艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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超ご都合主義謎マシーンは2次創作明石の特権。



記憶への対峙

 

「ねぇ提督、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 

 

「は、はい! 何なりとお聞きくださいませっ!」

 

 

 執務室に提督を連れ込み、椅子に座らせた3人。

 

 鎮守府に到着してから、彼の顔色は悪くなる一方だった。

 

 

「提督って……何でそんな話し方なの?」

 

 

「……あ、えと。……すいません」

 

 

 下を向き、謝罪の言葉を口にする提督。

 

 その肩は小さく震えていた。

 

 

 ますますこの状態に困惑する、3人の艦娘。

 

 しかし、なにか並々ならぬ事情があるようだと、流石に気付き始めた。

 

 ただの小心者、とは到底思えない。

 

 

「謝る必要はないんだ。ただ、理由を知りたい」

 

 

「司令官、その、何かあったんですか? 昔に……」

 

 

 吹雪の疑念は、3人が抱いていたものだった。

 

 例えば、いじめを受けた事があって卑屈になっているのかも、と。

 

 しかし……。

 

 

「あ、あ……昔……、う、う……!」

 

 

「て、提督!? どうしたの!?」

 

 

 提督は頭を抱え、身を縮めて震え始めた。

 

 呻き、苦しんでいる。

 

 

 心配した鈴谷が、彼に近づいた、その時だった。

 

 

「ひっ!? う、うわああああああああ!!?」

 

 

「提督っ!?」

 

 

 提督は叫び声をあげると、椅子から転げ落ちた。

 

 そして、3人を怯えた目で見ながら、壁まで後ずさる。

 

 

「御免なさいっ! 御免なさいっ!!」

 

 

「ちょ、マジでどうしたの!?」

 

 

 必死、その言葉が痛い程当てはまる姿だった。

 

 額を床に打ち当てながら、提督は繰り返す。

 

 

「許してくださいっ! すみませんでした! だからっ!」

 

 

「落ち着け提督! 私たちは何もしない!」

 

 

「司令官っ!!」

 

 

 頭から血を流し始めた彼を止めるべく、吹雪が駆け寄ろうとした。

 

 そして……。

 

 

「殺さないで下さいっ! 命だけは……! 助けて下さい!!」

 

 

 提督のその言葉で、3人の思考と、行動は停止した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……え? 提督? 今なんて……」

 

 

「それ以外だったら何でもしますから! だからっ……!!」

 

 

 呆然とする3人、提督は、まだ謝罪を繰り返している。

 

 否、それは謝罪ではなく、『命乞い』だった。

 

 

「爪も剥ぎます! 舌も焼きます! 骨も折ります! だから……!」

 

 

「だから……殺さないで……!」

 

 

 もう、限界だった。

 

 事情は呑み込めないが、目の前で提督が言っている事に、3人は耐えられなかった。 

 

 そして、動いたのは、一番提督に近い、鈴谷だった。

 

 

「っ!」

 

 

「ヒッ……!」

 

 

 鈴谷は、提督に手を伸ばした。

 

 それが、どんな意味があったのか、彼女自身にも解らない。

 

 止めたい、助けたい、複雑な感情が入り乱れ、手を伸ばした。

 

 それだけだった。

 

 

 そして、提督は意識を失った。

 

 恐怖心が限界を超えたのか、白目を剥き、うつ伏せで倒れた。

 

 

 ドサリ、という生々しい音に、3人の意識は覚醒した。

 

 

「……はっ! 提督!!」

 

 

 長門と吹雪が、提督に駆け寄る。

 

 鈴谷は無言で彼を抱き起した。

 

 

 割れた額からは血が流れ、そして目尻からは涙がこぼれ落ちている。

 

 

「……長門さん」

 

 

「……ああ」

 

 

 鈴谷は提督を抱きかかえたまま、立ち上がった。

 

 艦娘である彼女には、造作も無いことだった。

 

 

 長門、吹雪は執務室の扉を開け、先に出た。

 

