インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第71話『激闘の果て』

拝啓 生きてるか死んでいるか以前に、居るかどうか解らない父さん母さん

私の弟が人間の範疇を超え始めました。

 

脳内で、名も知らぬ両親に、とりあえず今の気持ちを綴ってみた。

目の前で、甲高い音を立てて銃弾を弾きながら距離を詰める一夏。もはや呆れを通り越して感嘆すら覚えてくる。

その剣の技量もさることながら、ここ最近のIS技術の向上も目覚ましい一夏。そして銃を差し引いても、彼に迫る実力で相対するのは、ISに触れて1週間の木綿季。

ISに乗り始めての1週間の一夏と言えば、イギリス代表候補生のセシリアとの一戦構えたのと同じ時期だ。あの時の一夏は、相手が慢心していたとは言え、あと一歩の所まで追い詰めていた。今の一夏は全力で闘うセシリアの技量に迫るほどにまで成長している。半年という期間ながら、ここまでの成長というのは著しいものだ。

対する木綿季。

僅か1週間で先述の一夏に迫る実力にまで上り詰めているのはもはや異常に近い。

更に言えば、初日にも行ったという模擬戦では一夏に勝利したと聞く。

 

(…磨けば…眩い光を放つダイヤモンドとなり得るのだろうな。)

 

願わくば。

この手で本格的に指導したいと思うのは贅沢だろうか。

だが、木綿季は今日を以て卒業。その想いは叶わないものだ。

本来、彼女の年齢を考えれば、半年後に入学する時期。しかしそれは…現実として訪れぬもの。

 

(それは…奇跡でも起こらねば、ありえんのだろうな。)

 

願うなら、その奇跡の先にある彼女の未来を見てみたいものだと、千冬は思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイアンサイト越しに迫る白が、銃弾で牽制する木綿季にプレッシャーを与えていた。

撃てども撃てども、その弾丸は雪片弐型に弾かれ、シールドエネルギーを減少させることはない。

チラリと画面端を見れば、マーゲイストライフの弾丸は残り1マガジン…即ち11発。

もはや正面からでは当たらないと判断したのか、マーゲイストライフを量子化し、リヒトメッサー1本を手に持つのみとする。

銃の牽制が止んだことで、一夏は一気にその距離を詰めて横薙ぎに払う。

しかし木綿季も伊達に仮想世界で絶剣と呼ばれたわけではない。迫る白刃に漆黒の刃を噛ませて、その勢いを見事に殺す。

 

『やっぱり…ボクはこっちの方がしっくりくる!』

 

「俺も同感だ。…やっぱり木綿季とは剣で切り結びたいって思ってた!」

 

『でも現実で銃弾弾きは流石に人間辞めてない!?』

 

「何言ってんだ。和人に出来て、俺に出来ない訳ないだろ?」

 

剣戟を結びながらの一夏の無茶苦茶なこじつけに、木綿季は顔を引きつらせる。

だがだからと言って攻勢を緩めてしまえば、瞬く間に畳みかけられてしまうだろう。

正直、優位に立てる射撃武器を封じられて、更にISでの経験が浅い以上、木綿季の勝ちはかなり薄くなった。

ここは近接でも強気で行かなければ。

 

『たぁぁぁっ!!』

 

木綿季の仮想世界への適応能力は一夏や和人を凌ぐ。その反応速度を生かし、高速の剣閃、それを極限までイメージした。

 

「うぉっ!?」

 

驚愕するその斬撃。若干攻撃力に重きを置いた雪片弐型では、軽量化して斬撃速度を求めたリヒトメッサーのそれを捌ききることは不可能だった。

現に捌ききれなかった一撃一撃は、確実に白式のシールドエネルギーを削って行っている。

 

(やっぱり…速いな…仮想世界も…現実も!)

 

だからこそこうして剣を交えるのが楽しくて仕方ないのだ。

木綿季の卒業試験であると言うことも忘れ、ただひたすらに目の前の強敵との闘いに打ち震える一夏。

そしてそれは木綿季も同様だった。

 

(当たりはしてる…けど、直撃コースだけは捌いてる…やっぱり一夏は凄いや!)

 

仮想世界の中で、目を爛々と輝かせる木綿季は、ただただ今のこの瞬間を最高に楽しんでいる。

デュエルもそうだが、ISでの闘いというのは、如何してこうも楽しいのだろうか?

