インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第5話『猛反、謝罪、罰ゲーム!』

22層に存在する、キリトとアスナのマイホームである木目のログハウス

 

パチパチと暖炉で薪がくべられ、それに相まって木の色味が暖かな空間を醸し出すリビングの中で。

その一角では、まさしく絶対零度と言わんばかりに冷え切った空間があった。

ギザギザの鉄板の上には、インプの少年が縄で縛られ、正座を強要された姿勢で座って…いや、座らされており、それを見下ろす女性陣の冷たい視線が彼を射貫くように向けられていた。

 

「イチカ君。」

 

「…はい。」

 

「申し開きはあるかしら?」

 

「答弁の余地があるのなら、事故であると俺は言いたいです。」

 

「事故で済んだら、警察も要らないし、この世界にハラスメントコードや黒鉄宮も要らないんだけど?」

 

「ぐうの音も出ません。」

 

「イイイイイイイチカさん!曲がりなりにも、女の子と、そそそそその…キッキキキスと言うのは、そ、その…どうかと思います!」

 

「ま、全くよ!お、女の子の唇ってのは、そう安くないんだから!その辺り、肝に銘じなさい!」

 

「え……男の唇って簡単に奪われても良いの?俺、一度同級生にされたんだけど…それも深いの。」

 

「ふふふふふふかいのって!?わ、私ですらキリト君とまだしてないのに!?」

 

「ざっけんじゃないわよ!…どうやらオリハルコン製の猛反鉄板だけじゃ足りなかったようねぇ?」

 

「え?何?リズ!?その瓦みたいに何個も持ってる鉄の塊みたいなのは…!?」

 

「うっさい!ミスリル製の重しを追加よ!!」

 

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 

膝の上に超重量の鉄塊が乗せられたことで、弱点である脛に、ギザギザとした鉄板がメリメリと食い込んで、左頬に再び鮮やかな色合いの大きな紅葉を付けられたイチカの精神を蝕んでいく。

 

「あ、あんたねぇ!IS学園って女の子だらけのとこ行って、そんでキスされた!?ちょっ!ふしだらよ!」

 

「うぅ……結婚してるのに…キリト君にして貰ってないのにぃ…!」

 

「な、なんでアスナさんがダメージ受けてるんですか!?」

 

「き、キリト君!キス!キスしよう!深い奴!!」

 

「待てアスナ早まるな!!こんな流れでするもんじゃないぞ!?」

 

「パパ、ママ、キスと言うのは、互いの愛情表現ですよ?愛情と言う物は深いに越したことありません。ですから、深い愛情を示すためにも、ここはママの要望を…」

 

「待て!待つんだユイ!それは少しおかしいだろ!」

 

もはや暴走するアスナを止められる者はいない。ぐるぐると錯乱した目つきでキリトに迫る彼女は、下手をすれば今日のユウキを越えるほどのものだろう。そしてそんな彼女を止められる人間は、誰にも、ましてやキリトですら無理だった。

 

「でもまぁ…あのユウキって子、イチカを引っぱたいた後、エラい速度で飛んでいったわね…。ファーストキスだったのかしら?」

 

「でも仮想世界の話だろ?現実でキスされたわけじゃ…」

 

キリトの言葉に、その場に居た女性陣のヘイトが、イチカからキリトへと一斉に向けられる。

 

「ひっ!?」

 

「き、キリト君…?も、もしかしてそんなこと考えてたの!?」

 

「お、女の子にとってはキスその物が大きな問題なのよ!?それをアンタは…!」

 

「さ、サイテーですキリトさん!」

 

「おにーちゃん…アタシ、妹として恥ずかしいんだけど。」

 

非難囂々、ギャアギャアと責め立てられるキリトは、その剣幕に部屋の隅へと追いやられ、さらにはプレイヤーによるブロックによって抜け出すことが不可能となっている。

 

「…どうして俺の周りの女の子って、こう…強いんだろなぁ…お?」

 

