艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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提督と艦娘達で宴会です。
いやあ何もかも順調で、もっと艦娘と仲良くなっていけますね!











……と思うじゃん?


退廃の祝賀会

「これより、我が鎮守府初勝利と提督の着任を祝って祝賀会を始めたいと思います!」

 

 

 大淀の宣言に、食堂にいた全艦娘が沸き立った。

 

 提督は大淀の隣に立ち、少し居心地悪そうにしている。

 

 

「では提督、なにか一言お願いします!」

 

 

「う、うん……」

 

 

 大淀に促され、提督は一歩前に出た。

 

 大勢の艦娘の視線に晒されるが、パニックを起こすことはない。

 

 提督は着任初日と比べ、大分艦娘という存在に慣れてきたようだった。

 

 

「あ、えー、その、初勝利は、か、艦隊全員の健闘……」

 

 

「て、提督、取り敢えず乾杯の音頭だけで大丈夫ですからっ!」

 

 

 それでも、やはり多数の艦娘を前にすると不安定になるようで。

 

 口が回らなくなった提督を見かねて、大淀が助け舟を出した。

 

 

「う、じ、じゃあ……乾杯っ!!」

 

 

 提督の声に、艦娘達の乾杯が続いた。

 

 途端、食堂内は艦娘達の喧騒でごった返す。

 

 

「提督~っ! こっち座りなよ!」

 

 

「す、鈴谷……うん……」

 

 

 鈴谷が手を振っているのを見て、提督は彼女の隣に腰を下ろした。

 

 他の艦娘はそれを羨むと同時に、物怖じしない鈴谷に憧れる。

 

 そして、自分たちと同じ食事の席に提督が座ってくれたことを喜んだ。

 

 

「はい提督、かんぱ~い! えへへっ♪」

 

 

「か、乾杯」

 

 

 鈴谷によって酒の注がれたグラスを掲げ、乾杯をする提督。

 

 彼は酒を普通に飲む事が出来る為、快く受けた。

 

 

 提督は心底美味しそうに酒を煽る鈴谷を横目に、自身もグラスを傾け始めた。

 

 そして、あの初出撃が終わった時の事を思い出していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「提督、第一艦隊、並びに第二艦隊、帰投致しました!」

 

 

「み、皆っ……!」

 

 

 鎮守府湾内。

 

 帰投した艦娘達が次々と上陸していく。

 

 提督は司令部室から大淀と共に出迎えにやってきていた。

 

 

「……両艦隊とも、本当に素晴らしい活躍だった」

 

 

「本当に……本当に、素晴らしい戦いだったよ」

 

 

 艦娘達は提督に労われ、心の底から安堵した。

 

 無事に帰ってくることができたのだと、再認識したのだ。

 

 

「そ、そういえば長門が攻撃を受けたって……!」

 

 

「ああ、小破にすらならない掠り傷だ。心配は無用だ提督よ」

 

 

 長門は己の無事を示すかのように胸を叩いて見せた。

 

 元気そうな様子に提督はひとまず落ち着く。

 

 

「えっと、じゃあ全員補給を行って。長門は一応入渠を……」

 

 

「む、この程度なら入渠の必要も無いのだが……提督が言うのなら頂くか」

 

 

 提督の指示に従い、艦娘達はドックへ歩いていく。

 

 長門も、大した怪我を負っていない自分を気遣った提督を尊重し、入渠へ向かった。

 

 

「にっひひー♪ 提督ぅ?」

 

 

「え、ど、どうしたの鈴谷?」

 

 

 しかし、鈴谷だけは残って提督の傍に寄って行った。

 

 その顔は何かを企んでいるかのように笑っている。

 

 まるでいたずらっ子の様な、可愛らしい笑み。

 

 

「鈴谷から、ちょっと提案があるんだけど……」

 

 

「?」

 

 

「折角の初勝利だし、それに提督の歓迎会も出来てなかったじゃん? だから……」

 

