った言葉のリニアーは見事に俺の心のHPバーを全損させた。
「・・・ねぇ。」
「なっ・・・なんだ?」
「どういうつもり?」
「なにが?」
「迷宮での話よ。」
うっわ。自分から地雷原に突っ込んできたよ。もうその話はしたくないんだが。
「あの時も言っただろ。稼いだ分は働いてもらう。それだけだ。」
「嘘。」
「あん?」
「ここに来る途中にキリトちゃんに聞いたわ。大勢のプレイヤーならまだしも、一人のプレイヤーが三~四日こもってレベリングしたくらいじゃ迷宮の経験値には問題無いって。」
それ聞いたのかよ。まずいな。面倒なことになる。
「ねぇ。あなたもしかして私のこと心配してくれたの?」
「勝手に勘違いしてんじゃねぇよ。お前の心配なんざ一切してねぇ。俺はいつだって俺の為に行動してる。この際正直に話すが、お前は強い。ただでさえ前線のプレイヤーが少ないんだ。ゲームクリアの為にも変なとこで無駄死にしてもらっちゃ困るんだよ。」
「どうしてクリアを目指すの・・・。」
「俺はまだ死ぬわけにはいかねぇからな。」
理由は小町に寄るところが多いが、俺だって死にたくは無い。
「そう・・・・・・。」
しばらくの静寂。一度俯いたあと、アスナは顔を上げた。その目には今までには無かった強い意志が宿っていた。
「明日・・・・・負けないから・・・。」
「・・・せいぜい役に立ってくれ。」
その目がどこか眩しくて思わず顔を背けてしまった。
「アスナさん、今上がりました。」
キリトがバスルームから出てくる。もちろん服着てますよ?べっ別に期待なんかしてないんだからね!・・・・・・ないな。うん。これはない。
「そう、ありがとうね。」
「えっ、あっ・・・はい。」
そういうとアスナはバスルームの扉を開け、中に入って・・・行くかと思ったら顔だけ開いた扉から出し、こういった。
「キリトちゃん。そこの変態が覗かないように、ちゃんと見張っててね。」
「はい!わかりました。」
わかるなよ・・・・・・。あまりのショックに、本当にHPバーにダメージが入ったんじゃないかと錯覚する。
「アスナさん・・・・なんか雰囲気変わりましたね。何かあったんでしょうか?」
「・・・・・・さあな。」
どこかに手頃なサンドバッグでもみつけたんじゃねぇの。
「あの・・・・・・ハチさん。」
「なんだ?」
「実は私の部屋に来てもらったのにはもう一つ理由があって・・・・・・。」
おおかた森の件を改めてお礼を言いたいんだろう。本当に優しい娘だな。
「森では危ないとこを助けてい―。」
「気にすんな。」
「えっ?」
「見かけた以上、目の前で死なれても寝覚めが悪いからな。俺は俺の為にも動いただけだ。助けた、だなんて思ってない。」
まぁ思わず飛び出したってのが本音だけどね。
「そう・・・ですか・・・・・・。」
再び部屋の中を静寂が満たす。どうしようかと悩んでいたらキリトがポツポツと話し始めた。
「私・・・・・・実はベータテスターなんです。」
「・・・そうか。」
知ってる。
「デスゲームが始まったあの日。私すぐに始まりの町を出たんです。知り合ったビギナーのクラインさんを置いて・・・・・・。クラインさんはお前の教えてくれた技で助かった。ありがとうって言ってくれましたけど。」
クライン?もしかしてあの野武士の男か?キリトの知り合いだったのか。
「でも・・・さっき攻略会議でキバオウさんが言ってたこと・・・・・・ベータテスターが見捨てたせいで沢山死んだって。エギルさんはベータテスターはきちんと助けてくれたって言いましたけど、私はそんなこと今まで知らなくて・・・・・・。」
罪悪感に耐え切れなくなったのか、キリトは涙を浮かべ始めた。