リアルでの自身を取り巻く環境と重ね合わせ、ちょっとしたデジャヴを感じていたイチカの目の前に、メッセージ受信のエフェクトが表示される。

差出人が表示されていない、と言うことは、フレンドや運営以外からのメールと言うことになる。だが、キリトに説教しまくる女性陣にメッセージが届いていない、と言うことは運営からと言う可能性は限りなく低くなる。

…誰からだろう。

直ぐに開封したい。

でも両手足は縛られているし、何より痛いし。

でも気になる。

開封しなきゃならない気持ちが後押しし、怖ず怖ずと恐怖を乗り越えてイチカは声を挙げる。

 

「あの、さ。メッセージ届いたんだけど…開けてもいい…ですか?」

 

何故か敬語になってしまったのは、声を出した瞬間に、まさしく三白眼と言わんばかりの白い目で睨まれ、それに押されてしまったからである。

 

「メッセージ?」

 

「お、おう…差出人がわからねぇってことは、フレンド以外だと思うんだけど…。」

 

「ふーん。…じゃあ仕方ないわ。手だけ解いてあげる。…読んだらまた縛るけど。」

 

「り、了解です。」

 

とりあえず両手が自由になれた、と言うのはありがたいもので、リズベットの手によって両手を縛る縄がほどかれ、ホッと一息ついて縛られた縄跡を摩りながら、指をスライドさせてストレージを開く。慣れた手つきでメッセージ受信画面を呼び出すと、差出人の名前を見て目を見開く。即座にメッセージを開くと、その内容を読み終えてイチカは、眼差しを何時もの柔らかなものではなく真剣なそれで言った。

 

「すいません、縄、解いて貰ってもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕陽がアインクラッドを照らし、夜の世界を迎えようとする。

現実世界とリンクしているから、向こうでもそろそろ夕食時なのだろう。

27層の湖にある小島の巨木の傍らに立って、徐々に沈み行く夕日を眺めながら、少女は一日の終わりを眺めていた。

その顔は夕日に照らされてか、若しくは別の理由でだろうかはわからないが、深紅に染まっており、そんな彼女の長い紫色の髪を、夕方特有の涼しげな風がそっと靡かせる。

 

「メッセージ…送ったけど…来て、くれるかな?」

 

来ないかも知れない。

そんな不安が、彼女の胸を締め付ける。

もしかしたら…怒っているのかも知れない。

あの時も、さっきも。

激情に身を任せてしまったけど、冷静になったら事故だったのも理解できる。だからこそ…それを向こうは怒っていて…相手にしてくれないかもしれない。

もう…出会っても、話せないかも知れない。

もう…デュエルしてくれないかも知れない。

…そう思うと、どうしようもない孤独感が襲い来て、何処か心にぽっかりと、空虚なまでに大きな穴を開けてしまっていく。

 

「あれ…?なんでボク…泣いてるの?」

 

いつの間にか溢れ出た涙が、頬をつうっと伝い落ちたことで、ようやく自分が泣いていることに気付いた。

知り合って…もっと接していたい、もっと知りたい。そんな相手とで会えたのに、直ぐに別れ…。

彼女は、とある事情から誰かと必要以上に親しくなるつもりはない。だが…この矛盾する思いを如何することも出来ないのも事実で、歯痒い想いが彼女の涙を後押ししていく。

 

「…泣いてんのか?」

 

「へ…?」

 

突如として、背後からの声にピクリと肩を跳ねさせて、ゆっくりと…ユウキは振り返った。

辿り着いたばかりなのか、飛行用に広げたインプ特有の翅はそのまま。しかしその顔には驚きと不安が見え隠れしている。

 

「イチカ…?」

 

「来てほしいって…メッセージ送ってきたから…さ。来たわけだけど…その…大丈夫か?」

 

「へ……?あ、う、うん…、その…だいじょぶ…だよ。」

 

急いでぐしぐしと衣服の袖で、目元に未だ溜まる涙を拭うと、ニコリと笑顔を浮かべる。

しかし、その顔は…何処か取って付けたかのような作り笑いに見えて仕方がない。

 