 そして、鈴谷が退出した。

 

 

 誰も、何も言わなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……以上が先程の出来事だ」

 

 

 食堂。

 

 長門は、包み隠さず、真実を皆に伝えた。

 

 そうするべきだと思ったし、自身の力ではどうにもできないと思ったからでもあった。

 

 そして、当然の様にざわつき始める艦娘達。

 

 

「司令官様は!? 司令官様はどうなったんですか?」

 

 

「提督は今治療室に居ます。明石さんが診てくれています……」

 

 

 力なく吹雪が答える。

 

 

 そして、疑問が沸き起こる。

 

 

「……何で提督がそうなったか、分かるか?」

 

 

「私達の態度は……関係ないわよねぇ~……」

 

 

「過去の出来事、としか考えられないでしょうね」

 

 

「で、でも、そんな状態になるって、いったい何があったのね!?」

 

 

 皆、思い思いの疑問を、仲間と話し合う。

 

 しかし、答えが出るはずも無い。

 

 時間だけが過ぎていく。

 

 

「……ひとつだけ言える、確かなことがあるよ」

 

 

 鈴谷の一言。

 

 それに、食堂内は一気に静まり返った。

 

 

「提督は、『命乞いをするほど』かつて酷い目にあった、って事」

 

 

「……」

 

 

 それを聞いて、皆押し黙る。

 

 艦娘とは、人間を守る為の存在である。

 

 かつて、海上において、国の為、人の為に戦った艦艇の魂である。

 

 

 人間の命乞い。

 

 それは、艦娘である彼女たちが最も聞きたくない言葉だった。

 

 

「……皆さん」

 

 

「っ、明石さん!?」

 

 

 食堂入り口から顔を覗かせた、工作艦明石。

 

 その表情は優れない。

 

 

「提督、提督は!?」

 

 

「説明します……」

 

 

 明石は、長門の隣になって、説明を始めた。

 

 

「額の怪我は軽い物です。精神的に参って、それで気絶してしまったようです」

 

 

「ですから、すぐに目を覚ますでしょう。そして……」

 

 

 皆、分かっている。

 

 問題は額の怪我ではないということを。

 

 彼の心にあるであろう傷の事が、知りたいのだ。

 

 

「明石。アレを使ったのか……?」

 

 

「……はい」

 

 

 アレ。

 

 この一言で、皆が息を飲んだ。

 

 

「記憶閲覧装置は、問題なく作動しました」

 

 

 記憶閲覧装置。

 

 この世に艦娘を顕現させるにあたって使用される、特殊な機械である。

 

 艦娘とは艦艇の魂であり、記憶その物だ。

 

 船の記憶を読み取り、それにより魂を呼び出す。

 

 妖精さんと人間の技術が生み出した、唯一の『艦娘の建造方法』だった。

 

 

 そして、それは人間にも使用できる。

 

 膨大な記憶の中で、より鮮明かつ強力な物を読み取る。

 

 明石は、意識を失っている提督に対して、それを使ったのだ。

 

 

 皆、知りたかった。

 

 そこまで彼を追い詰めたものの正体を。

 

 それを知って、初めて、彼はここに着任できるのだと。

 

 『問題』を取り除いて、歓迎会を行えるのだと。

 

 誰もが、そう思った。

 

 

 ゆっくりと、時間を掛けて。

 

 出来る事ならそうしたいとも、皆考えた。

 

 しかし、事態は重い。

 

 提督が自傷しかねないと判断した、明石の行為を、

 

 咎める艦娘は誰も居なかった。

 

 

「……明石」

 

 

「はい、映し出します」

 

 

 映写機の様な、変わった機械。

 

 それから生み出した光線は、食堂の壁に映像を映した。

 

 

 提督の、記憶。

 

 皆、食い入るようにそれを見つめ始めた。

 

 

 

 地獄巡りの覚悟は、皆出来ていた。

 

 




提督の過去は一体どんなものでしょうか。

このお話はご都合主義と優しい世界で出来ております。

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