インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第66話『気持ちのケジメ』

「はぁ……はぁ……!」

 

『ふぅ……ふぅ……!』

 

もう剣を振るえない。

いや、それどころか立ち上がる気力も無い。

アリーナの特殊合金に覆われた床に大の字になって寝転ぶ一夏と仮想世界から紫天を身に纏った木綿季は整息しながら、ここまでの模擬戦三連戦を振り返る。

簡単に言えば…全ての模擬戦に勝利した。

僅差ではあったが、初めてISで組んだにもかかわらず、2人は高度な連携によって並み居る面々を打ち破ったのだ。

 

「な、何という…。」

 

「ま、まさかボク達相手に三連戦で勝っちゃうなんて思いもしなかった。」

 

油断したつもりもない。

むしろ叩き潰すくらいの勢いで気持ちを乗せた攻撃だった。

武装もフルに使い、第3世代組は単一仕様(ワンオフアビリティー)をも酷使してぶつかった。

だが、2人はそれを上回って見せたのだ。

 

「…へへ……やったな、木綿季。」

 

『うん、やったね、一夏。』

 

互いの拳をコツンとかち合わせ、勝利の喜びを分かち合う。

そんな一夏の笑顔は、今までに見たことのないほどの眩しく、そして明るい物だった。

そして、改めて感じた。

自分達の恋は、やはり終わっていたのだ、と。

 

「………みんな。」

 

そんな彼女等の気を察してか、一夏はその身を起こして悲痛な面持ちで見詰める。

全力での模擬戦を通して、ひしひしと伝わってきた。

どれほど彼女達が自身を想ってくれていたのか。

そしてそれに気付かなかった自身の不甲斐なさを。

 

「その…なんて言うかさ…」

 

「言うな、嫁よ。」

 

言葉を探る一夏を遮ったのは、ラウラだった。

 

「我々とて、お前にどうのこうの言われたくて挑んだわけではない。ただ、知って欲しかったのだ。…どれだけ想っていたのかを。」

 

「ラウラ…」

 

「そんなわけだから…これで私達の片想いはお終い。」

 

「うむ…痼りがないと言えば嘘になるが、それでもお前に私達の気持ちを知ってもらえたなら、それはそれで重畳と言うものだ。」

 

「木綿季。」

 

『何?鈴。』

 

「このアタシが…アタシ達が身を退いたの。だから…何が何でも幸せになりなさい。…じゃないと、許してあげないんだから。」

 

『…うん。ありがと。』

 

鈴からしてみれば、一夏が選んだ木綿季が幸せになって欲しいのは紛れもない本心。だからこそ、鈴はこの言葉を選んだ。

敢えて…木綿季の病気に目を伏せて。

 

「ふう…久々に激しい運動になったから汗だくだよ。…じゃあ一夏。ボク達はシャワー浴びてくるからさ。先に出るよ?」

 

「おう…ありがとな、みんな。」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒはクールに去るさ…。」

 

「??ラウラさんはいつもクールなのではなくて?」

 

「…そうなのか?自覚は無いぞ?」

 

「スピードワゴンの台詞…。何となく今の私達に合ってる台詞、かもね。」

 

談笑しながらアリーナを後にする彼女等の表情は、何処か晴れやかでスッキリしたものだった。

出来る限り、後腐れ無いように思いっきりぶつかってきたのだ。色々発散できたのだろう。

一夏の鈍さに対するフラストレーションとか、

一夏の鈍さに対するフラストレーションとか、

一夏の鈍さに対するフラストレーションとか、そういったものを。

 

『…幸せに、か。』

 

「木綿季?」

 

『ボク、幸せにならなきゃ、ね。病気なんかに…負けらんないや。』

 

「…そうだな。その意気だ。病は気から、なんだからさ。」

 

『よぉし!じゃあ一夏!気合い入れて超ソッコーで宿題終わらせて、シオンと飛行訓練だよ!』

 

「え?…あの、休憩は…?」

 

『気合いでカバー!一夏!ボクを幸せにしてくれるって言ったよね?ぬるま湯なんかに浸かってちゃダメだよ一夏!』

 

「あの、木綿季さん?」

 

『一生懸命生きていれば、不思議なことに疲れないって、ある人が言ってたよ!』

 

「修〇じゃねぇか…。」

 

暑苦しい木綿季に半ば呆れながらも、一夏は深呼吸一回。よしっ!と気合いを入れる一言を吐き出す。

 

「じゃあ、一丁やってやるか!」

 

『おぉ!いいねぇ一夏!』

 

「木綿季も頑張れよ?」

 

『へ?ボクも?』

 

「今の木綿季はIS学園一年一組、これは解るな?」

 

『う、うん。』

 

「同じクラスの俺が宿題を受けている。他のクラスメイトもな。ってことは、わかるよな?」

 

『ん?んん?』

 

嫌な予感がする。

そう、今の心境は夏休み最終日8月31日に何か忘れてるな~と言う感覚に酷似している。

 

「木綿季も宿題が出てる、はっきりわかんだね。」

 

『え?えぇっ!?』

 

「当たり前だよなぁ?」

 

『えと…ふぇあっ!?』

 

混乱して訳のわからない悲鳴を上げる木綿季。

宿題という言葉に懐かしくも嫌な響きを感じていた。

 

「入って早々の宿題は勘弁しようって千冬姉が言ってたけど、週明けだからそろそろ出すってさ。データ形式で良いから提出しろって。」

 

『おぅふ……。』

 

「じゃ、お互い頑張ろうぜ。」

 

爽やかにエールを送り、更衣室に向かう一夏。普通なら、恋人になったばかりというフィルターもあって、心が躍るものなのだろうが、今の木綿季には恨めしい以外の何物でも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

「うぁ~………。」

 

ALO ロンバール宿屋の一室。

データ形式で送られてきた宿題のファイルを開いて、ユウキは頭を抱えた。

未だ追いつき切れていない彼女は、シャルロットや一夏と言ったアドバイスや解説をしてくれる人が居ない今の状況で宿題を進めると言うことが難儀なものだった。

 

「もうダメだ…おしまいだぁ…」

 

(諦めんなよ、お前!!)

