ひねくれボッチは仮想現実で本物を求める   作:エンジェリック

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どうも、エンジェリックです。随分と間が空いてしまいましたが第十二話の投稿となります。久しぶりの執筆で多少のミスがあるかもしれませんがよろしくお願いします。


ひねくれボッチはやらかした

さぁーて、今日から楽しい社畜ライフの始まりだよー。

 

 

 

やめろ、そんな目で見るな。こうでもしないとやってられんのだ。

 

無駄に早起きな黒猫団のせいでいつもより早い時間からレベリングを開始しなければいけなくなってしまった。無理にでもテンションを上げないと今すぐ帰って引きこもる自信がある。なおその後アスナに連行されるまでがワンセット。

 

本日のレベリングは様子見として昨日と同じ層で行うそうだ。そして現在その狩場に向かっている。そんな中、パーティーの少し後ろを歩く俺にケイタが話しかけてきた。

 

 

「あの・・・・・・ハチさん。一つ聞きたいことがあるですけど。」

 

「なんだ。」

 

「ハチさんって何度か俺達の戦闘を見てるんですよね?」

 

「おう。」

 

「ならもしかして俺達のパーティーに足りないものとかって分かったりしてます?」

 

 

なんでこいつはそんなことを聞いてくるんだ?そんなのお前らだって自覚してるだろうに。

 

 

「言うまでもないだろ。」

 

「・・・・・・やっぱりタンクですか。」

 

「おう。」

 

 

答えを聞いたケイタは渋い顔になる。分かってて対処出来ないってことは何らかの事情があるんだろうが。

 

 

「実はサチを盾持ちの前衛に変更しようとしたんですけど・・・・・・本人が無理そうで。」

 

「ちなみに変更するのがそのサチとやらの理由は?」

 

「うちのパーティーには槍使いが二人いてそのうち熟練度が低いのがサチなんです。なので今のうちにタンクに変更した方がいいと思って。」

 

「まぁ合理的な考え方だな。それで?そんなことを聞いてくるってことはなんか頼みがあるってことだよな?」

 

 

まぁ大体想像はつくが。

 

 

「はい。サチにタンクとしてのノウハウを教えて欲しいんです。今はまだ怖がってるみたいですけど、勝手が分かってくれば大丈夫だと思うんです。レベルの高いプレイヤーが近くにいればサチも落ち着いて出来ると思いますし。」

 

「そうか。」

 

 

それは違うぞ。様子を見てるだけでも分かるがあのサチという奴は基本的に臆病な性格なんだと思う。そこまではケイタも分かっているんだろう。

 

だが勘違いしているのはここからだ。人の性格なんてものはそう簡単に変わりはしない。ましてやこんなデスゲームの中でなんて臆病になって当然だ。

 

現実世界では同じサークルの仲間だと聞いたがそれがサチにとっての鎖になっているんだろう・・・・。

 

 

「とりあえず話は分かった。だが俺はタンクの経験なんてほぼ無いから基本的な事しか教えれない。ただの復習のようになるかもしれないからな。」

 

 

ヘイト管理はプロ級なんだがな。

 

 

「それでお願いします。」

 

 

小さく礼をしてケイタはサチのところへ行った。おそらく話を通してるんだろう。普通逆だと思うんだが。もしかして事後承諾なら断りづらいと踏んでの行動だろうか。だとしたらアイツなかなか黒いな。

 

それにしてもサチには少し気の毒な展開だな。あの性格なら今までも色々振り回されてそうだしな。

 

 

・・・・・・・・・まぁこの一ヶ月くらいはしっかり護衛してやるが。

 

 

楽しい社畜ライフ初日。レベリングのお手伝いがスタートしやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サチside

 

今日はすごかったなぁ。

 

様子見のつもりだったレベリングだけど想像以上のペースで経験値を稼ぐことが出来た。

 

今までにない速さで強くなっていくことに興奮してたのか、気がついた時にはもう夕方だった。人気が無い狩場でよかった。

 

レベリングがはかどった理由はハチさんなんだけどね。

 

レストランの端で食事をしている件のプレイヤーを見る。猫背に眠たげな目。なんだか疲れたサラリーマンのように見えてしまった。

 

今日一日を通してハチさんの人柄が分かったような気がする。

 