 

「ああ、なるほど!」

 

 

 鈴谷の発言に、大淀も手を叩き得心いったようだった。

 

 提督も、少し遅れて鈴谷の言いたい事を察した。

 

 

「で、でも歓迎会なんて……悪いよ」

 

 

「この鎮守府で宴会したくない娘なんていないって! 皆喜ぶよ?」

 

 

「ええ、皆さん提督とご一緒したいと考えていますよ」

 

 

 提督は、自分の為にそんな大層な事をさせるのが申し訳ないと思った。

 

 しかし、鈴谷はそれを見越している。

 

 だから、艦隊初勝利の祝いと合わせて行おうとしているのだ。

 

 

「……じゃあ、やろうか。祝賀会」

 

 

「ほんと!? じゃあ早速今晩にでも」

 

 

「鈴谷さん、色々準備がありますから、明日まで待ちましょうね?」

 

 

 逸る気持ちを抑えられずに走っていってしまいそうな鈴谷を、大淀は諫めた。

 

 眼鏡の奥の眼光に、鈴谷は動きを止めざるを得なかった。

 

 

「それでは提督、私は皆さんにお伝えしてまいりますね」

 

 

「う、うん……お願い」

 

 

 言うと大淀は、鎮守府へ向かって一人歩き出していった。

 

 港に残されたのは、提督と鈴谷の二人きり。

 

 

「……提督っ! 私達もいこっか」

 

 

「うん……帰ろう」

 

 

 二人は、並んで歩いていく。

 

 提督は、艦娘と共に居る事に少しの慣れを感じながら。

 

 鈴谷は、提督と共に歩く事に少しの嬉しさを感じながら。

 

 

 夕日に照らされた二人の影は、真っ直ぐに伸びていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「榛名ぁ……まだ大丈夫です……うへへ」

 

 

「あんまり大丈夫そうじゃないデース! しっかりするネ榛名!」

 

 

 酒を楽しむ者。

 

 

「すいません加賀さん、そちらのお皿取って下さい」

 

 

「赤城……まだ食うんか……?」

 

 

 食を楽しむ者。

 

 

「そして、夕立の砲が敵の艦載機に炸裂したっぽい!」

 

 

「凄いわ! もっと聞かせてきかせて!」

 

 

 仲間との会話を楽しむ者。

 

 宴が始まり数時間、艦娘達は思い思いの楽しみ方をしていた。

 

 

 そして、鈴谷達は……。

 

 

「それにしたって、鈴谷の覚えの悪さには呆れましたわ」

 

 

「ちょ、もうその話はやめてよ熊野~!!」

 

 

 鈴谷は熊野の口を塞ごうとするが、他の艦娘に止められる。

 

 

「提督が言った作戦も忘れて、駆逐艦を追撃しようとするんですもの」

 

 

「ほほう、鈴谷、お主中々好戦的じゃのう?」

 

 

 初戦闘の際、鈴谷が敵駆逐艦を攻撃しようとしたときの事を語っていた。

 

 提督の作戦はごーやを機能させる為、無理に撃沈を狙わなくてもいいというものだった。

 

 利根はその話を聞き、からかうような視線を鈴谷に向けた。

 

 

「べ、別に戦闘狂じゃないし! あの時は……その」

 

 

「む? なんじゃ、何か理由でもあったのか?」

 

 

 口をつぐんでもじもじする鈴谷に、周囲の艦娘は関心を持つ。

 

 鈴谷はその視線に耐えきれなくなったのか、顔を赤くしながら白状した。

 

 

「て、提督に……いい所見せたかったんだもん……」

 

 

「あら、可愛らしい理由でしたわね」

 

 

 あまりに子供らしく、分かりやすい理由に艦娘達は笑った。

 

 当然、笑われている鈴谷はいい気がしない。

 

 

「う、うるさいしっ! この話は終わり! やめやめ!」

 

 

