インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
今日は何かがおかしい。
休み時間になって一夏が思ったことはこれだった。
大体休み時間になれば、箒やセシリア、シャルロットやラウラ、時々鈴や簪、稀に楯無が絡んでくるはずなのだが、今日は朝から彼女らがこれと言って良いほど話し掛けてこない。明日隕石でも来るんじゃないのかと思いかねないほどに静かだ。
「木綿季…なんか静かすぎないか?」
『ん~、そだね。確かに違和感あるかも…。』
木綿季も何かしら感付いていたらしく、今のこの状況に対して疑問を抱いているようだ。
どうにも変な感じが拭えない一夏は立ち上がり、談笑しているシャルロットとラウラの下へ向かう。
「なぁシャル、ラウラ。」
名前を呼んだ瞬間、ビクリと身体を震わせた。
まるで話し掛けられるはずもない人から話し掛けられて、驚いたと言わんばかりに。
「な、なにかな一夏。」
「いや…何かさ、二人もそうだけど、皆今日は話し掛けてこないなぁって思って。」
「わ、私達も、所謂がーるずとーく…とやらをしたいときもある。故にそういう日もあるだろう。」
「そんなもん、なのか?」
「あぁ!もちろんそんなもんだとも!」
「だ、だから一夏、悪いんだけど。」
「あ、あぁ…。悪かったな。」
どうにもこうにも取り付く島もないというのか、少しよそよそしく返されてしまう。
それならばと予習している箒とセシリアに近付けば、そそくさと視線を逸らされてしまう。
「えっと…」
「す、すまぬな一夏。今は予習に集中したいのだ。」
「えぇ、決して箒さんの中間テストの結果が悪くて勉強を教えてるわけではないですわ。オルコット家の名にかけて、それは違うと断言いたします。」
何も言ってないのに、家名を賭して勉強の理由を垂れ流すセシリアに、箒は頭を抱えて机に突っ伏した。あの様子を見るに、余程ヤバい点数だったのだろう。これは邪魔しちゃ悪い。
「その…箒、頑張ってな。」
「うむ…。」
「そんなわけで一夏さん、私たちは勉学で忙しいですので、談笑は時間を改めて致しましょう。」
やはりおかしい。こういう時、2人なら一緒に勉強をしようとか言って誘ってくるのに、今日はそれがない。シャルやラウラと同じく、何処かしら余所余所しく、距離を感じてしまう。
ふと廊下に目をやれば、恐らくトイレに行っていたであろう鈴と目が合った。瞬間、目をそらしてそそくさと二組の教室で足早に戻っていく。
俺、何かしたのか?
そんな疑問が頭に過る。
『一昨日は普通に受け答えしてたよね~。昨日何かあったのかな?』
「う~ん…昨日は皆と出会わなかったし、俺達はデュエルトーナメントで一日フルダイブしてたからな。」
『そういえば、皆はデュエルトーナメントをネット中継で見てたんだよね?』
「そうだな。今日はその話題で話し掛けてくるかなって思ってたけど…。」
『……あっ(察し)』
「ん?何か気付いたのか?」
『な、何でもないよ!何でも!』
一夏よりはマシな感性を持つ木綿季は気付いてしまった。
彼女らが好意を寄せている一夏、そんな彼と、見るように勧めたALOデュエルトーナメントの中で恋人になってしまったことに。
デュエル中のやり取りや準決勝後の告白は、撮影や音声を拾っていないだろうから置いとくとしても、表彰式のユウキが行った『イチカはボクの恋人宣言』はネットを通して全国に放映されたことになる。
その事の重大さに気付いた木綿季は、穴があったら入りたい恥ずかしさがこみ上げてきたのだ、今更ながら。
そして何となく木綿季は、一夏がIS学園で多数の女子から好意を寄せられていることに気付いていた。その少女達に見せ付けるように宣ってしまったのだ。
ボクが
イチカの
恋人だ
と。
彼女らの余所余所しさがそこから来るものだと確信めいた物を感じたからこそ、木綿季は口をつぐんでしまった。
ボクは、皆の恋心を無為にしてしまった、と。
以前の木綿季なら、彼女らの思いを尊重して身を退いていただろう。
しかし、今の彼女は完全に吹っ切っている。一夏の恋人だと堂々と(無い)胸を張って言える。
だからこそ問われれば返すだろう。
ボクは一夏の恋人なんだ、と。
その上で、謝るなり罵倒を聞くなりすればいい。
そんな想いも受け止めなければ、彼の恋人などと宣えるものか。
「よし!では皆の者、席に着け!」
