ノーソウル,ノーギフト   作:麻戸産チェーザレぬこ

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双葉落葉?

 純粋無垢な、真っ白な世界。そこに口をだらしなく半開きにしてウロウロする少年がいる。

 しばらく歩いていたけれど誰も来ないので寝転ぼうとしたら、上半身はマントだけを羽織り、ダボダボなズボンを履いた少年が目の前に顕れる。顕れたのではなく、しまりがない少年の近くにずっといたのである。

 驚くべきことに二人の少年は瓜二つ。見分けるとすれば髪が長いか雰囲気がユルいかどうかである。しかしこれらで見分けるのは至難のワザである。()の彼らは。

 マント少年がユルい少年に何かを言えばユルい少年が――うぇっへっへ、とツッコみをいれる。

 

「オイラが、異世界へ転生? おまえ、なにいってんよ。面白くない冗談だなハオにいちゃん」

「面白くない反応だな、(よう)

「うぇっへっへっへ、返されちまったな~」

「この手紙、おまえ宛でな」

 

 ハオと呼ばれた少年は小鬼を使って葉の手にのせる。ああそうだ、とハオがいう前に葉は封を開けてしまいここからいなくなってしまった。驚く声もあげずにだった。

 

「まったく、かわいいヤツめ。いずれ僕も向かうよ」

 

 コミューンには誰もいない。

 

 

 

 

 四人と一匹は上空四〇〇〇mから落下中であった。

 

「おおおお! すげええけしきがいいぞおお~~」

「ヤハハ! お前もそう思うか!! みろやあのでっけえ滝!」

「あ、貴方たちよく平気ね!?」

「そりゃあそうだッ――あのクソつまんねええ世界にここまでのモンは無かったからなあッ。つか比べるまでもねえや! おまえもその口だろ!」

「否定はしないわ! あとお前って止めなさい!」

「オジョーサマ!」

「及第点よッ」

『ぎにゃあああ!! お、お嬢おおお!!』

「だいじょうぶ」

 

 毛を逆立てる三毛猫を、声に抑揚がないのだけれども額に汗がでている少女が抱きしめる。

 

「……このまま落ちたら池ぽちゃ? だなぁ。どうする」

「どうするって貴方なんかないの! あと池ぽちゃじゃないわ! 湖ぼぢゃあああんよ!」

「見た目に反して品が無いぞオジョーサマ」

 

 オジョーサマと呼ばれ白のシャツを着用する少女がしまらない葉に発破をかける。そしてその言葉のあと、学ランを着る見た目不良な少年も葉に鋭利な視線を向ける。

 

「しょうがねえ。よおし――あんたさんらオイラの後ろ離れんなよ」

 

 葉にうなずく三人と一匹。

 葉は腰にぶら下がるエモノたちに手を置いた。

 

「じゃあいくぞ? 阿弥陀丸(あみだまる)O(オーバー)S(ソウル)IN(イン)春雨(はるさめ)、INフツノミタマノツルギ」

 

 葉はにいっと微笑んだ。

 

「スピリット・オブ・ソード」

 

 春雨という銘の日本刀とフツノミタマノツルギという小さな剣が重なりあう。

 それだけで、何も起こらない。

 

「こりゃまいったなあ。阿弥陀丸の名前よべばなんとかなると思ったがなんともならなかったみたいだ。すまん」

「出来ないなら出来ないって――――」

「あーやっちまったぜこの野郎が……全員仲良くずぶ濡れコース決定だな」

「ず、ずぶ濡れってこんな高さから落ちたら――」

「薄い膜、ある」

「お前も見えんのか?」

「うん」

「なぁんだ、じゃあオイラがやったことは無駄じゃないな」

 

 いや、お前ただバカしただけでなんもしてないからな、三人と一匹の心が一つになった。

 

「でもよ~、これはこれでいい思い出だぞ? よっかた、よかった」

「そうね。こんな体験はエキゾチックかもしれない」

「右に同じくだクソッタレ!」

「……濡れるね、ミケ猫」

『嫌だああああ』

 

――――って!

 気が強そうなオジョーサマがワナワナ震える。

 

「なわけあるか!」

「ぬご!?」

 

 葉は頭にツッコミを入れられ誰よりも早くダイブする。

 

「ええ~あんまりじゃねぇか?」

 

 と言いながらも風に任せていた。浴びたことがない新鮮な、異世界の風を浴びるのに葉は温泉に入った時のような、力が抜ける感覚を感じている。

 

「んじゃあ――一番湖ならぬ一番風呂! 浸かるぞーー!!」

 

 葉たちは湖に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

「何なのですかあのおバカ様、こほん。人類最高クラスのギフト所持者様方は……。あれ? 黒ウサギの目には四人が映っているでございますよ!? し、白夜叉様これは一体どういうことでございますか……」

 

 今ここにはいない彼女の恩人の名を言い、顔を暗くさせる。

 先ほど言った所持者が三人がこちらの世界〝箱庭〟へ召還される手筈であったが、四人ときてしまう。

 

「イレギュラーが起こるとしても、もう少し〝こちらのコミュニティ〟がマシであれば…………」

 

 〝月のウサギ〟のくせにツイていない。

 これは一体どんな皮肉なのか、答えてくれる者は〝箱庭〟であったとしてもいないだろう。

 それでもと首を横に振り、気を落ち着かせた黒ウサギは眼に、静かな炎を灯す。

 しかし、本当にツイていないと結論付けるには、光が一億年かけて到達するような膨大な時間を有するのではなかろうか。

 

 本来の星々の伝承とは違う、子守歌のように親しみを持たれ次の世代へと継がれるお話が、これより、語られてゆく。

 

 

 

 


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