俺の好きな神プロのキャラが活躍する小説を書きたかっただけ。 作:いでんし
実の所、話の流れはある程度固めています。なんなら次の章まで。
筆が乗らないだけなのです。
「──────────!」
キメラの咆哮が響き渡る。
目の前を飛び回る少女を追いかけ続けるその姿は、まさに本能のままに駆ける獣。
広い林道では逃げられない。エリゴスは森へ逃げ込んだ。巨大な体躯では狭い森の中を通ることはできないと判断しての行動だった。
しかし、
「──────────!」
キメラは大きく吠えると、森へ突っ込んだ。
奴はなんと森を形成する木々を体当たりのみでなぎ倒し、エリゴスへ向けて一直線に駆けだしたのだ。
「──!」
たまらずエリゴスは森の奥へ逃げる。木々をなぎ倒す突進を食らえばひとたまりもない。
幸いながら、何もない林道を走っていた時と比べれば、木が邪魔をする分スピードは落ちている。これなら、逃げ切れる。
だが、脅威はこれだけではない。
「逃げ切れると……思うなァ!」
あらゆる生命を奪う毒液が滴る鎌が、エリゴスを切り裂かんと弧を描く。
エリゴスは背中の翼に魔力を集中、ブーストをかけて回避した。
が、即座に急ブレーキをかける。直後、眼前に3本の矢が通った。
直前で矢を回避され、弓使いは冷や汗を流す。
(なんだあいつは……メムの攻撃も、私の矢も避けている……まるで未来を見ているかのように……)
弓使いの矢は当たらず、鎌使いの少女の攻撃も避けている。盾使いのおかげで防御は問題ないが、このままではジリ貧になる。
矢で気を逸らし、盾で反撃を防ぎ、鎌で仕留める。このチームの強みが全く生きていない。
結局のところ、親衛隊の決め手はキメラに頼ることになりそうだ。
──────────
エレミア親衛隊の構成員の多くは、親を失った少女だ。
仲間からはメムと呼ばれる鎌使いの少女も、その1人である。
彼女は元々、農耕を営む家に生を受けた、ただの村娘であった。
その暮らしはとても幸せなものだった。優しい両親に、甘えん坊だったが彼女をよく慕ってくれた2人の弟。
村の人々も、彼女に優しく接してくれた。まさしく、彼女の人生の絶頂期と言えるだろう。
しかし、その幸せは、1人の狂った神姫によって打ち砕かれてしまう。
近くの遺跡か何かから復活したのか、それとも別の地域から流れてきたのかは定かではないが、ある日の夜、それは突如現れた。
神姫は村に入った途端、目に入った村人を虐殺し始めたのだ。
少女の弟の1人は、彼女の目の前で首を飛ばされた。
もう1人の弟を連れて家まで逃げたが、神姫は家まで追いかけてきた。
少女は床下収納へ、弟は物置に隠れた。
直後、両親の絶叫が響いた。数分経って、弟の泣き声も聞こえた。
少女はただ、恐怖に怯えて震えるしかなかった。
夜が明けて、ゼスト教の教会騎士が少女を見つけだした。
家はひどい有様だった。父は背中をざっくりと切られ、母は頭を潰されていた。
弟に至っては全身を潰されていた。床には血塗れのハンマーが転がっていた。何度も、何度も、徹底的に叩いたのだろう。少女が見つからなかったストレスをぶつけたのだろうか。
生存者は10人にも満たなかった。
少女は絶望した。幸せな日々が、たった1人の狂人の手によって壊されたのだ。
数日経って、狂った神姫はエレミアによって討伐されたという情報が入った。
しかし、少女の絶望は無くならなかった。神姫を殺しても、殺された家族は、村のみんなはもう戻ってこないのだから。
やがて彼女は知ることになる。ラグナロクに備えて、神姫が各地で目覚めていることに。
それを聞いた彼女は、ゼスト教の教会騎士に志願した。
神姫によって人生を狂わされることなどあってはならない。この手で、全ての神姫を殺してみせる。それが家族の仇討ちとなる。
その信念をもって入隊した少女は、やがてエレミア親衛隊の一員に数えられることになる。
──────────
鎌使いは、キメラと並行してエリゴスを追いかける。かなり森の奥に入ってきたようで、辺りは木々で暗くなっていた。
すると、突如エリゴスが大木に槍を突き刺す。
エリゴスの魔力を送られた木は爆発し、幹が鎌使いに向かって飛んでくる。
「うわっ!?」
なんとか回避したが、足を止めたことでエリゴスを見失った。
幸いながらキメラがなぎ倒す木が目印になって、追いかけるのは容易い。
しかし、事態は変わる。
空中から雨のように怪光線が降り注いだのだ。
地に落ちた怪光線は爆発を起こし、視界が悪くなる。
(何の真似だ?)