「その…呼び出した理由なんだけど…ね?」

 

「いや、ちょっと待ってくれ。俺も、さ、話したかった…言わなきゃならないことがあるんだ。」

 

そう言うや否や、イチカは勢いよく頭を下ろし、腰を曲げ、まさしく見事な90°の向きまで身体を傾けた。

 

「ちょっ…イチカ!?」

 

「ごめんユウキ!今日のこと…結局一度も謝れなかった!だからここで謝る!ごめん!」

 

「イチカ…。」

 

悲痛とも言えるまでに…必死の謝罪だった。

実のところ…ユウキの方から謝りたかったのだが先を越されてしまい、どうにもバツが悪そうに視線を散らしてしてしまう。

一度目はともかく、二度目はイチカに過失はなく、事故であったことは明白だ。結果としてあぁなったわけであり、望んでキスをしてしまったわけでもないのも確か。だからこそ、ユウキも謝りたかった。どちらが悪いというわけでもないのに、自身が一方的に叩いてしまったのだから…。

 

「イチカ。」

 

「は、はいっ!」

 

「な、なんで敬語なのさ…。……ボクの方も、ごめんね?キスの件は…イチカが悪いわけじゃないのに…叩いちゃって…。」

 

「い、いや、あれは俺が倒れなきゃユウキを巻き込まずに済んだんだよ。だから…俺が切っ掛けだったことに代わりは無いんだ。」

 

「それを言ったら、デュエルを挑んだのはボクだよ?」

 

「むむむ……。」

 

頭を上げ、納得のいかない、そんな苦虫をかみつぶしたようなイチカの表情に、ユウキは口許を抑えてくっくと笑う。

 

「じゃあさ、ボクもイチカも、どっちも悪かった。それで良いんじゃないかな?」

 

「ユウキは…それで良いのか?」

 

「うん、でないとイチカの気も済まないし、ボクの気も済まない。これが妥協案だと思うよ。」

 

「そういう…ものなのか?」

 

「あ~!これでもまだ納得いかないって感じだね?」

 

「そりゃまあ、な。一回目の件も、謝罪できてなかったんだから。」

 

「強情だなぁイチカは。」

 

呆れながらも、自然と笑みが浮かんでしまう。しかし、笑われるのが嫌なのか、イチカはムスッとふて腐れてしまった。

 

「じゃあ…どうしても納得いかないっていうイチカに、ボクからバツを与えるってのでどう?」

 

「バツ?」

 

「そっ!所謂罰ゲームだね。…どうかな?」

 

正直、ユウキの言う罰ゲームとやらがどんな内容かはわからないが、何かしらの罰をユウキに与えて貰わなければ納得がいかないイチカはこれを承諾する。

 

「…あぁ、いいぜ。それなら出来るぞ。」

 

「えへへ、やった!どんな罰にしようかな~?あれが良いかな~?それともこっちにしようかな~?」

 

あれやこれやと罰を企てるユウキは、その種族による見た目から、イチカからしてみればまさしく小悪魔のように見えた。

少し軽率だっただろうか…。

 

「じゃあさ!明日…イチカは暇だったりする?」

 

「明日、か…学校だから午後4時位からなら…空いてるぞ。」

 

「そっか…学校…か…。」

 

「ユウキ…?」

 

さっきの高いテンションから一変、突如として気落ちしたかのように見えるユウキに、イチカは先程とは違った意味で不安を覚える。

 

「ん、何でも無いっ!じゃあ明日の4時半にここへ来てよ!そこでボクからの罰ゲームを言っちゃうからさ。」

 

「お、おう…わかった…。」

 

「それじゃ、ボクはそろそろ落ちるね!約束だよ!イチカ!」

 

そう言うだけ言って、ユウキは翅を広げて小島を飛び立っていった。

一人残されたイチカは、彼女の考える罰ゲームにゲンナリしながらも、一つの引っかかりが気になっていた。

学校という単語に、妙に反応した。

それが…イチカの頭から異様に離れず、その日のALOでの活動を終えるに至った。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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