赤い瞳と赤い弓兵   作:夢泉

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一章六話~英霊~

「話の途中だったよね。」

 

「あぁ、私が何者かという話しか。」

 

「傷だらけだった。お父さんの体。」

 

「見てしまったのか。」

 

「ごめんなさい。勝手に見て。」

 

「いや、別に構わんよ。それに、私を看病してくれていたのだろう?」

 

「うん、」

 

「ならば、不可抗力だ。怒りなどしない。」

 

「話してくれる?」

 

「仕方あるまい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は一度死んでいるんだ。」

 

「ほえっ???

 

 じゃあ、、、、お化け?」

 

「お化け、とはまた違うのだが、、、。」

 ふむ、どう説明するべきか。やはり、この話は難しいだろうしな。

 はじめは適当にこの世界における"エミヤ シロウ"なる架空の人物を創ろうかと思ったが………………。

 いずれ嘘はばれるだろう。この子は聡明だ。さらに彼女はその境遇から偽りの優しさには敏感だろうし、毛嫌いするだろう。どんなに演技をしてもいずれ気づく。彼女が私との関係に偽りを見出だしたとき、彼女はまた孤独に苦しむ。それだけはあってはならない。

 ……それに、私自身、彼女に嫌われたくはない。ふっ、私も随分と丸くなったものだ。

 加えて、これから聖杯戦争がらみで何か起こる可能性もある。せめて、英霊とマスターについてぐらいは知っておいても損はないだろう。

 

「英雄、という言葉を知っているか?」

 

「…………知らないです。」

 

 駄目か。それも仕方があるまい。彼女は8歳でしかないし、学校にも行けていない。どうしたものか。

 そういえばここは英国。だめもとで彼女の知名度に頼ってみよう。

 

「アーサー王を知っているか?」

 

「知っています!」

 

 いや流石だ。やはり彼女は凄い。

「どこで知ったのだ?」

 

「紙芝居でやってるのとか、劇場でやってるのとかを聞いてたの。」

 

「なるほど。知っているなら話ははやい。

 アーサー王は英雄だ。…………アーサー王の物語を聞いてどう思った?」

 

「凄いなって、カッコいいなって思いました。」

 

「実に的を射ている。英雄とは他の誰にもできない凄いことをした者たちのことだ。

 英霊とはその死後の姿を言う。」

 

「死んじゃったらそれで終わりじゃないの?」

 

「もちろん死んだら普通は終わりだ。普通は、な、、、。」

 

「どういうこと?」

 

「英雄はカッコいいといったな。そう、カッコいい。だから死後も彼らは語り継がれる。英雄譚や神話の登場人物として。人は、彼等のカッコいい姿、生き方、功績に憧れるのだ。

 そして、その憧れが、思いが形となって英雄を再現したもの。それが英霊だ。

 お化けとは全く違うのだが、……もしその認識がしっくり来るならそれでも構わんよ。」

(こんなこといったら他の英霊に怒られるだろうか?しかし仕方があるまい。彼女は幼いのだから。)

 

「お化け、英霊……。」

 

「恐いか?」

 

「全っ、然!!」

 

 ぶつぶつと呟くライブに尋ねると、ライブはとても大きな声で、力強く否定した。そして、捲し立てるように続けた。

 

「お父さんが半分怪物(呪われた子供たち)である私を人間って言ってくれたように、英霊だろうがお化けだろうがあなたは私の頼れる正義の味方で私の優しいお父さんなんだから!!」

 

「っ!、そうか。」

 

「うん!」

 

「………話を戻そう。ライブはマスターと呼ばれる存在なのだ。マスターとは英霊を召喚して使役するものの事だ。マスターには魔術師がなる。」

 

「魔術師?………私もそうなの?」

 

「あぁそうだ。ライブは全くの偶然だったが、通常マスター達は聖杯を手に入れるために英霊を呼ぶ。」

 

「聖杯?」

 

「聖杯とは、万能の願望機といってどんな願いでも叶える道具だ・・・・」

 

 それからお父さんは聖杯戦争について語り始めた。七人のマスターが英霊(サーヴァント)を用いて戦う聖杯戦争。正直8歳の私にはちんぷんかんぷんだった。でも、それが夢に満ちたものではなくて、恐ろしいものであることだけはわかった。

 

「これからそれが始まるの?」

 

「わからない。しかし、今のところは始まりそうもないと言っておこう。」

 

「よかったぁ。」

 そんな恐ろしいものには絶対巻き込まれたくない。それに、私の願い(ふつうのくらし)はこれから私が叶えていくものだから。

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんも英霊なんだよね?一体どんな凄いことをしたの?」

 

「………私は彼らとは少し違うのだ。私は正当な英霊ではない。彼らとは比べるのもおこがましい存在だよ……………。」

 

 お父さんは窓の外を見つめてそういった。その姿はとても弱々しくて、どこか悲しげであった。そこに先程までの頼もしさは無く、触れれば壊れてしまいそうだ、とライブは思った。

「嫌ならいいよ!はなさくても!」

 

「すまない、話したくないわけではないのだが…………………。この話はまだライブにははやい。君がもう少し大人になったら話そう。」

 

「本当?」

 

「あぁ。」

 

「約束だよ!」

 

「約束だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁあぁぁ」

 

 大きく欠伸をするライブ。

 

「ふっ、さて、もう遅いから寝ろ。」

 

「うん、、ふわぁあぁぁ、、、おやすみ、なさい。」

 布団に入って目をつむる。沈み行く意識のなかで私はある一つの決意をした………。

 

 

 

 

 

 




 英語で「英雄」は"Hero"だから、「正義の味方」をテレビで見て、憧れていたライブは、Heroの単語を知っていたとは思いますが、どうしてもセイバーの話を出したかったので、この話のイギリスでは、「英雄」と「ヒーロー」は別の言葉としました。ご都合主義です。すみませんでした。

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