赤い瞳と赤い弓兵   作:夢泉

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一章四話~誰かを護るために~

『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!』

 

 大地を揺るがす、すさまじい音が鳴り響いた。私は蹴破るようにドアを開け、急いで家の外に出る。

 

「っ!」

 

 水平線上に不自然な黒い物体が見える。鷹の目を凝らせばその全貌を理解する事が出来た。

 

「あれがゾディアック、キャンサーか、」

 

 体長は1㎞はあろうか。元は亀だったと思われ、巨大な漆黒の甲羅を繕っている。甲羅には大きめのビルほどの営利な棘がいくつも生え、棘と棘の間には赤く大きな目玉が敷き詰められている。前足は巨大な、それこそ体長の半分はあるだろう蟹のハサミとなり、尾は異様に太く長い。

 キャンサーは凄まじい勢いで迫ってくる。未だ距離はあれど、この分なら、1、2分ほどで上陸するだろう。  

 私はあの青タイツやアサシンのような戦闘狂ではない。英霊とはいえ、恐怖はある。普段の私なら早々に撤退の選択をするだろう。

 しかし、私の後ろには守ると決めた少女がいる。彼女の前では格好良い正義の味方でいようと決めたのだ。

 ならば、逃げることは許されない。

 

「耳を塞いでおけ、ライブ」

「ーーーーI am the bone of my sword.」

 

 体は剣で出来ている。使いなれた詠唱。私の人生を象徴する詠唱。私の理想の行き着いたところであり、私の間違いの証明。されど、

 

 弓と剣を投影する。

 

 この言葉は、正義の味方の体現。

 

 構えるは黒き弓。つがえるは捻れた剣。放つは空間を削り取る一撃。その真名はーーーー

 

 子供の頃憧れた、正義の味方にはなれなかった。全てを救う正義の味方にはなれなかった。

 されどッ!

 私は彼女のための正義の味方となる!

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!!!」

 

 紅き閃光が海上を突き進む。一瞬で、キャンサーに到達した閃光は、

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!!!」

 

 着弾と同時の爆発ーーーー

 

 

 

 

『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン』

 閃光が飛び散り、数秒遅れて凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が晴れる。

 

「!」

 

 キャンサーは右半身が抉れ、右前足のハサミがとれているがそれだけだ。もとより、一撃で沈められるとは思っていなかったが、多少足止めをすることくらいできると思っていた。しかし、全くスピードは衰えていない。

 上陸されてしまえば勝ち目はない。破壊面積が大きく、再生が間に合っていないのが唯一の救いか。「偽・螺旋剣」を何度も投影するのはきついだろうが、連発して跡形もなく消し去るしか勝ち目はない。

 

「I am the bone of my sword. 」

 

 一切の無駄なく打ち続ける。流れるように。決められた動作だけを繰り返す。

 

 二撃目、三撃目、四撃目、五、六、七・・・

 

 視界が赤く紅く染まる。未だ奴は消滅していない。姿こそ赤い光に包まれて見えないが気配でわかる。

 

 だが、姿が見えないだけだ。そんな障害、造作もない。私は英霊。アーチャーのクラスを与えられし、弓の英雄。この程度の障害、生前に幾度も乗り越えた。

 

 

 

 

 

 

 

「I am the bone of my sword. 」

 幾度目かの投影。体が悲鳴をあげている。魔術回路が焼き切れそうだ。しかし、やめるわけにはいかない。おそらく、これで最後だ。

 

 限界まで魔力を振り絞り、放つ!

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん!!」

 

 キャンサーは消滅したようだ。それだけ確認して私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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