インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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遅くなり申し訳ないです。
仕事が重なったのと、某オープンワールドアクションRPGをプレイしてて中々筆が執れなかった…。
オープンワールドって、中毒性高い…!


第75話『侵入者』

夢はいずれ覚める。

 

良い夢でも

 

悪夢でも

 

そして目覚めたとき、人は始める。

 

生きるという戦いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せな時間だった。

 

親友2人と、大切な恋人がお見舞いに来てくれた。

今の自身の身体を見られたことにほんの少し抵抗があったけど、それを補って余りある充足感が木綿季の中に満ちていた。

何のことはない世間話が楽しくて楽しくて仕方ない。

こんな時間がいつまでも続けば良い。

そんなささやかな彼女の願いは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計測室の扉が吹き飛ばされる轟音によって終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「な…!」

 

突如の耳を突くような轟音は、中に居た4人を固まらせるには十分な物だった。

剛性のあるであろう自動ドアは、ものの見事に『く』の字に折れ曲がっており、その上大きく吹き飛ばされていた。一体どれ程の力が加えられたらこうなるのか?そしてその元凶は誰なのか?

異常事態発生によって鳴り響く警報と共に、ソイツはブーツの重厚な音を木霊させて、部屋に足を踏み入れた。

 

「…メディキュボイド、コイツがそうか。」

 

深く被ったフードの奥から、男の声が発せられた。少し低い、だが若い声だ。背丈は一夏と同じくらい。身体付きもしっかりしていて、鍛えられていることがありありと解る。

彼はガラス越しにメディキュボイドを…そしてそこに繋がれている木綿季を一瞥する。

瞬間、

フードの下から覗かせる口許が、歪に、まるで三日月のように形を変えて笑った。

 

「目標確認、確保するか。」

 

奴は拳を振りかぶる。

その先は、面会室とメディキュボイドが設置されている部屋を隔てる強化ガラス。

 

まさか…

 

まさか奴のやろうとしてることは…!

 

「やめろぉっ!」

 

呆けていた気を取り戻し、させまいと彼に飛びかかったのは一夏だ。

剣術で培った踏み込みを活かし、あっという間に距離を詰める。その速さは、並大抵の素人には見切れないほどに素早く、そして的確だった。

右拳を固く握り込み、振りかぶる。

このガラスを壊されれば、滅菌されている部屋に外気が入り込み、微細な菌が木綿季の身体に入り込んでしまう。健全な一夏達には何ともないウイルスでも、免疫力が極端に低下している木綿季にとって、それは大きな脅威となりかねない。ヘタをすれば…。

想像したくない未来を防ぐため、奴を組み倒す。手っ取り早いのは殴り倒すこと。咄嗟の一夏の動きに奴は反応できないでいる。

 

 

 

そう、誰もが思った。

 

 

「ッ…!!」

 

軋む音が聞こえる。

苦痛に歪む顔。

それは一夏の方だった。

突き出した拳を、奴は何の苦も無く掌で受け止め、それを強靭な握力で握っていたのだから。

 

「悪くないな。…だが悲しいかな。地力の差は大きいようだ。」

 

軽くその手を押し返せば、一夏の身体はまるで風船のように軽く吹き飛ばされて、対面の壁に背中から強かに打ち付ける。強い衝撃に、一夏は噎せ込み、一気に放出された空気を取り入れる。

 

『一夏!?』

 

「ん…?ふむ、良いのか?…解った。」

 

一夏を吹き飛ばすや否や、彼は耳に当たる所に指を充て、誰かと通信していた。

その隙に、明日奈は一夏を介抱し、和人は奴と2人の間に入る。

 

「お前達にクライアントが話したいそうだ。」

 

奴は余裕の口調で腕の端末を操作する。どうやら耳にイヤホンが付いているらしく、腕の端末で細かな操作をしているらしい。端末から1枚のプレートが展開され、発光。宙に仮想ディスプレイを映し出す。

そこに映し出された人物…。

 

『やぁ…久しぶりだねぇ。和人君、明日奈君…そして一夏君?』

 

ねっとりと、そして身の毛もよだつその声に、3人は目を見開いた。

忘れようものか。

そしてそんなはずはない。

だって奴は刑務所生活を満喫しているはず…!

 

「須郷…!」

 

「伸之…!」

 

髪をオールバックにして、普通なら知性を感じさせるような眼鏡を掛けた男…。

かつて、SAO事件の帰還者の一部の人間の意識を隔離し、VRを通した人体実験を行っていた男。

須郷伸之

彼が奴のクライアントだというのだ。

 

『んん~?どうして僕がシャバに居て、こうやってクライアントしてるかって?』

 

まるで心を読んだかのように、そして憎たらしく勝ち誇ったような笑みを浮かべて奴は顔をアップにする。

まだ表情筋がヒクヒクと痙攣している。

どうやらペインアブソーバーを切った事による後遺症はまだ残っているらしい。

 

『も、ち、ろ、ん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前達への復讐に決まってるだろうがぁっ!!』

 

音割れ不可避のフルシャウトが、病室に木霊した。

一夏も明日奈も和人も、思わぬ爆音声に耳を塞がざるを得ない。仮想空間に意識がある木綿季でさえ、向こうで耳を塞いでいる。唯一、彼の使いであるフードの男は微動だにしていない。

 

『…と言うのも1つの目的なワケだが…。』

 

先程のシャウトとは打って変わって、

須郷はズレた眼鏡をかけ直すと、落ち着いた口調でカメラから距離を取る。その落ち着きすぎた豹変具合が、逆に恐怖心を煽っていく。

 

『もう一つはね、僕が行っていた実験、それを完成させる為さ。』

 

「…実験?」

 

『黒の剣士サマなら知ってるだろ?僕がやっていた素ン晴らしい実験を!』

 

「仮想世界における意識に外的な要因を与え、意志や感情をコントロールする…反吐が出るような実験だ…!」

 

あまりの胸糞悪い内容に、口にしながら和人は顔を歪める。仮想世界を愛する一人の人間として、到底認めることが出来ない内容だった。

 

『そう!その通り!さすが英雄キリトだ!やりますねぇ!やりますやります!』

 

気持ちのこもらない乾いた拍手が、ディスプレイごしに木霊する。

 

『まぁ簡潔に言うと、だ。そこに【実験機】と【モルモット】が、まるでカモネギのように居るから、僕の研究のために持ってくるように指示したわけだ。』

 

「実験機…モルモット…?」

 

痛む身体を無理矢理起こし、須郷の言葉を噛み締めるように読み返す。奴の隠語に戸惑いながらも、一夏は1つの解に行き着く。

 

「…まさか…!」

 

『そう!そのまさか!そこにあるメディキュボイドと病人!それを貰っていくよ!』

 

奴の言葉が、何処までも、何処までも三人の神経を逆撫でしていく。

そしてここが、一夏と木綿季。2人の壮絶な運命の転機だった。




オベイロン様
降☆臨

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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