展開もおかしなところがあるかもしれません。すみません。
白ひげによる突然の縄張り宣言から時間にしておよそ三時間、鎮守府の一角に設立されている大食堂がいつもと違って騒がしくなっていた。この横須賀鎮守府に所属している艦娘達の大半が集まっていたのだ、人数にしてざっと四、五十名ほど。そこには先ほど入渠していた暁、雷、電、響(通称「第六駆逐隊」)の四人や榛名達の姿もあった。
そもそもこの大食堂に集まっているのには訳があった。それは白ひげが放送時に集合をかけたからである。挨拶がしたいから好きな時間に何処か広いところに集まれ、と。でもそれでは流石に大雑把すぎたので正確な時間と場所は大淀が代わりに伝えていたのだが。
その間に暁達の声かけによって久々の入渠を済ませた者も少なからずいた。
「それにしても、白ひげってどんな人なんだろうね」
「私、こっそり見たけどなんか強そうなお爺さんだったよ」
「おっ、お爺さん!? 本当なの島風ちゃん!?」
「榛名っ、その人に会ったのデスカ!?」
「はい。少し怖い感じでしたが良い人でしたよ。みんなを助けてくれましたし」
「ひえー」
「しかし榛名姉様、本当に信用できるんですか? いくら助けてくれたと言っても……」
艦娘達の話題はやはり突如やってきた白ひげについて。とんでもない怪物だとか大男だとか優しいお爺さんだとか様々。でも大半の者達は白ひげの事を疑っており、さらには前の提督の二の舞になるのではと警戒してる子も少なくない。
「くそっ、何なんだあの男は。あれだけ強い奴がどうして俺達なんかを……」
「確かによく分からないわね〜。でも安心して、もしも天龍ちゃんに手を出すようなら私が始末するわ〜」
「やめろ龍田。恐らくだが俺達が束になって掛かっても勝てるか分からない、それくらいヤバイ奴だ」
天龍と彼女の姉妹艦の龍田もまた例によって白ひげの事を話していた。天龍は放たれた殺気によって白ひげという怪物の片鱗を肌で感じていたのでその圧倒的な強さを分かっていた。
艦娘達があらゆる憶測を飛び交わしている最中、遂にその時がやってきた。その一歩の歩みは大地でも揺らすのではないかと思われる程に力強く、感じられる覇気は最強だと実感するのに充分すぎる程に鋭い。
白ひげの隣には第六駆逐隊の四人が出会った不死鳥マルコも共にいた。
全員が息を飲む中、部屋全体を見渡せる所へ移動した白ひげがついに口を開いた。
「グララララ、さっきも言ったと思うが俺が白ひげだ。今日からここを俺の縄張りにするんで以後よろしくな」
そう言うと白ひげはそのまま部屋を出ようとするが、すかさずマルコが止めに入る。
「お、おいオヤジ、流石にそれだけじゃまずいよい。ちゃんと説明しないと……」
「ん? ああ、そうか。つまりだ、お前ら全員俺の家族になれ」
「「「えええええええ!!?」」」
「そういう事じゃねぇよいオヤジィィ!!」
それからはマルコが全員に説明を始めた。ブラック鎮守府で辛い目に遭っている艦娘達を助けたかった事、その為に鎮守府に直接乗り込んで提督を倒した事、そして代わりに自分達がこの鎮守府を仕切る事を。
ちなみにここに配属されていた憲兵達は白ひげを見るなり一目散に逃げ出したのだとか。
「鎮守府の知識については俺もオヤジも元軍人だったから問題ないよい。それで家族になれって事だが、オヤジは自分の仲間の事を家族として何より大切にしてくれるんだよい。だからオヤジは俺を息子と呼んでくれるし俺もオヤジと呼んでいるんだ」
「えっと、あの、つまり白ひげさんは私達を仲間にするという事ですか?」
駆逐艦吹雪が手を挙げて恐る恐る聞いてきた。
「そういう事だよい。まあお前らの場合は息子じゃなくて娘だけどな」
その瞬間艦娘達がざわつき始める。それぞれ色々と思うところあるが、何より驚いてるのは自分達を兵器ではなくて人として、何より家族として扱うと言った事だった。
「悪いが、そんな話信じられないな」
そう言って立ち上がったのは戦艦の長門。この艦隊の主力の一人でありみんなをまとめるリーダー的存在でもある。その隣には同じ戦艦である姉妹艦の陸奥もいた。
「確かに榛名達を助けてくれたり、みんなを入渠させてくれた事に関しては感謝している。だが今日まで人間に酷使されてきた私達が今更お前達の話を信用できると思うか?」
「ん、まあ確かにそうだな。それは無理もないよい」
「だから悪いことは言わない、今すぐここから出て行け。私達とて人間を傷つけたくはない」
長門は既に艤装を装着しており、その砲口を白ひげ達へと向けていた。また長門だけでなく陸奥やその他二人を敵視している者達が同様に戦闘態勢へと入っている。
「お、おい待てお前ら。落ち着けよい」