いや、ISでの闘いにではない。

きっと一夏(イチカ)との闘い…ぶつかり合いが楽しいのだろう。

だからこそ…負けたくない。

ここでデュエルトーナメントでのリベンジを果たす!

 

剣戟を交える最中、紫天の左アームが一夏にボディブローを放つ。予期せぬ搦め手に一夏は反応しきれず、ものの見事に直撃を貰ってしまう。

ALOとは違い、現実世界はスキル云々は無しに、殴られればそれ相応のダメージが入る。剣による一撃ほどでは無いにせよ、それでもそこそこにシールドエネルギーが削られているのは事実だ。

 

「んなろっ!」

 

殴った次はミドルキックが放たれる。だがいつまでも良いようにさせるのも尺だ。

ミドルキックを敢えて受けると、その足を腋でガッチリ掴み、しっかりと挟み込む。

 

「木綿季、メリーゴーランドとかジェットコースターは好きか?」

 

『へ?うん。大好きだけど…もしかして、今度連れて行ってくれるの?』

 

「いや…。」

 

木綿季の期待を裏切るかのような否定。

だが一夏は何処までもさわやかな笑顔を浮かべていた。

 

「今すぐ両方体験させてやるよ!」

 

そのままなんと、一夏はその場で白式のブースターを吹かせて高速回転し始めた。さながらプロレスのジャイアントスイングのように。

 

『ぴゃぁぁぁあっ!?』

 

紫天と感覚がリンクしているというのがここで祟った。

ブォンブォンと豪快に振り回され、仮想世界でも遠心力が加わって、木綿季の頭髪は逆立ち、逆の重力が身体を突き抜け、振り回されることで頭がシェイクされる感覚が駆け抜けていく。

そしてシュール且つISでのジャイアントスイングという奇抜な光景に、観戦する千冬も唖然とするしかなかった。

 

「おぉぉぉぉっらっ!」

 

散々振り回して、その勢いのままに紫天を明後日の方向へ放り投げる。

白式のパワーアシストもあって、あっという間にアリーナの壁までかっ飛び、派手な轟音と砂塵を巻き上げて突っ込んだ。

何処かで、また修繕費が…予算が…と言う声が聞こえた気がするが、あくまで気がするだけである。

 

『いつつ……星が見えたスター…って…言ってる場合じゃないよね!』

 

ダメージを確認する暇もない。

目の前には零落白夜を展開して突っ込んでくる一夏が居るのだ。

飛び退けば、そこに重厚な刀身と、エネルギーを断ち切る光刃が深々とめり込んだ。

 

『たぁぁっ!』

 

その一夏の空振りを好機とばかりにリヒトメッサーを振り下ろす。

だが一夏は斬り返し、その刃を弾き返す。

流石に重さによるパワーでは負けるのか、軽く弾き飛ばされて、結果として木綿季は距離を取る事になる。

 

『うわ…シールドエネルギー半分切ってる…。』

 

あのジャイアントスイングが余程効いたのか、紫天のシールドエネルギーはあの一撃で3割ほど持って行かれていた。対する白式も、零落白夜の使用でそれなりにエネルギーを減少している。

 

(…エネルギー残量は互角…。どう攻めようかな…。)

 

スピードは勝てても、それを覆す一撃で弾かれてしまう。

何かしら逆転の一手が無ければ、このまま押し切られるだろう。

 

(やっぱり…勝ちたいな…)

 

今のところ、仮想世界での戦績は一勝一敗。現実世界は一勝。

ここは勝ち越して気持ちよく卒業したい。

その為には、やはり裏をかいて攻めを打ち立てるしかないだろう。

 

(…よし。)

 

やるからには、意表をつかなければ。

グッとリヒトメッサーを握り込む。

軽めの長剣だが、その振りの速さはやはりしっくりくる。

やれる、ボクと紫天なら。

だが、その為には繊細且つ大胆に勝利への道を導き出して行かなければならない。

 

(紫天、ボク達の最後のコンビ、勝って終わらせよう!)

 

物言わぬ相棒に語りかけながら、目の前の相手に集中する。

脳内に残る裏をかくための切り札は、やはりマーゲイストライフだろう。

残るワンマガジンを如何に有効活用するかが肝になる。そしてそれは、彼の意識からマーゲイストライフと言う存在を如何に逸らすかに掛かってくる。

如何に読まれず、そして悟らせないか。

ちょっとした心理戦となる駆け引きに、今までにない緊張が走る。

 

(よし…!)

