インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
引き分け
同時優勝
その言葉に当事者の2人は呆然としていた。
いや、それが何処か遠い世界の言葉のように聞こえた。
全力で戦ったその反動なのか、座り込んだまま、演出による花吹雪を眺めていた。大歓声すら右から左へと抜けて行くだけ。
「優勝者とは思えぬ負抜けっぷりだな。」
「でも、それだけの激闘だったから、大目に見てあげて欲しい。」
低くも凛とした声と、昂揚の低い声に我を取り戻したようで、見上げれば自身らを応援していた皆と共にオウカとシロが2人を見下ろしていた。その顔には呆れやら何やらがない交ぜになって眉をハの字にしている。
「ほら、優勝したんだから、もっと堂々としてないと!」
「そうだよ!笑顔だよ!笑顔!」
それぞれの想い人がそれぞれの脇を抱えて立てせて、その手を握って天高く掲げる。
大歓声に応えるそのパフォーマンスは、より一層観客のボルテージを上げるには十分なものだった。
『えー、何やら観客の方々が乱入して来られましたが、ここは演出上オッケーと致しましょう!ちょうど主役も揃ってることですし、それではこれより!閉会式及び表彰式を執り行いたいと思います!!
先ずは第3位!!準決勝で、イチカ選手と息を呑むような激闘を繰り広げてくれたユウキ選手!!!』
「え?ぼ、ボク?3位決定戦してないよ!?」
『それについては「私から説明しよう!!」あぁっ!?マイクゥ!!』
やはりフリーダム。ブシドーがどこぞより現れ、実況者のマイクをかっ攫う。実況者が抗議しているが、やはりそこはブシドー。全く気にせずである。
「私が棄権したからに他ならない!!」
「えっと…敢えて聞かせて貰うけど…なんで?」
「ふっ…愚問だな。私は女性を斬る刃を持ち合わせてはいないのだよ。」
よもやここでフェミニスト宣言か?と思われたが、無論そんなわけ無い。
「私が攻めるのは少年、否!少年のような青年と決まっている!故にキミとの果たし合いは興が乗らん!」
「えぇ~…。」
「望むべくはイチカ少年!キリト少年もさることながら、キミとの熱い逢瀬をも私は所望する!否!キミの存在を所望する!」
「断固辞退します。」
「邪険にあしらわれるとは!?ならばキミの視線を釘付けに…!」
ブシドーがふしぎなおどりを踊り始める。なぜか見る見るMPが下がっていく中、彼の首元に剣先を突きつける存在が現れる。
「ブシドーさん?」
「何かね?少女。」
「イチカはボクの恋人なんだから…盗ったり狙ったりしたら………
わかるよね?」
ぞわり!
彼女を中心として途轍もない威圧感を周囲に放たれた。
そう、それはまるで、自身の恋人を狙う輩に強烈な牽制を掛けるかのように。特にイチカに恋心を寄せていた女性プレイヤーはしめやかに失禁。後にユウキ・リアリティーショックと呼ばれる症状を引き起こした。
「フッ…!キミは正に阿修羅すら凌駕するのだな。面白い。ユウキ、君の名は覚えておくとしよう。」
言うだけ言って、ブシドーはその場を後にする。
場をかき乱すだけかき乱して、彼はいったい何だったのか?
『と、とりあえず!ユウキ選手が3位なのは、ブシドー選手が辞退したから、と言うことです!御理解頂けましたか?』
「と、とりあえずは。」
なんてこったい!!ユウキちゃんがイチカと付き合ってるだなんて!?
畜生!爆発しろ!エクスプロージョン!!
魔法に頼るか雑魚共が!!
ぎゃぁぁぁぁ!!
何やら観客席が阿鼻叫喚の悲鳴に包まれているが、そこは無視しておくとして…。
『次は特別賞!!その名も、お前のような初心者がいるか賞!!』
まだ名前が出されていないにも関わらず、そこにいる面々は一斉に彼女の方を向く。
当の本人はと言うと首を傾げるばかりで、全く自覚が無いようだが。
『おめぇホントにルーキーか!?そんな万場一致の思いの元に選出されたのは…オウカ選手ー!!!』
「…何?私だと?」
『聞けば三日前にALOを始めたばかりのようで、その実力はまさにダイヤモンド級!これからの精進に期待しましょう!!』
きゃあぁぁぁぁ!お姉様ー!!!
私にも戦い方を教えて!!
あと躾もして!!!
うぉぉぉぉお!!!姉御ー!!!!
黄色い悲鳴とサボテン声が会場内に響く中、オウカはやれやれと頭を抱える。
やはり私はこういう立ち位置なのか、と。
『次は!マスコット賞!!』
「もはや何でもありだな!?」
『こればっかりは運営の匙加減ですのであしからず!これはコーディネートやその立ち振る舞いに、マスコットのようなキュートさを感じたプレイヤーが選出されます!ただし!今回のトーナメントに参加されたプレイヤーの中から選び出されましたので、そこはご了承ください!
