赤い瞳と赤い弓兵   作:夢泉

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閑話

 

アーサー王

 

 

 

彼の騎士王についてここに記す。

 

ブリテン王、ユーサー・ペンドラゴンは、

 

敵国の王妃と恋に落ち、

 

彼女との間に子を授かる。

 

その子は魔術師マーリンの元へ預けられた。

 

名を、アーサー。

 

やがて、父王ユーサーが没し、

 

次期王の座を巡る争いが始まった。

 

混乱を極めた情勢の中、

 

カンタベリー大聖堂に現れたのは、

 

岩に刺さった一振りの剣。

 

曰く、選定の剣。

 

剣を抜いたものが正当な王となる。

 

王の証とされたその剣は、

 

されど

 

何者も抜くこと叶わなかった…

 

しかしそれは、ただ一人を除いて、であるが。

 

ただ一人、剣を抜けた者がいた。

 

王の器たる者がいた。

 

その者こそが、アーサー。

 

アーサー王である。

 

アーサーは王となり、

 

数多の戦を超え、

 

数多の怪物を打ち倒した。

 

騎士道が廃れ、花と散りゆく時代、

 

ブリテンに一時の平和と、

 

最後の繁栄をもたらした。

 

常に、ブリテンの民のために、

 

力なき者たちのためにあろうとし、

 

私欲を捨てた王だった。

 

弱きを助け強きをくじく、

 

そんな己の正義を貫いた王だった。

 

その正しさに騎士たちは、焦がれ、

 

民たちは希望を見た。

 

アーサーはまさしく、

 

「王」だった。

 

だが、アーサーは「王」であるために、

 

弱き者達のための「王」であるために、

 

「自分」を捨てた。

 

そんな「王」の姿に

 

人々は、恐怖を抱き、

 

やがて人心は離れていくこととなる。

 

孤独の中、それでもアーサーは、

 

国のために、

 

国の民のために戦い続ける。

 

しかし、

 

神秘を失いゆくブリテンの、

 

滅びの運命を変えることは叶わず、

 

ブリテンは滅びの道を進み続けていく。

 

やがて、叛逆により、国は二分される。

 

戦いの後、

 

アーサーは、カムランの丘にて内乱を鎮める。

 

しかし、周りを見渡せばただの一つも、

 

守ろうとしたものは残っていなかった。

 

周りにあるのは、守ろうとした数多の民の骸。

 

アーサー自身、戦いで深手を負い、

 

民の骸の上で膝を折った。

 

 

 

 

 

アーサーは死後、

 

ある地に運ばれる。

 

何者も侵すことの出来ない聖域。

 

名をアヴァロン。

 

次元のずれた位相に存在する、

 

遠き遠き、理想郷。

 

その遥か遠き地にて、

 

アーサーは傷を癒している。

 

だが、

 

やがて、ブリテンが危機に瀕したとき、

 

彼の騎士王は再び現れ、

 

ブリテンを救うという。

 

"Hīc iacet Arthūrus,

rex quondam,

rexque futūrus."

「かつての王にして未来の王、     

          アーサーここに眠る」

 

 

~名も無き歴史家の手帳より




「シロウ…貴方は今、どうしているのでしょうか…」

黄金の大地で、少女は一人呟いた。

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