多分だけどあの人はすごい優しい人なんだと思う。見た目とか言動で誤解されやすそうだけど。

 

パーティーに入らないことで経験値の分散を防いでたし突然のトラブルに対しては自分が無理をしてでも解決していた。安全の為なのか必ず相手モブの両目をピッグで

潰していたのには少し引いちゃったけど。今思えばそのピッグもタダじゃないんだよね。

 

レベリングが終わってケイタがお金を払おうとしたら、

 

 

「報酬なんか要らねぇよ、ツケを清算するための仕事だからな。俺に払う金があるならそれでさっさと強くなってくれ。そのほうが楽できる。」

 

 

そう言って街に戻っちゃった。急いで追いかけたけど。

 

それに明日からは私にタンクの特訓を付けてくれる。

 

怖いから遠慮してたけど協力してくれてるんだから頑張るしかないよね。

 

・・・・・・なんだか今日一日だけですごいお世話になっちゃってる。なにかお返し出来ないかな?

 

辺りを見回し、マグカップを発見する。あれなら・・・・・・。

 

現実世界でいうドリンクバーのような所に行く。

 

 

えっと、とりあえずこれを・・・・・・。

 

 

ピンク色の甘そうな飲み物をマグカップに注ぎ、飲んでみる。

 

 

「・・・・・・苦い。」

 

 

コーヒーみたいな味がした。ピンク色なのにこんな味なのはおかしいと思う。でもみんなはいつもコーヒー飲んでたんだよね。私はココアだったけど。やっぱりハチさんもそういうのがいいのかな?

 

人数分のマグカップにコーヒー?を注いでいく。

 

 

私はこれで誤魔化そう。

 

 

そして自分の分に大量の砂糖のようなものを投入する。これで相当甘くなるはずだ。

 

 

「サチ、何やってるんだ?」

 

「あっ、ケイタ。」

 

 

後ろからケイタが不思議そうな顔で話しかけてきた。

 

 

「えっと、今日ハチさんにお世話になったけど何もお返し出来てないなぁって思って・・・・・・だからせめてこれくらいはって。」

 

「そうか、思いつかなかった。やっぱりサチは気が利くな。そういうところに気が付くなんて。」

 

「・・・・・そんな。」

 

 

戦闘で役に立てない私は、こういうことでしかみんなの助けになれないから・・・・・・なんて言えないよね。

 

 

「よし、そういうことなら俺も手伝うよ。ハチさん、お金とか受け取ってくれなくて少し申し訳なかったからね。」

 

「うん。ありがとう。」

 

 

ケイタはマグカップをトレーにのせて運んで行った。こういう時、やっぱりケイタは頼りになると思った。

 

私もいつかあんなふうになれるかな?

 

みんなにコーヒーを配っていくケイタを見ながらそんなことを考える。

 

リーダーシップをとまではいかなくても、周りに流されずしっかりと自分の意見を言えるような人間に。しっかりと芯のある人に。

 

今の私みたいに、この世界に怯えているだけじゃなくて立ち向かえるような人に・・・・・・・私には無理かな。

 

嫌な気持ちを飲み込むように手元のコーヒーを飲む。

 

 

「っ!!・・・・・・苦い?」

 

 

なんで?あんなに甘くしたのに。もしかして別のマグカップ取っちゃった?

 

急いでみんなに視線を向ける。みんなは普通にコーヒーを飲んでいる。自分で作ったのに言うのは変だけどあの激甘コーヒーを飲んで平静でいられる人なんてそうそういない。

 

 

まだ飲んでない人は!!

 

 

黒猫団のみんなはもう飲んでいる。様子も普通だ。となるとあとは一人しかいない。

 

レストランの端。今日一番の功労者を見る。マグカップを持ち、今にも口を付けそうだ。

 

 

「まっ、待って。」

 

 

咄嗟に止めようとしたのに小さな声しか出ない。こんな時なのに。

 

小さな声は届くことはなく、ハチさんはコーヒーを飲みその直後・・・・・・・固まった。

 

 

「あっ・・・。」

 

 

数秒間、ハチさんは止まったまま。周りのみんなは気が付いていない。早く謝らなきゃと思っていても体が動かない。こんなことにも怯えている自分が嫌になる。

 