では!!
そのマスコット賞は!!』
実況者がトコトコと歩いて行く。どうやら集まったこの面々の中に居るようだ。
そしてとある人物の手を握り、その手を天に掲げた。
『シロ選手ー!!!』
「……へ?」
「「「うぉぉおおおお!!!」」」
一部の野郎共狂喜乱舞。
『その小さな身体に似つかわしくない大きな得物!そして凜々しいはずが可愛いとしか形容しがたい騎士甲冑に包まれたそのミニマムボディ!これをマスコットと言わず何と言うのか!!』
「「「「Yessssssssss!!!!!」」」」
「イチカ、彼らは何を言ってるの?」
「あ~、そうだな。まぁシロを褒め称えてるんじゃないか?」
「そうよね。シロちゃん、性格は違うのに何だかユイちゃんと似たような感じがするのよね。」
(…結城明日奈…鋭い…。)
表情を全く変えないが、アスナの言葉に核心を突かれたのか内心焦っていた。
『シロ選手、何か一言お願いします!』
「えと……その…」
珍しく言葉に詰まりながら視線をキョロキョロさせ、言葉を選ぶシロは、まさしくマスコットというのはあながち間違いでは無いと、誰もが認識するところであろう。
「ちょ…」
『ちょ?』
「ちょりーっす。」
ちょりーっす
ちょりーっす
ちょりーっす
↑エコー
瞬間、
コロッセウムに嵐が巻き起こった。
「なっ!なんという魅力的な挨拶だ!」
そして何故か舞い戻るブシドー。
おもむろにシロの手をとって見つめている。至近距離で。
「そうだ、自己紹介がまだだったな!私はグラハm」
何か言おうとしていたが、シロは手を握られたことで表示されたハラスメントコードを適用し、どこぞへとブシドーは転送させられた。何一つ、表情を変えること無く。
『なにやら乱入者が居たようですが、恐らく気のせいでしょう!!』
「え!?スルー!?」
「最後の大トリ!見事同時優勝をもぎ取ったイチカ選手とキリト選手!!」
瞬間、再び割れんばかりの歓声が2人を祝福する。
こういった場面になれていないのか、2人揃って表情が硬かったりする。
『見事なまでに互角にして激しい戦いを繰り広げてくれたお二人、それぞれにインタビューを行いたいと思います!!先ずはキリト選手!おめでとうございます!』
「あ、ありがとうございます。」
『キリト選手とイチカ選手とはライバル、と言うことですが、今日の戦いはどうでしたか?』
「やっぱり強かったです。以前は初撃決着でだったんで、全体を通して闘ってみたら、彼の粘り強い戦いに屈しそうになりました。」
『ほうほう。しかし結果として引き分けての同時優勝ともなれば、やっぱり不完全燃焼な感じはありますか?』
「最後まで闘ったとは言え、やっぱり引き分けじゃ雌雄を決したとは言えないですし、いずれはもう一度闘いたいと思ってます。」
『おぉう!宣戦布告!!これは近々熱い戦いの狼煙となるのでしょうか!?乞うご期待です!!
では次にイチカ選手!!同時優勝おめでとうございます。』
「ありがとうございます。」
『今回の決勝戦、キリト選手との試合はいかがなものでしたか?』
「彼の反応速度と手数にはやはり苦戦しましたね、出鱈目すぎて。負けなかったのが不思議なくらいです。」
『最終盤、利き腕と武器が切り飛ばされるというアクシデントがありましたが、その時からの巻き返しが鬼気迫るものでした!咄嗟によくあんな手が思いつきましたね?』
「いや…。」
その質問にイチカはバツの悪そうな顔をして視線を逸らす。
「正直あの時、俺は一度勝ちを諦めてました。ここまでやれたから悔いは無い。そう思ってトドメを刺されようと。」
でも、とイチカは言葉を繋ぐ。
「一人の女の子が、喉が枯れんばかりの大声で名前を呼んでくれて…その声のお陰で目が覚めたんです。まだ諦めて堪るかって。そこからは無我夢中でしたけどね。」
その声の主を見てみれば、照れ隠しにエヘヘ~と苦笑いを浮かべている。
愛の力、等と言えばチープな物かも知れないが、それでもイチカの再起の起因になったことには変わりないだろう。
『うんうん、やはり愛の力は偉大ですね~そして御馳走様でした。…末永く爆発してくださいね?』
末永く爆発って…どういう意味だ?等と、やはりまだ朴念仁が抜けきっていないイチカに、皆がずっこけて居る中、
『それではこれにて!第1回ALO統一デュエルトーナメントを閉会します!!』
ALO全体を巻き込んだ一大イベントは、ここに終了したのだった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。