チャイムが鳴ったことで、鬼教師が教鞭を振るい始める。
切り替えよう。
今は授業に集中しないと。
だが近々、彼女達としっかりと話さなければならない。それが…彼女達へのケジメともなるのだから…。
「ちょっと良いか。」
その時は意外と早く来た。
放課後、向こうから話し掛けてきた。
箒である。
その後ろには、一夏に好意を寄せていた箒以下6名が勢揃いしていた。
「一夏、木綿季。今日は2人とも一緒に訓練…いや…。」
言い直す。
取り繕っても仕方が無い。
これは、彼女達のゴールでありスタート。
木綿季にとっては、一つのケジメ。
「木綿季、一夏、私達と…模擬戦をしてくれないか?」
「模擬戦?…俺と木綿季ってことは……タッグマッチで良いのか?」
「それで良いわよ。アタシ達も2人ずつで組んで闘うから。」
「私達、是非ともお二人と闘ってみたい。そう思いまして。」
「そうだな…タッグマッチって長い間してなかったしな。俺は良いけど…木綿季は?」
『………。』
ここで木綿季は一考する。
よもや向こうから持ちかけてくるとは思わなかった。
正直まだ慣れないISでの闘いは自信が無い。
だが勝っても負けても、闘って彼女達へのケジメを付けるのが筋と言うものだろう。
そして、解って貰う必要がある。
どれだけ真剣なのか。
どれくらい好きなのか。
ぶつかってみなくちゃ…わからないのだから。
意地があんだよ!女の子には!!
『うん、良いよ。やろう、模擬戦。』
その声は、普段の人懐っこさはなりを潜め、ボスに挑む前のシリアスな雰囲気を感じさせるものだ。
木綿季のその様変わりした様相に意図を感じてくれたと察した面々は、真剣な笑みを浮かべる。
「感謝するぞ、木綿季。私達は先にアリーナへ向かっている。」
そぞろと連れ立って教室から去る6人は、もはや戦場に向かう戦士の如き様相を呈しており、その異様な佇まいに、あののほほんさんですら表情を引きつらせていた。その中に自身の仕える簪が居たのだから余計のことだろう。
「いいのか?木綿季。」
『…うん。これが、ボクが…ううん、一夏、ボクとキミとでやらなきゃならないことなんだ。』
「お、俺もか?」
『じゃなきゃ、皆にシツレイに値するからね。…覚悟した方が良いよ一夏。今日の皆、凄く強いよ…きっと。』
「マジか…。」
がっくり項垂れる彼のその様子から察するに、全く彼女達からの好意に気付いていないようだ。
…一度、一夏は皆にボッコボコにされた方が良いのかも知れない。
普段からそうされていたとはつゆ知らず、木綿季は密かにそんな思いが過った。
第三アリーナ
都合良く貸し切り状態となったここで、2人と6人はその身にISスーツ、木綿季はISにプローブを装着し相対する。
「一夏と木綿季には、ボク達2人ずつとタッグ戦をして欲しい。勿論、シールドエネルギーはインターバルで回復して、休憩もしても構わないよ。」
「今日で全員とやるのか?少しキツくないか?」
「出来るなら今日中が良い…。じゃないと…こっちの気持ちが切れるかもしれないから。」
どれだけ極限状態なのだろうか。
だが彼女らのその眼差しは、正に真剣その物のように研ぎ澄まされ、そして鋭い。
何があったのかは(約一名は)さっぱり解らないが、それでも気合いを入れなければ瞬く間に畳みかけられかねない。
「やるからには、本腰入れないとマズそうだな。」
『当然だよ…それだけ皆の想いは真剣で…本気なんだ。』
「…木綿季は、皆が何でこんなに気合いが入ってるか知ってるのか?」
『…うん、大体は。』
「なんで教えてくれないんだよ?」
『それは…多分この模擬戦を通して、皆が伝えてくれると思うよ。…そして、一夏とボクは…それを受け止めなきゃならない。』
いつになく声のトーンが低い木綿季。それ程までに深刻な案件なのかと、流石の鈍感一夏も察したのか、胸の鼓動が高まる。
ここにきて、漸く箒達の『気』に当てられたのだ。
高まる緊張と気持ちが、一夏の意識を研ぎ澄ませていく。
「…よし、…やるか、木綿季!」
『うん!』
受け止めよう、皆の気持ちを、言葉を。
そしてボク達は進もう。2人の道を。
6人の少女達。
彼女達の初恋、その終止符を打つための模擬戦が、ここで始まろうとしていた。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。