「あははっ、提督がいなくてよかったね鈴谷」

 

 

 笑う最上の言う通り、提督はつい先ほど食堂から退室していた。

 

 鈴谷達につられてかなりの量の酒を飲んだためか、トイレに行ったのだ。

 

 

「ふぅ……それにしも、提督は大分慣れてきましたわねぇ」

 

 

「そうじゃのう、酒の席であるが、吾輩達と会話できておるしの」

 

 

 提督は、かなりまともに鈴谷達と談笑できていた。

 

 言葉に詰まったり、どもったりはするものの、パニックには程遠い。

 

 笑顔も見せる様になり、艦娘達も提督との関わり方に慣れてきたようだった。

 

 

「ま、流石にまだ戦闘中みたいにはいかないかー」

 

 

「確かに、指揮中の提督はハキハキと喋ってらしたわね」

 

 

 鈴谷達は戦闘中の彼の指揮を思い出す。

 

 普段の彼からは想像できないほど、しっかりとした言葉使いだった。

 

 あの戦闘で、彼が若くして提督になれた理由が少しわかったのだった。

 

 

「ふむ、まぁ少しずつ慣れていくじゃろう。焦る事はない」

 

 

「姉さんの言う通りですね。これからも頑張りましょう」

 

 

 利根と筑摩の言う通り、少しずつ進んで行けばいいのだ。

 

 自分達が提督を信じる様に、いつか彼も自分達を信じてくれる。

 

 そんな想いで、彼女たちは今までやってきているのだ。

 

 

 そんな願いが少しでも形になった今回の出撃や祝賀会。

 

 喜び過ぎて羽目を外してしまうのも、無理はなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「う~ん……」

 

 

「ていとく~、大丈夫~? 飲みすぎちゃったんじゃない?」

 

 

「そう言う鈴谷こそ、だいぶ酔ってますわよ? 顔が真っ赤ですわ」

 

 

 提督が帰ってきてからさらに時間が経った。

 

 殆どの艦娘が酒に酔い、提督も例外ではない。

 

 苦し気ではないものの、目を閉じて俯いている。

 

 

「うう……なんで……なんでだよぉ……」

 

 

「ちょっと、提督本当に大丈夫?」

 

 

「……何やらうなされとるのぉ」

 

 

 提督は何かをぶつぶつと呟いている。

 

 泣き上戸ではないようだが、意識が朦朧としているらしい。

 

 

「うーん、もう休ませた方がいいんじゃないかな」

 

 

「そうですわね、ちょっと長門さんを呼んできますわ」

 

 

 提督を自室へ送る為に長門の力を借りに行こうと、熊野が席を立った。

 

 ちょうど、その時である。

 

 

「…………よかった……」

 

 

「え? 提督? どうしたの?」

 

 

 提督が、蚊の鳴くような声で、小さく呟いた。

 

 提督の隣にいる鈴谷は、つい聞き返してしまった。

 

 

 聞き返して、しまったのだ。

 

 

 

「艦娘なんて、いなければよかったんだ!!!」

 

 

 

「……え?」

 

 

 提督の、絶叫。

 

 水を打ったように静まり返る、艦娘達。

 

 突然のことに困惑する、鈴谷。

 

 

「うう……僕は……う……」

 

 

「て、ていとく……? い、今のって……」

 

 

 誰も、何も言わない。

 

 先程の騒ぎが嘘の様に、凍り付く食堂。

 

 そんな中、長門が提督の元へやってきた。

 

 

「……提督を自室へ送ってくる」

 

 

 長門はそれだけ言うと、提督を抱えて食堂から出ていった。

 

 残された艦娘達は、もう喧騒を取り戻すことはなく。

 

 その日の祝賀会は、まもなく解散された。

 

 

 




まぁ平和な世界がずっと続くわけないですよね。
提督と艦娘、みんな苦しむことになります。

それでもきっと、いつかは幸せになれますよ。


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