「やはりダメだったよ。」
「そうですか………。」
赤い弓兵は仕方がないとわりきった様子で、少女は納得できない様子で言う。
二人は生き残りの捜索をしていたのだ。すでに弓兵は少女が泣きつかれて眠ってしまったときに一度軽く捜索はしていたのだが、彼のマスターの要求で再び探している。
しかし、結果は変わらない。
ーーーーー生存者無し。
ライブの耳にも何も聞こえてはこない。何度かライブの耳が拾った声のもとに行ってみたが、もう手遅れであったり、ほとんどガストレアと成り果てていたりした。
ガストレア襲撃時には瓦礫の下等で生きていた人々も皆、あの火災によって死に絶えていた。
全く、何から何まであの時と同じだ。私のみが生き延び救われたあの日に・・・・。
今私は泣いているマスターを抱き締めている。願わくば彼女が私のように、その身は誰かのためにあらねばならない等という考えにとらわれる事がないようにと思う。
否、それはありえない。彼女は私とは違う。この子はこの子だけの道を歩むはずだ。
だがもしも、彼女が地獄への道を歩みそうになれば私が止めればいい。私は爺さんとは違い、彼女のそばにいて見守っていくことができるのだから。
今私達は一つの亡骸の前にいる。先程、ライブの耳が拾った音をもとにここを捜してみると、少女がいた。呪われた子供たちの一人であろう赤い瞳の少女は生きていた。最後まで戦っていたのだろう。力の過剰行使によってか、体の大半がガストレアとなっていた。
その赤い瞳は同じ力をもった少女に向けられていた。もはや思考さえまともに定まらないであろう状態でありながら、彼女の瞳はその意思を雄弁に伝えていた。
ーー死なせてほしい。人間として。同じ
少女の瞳はそう語っていた。
その瞳を向けられた少女、ライブはその意思を一瞬の内に理解した。理解してしまった。聡明な彼女は自分がどうするべきかすぐにわかったのだろう。小さな拳を握りしめ、歯を食い縛りながら、震えた、それでいて決意に満ちた声で言った。
「剣を貸して。」
私は彼女たちの意思を尊重した。彼女に干将を渡す。彼女はそれを受け取り、そしてーーーー
「落ち着いたか?」
「うん。もう………平気。」
「後悔しているのか?」
わかりきっていることをあえて聞く。彼女は首を左右に振って、
「ううん。後悔はしてない。そんなことしていたらあの子に失礼だよ。」
「…………そうだな。」
「ただ、誓っていたの。」
「何を?」
「精一杯生きていくって。ここでなくなった皆の分も精一杯生きていくって。」
「そうか………。」
やはり彼女は私とは違う。彼女が自分の命を軽んじ、無謀な自己犠牲をすることはないだろう。私はそう確信した。
「あ!」
「どうした?」
「なにかこっちに来る。」
「ガストレアか?」
「ヘリコプター、かな?」
「成る程。他のエリアの者たちだろう。救助、いや救助とは名ばかりで、大方、キャンサーの消滅に関しての調査にでも来たのかもな。」
「お父さんは見つかったら不味いんじゃない?」
「確かにな。」
今この街には私たちしかいない。自ずとキャンサーを始末したのは私たちとなる。受肉しているとはいえ、私は英霊。神秘の塊である私が調べられ、その存在が世間に知られるのはまずい。また、英霊の力を悪用しようとする輩もいるかもしれない。
「それに、いつまでもこの街にいるわけにもいかないよね。」
「ならばどうするのだ?」
「旅にでない?」
「旅?」
「そう。いろんなエリアにいって、いろんな人と会って、いろんなものを見るの。きっとすごく楽しい!」
「こことたいして変わらないかもしれないぞ?」
「それでもいいよ。お父さんがいれば、きっとどこにいっても楽しいから。」
「!っ、そ、そうか。」
「赤くなってる~♪」
「う、うるさい!だが、エリアの外はガストレアの巣窟なのだろう?危険ではないか?」
「守ってくれるんでしょ?」
「………君は守られてばかりは嫌なのではなかったか?」
「いつまでも守られてばっかは嫌っていったでしょ?今はまだお父さんに守られていてあげる!」
「「………………。」」
「…………ふっ、」
「…………くすっ、」
「「ハハ!ハハハハハハ!」」
私たちは腹を抱えて笑った。
「準備できたな。」
「うん。」
私たちは瓦礫の中から集めてあった缶詰などの食糧や日常用品を投影した風呂敷に包み、ライブの提案で真っ黒い布を羽織っている。というのも、荷物をまとめているときに調査が本格的に始まってしまったからだ。
「出発だ!」
ー ー ー ー
「映像を見ていたとはいえ、これはひどいわね………。」
「そうね………。」
「「………………。」」
「さぁ!探しましょう、リリー!」
「…………えぇ、ソフィー。」
ー ー ー ー
私達は調査隊に見つからないようにしながら建物の影から影へ移動している。ここまでは順調だ。
しかし、何度目かの移動の時に
「きゃっ!」
ライブがこけた。それも盛大に。このままでは見つかってしまう。私は急いで駆け寄り声をかけようとしたが、
「あの………大丈夫?」
一人の金髪・・の女性が私たちに声をかけてきた。
ー ー ー ー
「あれ?」
「リリー、どうしたの?」
「あんな人たち班にいたかしら?」
「さぁ?どうだったかしら?つれてるのはイニシエーターかしら?だとすると民警?何で黒ずくめなのかしら?」
「!」
子供が転ぶ。
「ソフィー、ちょっと待ってて!」
「ちょっと!私もいくわよ!」
「あの………大丈夫?」
私は倒れている少女に手を差しだし、立ち上がらせつつたずねた。
「…………うん、平気です。………ありがとうございます。………行こう?お父さん。」
そう言ってそのまま子供はお父さん?とどこかにいってしまおうとする。そして………
「!、それは………」
私は見た。彼女の首もとから除く十字架のアクセサリーを。見覚えのあるアクセサリーを。
「す、すみません!!」
「なんですか?」
黒い布をまとっていてもわかる筋肉をつけた男が振り替える。
私は怯みそうになるが、これだけは聞いていかなければと勇気を振り絞って子供の方を向いて言う。
「あなたは今、幸せ?」
すると、子供は振り向いて、一瞬の躊躇いもなく、
「うん!!」
布から覗いた金髪の少女の顔はとても幸せそうに笑っていた。
「そう。よかった………。」
「その子をよろしくお願いします。」
その一言で怪訝そうにしていた男は何かを悟ったようで、布から覗く鷹のように鋭い目に強い決意を滲ませて言った。
「任せろ。案ずるな、この子は絶対に守りきって見せる。」
そう言うと、男は子供をつれて歩いていった。
「…………ありがとうございます。」
私はその後ろ姿に向かって深々と頭を下げた。
「もういいの?」
一部始終を見ていた友人、ソフィーは私に尋ねた。
「えぇ。もう大丈夫。」
「そう。よかったわね。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
ー ー ー ー
「ライブ。改めて誓おう。」
「?」
「君を必ず護り抜く。」
「ありがとう!私の"正義の味方"さん!」
これにて一章終了です!読んでくださった方、ありがとうございました!よろしければ、これからも、赤い瞳と赤い弓兵シリーズをよろしくお願いいたします!
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