マルコが慌てて静止させようとするが、長門達はヘタな事をすればすぐに撃つと言わんばかりに睨んでいる。一方で第六駆逐隊や榛名など白ひげを信じてみようと思ってる者達もいるが場の空気に気圧されて動けずにいた。
「随分威勢がいいじゃねェか、俺はそういう奴は嫌いじゃないぜ」
それは流石に信じられなかった。大抵の人間なら艤装を見せるだけで恐怖したり化け物だと蔑んでくる。だが白ひげは恐怖するどころかむしろ楽しんでるようにさえ見えてくる。彼女達にはそれが理解できない。
「だがお前らの気持ちはよく分かった。よし外に出ろ、望み通り相手をしてやる」
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この鎮守府は建物だけでなく敷地もまたそれなりに広く、学校の校庭ほどの広さを持つ広場も設けられていた。その中央付近では白ひげ、そして長門を筆頭とする殺る気満々の艦娘達が集まっていた。でもやはり白ひげを信用してみたいと思う者達(主に駆逐艦と榛名)とマルコは端の方に逸れていた。
「オヤジ、頼むから無茶だけはするなよい」
「分かってらァ、マルコこそ手を出すんじゃねェぞ」
マルコが心配しているのは白ひげの容態について。年もとり、病状も悪化しているその身体は限界に近いと言っても過言ではない。
「本当にいいんだな、白ひげ。私たちは全力でいくぞ」
「ああ、全てをぶつけてこい。俺が全部受け止めてやる」
「よし、始めるぞ。一斉射!!」
長門の掛け声とともに艦娘達による一斉攻撃が始まった。主砲という主砲が火を吹き白ひげに集中砲火を浴びせていく。爆煙のおかげで白ひげがどうなっているかは分からないが直撃している事は間違いないだろう。
「オヤジ……」
手を出すなと言われている為にただ黙って見守る事しか出来ないマルコは僅かだが焦りの色を見せていた。まさかここまで徹底的にやってくるとは思っていなかったからだ。それでも白ひげなら心配ないだろうが。
「そこまで。一旦やめろ」
その一声で砲撃音は止んだ。まだ立ち込める爆煙で姿は見えないが長門達は手応えを感じていた。だが煙が晴れた途端みんなの表情が一変した。
「中々良い攻撃力じゃねェか、流石は艦娘と言ったところか」
「なっ!? 一体どうなっているんだ!」
「全然効いてない!」
「だがこれくらいじゃ俺は倒せねェぞ」
「くっ、撃て! 撃て!」
その後も全員で砲撃を続けるもほとんどを白ひげは薙刀一つで撃ち落としていた。確かに何発かは当たってはいるものの微動だにしていない。更に言えば白ひげは全く反撃をしてこない、さっきから受けてばかりだ。
それからおよそ三十分、結局長門たちの方が先に折れてしまった。
「どうした、もう終わりか?」
「ハァ、ハァ、何で効かないんだ。深海棲艦をも吹き飛ばす主砲だぞ……」
「長門、もうやめましょ。やっぱり彼は桁違いすぎるわ」
「くそ、悔しいがそうみたいだな。みんな、もういいぞ」
そうして使用した艤装を解除していく、もう彼女たちに先ほどのような殺気はない。ほとんどの者が白ひげという怪物の強さを目の当たりにして戦意喪失してしまっていた。
「まぁ、その体調じゃ無理もねェだろ。かなり疲れが溜まってるみてェだしな」
「流石に分かるみたいね」
「当然だバカヤロウ。今度は万全の時にかかってきな」
白ひげにはいくら入渠したとはいえほとんどの艦娘達が疲労困憊だという事は分かっていた。でもそれを知ったうえで決闘を受けたのは彼女たちの意思を感じとっていたからだ。
「……白ひげ。お前への攻撃の件、罰はこの私が受ける。だから頼む、みんなには手を出さないでくれ」
「おい、ちょっと待て。どういう事だァ」
「どういう事って、私たちは本気でお前を殺そうとしたんだぞ。だからその代償を受けるのは、」
その瞬間長門の視界が暗くなる。突然の事で理解出来なかったが白ひげに抱擁されているのだと徐々に分かってきた。
「えっ!?」
「自分の娘に手をあげるオヤジが何処にいる。グララララ、言ったろう、全部受け止めると」
「あ、ああ……」
「お前らが人間を嫌いな事くらい分かってる、別に好きになれとも言わねェ。だがこれだけは覚えておけ、俺ァ絶対に家族を裏切らねェ!!」
その時長門は初めて感じるものがあった、それは身体だけでなく心をも癒してくれる温もり。目の前にいる白ひげはそれは大きく、頼もしく見えた。
「どうやら嘘ではないようだな。分かった、少しお前を信じてみようと思う」
「そうか、そいつァよかった」
こうして一応長門とは和解でき、ひとまず白ひげの着任騒動は終わりを迎えた。でもまだまだ問題が山積みなのを彼らはまだ知らない。
もうそろそろ真面目に日常回を書けたらと思ってます。