 

心中の掛け声と共に、紫は閃光となり、白へと間合いを詰める。

派手な火花を散らして、白と黒の刃はその刃をぶつけ合った。だが、力その物は白式に軍配が上がるようで、リヒトメッサーの刀身ははじれてしまう。

しかし木綿季はそれを見越した上で、敢えて弾かれると共に、その勢いを乗せて身体を旋回し、大きな薙ぎ払いを打ち放つ。

 

『はぁぁぁぁっ!!!』

 

雪片弐型がその大きな薙ぎ払いを防ごうと身構えるも、軽量級のリヒトメッサーの刃からでは想像が付かないほどの重い一撃に、PICで踏ん張ることも出来ずに大きく後ずさりしてしまう。

大振りの一撃なら、立て直すのに多少の間隙が必要だろう。

だが紫天の攻撃挙動とリヒトメッサーの刀身、それぞれの軽さが噛み合って、その立て直し時間(ディレイ)は極々僅かなものだった。

 

(畳みかける!)

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、離れた間合いを一気に詰める。

今ならイケる!

目の前の一夏は、防御した反動で動けないハズだ。

そう思ったのが、大きな失態だった。

雪片弐型…その後ろにある一夏の眼。それを視界に入れた瞬間、背筋を走る悪寒に木綿季は支配されてしまった。

その悪寒が何なのかが解らない。だが、自身を貫くかのようなそれは、一瞬木綿季の攻撃タイミングを遅らせてしまった。

その一瞬

最有効打点がズレたことで、迫り来る木綿季の紫天の胴に、剣道の抜き胴の如く、一夏は切り抜けた。

腹部に走る鈍い痛み。

見遣れば紫天の胴体の装甲が痛々しくひしゃげている。

 

「終わりだぁっ!!」

 

背後から極光が差す。

見なくても解る。

零落白夜。

トドメと言わんばかりに、雪片弐型の刀身が展開してエネルギーブレードが迸る。

これを受ければ、さっきの抜き胴のダメージも合わさって終わるだろう。

 

(でも…)

 

だからといって、すんなりとそれを食らうほど、木綿季の諦めは良くは無かった。

刀身を突き刺さんと前方に構えた零落白夜。

その視線を向けることなく木綿季はその切っ先に向けて、()()を突き出した。

 

「っ!?」

 

マーゲイストライフ。

トドメに意識が向いてしまい、失念していたその武器。

ガン!

反応する間もなく、撃ち出された弾丸。

その軌道は螺旋を描きながら、突き出された雪片弐型…その零落白夜の射出光へと吸い込まれていく。

 

瞬間、

 

その零落白夜というエネルギーの奔流を生み出すその機構に比例し、白式を大きく吹き飛ばすほどの爆風を伴って爆ぜた。

 

「くそっ!」

 

吹き飛ばされて体勢を立て直す一夏。だが、その間隙を与えることは無く、一夏は何かによって吹き飛ばされる。

正面のハイパーセンサー一杯に映るのは紫天の装甲。

その所々が煤こけて、雪片弐型の爆炎を突っ切って来たのが見て取れる。

その紫天が組み付き、そのブーストを生かして一夏を押しやってくる。

 

『やぁぁぁぁっ!!』

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かし、その高度を速度そのままに、地面に向かって一直線に突き進む。

 

「がぁっ!?」

 

背中から、とんでもない衝撃が一夏の身体を突き抜けた。

瞬時加速の速度で地面に叩き付けられたのだから当然だ。

しかし、絶対防御とシールドエネルギーが無ければ、ミンチより酷い物になっていただろう。

 

「っつぅ…!」

 

痛みに耐えながら、目を見開く。

ガチャ…

その目先には、黒光りする大型拳銃であるマーゲイストライフの銃口。

それを紫天が一夏に馬乗りで跨がり、突きつけていたのだ。

 

「り、リザイン…。」

 

最早この状況を覆す等という芸当を出来るほど、一夏は人間を辞めていない。

雪片弐型を喪い、シールドエネルギーは2割。

その状況で頭部に撃ち込まれれば、瞬く間にシールドエネルギーは枯渇し、結果は変わらないだろう。

 

『白式、操縦者のギブアップで、紫天の勝利。』

 

木綿季の卒業は、激闘の末にもぎ取った勝利で彩られることとなった。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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