その答えはすぐにやってくる。
視界が悪くなった隙をついて、エリゴスが突撃してきたのだ。
しかし、槍の一撃は鎌によって難なく受け止められる。
「不意打ちのつもりか?」
受け止められるのは予想外だったのか、エリゴスの動きが止まる。
鎌使いは、それを見逃さなかった。
鎌が弧を描く。
「……かはっ」
鎌の一撃は、エリゴスの腹部をかっ裂いていた。
腹と口から血を流し、腹を抱えてその場にうずくまるエリゴス。
「痛いのか? ……みんなの受けた痛みはこんなものじゃない!!」
村の住民とエリゴスを混同して、鎌使いは叫ぶ。
途切れそうな意識の中で、エリゴスは訳もわからず困惑する。
そんなことを意に介さず、鎌使いはトドメを刺そうと鎌を振りかぶった。
エリゴスは避けようとしたが、腹部の傷と毒が動きを鈍らせ……
エリゴスの首が、切り落とされた。
頭部は宙を舞って地面に落ち、司令塔を失った胴体は力なく倒れ込んだ。
そして、鎌に仕込まれた毒液によって即座に腐敗を始めた。
「やった……やった! 神姫を殺せた!」
歓喜のあまり、鎌使いは震える。
家族を殺した神姫を、圧倒的な力を持つ神姫を、自分の手で殺すことができた。
勝てる。力の劣る人間でも、神姫に勝てる!
「やった……やった……お父さん……お母さん……!」
少女は歓喜の涙を流す。
あの時の、家族が殺されるのを見ているだけだった自分はもういない。
エレミア親衛隊として、家族を奪われた復讐者として、自分は生まれ変わったのだ!
いずれは、家族を殺したあの神姫も……!
「メム! メム!」
声が聞こえる。リーダーの声だ。
「リーダー! 見てください! 神姫を殺しましたよ!」
「見るのはお前だ!
「…………え?」
他に伏せるエリゴスの死体を見る。
そこに転がっていたのは、首を失い、毒で変色・腐敗したキメラの姿があった。
「なっ!?」
鎌使いは動揺を隠せなかった。首を飛ばした手応えはあったはずだ。
いや、その手応えこそ、このキメラのものだったのだろう。
しかし、彼女がそれを理解することはなかった。
「危ない!」
突如、鎌使いを守るように盾使いが現れる。
猛スピードで突撃したエリゴスの槍は、盾に突き刺さった。
「逃げて! 私が食い止めるから!」
盾使いは、鎌使いを逃がそうとする。
しかし、殺したと思っていたエリゴスが生きていたことに混乱する鎌使いに、それを考える余裕は無かった。
そして、盾に刺さったエリゴスの槍は、盾の魔力を司る核を捉えていた。
「なんだこれは……奴の魔力が流し込まれて……!」
エリゴスの魔力が混じって、盾の魔力を制御できなくなる。
やがて、魔力炉に収まらない魔力が送り込まれて……
「ナイトメアスピア」
盾が、大爆発を起こした。
爆発の威力は凄まじく、盾使いを吹き飛ばした。
鎌使いにダメージは無かったが、自分を守ることは出来なかった。
顔の皮膚が吹き飛んだ盾使いを見て、鎌使いはわなわなと震えだした。歓喜の震えではない。どす黒い、怒りから来るものだった。
「よくも……よくも!! 貴様ら神姫は私から! 家族だけじゃなく!! 仲間まで奪うのか!!!」
激昂した鎌使いは、絶叫しながらエリゴスに突撃する。
怒りのままに向かってくる少女。しかし、そんな相手など、エリゴスの敵ではなかった。
鎌使いの頭上から怪光線が降り注ぐ。エリゴスしか見えていなかった少女は、それを回避することができなかった。
「神姫…………殺……」
目に大粒の涙とエリゴスへの殺意を浮かべたまま、少女は倒れ込んだ。
残った親衛隊は、1人。
弓使いの矢は、エリゴスに当たらない。エリゴスは、逃げる弓使いに追いつける。
結果は、わかり切ったことだった。
弓使いは弓を捨て、降参の意を示す。
「結局、かすり傷すらつけられなかったな」
「そんなのはいい。マスターがどこに行ったか、教えて」
「知らん。貴様らの分断は他に任せてあるからな」
「そう」
エリゴスは興味を失い、その場から立ち去ろうとする。
弓使いはそれを制止した。
「待て。ひとつだけ聞きたい」
「……何?」
「メムに……鎌使いに何をした? 何故あいつは合成獣を殺したんだ?」
「……別に。魔法で幻覚をかけて、アレを私だと思わせただけ」
「……簡単に言ってくれるな」
「……あの2人はまだ生きてると思うから、早くした方がいい。……さよなら。私はマスターを探しに行くから」
今度こそ、エリゴスは立ち去った。
残された弓使いは、近くの木を殴りつけ、悪態をついた。
「……化け物が」
鎌使いの子、ジャンプの連載がコミックス2巻くらいしか続かない漫画の主人公みたいになりました。
虐殺を行った神姫は、当然エリゴスちゃんではありません。
エレミアによって殺されています。
死者蘇生とかもないです。
アスクレピオスが難儀するぐらい、神姫世界でのそれは難しいことらしいですから。