艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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鈴谷がメインヒロインみたいだぁ。



鈴谷と最初の一歩

艦娘達は、幾つかの決まり事を設けた。

 

 提督と接する上での、重要な規則。

 

 食堂で行われた臨時会議により、全艦娘がそれを認知する事になった。

 

 

「それじゃあ、過去の事は極力触れないように……」

 

 

「積極的になりすぎないように、ゆっくりで……」

 

 

 艦娘達は、傷ついた人間の慰め方など知らなかった。

 

 それでも、艦娘として持つ『心』が、自然とその方法を導き出していた。

 

 

 ……会議は1時間程度で終わり、皆納得して解散した。

 

 

「……それじゃあ鈴谷さん、お願いします」

 

 

「うん、鈴谷におまかせ! ってね」

 

 

 提督の元にいきなり大勢で押しかけるべきではないという意見から、

 最初は一人の艦娘が見舞いに行く、ということになった。

 

 そして、選出されたのは鈴谷だった。

 

 食堂での発言が決めてだったのか、反対する艦娘はいなかった。

 

 

 明石に案内され、医務室に入る鈴谷。

 

 奥のベッドで寝ている、提督に近づく。

 

 

 (提督……)

 

 

 ベッドの脇の椅子に腰かけ、鈴谷は提督の寝顔を見た。

 

 苦悶に歪められた眉に、彼の悲痛が見て取れる。

 

 端正でありながらどこか愛嬌のあるその顔が、トラウマにより歪んでいる。

 

 それが、鈴谷にはなにより哀しかった。

 

 

「……やっぱり、怖いなぁ」

 

 

 鈴谷はつぶやく。

 

 提督のあの反応から、彼が『艦娘』という存在にトラウマを抱いている事は明白。

 

 当然、この鎮守府の艦娘に対してもそれはある。

 

 目覚めた提督の目に映る、鈴谷という艦娘。

 

 自分自身の存在が、彼を傷つけてしまうのではないかと、鈴谷は思う。

 

 

 (……でも!)

 

 

 鈴谷には、覚悟があった。

 

 

 (やるしか、ないよね!)

 

 

 たとえどんなに拒絶されようと、彼女に諦めるという気は一切なかった。

 

 艦娘によって傷ついた彼は救うのは、また艦娘しかいないのだ。

 

 

「……う、う」

 

 

「!! 提督!」

 

 

 呻き声に反応し、提督の顔を見る。

 

 彼は苦しそうに身を捩り、ゆっくりとその目を開けた。

 

 

「ここは……僕は……」

 

 

「提督」

 

 

 鈴谷は、静かに声を発した。

 

 本心では、直ぐにでも彼の容態を聞きたかった。

 

 しかし、それを良しとしない鈴谷の思いやりが、己を抑えたのだ。

 

 

「っ!? か、艦娘様……!」

 

 

「……っ」

 

 

 途端に怯えだす提督を見て、鈴谷は唇を噛んだ。

 

 分かってはいたが、いざ再び目の当たりにすると辛いものがあったのだ。

 

 

「……提督はさ、鈴谷が怖い?」

 

 

「あ、え、あの……そんなことは」

 

 

 鈴谷はゆっくりと言葉を発していく。

 

 彼女の心は、とても落ち着いていた。

 

 

「提督の様子を見て、分かるよ。怖いんだよね、私たちが」

 

 

「め、滅相も御座いません!! そんな!」

 

 

 わかりやすく狼狽える提督の顔を、鈴谷はじっと見つめた。

 

 鈴谷は何もせず、そのまま動かない。

 

 

「今すぐ信じて、なんて言わないし、言えない」

 

 

「あ、艦娘、様?」

 

 

 鈴谷にまっすぐ見つめられ、提督は戸惑う。

 

 

「……ゆっくりでいいから、少しづつでいいから……」

 

 

「……っ!?」

 

 

 鈴谷は、ゆっくりと提督に手を伸ばした。

 

 それは相当に勇気のいる行動であったし、危険な行為だった。

 

 先程のように提督がパニックを起こす可能性もあったからだ。

 

 

 しかし、伸びた腕は、提督の毛布の上に置かれた手に触れる直前で止まった。

 

 

「鈴谷の手は、誰かを守る為にあるんだ」

 

 

「……」

 

 

 鈴谷は、自分から提督に触れる事をしなかった。

 

 

「……大丈夫だよ。何もしないから」

 

 

「あっ……」

 

 

 提督は、恐怖に染まりかけた思考の中で、鈴谷の思惑に気が付いた。

 

 彼女は、自分を気遣って、手に触れなかったのだ。

 

 彼女は、自分を助けたくて、手を伸ばしたのだ。

 

 

 そして、鈴谷の、今にも泣いてしまいそうな、そして優しい微笑みを見て。

 

 提督は、思わず鈴谷の手を取ったのだった。

 

 

「……提督」

 

 

「あ、あの……」

 

 

 鈴谷は、提督の手の感触を確かに感じた。

 

 両の手で、彼の震える右手を包み込むように触れる。

 

 自分より大きくて、そして恐怖に汗ばみ震える手。

 

 切なさに、鈴谷は胸が締め付けられるように思った。

 

 

「もう、大丈夫だから」

 

 

「……艦娘様」

 

 

 提督は、少しづつ落ち着きを取り戻し始めていた。

 

 それは、目の前にいる鈴谷が、自身が接してきたいかなる艦娘とも違っていたからかもしれない。

 

 そして、自身の手を包む彼女の手が、自分と同じように震えていたからかもしれなかった。

 

 

「……怖いなら、鈴谷が、此処の皆が、提督を守るから」

 

 

「……」

 

 

「だから、少しづつでいい。私達を見ててね提督」

 

 

 鈴谷は、笑顔で提督に顔を向けた。

 

 馬鹿にした物でも、愉悦に歪んだ物でもない。

 

 輝く様な笑顔を見て、提督は何かから少し解放されたような気がした。

 

 

「じゃあ、私行くね……」

 

 

「あ……」

 

 

 鈴谷は提督の手を離すと、椅子から立ち上がった。

 

 

「それじゃあ……」

 

 

「待ってください艦娘様!!」

 

 

 部屋から出ていこうとした鈴谷は、提督の大声でその動きを止めた。

 

 提督は、未だ怯えてはいるものの、しっかりと鈴谷は見つめている。

 

 

「提督?」

 

 

「あ、あの……っ! これから、宜しくお願いします!!」

 

 

 提督は、少しだけ前に進めたのかもしれない。

 

 はっきりとしたその言葉を聞き、鈴谷はそう感じた。

 

 鈴谷は嬉しそうに笑うと、彼に向き直り敬礼をした。

 

 

「よろしくねっ提督! あ、そうだ」

 

 

「は、ハイ?」

 

 

「艦娘様じゃなくて、鈴谷だよ、提督っ!!」

 

 

「あ、わ、わかりました……す、鈴谷」

 

 

 ……こうして、この鎮守府において初めて、提督が艦娘の名を呼ぶ事になったのだった。

 

 

 




回復したように見えますがまだまだです。
そう簡単にはいかないんですね。

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