私と彼女にそれ以外の言葉等不要だった。私は私の為すべき事など理解できたし、それは彼女もそうだったようだ。
彼女は真っ直ぐステージⅣの方へ向かい、私は五体のステージⅢの方へと向かう。
それは私も彼女も多くの戦場を駆け抜けて来たから、というのもあるが、何より……
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彼女が放った黄金の輝きが一瞬にしてステージⅣを消し去り、私の五発の偽・螺旋剣が五体のステージⅢを消し飛ばす。
勝負は一瞬にしてついてしまった。
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「なるほどそんなことになっていたんですね」
エミヤとライブは、この世界の現状と、今の彼等の状況を彼女、アルトリア・ペンドラゴンに話した。
彼女こそが彼のアーサー王だとわかったときのライブの反応は凄まじいものだったが、それを語るのはまた今度としよう。
因みに、あまりにも恥ずかし……もとい、可愛らしい反応だったために、エミヤは、彼女が大人になって、酒を酌み交わせる時が来たのならば、このネタで弄ってみようと考えるのだった。
「フム…概ね君の状況も理解した」
彼女、アルトリア・ペンドラゴンにも、解る限りのことを話してもらった。
と言っても、召喚されたばかりの彼女に解ることなど無いに等しい。解った事は、彼女が戦闘中に気づいた事だけだ。最も、あの短い戦闘の中で、解ることがあったことだけでも、十分驚くべきことだが。
解った事は、三つ。
一つ。彼女は私をマスターとして召喚されたということ。
この地の知名度補正と、彼女の墓自体が持つ魔力に支えられているため、この地では普段通り戦える。しかし、この地を離れた場合、キャスタークラスでもない私では、十分な魔力を供給できないために、完全な力での戦闘、即ち聖剣の完全解放はできない、ということらしい。あの赤い悪魔にも勝るとも劣らないポテンシャルを秘めたライブの魔力と、私自身の魔力回路が生み出す魔力。この二つにより、なんとかサーヴァントとサーヴァントの契約という馬鹿げた事が成り立っているらしい。
一つ。やはり彼女にも聖杯からの知識の供給は無いということだ。だがしかし、二体もサーヴァントが召喚された事実は、聖杯戦争の可能性を考えるには十分な事である。
そしてもう一つ。これが一番厄介である。彼女はあの聖杯戦争を覚えている、というのだ。
本来、召喚された後、座に帰れば、召喚時の経験は記録となり、英霊はそこに実感を持つことはできない。
だが、彼女は事細かにそれを覚えている、というのだ。
原因は彼女にも不明であるらしいが、彼女曰く、彼女は死して座に記録された後に召喚されたのではなく、生前召喚であったというのは何か影響しているのではないか、ということだ。
そしてまた、聖杯戦争が終わっても尚、赤い悪魔によって現世に留められたことも原因かもしれない、ということだ。
それを聞いた時に、私には
「最後に、アーチャー。彼女の目について話してもいいのではないですか?」
セイバーが口を開く。余談ではあるが、私のことはクラス名で呼ぶように釘を刺しておいた。聖杯戦争が始まるかもしれないから、というのは建前で、単純に私にはその
「……君はそう思うのかね」
「えぇ。確かに強すぎる力は身を滅ぼしかねません。しかし、知らないでいることは、やがてもっと恐ろしい事態を招くこともある」
「それは、そうだが……」
「そして何より。貴方が側についているのでしょう?貴方ならば、彼女を正しい道へと導けるはずだ」
人として正しい道なんてものからかけ離れている私には、彼女を正しい道へと導くなど無理な話では無いだろうかと思う。だが、無理でもやるしかない。
「買い被りすぎだよセイバー。……だが、了解した。ライブ、今から君の力について話す。よく聞いておくんだ」
ライブが肩に力をいれたのがわかった。その目は真剣そのもので、しかし少しの期待と憧れ、そして深い尊敬のこもった目であった。
有り体に言えば、輝いていた。
もしかしたら、私もこんな目をしていたのかもしれないな。
「簡単に言えば、ライブの眼は、複数の世界の観測を可能にする。魔眼と呼ばれる物の一種だ」
「複数の世界の観測…?」
「そうだ。人の見ている世界は人によって違う、という考え方がある。この図を見てほしい。」
私は手近の枝で地面に目の断面図を描きつつ説明していく。
「ここが、網膜。ここが水晶体。ここが角膜だ。ライブには難しいだろうが、人の眼はこうなっていると理解してほしい。人の網膜、水晶体の厚み、角膜の傷などは誰もが完璧に同じということはなく、人によって僅かに異なる。そして、その違いは、見るものを僅かに変えてしまう。
