インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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(特にタイトルに深い意味は)ないです。


『迫真メイド喫茶!売り上げの裏技。』

『お帰りなさいませ、御主人様。』

 

ファンシーに彩られたその部屋に、うら若き乙女達の麗しい声が通る。

その部屋には、誰も彼もが白と黒を基調にしたメイド服に身を包み、お客様第一号の男性に慎ましやかにお出迎えの挨拶。

IS学園一年一組。

学園祭の催し物としてメイド喫茶を執り行うこととなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること10分。

本日の仕事服たるメイド服に着替えたクラスの面々は、普段着慣れないその服に少々浮き足立っていた。

普段は漫画やメイド喫茶くらいでしかお目に掛かれないメイド服に袖を通すと言うことで、ワクワクと緊張がクラスを支配していた。

だがその固くなったクラスメイトの中で、一人の少女が皆の前に立って、つつましやかな胸部を張って腰に手を当てて息を吸い込む。

 

「野郎共!我々の目的は何だ!?」

 

クラス代表補佐をしている円夏だ。野郎なんか居ないのにも関わらず、まるで軍隊形式のように張った声が教室内に響き渡り、その声は他のクラスにまで届き、そこの生徒が何事かとその顔を覗かせる。

 

「もう一度聞く!私達の目的は何だ!?」

 

「ほ、奉仕?」

 

クラス代表である木綿季が怖ず怖ずと声を挙げる。普段共に過ごしている円夏は、クールで物静かなイメージが強いため、この変貌ぶりに少々戸惑っていた。

 

「そうだ!今日この時のために、我々は辛く、そして過酷な日々を過ごしてきた!そして!それを遺憾なく発揮せねばならん!訪れてくれる御主人様の為に!御嬢様の為に!我々は最大限の奉仕を行うのだ!」

 

「そうだよ(便乗)、本番で練習の成果が出るって、それ一番言われてるから。」

 

「こ↑こ↓で全力で御奉仕しなくちゃならない、はっきりわかんだね。」

 

「その為の王道を往く…ロングスカートメイドですからね。」

 

円夏の発破にクラスのボルテージは徐々に向上し、その目にはギラギラと闘争心が滾ってきている。

 

「ならば今一度問う!我々の目的は何だ!?」

 

『奉仕!奉仕!奉仕!』

 

「この学園祭の目的は何だ!?」

 

『奉仕!!奉仕!!奉仕!!』

 

「私達はメイド服を愛しているか!?献身的な御奉仕を約束するか!?」

 

『ガンホーッ!!!ガンホーッ!!!ガンホーッ!!!』

 

「よし!戦闘準備!!」

 

ビシッと、そしてズラッと、教室入り口からの花道の如く、二列に並ぶ。

そして、冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円夏!三番テーブルに萌え萌えオムライス二つあがったよ!」

 

「任された!」

 

「木綿季ちゃん!六番テーブルのメニューを聞いてきて!」

 

「らじゃっ!」

 

1時間後には一年一組は大盛況だった。

各々が練習の成果を存分に発揮し、見事なまでの御奉仕をしていたのだ。

これにはメイドをガチで雇っている彼女は、

 

「まぁ!何という見事な御奉仕なのでしょうか!?是非とも卒業後私の所においでになってくださいまし!少し拙いところもございますが、チェルシーの指導を受ければ、立派なメイドになれることを約束いたしますわ!」

 

と絶賛の中で萌えと萌えと、あと萌えと、オマケに萌えが詰まったオムライスに舌鼓を打っていた。

ともあれ、御奉仕もさることながら、そのルックスも粒揃いであるため、先のイギリス貴族の御令嬢もそうだが、彼女等の噂が噂を呼び、男性集客数が圧倒的に多くなってきていた。

 

「ま、円夏ちゃん…その…愛を注入……オナシャスセンセンシャル!」

 

「ふん!良いだろう!!燃え燃えキュンキュン燃えキュンキュン!」

 

「字が違ぇ!?」

 

「五月蠅い黙れ、仕様だ。」

 

御奉仕とはほど遠い円夏のその接客。

クレームが来るかと思いきや、その鋭く冷たい眼差しを求めるドMが殺到していた。

 

「お待たせしました!激萌えマキアートです!キュン死パンケーキはもう少々お待ちください!」

 

五反田弾の妹である五反田蘭は、実家が食事処だけあってその手腕は確かな物であり、見事な接客で客の評価は上々だった。

 

「おっとと!お待たせしましたぁ!ラブパフェと、初恋ジュースです!ご注文は以上ですか!?ごゆっくりどうぞ!」

 

元気一杯に教室中を駆け回るのは木綿季。その人懐っこい愛嬌ある笑顔は、来る人来る人を魅了し、一躍注目の的になっていた。…少し危なっかしいのはご愛嬌か。

皆総じて評価の高いメイド度ではあるが、特に上記の3人が客の注目を集めていた。

売り上げは上々。

このまま行けば、集客トップのクラスに送られるスイーツ1ヶ月無料パスは貰ったも当然。

そう誰もが思っていた矢先に、事件は起こった。

 

「きゃあ!?」

 

一人の生徒の甲高い悲鳴が教室に木霊した。

場違いとも言えるその声に、メイド達は元より、客も皆其方に視線を集める。

そして視線の先…悲鳴を上げた女子生徒は胸元を護るように手を交差させ、まるで怯えるかのように彼女の視線の先にいる客達から後退っていた。

 

「なになに?どうかしたの?」

 

颯爽と木綿季は大事なクラスメイトに何かあったのかと駆け寄る。

 

「こ、この御客様が、む、胸を…」

 

「何だよ…減るもんじゃねぇんだから触るくらい良いじゃねぇか~。」

 