 

「ふぁっ!?」

 

突然脳内に響いた暑苦しい声に、ユウキは飛び起きて周囲を見回す。しかし、この部屋にはユウキ1人しかおらず、誰も男性はいない。

 

「…おかしいなぁ…。」

 

(どうしてそこでやめるんだ、そこで!!もう少し頑張ってみろよ!)

 

「え?あ?ほぁぁ!?誰!?」

 

(ダメダメダメ!諦めたら!周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと、思ってみろって!あともうちょっとのところなんだから!)

 

なぜだろう。混乱する中でも、頭に響く彼?の声が心に響き、その胸で鳴りを潜めていた闘志に火をくべてくれる。

 

(本気になれば自分が変わる!本気になれば全てが変わる!!)

 

「そうだ。ボクは本気なんだ!いつだって、どんなときだって!だから…」

 

(だから…)

 

「(もっと熱くなれよ(んだよ)ぉぉ!!)」

 

シンクロした。

燃え尽きる。その時まで!

最後の一秒まで!

ボクは…命を燃やすんだ!

 

(もっと熱くなれよ…!!熱い血燃やしてけよ…!!人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ!)

 

まさに目から鱗が落ちると言う言葉がこれ程しっくりくることはない。

その闘志にイデの如く無現力を蓄えたユウキに、もはや怖いものは千冬以外にない!

 

「ボクは…熱くなる!!」

 

ペンを手に取り、ユウキは心を燃やす。

挑戦者ユウキのその道のりは、始まったばかりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりダメかも…。」

 

数分もしない内に、再びユウキは突っ伏した。

いくらやる気があっても、闘志をいくら燃やしても、問題の解き方が解らなければ意味が無いのだ。

 

「…なに、してるんですか?」

 

「ふぉあ?」

 

もはや精神的ダメージが半端ないユウキが、先程の男性の声の幻聴以外の声に、その主のほうを見上げる。

 

「シオン?」

 

「ログインしてみたら、いきなり机に伏せてるんですから、驚きもします。…それで?どうかしたんですか?」

 

「へ?あぁ、いや…宿題してたんだけど、わかんなくて…。」

 

「宿題、ですか?」

 

「あ、気にしないで!ボクが何とかしなきゃダメなんだ。ちゃちゃっと終わらせるから、シオンは待っててよ。」

 

「…この数式には公式を当てはめて計算しないとダメです。」

 

「ヘァッ!?」

 

「その公式は…こうなりますので、そこにこの設問の数式を…」

 

スラスラと解いていくシオンに、ユウキは目を丸くする。

明らかに年下の彼女が、自身の知り得ない数学の問題を、難なく答えていくのだから。

普通なら、彼女の言う公式やら解き方が正解なのかと疑惑が浮かぶだろうが、不思議とそういったものは浮かばず、正解なのだという確信めいたものがあった。

 

「…ですので、この設問の解はこうなります……あの、大丈夫ですか?」

 

「あ…うん、だいじょぶ…肉体的には。」

 

「…やはり少し休んだ方がよいのでは?」

 

「い、いいよ、気にしないで。よし!シオンっていう強い味方が出来たんだ!頑張るぞぉ!」

 

「―私でよいのなら、微力ながら助力します。」

 

水を得た魚とはこの事か。シオンが的確なアドバイスをくれるお陰で、ユウキは問題を難なく解いていく。公式が解ればこちらのもの。新しい公式はシオンが再び教えてくれる。

とても心強い。

頭がクリアになる。

こんな気持ちで勉強するなんて初めて。

 

(もう何もーー怖くない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…ユウキの奴、頑張ったんだな。」

 

「勿論です。」

 

「というか、シオンもよくこの問題の公式を知ってたな。高校レベルだぞ?」

 

「………。リアルの年齢についての検索はタブーであると記憶してますけど?」

 

「そりゃまぁ…そうなんだけどさ。」

 

ユウキが勉強を始めて数時間後。

夕食や入浴、宿題を済ませたイチカがログインしてみれば、机に突っ伏して眠るユウキ。

その傍らには、シオンが姿勢をきちっとして座り、微動だにしていなかった。

シオンに尋ねれば、宿題を集中して終えたら眠ってしまったと。

それは仕方ないか。

なんせALOにログインする前には、代表候補生との三連戦を済ませたのだから。

流石にそれで疲れるのは無理はない。

ユウキの解いた宿題のデータベースを覗けば、見事なまでに全問正解だった。

 

「お疲れさまだったな、ユウキ。」

 

少しくらい休ませてやらないと、明日の授業にも支障が出るだろう。

ベッドサイドにたたんであった毛布をユウキの肩に掛けてやる。

身動ぎするが、それも一瞬。再び夢の世界へと旅立つ。

しかし、こうなってしまってはイチカは手持ち無沙汰になる。話し相手がいるとすればシオンが居るが…。

 

「ユウキが寝てる間、俺と飛行練習するか?」

 

「結構です。私はユウキに教えて貰うと約束しましたので。」

 

取り付く島もないとはこの事か。

素っ気なくあしらわれてしまい、どうしたものかと悩みながら、イチカは一旦部屋をあとにした。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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