インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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ふぅ……(賢者モード)


第59話『雌雄』

誰もが口を揃えて言う。

こんな激しい戦いは見たことがない、と。

大きな興奮がコロッセウムを包み込み、大歓声が会場を支配する。

観客の視線の先には、激しい剣戟を繰り広げる2人の少年。

 

「否!少年のような青年だ!」

 

等と1人仮面の漢が宣っているが、それは置いておこう。

ともかく彼らの表情は、もはや鬼気迫るという言葉が相応しいほどだ。

瞳孔とかがアレなことになってるし、目元は三白眼かと言わんばかりに釣り上がっている。

知り合いが見てみれば、『誰だコイツ?』と口にしそうなモノだ。

だがそんな自身らの状態など露とも気にせず、唯々目の前のライバルを捻伏せんとひたすらに剣を振るい、そして防ぐ。

だが互いの剣戟は超高速。腕前は既に達人の域。流石の2人でも避けきれないのか、時折頬や肩、大腿部を掠めて僅かながらダメージが蓄積されていく。

だが頭部や胴体、四肢への直撃は免れていることを見れば、多少のダメージは承知の上での攻めの姿勢を取っていることがうかがい知れる。

 

「「うぉぉおおおおお!!!」」

 

また一つ、甲高い金属音と、ド派手な火花を散らして、2人の得物がぶつかり合う。

ぶつかり合った剣は鍔競り合いとなり、お互いの力勝負になっていた。

 

「やっぱりお前とのデュエルは格別だな!これ程の緊張感、他に類を見ないぜ?」

 

「俺もだ!ユウキとはまた違った意味での楽しさが、お前とのデュエルにはある!」

 

余裕がないはずなのに、その表情は笑みを浮かべられる。下手をすれば狂人のそれだが、2人は全く気にするものでもない。掛け替えのないライバルと初めて全力のデュエルが出来る喜びに打ち震えているのだから。

 

「1年前の借り…楽しんだ上で返させて貰うぜ!」

 

「冗談!俺の首をそう易々とくれてやるものかよ!」

 

どちらからともなく再び飛び退いて距離を取り、そして間髪入れずに踏み込む。次の一閃は互いの剣にぶつかることなく、互いの身体が交錯し、そして切り抜ける。

キリトは脇腹に、

イチカは右肩に深く、

互いに直撃に近い刀傷を与えられ、そして負わせた。

やはり相手は互角…いや、自身より上なのだと、互いに相手への感心が過る。命を賭ける戦場を共にしたライバルは、やはり偉大で、だからこそ意識していた。

キリトとイチカは、それぞれ1年前のデュエルで、

片や中途半端な決着を、

片や敗北という辛酸を、

互いにその痼りを抱き続けてきた。

だからこそこの場で、1年前の清算と、一年間の成果を存分にぶつけるのだ。

残る体力は互いにほぼ1割。

次の一撃で決着となるだろう。そしてそれはキリトも同様に考えているに違いない。

望むならばそうしたいところだ。

 

(…とは言え。)

 

しかしイチカは正直に言って焦っていた。

先の一撃…肩へのダメージが思いの外深いのか、力が余り入らない。肩への部位的なダメージ蓄積によるデバフが入ったのだろう。

 

(ヤバいな…。これじゃ…無現は愚か、居合もまともに出来そうにないぞ。)

 

利き腕である右肩へのデバフは、イチカにとって致命的だった。彼の攻撃手段の殆ど…8割は右手に強く依存している。残りの2割…足技や左手での攻撃手段もあると言えばあるが、その威力は居合に遠く及ばない。

 

(何か…何か打開策はないか…?)

 

刻一刻と過ぎる時の中で、何かないかと思考を巡らせて模索するも、妙案が思い浮かぶわけではない。

だが臆面に出れば、キリトに察されるだろう。

表に出さず、ポーカーフェイスでやり過ごしながら、居合抜刀の構えを取る。

こうなれば出たとこ勝負だ。

それを見たキリトも、二刀の剣を構えて腰を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勝負ッ!!」」

 

同時に駆けた。

力が入らない右手で、震えるその手で、心で治まれと願いながら柄をできるかぎり握り込む。

どうせやるなら…思いっきりだ。

ここで…勝っても負けても俺のSAOを終わらせるんだ!

そう意気込んだ時、思いが通じたのだろうか?雪華が白銀の光を…無現のライトエフェクトを纏ったのだ。

 

(…やれる…!俺と雪華なら!)

 

間合いに入るより一瞬先に身体を捻り、螺旋の力を溜め込む。

足を踏ん張り、そのエネルギーを力が入らないはずの右手に集約する。

二つの力、それを渾然一体として、『その一瞬のために』溜め込む。

目の前にソードスキルの光を纏った漆黒の刃が迫る。姿勢を低くし、頭上を掠めるようにキリトの一撃を回避する。

 

(懐が開いた!)