本当に・・・優しい娘だ。命がかかってるんだから、自分の為に動いたからって誰も文句は言えない筈なのに。この様子だと始まりの町を出た後だって辛かったはずだ。
そのうえ自分を庇って人が死んだかもしれなかったんだ。この一ヶ月、どれだけ悩んだんだろう。
千葉の兄として妹(仮)をいつまでも泣かせる訳にはいかないな。
「エギルも言っていただろ。情報はあったんだ。死んでしまったのはベータテスターのせいじゃない。本人の慢心だ。心のどこかでコレをゲームだと軽んじていたんだろう。それに、俺の見立てではベータテスターも相当な数死んでしまった筈だ。」
「っ!!」
キリトはどうしてそれを?といった表情である。やっぱりか。理由はビギナー達と同じく慢心だろう。それに情報がある分、ビギナー達よりもひどいといえる。
「この仮想世界にいるプレイヤー全てが、デスゲームなんて初めてなんだ。ベータテスター達に全ての責任を負わせるのは間違ってる。それにな、お前は既に結構な人数のプレイヤーの命を救ってるんだぞ。」
「えっ?」
「お前に礼を伝えたのはそのクラインだけだったかもしれない。でもクラインのパーティーメンバー達もお前には感謝してるはずだ。お前が助けたクラインはパーティーメンバーを救ってるんだ。お前のおかげでそのパーティーメンバーは生きていると言っていい。それに・・・。」
あまり言いたくはなかったが言うしかあるまい。
「俺だってお前に助けられたんだぞ。」
「そんな!助けられたのは私の方で―。」
「まぁ落ち着け。」
なだめるようにキリトの肩に手を置く。
「俺はな、村を出たお前を追っかけてたんだよ。」
「えっ?」
「今まで黙ってて悪かった。ベータテスターについて行けば安全に次の村に行けると思ってな。狙いどおり俺は安全に次の村に行けた。お前のおかげだよ。」
「でも・・・・・・私はそんなこと知らなくて・・・自分のことしか考えてなくて。」
「さっきも言ったと思うが、俺は俺の為に動いた。その結果お前は助かって、お前はそれを感謝している。それと同じだ。知らなかっただけで、お前は俺を助けてるんだ。それにお前は明日この層のボスと戦う。文字通り命を賭けてだ。お前はお前の為にボスに挑むのかもしれないが、それは結果的にSAOの全プレイヤーを助けてるんだ。」
「わた・・・・・し・・は、誰かを・・・・救えたんでしょうか・・・・・・。」
「目の前にその救われたプレイヤーがいるんだ。明日救われるプレイヤーが大勢いるんだ。お前はお前を誇っていい。」
「は・・・・・い・・・。」
キリトは初めて、いや二回目に広場であった時のように抱き着いてきた。ただし、あの時とは違い優しく、それでいてどこか温かいハグだった。抱き締め返しはしないが頭くらいは撫でてやろうと思う。
これで、この娘は解放されたんだろうか。一ヶ月もの間、彼女を苦しめてきた重圧から。
「キリトちゃん、あがったわ・・・・・・よ・・・。」
OK、理解した。これは命の危機だ。今すぐ退散しなければ俺は死ぬだろう。
「こ・・・の・・・へん・・・・・・たい。」
「あっ、あしゅなしゃん。こりぇは誤解なんでしゅ。」
「アスナさん!違うんです!」
「いいのよ、キリトちゃん。大丈夫、分かってるわ。」
ふー。よかった。さすがのアスナさんもわかってくれたようだ。
「全てそこの変態が悪いのよね?」
前言撤回。さすがアスナさんやでぇ。
直後、眉間に閃光が走り、俺の意識はログアウトした。
・・・・・・作戦会議・・・。
読んでいただきありがとうございます。前書きでも言いましたが、数々の感想、応援、本当にありがとうございます。これからも頑張っていきたいと思います。応援、よろしくお願いします。