『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!』
大地を揺るがす、すさまじい音が鳴り響いた。私は蹴破るようにドアを開け、急いで家の外に出る。
「っ!」
水平線上に不自然な黒い物体が見える。鷹の目を凝らせばその全貌を理解する事が出来た。
「あれがゾディアック、キャンサーか、」
体長は1㎞はあろうか。元は亀だったと思われ、巨大な漆黒の甲羅を繕っている。甲羅には大きめのビルほどの営利な棘がいくつも生え、棘と棘の間には赤く大きな目玉が敷き詰められている。前足は巨大な、それこそ体長の半分はあるだろう蟹のハサミとなり、尾は異様に太く長い。
キャンサーは凄まじい勢いで迫ってくる。未だ距離はあれど、この分なら、1、2分ほどで上陸するだろう。
私はあの青タイツやアサシンのような戦闘狂ではない。英霊とはいえ、恐怖はある。普段の私なら早々に撤退の選択をするだろう。
しかし、私の後ろには守ると決めた少女がいる。彼女の前では格好良い正義の味方でいようと決めたのだ。
ならば、逃げることは許されない。
「耳を塞いでおけ、ライブ」
「ーーーーI am the bone of my sword.」
体は剣で出来ている。使いなれた詠唱。私の人生を象徴する詠唱。私の理想の行き着いたところであり、私の間違いの証明。されど、
弓と剣を投影する。
この言葉は、正義の味方の体現。
構えるは黒き弓。つがえるは捻れた剣。放つは空間を削り取る一撃。その真名はーーーー
子供の頃憧れた、正義の味方にはなれなかった。全てを救う正義の味方にはなれなかった。
されどッ!
私は彼女のための正義の味方となる!
「
紅き閃光が海上を突き進む。一瞬で、キャンサーに到達した閃光は、
「
着弾と同時の爆発ーーーー
『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン』
閃光が飛び散り、数秒遅れて凄まじい轟音が鳴り響いた。
閃光が晴れる。
「!」
キャンサーは右半身が抉れ、右前足のハサミがとれているがそれだけだ。もとより、一撃で沈められるとは思っていなかったが、多少足止めをすることくらいできると思っていた。しかし、全くスピードは衰えていない。
上陸されてしまえば勝ち目はない。破壊面積が大きく、再生が間に合っていないのが唯一の救いか。「偽・螺旋剣」を何度も投影するのはきついだろうが、連発して跡形もなく消し去るしか勝ち目はない。
「I am the bone of my sword. 」
一切の無駄なく打ち続ける。流れるように。決められた動作だけを繰り返す。
二撃目、三撃目、四撃目、五、六、七・・・
視界が赤く紅く染まる。未だ奴は消滅していない。姿こそ赤い光に包まれて見えないが気配でわかる。
だが、姿が見えないだけだ。そんな障害、造作もない。私は英霊。アーチャーのクラスを与えられし、弓の英雄。この程度の障害、生前に幾度も乗り越えた。
「I am the bone of my sword. 」
幾度目かの投影。体が悲鳴をあげている。魔術回路が焼き切れそうだ。しかし、やめるわけにはいかない。おそらく、これで最後だ。
限界まで魔力を振り絞り、放つ!
「
「
「お父さん!!」
キャンサーは消滅したようだ。それだけ確認して私の意識は途切れた。