レストランの一角。固まっている二人のうちの一人が動き出す。ゆっくりと立ち上がり、ケイタの方へ歩いていく。

 

 

「おい。」

 

「えっ・・・はっ、はい。なんですか?」

 

 

普段よりも低い声。今までにない雰囲気をケイタも感じ取ったようで少し声が固くなる。黒猫団の面々の間にも緊張が走る。

 

みんなの視線が集まる中、ハチさんが口を開く。

 

 

「このコーヒーをいれたのは誰だ。」

 

 

一緒に持ってきていたマグカップを指差しながらそう言う。さっきまでの眠たげな目とは違う。戦闘の時に垣間見る鋭い瞳で。

 

怒っている。その場の誰もがそう思った。

 

 

「えーと・・・・もしかして口にあいませんでしたか?」

 

 

慎重に相手の出方を見ながらケイタが質問する。

 

 

「これをいれたのは誰だ。」

 

 

ケイタの質問を無視し、ハチさんは繰り返す。嘘は許さないと言わんばかりに。

 

 

「あの・・・・ですね。それは・・・・・・。」

 

 

ケイタは迷っている。ここで私の名前を出すのは簡単なことなのに。私に気を使ってくれている。

 

良かれと思っての行動が相手を怒らせるなんて確かに辛いことだと思う。

 

でもこればかりは完全に私の責任。逃げるわけにはいかない。

 

 

「わっ、私が・・・いれました。」

 

 

さっきと比べてもほぼ変わらないような小さな声。しかし、それを逃さず聞き取った彼はサチを見る。

 

 

「サチ・・・・か。」

 

「はい。」

 

 

そばのテーブルにコーヒーを置き、ハチさんがこちらに歩いてくる。その間に発せられる無言の圧力に後ずさりそうになる。

 

ついにハチさんが目の前に立つ。そして突然肩を掴まれる。

 

 

「っ!」

 

「サチ。」

 

 

周りの空気が更に張り詰める中、ハチさんは真っ直ぐこちらを見る。これから起こることを思うと思わず逃げ出してしまいそうになる。

 

一瞬の後、肩を掴む手に力が入る。怒られるかと思い身体が強ばった時、彼は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に毎日このコーヒーをいれてくれないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

思考が止まる。頭が言葉の意味を理解しようと動き出す。

 

 

俺に毎日このコーヒーをいれてくれないか。

 

 

・・・・・・・・・これって。

 

 

ボンッ!!

 

 

頭が噴火した。

 

 

「え?!いや、その・・・えぇ?!」

 

 

突然の告白にパニックになる。頭が真っ白になり、その代わりと言わんばかりに顔が真っ赤になっていくのを感じる。紅白でめでたいね。

 

なんてこと考えてる場合じゃないや。とにかく考えを整理しないと。

 

えっと、ハチさんとは今日一日一緒にレベリングしていい人っていうのは分かったけどまだ全然分からないことばかりで目のせいで少し怖く感じる時もあるけどよく見れば顔は整ってるし、えっと、えーと。

 

 

「あっ、あのーハチさん?もしかして・・・・・・好きなんですか?」

 

 

混乱している状況を整理しようとしたのかケイタがハチさんに問いかける。

 

 

「ん?当たり前だろ。それ以外になんかあるか?」

 

「ふぇ?!」

 

「そっ、そうですか。」

 

 

ここでダメ押し。ストレートなもの言いにサチはさらにゆで上がり、ケイタを除く残りは固まる。

 

しかし、流石はギルドのリーダー。突然の緊急事態に対して冷静に対処?していく。

 

 

「・・・・・・やっぱり一目惚れですか?」

 

 

そうだ。相手の事ばかり気にしてたけどそもそもハチさんのように強い人がどうして私みたいなのを・・・・・・。

 

 

「いや、一目っていうよりは一口だったな。」

 

「へ?」

 

「「「はぁ!?」」」

 

 

固まっていた三人も声をあげ驚く。私はといえば頭のキャパシティを越えた事態にもう見ていることしかできない。

 

一口?一口ってなに?

 

 

「ちょっ!ハチさん?!サチに何したんすか!!」

 

「は?いやどちらかというとされた方だろ、俺は。」

 

「「「えぇ!?」」」

 

 

今度はその場のみんなが絶叫した。

 

えっ?私ハチさんに何かしたの?!全然覚えがないよ?