つまり、同じものを見ていても、人によって少しずつ違う風に見えているんだ。そして、それを見ているものから、見ている世界に広げてみると……」
「たくさんの世界がある…?」
「そうだ。もっと身近な例で言えば、後ろ向きと前向き。背の高い人と低い人。あるいは、片方の目だけで見たときと、両方の目で見たときでも、見える物は少し異なるだろう。そして、一人の人間にも多くの見方があるのだ。それが人の数だけあれば、より多くの世界があることになる。まして、この世界には人間以外の生物もいる」
最も、そういう考えも出来るという程度に過ぎないが、それが真実かどうかはあまり意味の無いことだ。「ひょっとしたらあるかも」という考えは、無意識のどこかにある。そういった「疑念」的なものも、信仰心には含まれる。そして、信仰があるなら、魔術は意味をなすのだから。
「ライブは、その全ての世界を観測できる」
ライブの目が見開かれたのがわかった。私は気にせず続ける。
「要するに、遠く離れた人や動物の見ている物も見えるし、それをいくつも見ることも可能なのだ。何処までも先が見えるという、千里眼にも似ているかもしれない」
最も、そんな簡単なことでは無い。多くの視界を操れるということは、幻影、幻覚はお手のものであるだろうし、例えば相対した相手が魔眼を持っていて、ライブに魔眼の効果を与えようとしても、ライブと相手の視界を入れ換えれば、その魔眼の効果は、ライブではなく相手に発現する。
時計塔のロード、あるいはそれに匹敵する魔術師の多くは魔眼を使うものが多くいる。そういったものに対してライブは圧倒的に有利に戦える。
それだけではない。根源に繋がっているという根元接続者。その眼の視界を自らの視界にしたとき、根元にさえ到達できるかもしれない。
或いは、根元が真に全ての始まりであり、全ての事象がそこから流れ出ているとするならば、世界の全ての景色を彼女自身に集約することで根元に至ることも可能かもしれない。最も、そのような手段に人間の脳が耐えられるはずもない。瞬時にオーバーヒートして、根元に至る前に絶命してしまうだろう。
「使い方はこれから順次教えていくが……ライブ、ある程度は理解できたか?」
「全然」
即答であった。
「だろうなぁ……」
わかってはいた。私が八歳の時に切嗣がこんな話をしてきても理解不能だっただろう。
「けど大丈夫。お父さんが一から、手取り足取り教えてくれるんでしょ?」
「……あぁ、そうだな。私が君を立派な使い手にして見せよう」
すると、暫く黙って聞いていたセイバーが口を開いた。
「………卑猥な感じがしますね」
「いや、なんでさセイバー!」
「………確認ですが、貴方はロリコンでは無い、ですよね?」
声が怖い。抑揚が全く感じられない。意味のわからない謎のプレッシャーがある。咄嗟に私は反論しようとして、
「いやホントになんでさ‼私にそのような趣味は……」
待てよ、と弓兵は思い、言いかけていた言葉を飲み込んで少し思案する。彼はこれまでの経験から、このような話題に関して、軽率な発言は身を滅ぼすと知っているからだ。
(今の私は肉体年齢で言えば30歳程度。そのような男が、故郷での聖杯戦争時のマスターや、月の聖杯戦争時のマスターや、人理修復の時のマスター、そして目の前のセイバーを異性として魅力的だと思うのはどうなんだ……?)
しかし、今回に関しては、その冷静な判断による暫しの熟考は彼の立場を悪くするだけだ。
この男は、なぜ軽率な発言をすると身近な女性に攻撃されるのか、という根本的な理由を理解していないために、このようなこととなるのである。
(うん、高校生はセーフだろう。日本では女性は16歳から結婚できるんだし)
やっと私は自分のなかで答えを得ると、彼女、セイバーの目を見て私の結論を言う。
「……そのような趣味は無いと言いきれる」
「ほほー?さっきの妙な沈黙は一体なんだったのでしょうね?」
あれ?なんか失敗したっぽい。これはあれかな?タイガー道場行きかな?
「いや、冷静に自分の過去を省みて、やはり私はギリギリセーフだったという確認をだな……」
「ギリギリ?」
「あはは……私はもう寝るね?お父さん、死なないでね?」
するとライブが冷や汗を流しつつ、恐る恐るといった様子で離れていく。
「おやすみなさいライブ。………さて、ここからは大人の時間ですよアーチャー?」
「な、なぜ武装をしているのかね?落ち着いて話し合おう。な?最も偉大で平和的な争いの解決策は話し合いだろう?そして、話し合いに武器はいらないと私は思うのだが!」
「問答無用です♪」
「なんでさぁぁぁぁぁ!!!!」
エミヤ「はぁ…。この駄作者は。筆が遅いったら無いな」
ライブ「まぁまぁお父さん。作者さんも頑張ってるんだから」
セイバー「コメントでもして応援してあげましょう」
エミヤ「そうだな。読者の皆様はこの駄作者を励ましてやってくれ。スランプで困っているようだからな」