「話の途中だったよね。」
「あぁ、私が何者かという話しか。」
「傷だらけだった。お父さんの体。」
「見てしまったのか。」
「ごめんなさい。勝手に見て。」
「いや、別に構わんよ。それに、私を看病してくれていたのだろう?」
「うん、」
「ならば、不可抗力だ。怒りなどしない。」
「話してくれる?」
「仕方あるまい。」
「私は一度死んでいるんだ。」
「ほえっ???
じゃあ、、、、お化け?」
「お化け、とはまた違うのだが、、、。」
ふむ、どう説明するべきか。やはり、この話は難しいだろうしな。
はじめは適当にこの世界における"エミヤ シロウ"なる架空の人物を創ろうかと思ったが………………。
いずれ嘘はばれるだろう。この子は聡明だ。さらに彼女はその境遇から偽りの優しさには敏感だろうし、毛嫌いするだろう。どんなに演技をしてもいずれ気づく。彼女が私との関係に偽りを見出だしたとき、彼女はまた孤独に苦しむ。それだけはあってはならない。
……それに、私自身、彼女に嫌われたくはない。ふっ、私も随分と丸くなったものだ。
加えて、これから聖杯戦争がらみで何か起こる可能性もある。せめて、英霊とマスターについてぐらいは知っておいても損はないだろう。
「英雄、という言葉を知っているか?」
「…………知らないです。」
駄目か。それも仕方があるまい。彼女は8歳でしかないし、学校にも行けていない。どうしたものか。
そういえばここは英国。だめもとで彼女の知名度に頼ってみよう。
「アーサー王を知っているか?」
「知っています!」
いや流石だ。やはり彼女は凄い。
「どこで知ったのだ?」
「紙芝居でやってるのとか、劇場でやってるのとかを聞いてたの。」
「なるほど。知っているなら話ははやい。
アーサー王は英雄だ。…………アーサー王の物語を聞いてどう思った?」
「凄いなって、カッコいいなって思いました。」
「実に的を射ている。英雄とは他の誰にもできない凄いことをした者たちのことだ。
英霊とはその死後の姿を言う。」
「死んじゃったらそれで終わりじゃないの?」
「もちろん死んだら普通は終わりだ。普通は、な、、、。」
「どういうこと?」
「英雄はカッコいいといったな。そう、カッコいい。だから死後も彼らは語り継がれる。英雄譚や神話の登場人物として。人は、彼等のカッコいい姿、生き方、功績に憧れるのだ。
そして、その憧れが、思いが形となって英雄を再現したもの。それが英霊だ。
お化けとは全く違うのだが、……もしその認識がしっくり来るならそれでも構わんよ。」
(こんなこといったら他の英霊に怒られるだろうか?しかし仕方があるまい。彼女は幼いのだから。)
「お化け、英霊……。」
「恐いか?」
「全っ、然!!」
ぶつぶつと呟くライブに尋ねると、ライブはとても大きな声で、力強く否定した。そして、捲し立てるように続けた。
「お父さんが
「っ!、そうか。」
「うん!」
「………話を戻そう。ライブはマスターと呼ばれる存在なのだ。マスターとは英霊を召喚して使役するものの事だ。マスターには魔術師がなる。」
「魔術師?………私もそうなの?」
「あぁそうだ。ライブは全くの偶然だったが、通常マスター達は聖杯を手に入れるために英霊を呼ぶ。」
「聖杯?」
「聖杯とは、万能の願望機といってどんな願いでも叶える道具だ・・・・」
それからお父さんは聖杯戦争について語り始めた。七人のマスターが
「これからそれが始まるの?」
「わからない。しかし、今のところは始まりそうもないと言っておこう。」
「よかったぁ。」
そんな恐ろしいものには絶対巻き込まれたくない。それに、私の
「お父さんも英霊なんだよね?一体どんな凄いことをしたの?」
「………私は彼らとは少し違うのだ。私は正当な英霊ではない。彼らとは比べるのもおこがましい存在だよ……………。」
お父さんは窓の外を見つめてそういった。その姿はとても弱々しくて、どこか悲しげであった。そこに先程までの頼もしさは無く、触れれば壊れてしまいそうだ、とライブは思った。
「嫌ならいいよ!はなさくても!」
「すまない、話したくないわけではないのだが…………………。この話はまだライブにははやい。君がもう少し大人になったら話そう。」
「本当?」
「あぁ。」
「約束だよ!」
「約束だ。」
「ふわぁあぁぁ」
大きく欠伸をするライブ。
「ふっ、さて、もう遅いから寝ろ。」
「うん、、ふわぁあぁぁ、、、おやすみ、なさい。」
布団に入って目をつむる。沈み行く意識のなかで私はある一つの決意をした………。
英語で「英雄」は"Hero"だから、「正義の味方」をテレビで見て、憧れていたライブは、Heroの単語を知っていたとは思いますが、どうしてもセイバーの話を出したかったので、この話のイギリスでは、「英雄」と「ヒーロー」は別の言葉としました。ご都合主義です。すみませんでした。