「そうそう!御奉仕してくれよ!ご・ほ・う・し!」

 

ゲスい笑みを浮かべるのは、20代くらいのチャラチャラした男性客2人。明らかに頭が悪そうで、金髪に染めた頭にパーマを掛け、耳や口許にピアスをつけ、趣味の悪いネックレスを掛けている。

当事者の言い分からするに、男性客がメイドの胸部を触ったと言うことだろう。

 

「ホラホラホラホラ!御主人様だろ?俺達は!」

 

「御主人様の言いつけ守んないと、メーカー失格だぜぇ!?」

 

ヒャハハハ!と、いかにも悪役然とした笑いに、教室内には嫌な空気が流れつつある。

そんな皆が顔をしかめる空気が、木綿季は大っ嫌いだった。

 

「御客様。」

 

被害に遭った女子生徒を庇うように、そして男達の前に立ち塞がり、見下すように。

木綿季は冷ややかなスマイルで奴らを御主人様と呼んだ。

 

「当店では、その様な御奉仕を行っていません。その様なサービスを求めるなら、IS学園外でお求めください。」

 

「はぁ?俺らは御奉仕を求めてここまで来たの!」

 

「何なら、お嬢ちゃんが御奉仕してくれても良いんだぜぇ?俺好みの胸だし!」

 

ヌッと木綿季の胸に伸びる男の手。だが、たどり着くよりも早く、木綿季はその男の手首を掴み、それを阻止する。

 

「いっつ!!何しやがる!!」

 

「当店ではその様なサービスはありません、そう言いましたよねぇ?」

 

「御主人様に手を上げるなんて、メイドのすることかよ!!」

 

「生憎ですが…」

 

ここで木綿季は、先程の冷ややかさから一転、満面の笑みへとその表情を変える。

 

「ボクの心の御主人様は……一夏一人って決めてるんだ。ボクの胸を触って良いのも、ね!」

 

つかみ上げた手を捻り上げ、関節を極めて制圧する。伊達にIS学園での授業で鍛え上げている訳ではない。

 

「この…手を離しやがれ!」

 

「ならば御退店ください、元御主人様。」

 

木綿季に掴みかかろうとした男の前に、円夏が立ち塞がる。未だ営業スマイルを崩さない辺り、まだ平静らしい。

 

「うるせぇ!退け!まな板!」

 

ブチィ!!

 

何かが…ブチ切れる音がした。

教室の空気が、まるで凍ってしまうかのように冷え込み始める。

室内であるはずなのに、メイド達のスカートがパタパタとはためき出す。

そして何よりも、彼女から放たれる圧力が、冷や汗を噴出させて止まない。

 

「イッテしまった…キレれてしまった…良いだろう…」

 

円夏は冷たく言い放つと、自身の胸部を侮辱した男の胴を、まるでお米様抱っこの様に担ぎ上げ、窓の方へとノッシノッシと歩いて行く。

何をされたのか解らない男は、ポカンとした表情で運ばれていく先で…。

ガラガラと教室の窓を全開にする。

 

「では…貴様には強制退店して貰う!!」

 

マウンド場にはピッチャー織斑!

その強肩から放たれる剛速球は、遠投数百メートルは届くほどだ!

さぁ!ピッチャー第1球!

振りかぶって!

 

「は?え?ちょっ…おい!」

 

「いっぺん…死んでこい!!!」

 

投げたぁぁぁぁ!!!

 

窓から思いっきりぶん投げられた男は、見る見るうちにグラウンドを越え、

森林部を越え、

海岸部を越え、

東京湾に大きな飛沫を上げて着水した。

その距離は大凡300mと言ったところか。

まぁ運が良ければ死んでないだろう。

と言うか、これ、ギャグ補正かかってるし。

 

「木綿季、第2球だ。」

 

「おっけい!」

 

「すいません許してください!何でもしますから!(何でもするとは言っていない)」

 

後ろでずっとスタンバってた木綿季が、自身の胸を触ろうとした不埒者を円夏に引き渡すと、これまた同じように東京湾に沈める。

 

「ヴォーダの闇に沈め、痴れ者が。」

 

事をなした後に振り返れば、教室に居るメイド、客全てからポカンとした目で注目されていた。

 

「あ、いや…私は…その…!」

 

無我夢中で気付かなかった円夏は我に返り、あたふたし始める。

折角の学園祭なのに、こんな大立ち回りをしてしまっては台無しだ。

このままでは…

そう悲観していた円夏の耳に、一人のぱちぱちと手を打つ音が静かに教室に鳴り渡る。

やがてそれは、二人、三人と増え始め、まるて嵐のように喝采へと変わる。

客は総立ち。まるでスタンディングオベーションのように。

 

「よくやったメイドさん!」

 

「やりますねぇ!やりますやります!」

 

「あぁ~、いいっすねぇ~」

 

「円夏、格好いい~!」

 

どうやら皆が不埒者に嫌気がさしたようで、誰も非難しようともしなかった。

むしろ賞賛の嵐。

誰も彼もが円夏を称えていた。

 

「じゃあ皆さん!メイド喫茶再開します!改めて楽しんでいってください!」

 

木綿季の通る大声で、客やメイドの皆がそれぞれの席や持ち場に戻る。

木綿季は未だ固まっている円夏の手を取り、駆け出す。

 

「ほら!円夏、仕事仕事!」

 

「…そうだな、頑張るとしようか。」

 

こうして、メイド喫茶はつつがなく最後までやり遂げ、見事売り上げトップに輝くことになった。

後日、学食で円夏と木綿季が特大パフェに舌鼓を打っている姿が見られたとか何とか…。

そしてさらに後日、

脱衣場から、2人分の悲鳴が聞こえたとか何とか。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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