 

 

「サチ!ハチさんに何をした!そういうのはお前のキャラじゃないだろ!!」

 

「ケイタ落ち着いて!何か変なこと言ってるよ!?」

 

 

ケイタのキャパシティも限界らしい。おかしなことを言い始めた。

 

唯一冷静であるハチさんがケイタを止める。

 

 

「おい、落ち着け。サチは何も悪くないだろ。むしろ俺は感謝しているぞ。この出会いに。」

 

「ハチさん!?意外とロマンチックなこと言いますね!?」

 

「ケイタ、一回深呼吸しよう?ね?」

 

 

自分が興奮しているのに気がついたのかケイタは一度深呼吸する。

 

深呼吸して頭が冷えてきたのか少し落ち着いた様子でケイタはハチさんに話しかける。

 

 

「でもハチさん。なにもここで言わなくてもよかったんじゃないですか?突然でしたし。」

 

「確かに突然だったかもしれないな。でもこれだけは抑えきれなかった。」

 

「そんなに好きなんですね。」

 

「ああ、愛してると言ってもいい。」

 

 

「サチのこと。」

「マックスコーヒーを。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ん?」」

 

 

お互いに頭に?マークを浮かべたまま動きが止まる。

 

もしかして私達すごい勘違いしてた?

 

 

「おい。なんでそこでサチの名が出てくる。」

 

「え?いやハチさんが好きだって言って・・・・・・。」

 

「俺が好きだと言ったのはあのコーヒーだ。」

 

 

あはは・・・・そうだよね、うん。流石にありえないよね。でもなぁ・・・・・・。

 

惚けた顔から一変。誤解に気がついたケイタは大きなため息をつく。

 

 

「どうした。大丈夫か?さっきから様子が変だが。」

 

「いえ・・・・日本語って難しいと思いまして。」

 

「ん?そうだな。最たる例なんてI LOVE YOUを月が綺麗ですねなんて訳してるくらいだからな。」

 

「・・・・・・そうですね。」

 

 

ハチさんの発言を受けさらにケイタが疲れたような顔になる。

 

数ある中からそこをピックアップするあたりハチさんは分かっててやってるのかな?それともただ鈍感なだけ?

 

 

「それでサチ。頼めないか?最低でもレシピさえ教えてくれれば自分でいれるが。」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

「そうか。」

 

 

話してて不思議と少しテンションが上がってる気がする。先ほどのやり取りの余韻もあるけどそれだけじゃない。

 

誰かに何かを頼まれるなんてこの世界に来てからあったかな?少なくともここ一ヶ月はそんなことなかった。

 

コーヒーをいれるなんて小さな仕事だけど結構嬉しかった。

 

いつもと違う私にハチさんが気づくことはなく、返事を聞いて僅かに口元が緩んだハチさんはケイタに言う。

 

 

「んじゃ俺は少し用があるから出てくるわ。」

 

「え?でも・・・・・・。」

 

「別に逃げやしねぇよ。・・・・・あとが怖いからな。明日の朝にはまたここにいる。」

 

 

レストランの入口を一瞥し、ハチさんはため息をつく。

 

とりあえず納得したケイタは頷いた。それを見たハチさんは風に煽られて揺れる扉を開け、レストランから出ていった。

 

私は外へ歩いていったハチさんがどこか早足に見えた。

 

 

「とりあえず俺達は今日はもう解散しよう・・・・・・今日はもう疲れた。今日と同じ時間にここ集合だ。」

 

 

少し投げやりなケイタの声で私達もレストランを出て宿に向かう。私は帰る途中さっきのコーヒーのレシピを思い出していた。

 

何も出来ない私からできるたった一つのお返し。失敗しないようにしなきゃ。明日の朝にはハチさんにタンクの特訓をつけてもらう。その時にいれようかな。

 

それにしてもハチさんはどんな用事があったのかな。こんな時間に・・・・・・。

 

 

無自覚にみんなをパニックに陥れた張本人を考えながら窓からの光に照らされる街道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。三十層の街には三つの流星が確認された。




読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。次は第十三話の投稿となります。頑張っていきたいと思います、

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