「わあぁぁ!気持ちいい!」
私は今
頭上には蒼が、蒼い空が高く、どこまでも高く広がっている。
眼下には碧が、青々とした若草色が広がっている。地平線まで続くその様はさながら海のようだ。
そしてもう一色、若草色の絨毯と水色の天井の間を駆けている緋がある。
「はっっやあぁぁぁぁい!!!」
緋に包まれた少女、ライブはその美しい金色の髪を揺らしながら大声で叫ぶ。
「はぁ、気持ちいいのは分かるが、もう少し声を押さえてくれないか?」
そしてライブを抱える赤い弓兵、エミヤはため息を吐きつつ言う。
「はぁーい………。こんなに気持ちいいのになぁ………。ねぇ!あと何日ぐらいでロンドンにつくの?」
「ふむ、そうだな。この調子なら一週間かからないで行けるだろうな」
「一週間!?私は半年もかかるのに、、、、、」
「君はまだ8才だろう?歩幅的にも体力的にも、時間がかかって当たり前だ。それに私は、」
「英霊、でしょ!もう!いつかお父さんよりも強くなってやるんだから!」
そう言ってライブは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
「お、おい。なにを怒っているんだ」
「知らない!」
「はぁ、何でさ、、、、」
ため息を吐きつつ少女を抱えて弓兵は駆ける。
刻はすぎて夜
空には美しく大きな月が輝いているためか、漆黒の空からは恐怖感は感じない。
「さて、レッスン開始といこうか」
「はい先生!」
エミヤの授業が始まった。
ロンドンへの旅の途中、エミヤは夜の間はライブに魔術を教えることとなった。魔術だけではなく、言語や文字を初め、歴史や科学、数学等、さらには家事や戦闘方法に至るまで様々なことを教えることになっている。
「じゃあ、早速炎を出したり、空を飛んだりするのを「戯け!!」・・・・。」
「魔法とはそういうものではない!いいか、魔法というのは・・・・・・・・・・
・・・・・・というものなのだ。わかったか?」
「うぅぅ、魔術、魔法、回路、神秘、根源、………………」
ライブは頭を抱えて唸っている。気のせいだろうか、エミヤにはライブの頭から湯気があがっているように見える。少し詰め込みすぎた。そう思った弓兵は優しげな笑みを浮かべて言った。
「今日はそろそろ終わりにしようか」
「えっ、そんなぁ………。」
「君はもう限界だろう?無理することはない。時間はたっぷりとある」
「でも、、、、」
「だが………そうだな。回路の切り替えだけでもできるようにしておくか。」
「本当に!?ありがとう!……………回路の切り替えって?」
「回路の切り替えというのはな、・・・・・・・
・・・・なんだ。」
「………?」
ライブは首をかしげる。
「はぁ、やはり難しいか………。要するにスイッチのオンとオフだ」
「なるほど」
「人によって違うが、何かをイメージしたり、何かの行為を通してスイッチの切り替えをするんだ。」
「私のスイッチ………。お父さんのスイッチはあのトレース・オンってやつ?」
「あれは少し違うんだ。…………じいさ、私の父親が………」
エミヤは何かを懐かしむような、それでいてひどく悲しげな目をして漆黒の空を見つめながら、呟くようにいった。
「お父さんのお父さん?」
「………いや、この話はやめておこう。」
ライブに話しかけられ、我に帰ったようにはっとしたエミヤだったが、それも一瞬のことですぐに頭を降ってその表情を隠した。
「………それもいつか話してくれるの?」
「あぁ。また、いつかな」
「………わかった」
「さて、私は少し遠くにいっていよう。寝る時間になったらまた来る」
「へ?」
「さっきもいった通り、ライブの回路の切り替えはライブだけのものだ。私がいても役にはたてないし、かえって邪魔になる。君だけのイメージを掴むんだ」
「そっかぁ………わかった」
「頑張れよ」
「うん!」
エミヤはライブの返事を見届けると背中を向けて去っていった。
イメージはすぐに見つかった。
それはライブがガストレアの力を使うときの感覚に似ていた。
「っ、!」
スイッチの切り替えを行おうとしたライブをすさまじい激痛が襲う。それは、物理的な体の痛みであり、心の痛みでもあった。
(苦しい。痛い。これが命さえ代償とする魔術?)
イメージがガストレアのイメージだったためか、いままで受けてきた暴力が次々と頭に浮かぶ。
「や、め、て、、、」
助けを求めるも回りには誰もいない。正義の味方はいない。
「だ、、め」
だめだ。ここで挫けたら。強くなるって決めたんだ。皆のぶんも幸せになるって、強く生きるって決めたんだ。そして私もいつか、お父さんのように、
「くぅ、くっ、ぐぅぅ、、」
静かに痛みに耐えるライブ。地獄のような時間はいつまでも続くように感じられた。
どれくらいそうしていただろうか。いつしか痛みはなくなっていた。
「………終わっ、った?」
気づけば身体中に力が溢れているような気がする。
「!」
そこでライブは信じられない光景を見た。
しかし、それを不思議に思う間もなく、ライブの意識は途絶えた。
ライブが最後に見たのは、倒れる自分を支える彼女の父の姿だった。
「………魔眼とは、な。」
少女を寝かせた弓兵は呟くように言った。
「大切な誰か」という言葉がありますが、そこでは、エミヤの生き方との違いを出しています。すべてを救うのではない。大切な人を最後まで守り抜く。そんな感じでしょうか。
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