 

目の前にはソードスキルを振り下ろしたキリト。彼の脇腹が広がっている。

 

今がチャンスだ!

 

この一撃に賭ける!

 

そう意気込み、雪華のその刃を抜き放った。

 

 

 

 

 

 

会場が沈黙に包まれた。

誰もがその勝負の行方に息を呑んだ。

 

「イチカ!!」

 

1人の少女が悲痛な声で、想い人の名を呼ぶ。

彼女の視線の先には、

イチカの右腕が切り飛ばされ、宙を舞っていたのだから。

 

 

 

 

 

「っ…!?」

 

イチカは目を見開いた。

確かに無現は入ったはずだった。

自身の予想が正しければ、キリトの横っ腹は、エグいかも知れないが真っ二つに出来ていた。

ソードスキルの隙を狙った一撃…なのに手痛い一撃を食らったのはこちらとは…。

目の前には、ユナイティウォークスを()()()()()キリト。

失態だった。

熱中しすぎるあまりに、バーチカルアークの振り下ろしは避けたが、返しの振り上げを食らってしまうとは…。

 

(くそっ…ここまでか…!)

 

利き腕と共に宙を舞う雪華をぼんやりと見ながら諦観に浸る。

ここまで頑張ったんだ。負けたのは少し悔しいけど…でも満足だな。

後はとどめの一撃を食らって…

 

「イチカァァァァッ!!!」

 

目を覚ますような、一際大きな声がイチカの目を見開かせる。

そうだ。

最後の最後まで諦めて堪るか!

虚ろい気味だったその目に再び光が宿る。

まだ、HPは0じゃない。

僅かばかり、それこそ数ドットという、文字通り首の皮一枚繋がっている状態。

幸いにして、キリトはバーチカルアークの硬直中。その間に何か手立てを見つければ、勝ちは充分見える!

その証拠に、無現は不発に終わってない。

『完全に入らなかった』だけなのだ。

見れば、キリトの脇腹には赤いダメージエフェクトが入っている。

完全なダメージでは無いにせよ、それでも幾何か手傷を負わせたはずだ。

だがどうする?

もはや無現は使えない。寧ろ居合は両手でなければ使えない。左手で鞘を持てば、その刃を抜き放つモノが無い。

…いや、

 

(無いなら…別のモノを使う…!)

 

もはやとんでもない博打だ。

しかし何もしないでただ負けを享受するよりも、何倍も納得がいく。

意を決して、イチカは翅を広げて飛翔する。右手の無い感覚に慣れないが、四の五の言ってられない。

そして宙を舞う雪華を、左手で受け止め、そして腰に収め、硬直が切れて油断無く自身を見上げる好敵手を見遣る。

やっぱり強いな。

だからこそ目指し、超える甲斐がある。

千切れた右手をキャッチすると…

 

「ロケット・パーンチ!!!」

 

「何ぃ!?」

 

あろうことか、その千切れた手をキリトに向かって投げ付けた。よもやそんなモノを投げ付けてくるなど思いもよらなかったため、一瞬反応が遅れてしまう。

だが直ぐに冷静になり、投げ付けられた右手をユナイティウォークスで切り払う。何のこと無く斬り裂かれたその手は、ポリゴンとなって霧散した。

 

「コイツで決着だ!キリトッ!!」

 

自称ロケット・パンチを目眩ましに、イチカは再び鞘に収まった雪華を左手に携え、キリトへと急降下する。あの状態で何を仕掛けるのかはわからない。わからないが、それを迎え撃つことで、目の前のライバルを打ち倒す。それが今キリトがすべきことだ。

 

「来いっ!イチカァァァァッ!!」

 

返す刃のエクスキャリバーで、ソードスキルの準備に入る。

確実に、いやそれは無くとも、出来うる限り仕留められる可能性の高い初期ソードスキル。地味だろうが、無難な戦法で行く。

そして射程距離に入ったイチカに向かって放たれたのはホリゾンタル。水平に相手を斬り裂く単発ソードスキル。

これを当てれば勝てる。

迫り来るイチカを仕留めんと、腕力を上乗せして振り下ろす。

だが、振り抜いたその刃を持つ手に手応えは得られなかった。

 

「ぜゃあぁぁぁぁっ!!」

 

下から聞こえるイチカの咆吼にも似た叫び。

イチカは当たる寸前に翅を切り、その軌道を変えたことで懐に潜り込んだのだ。

ガリッ…!

何か硬いものを噛んだかのような音が耳に響く。

何を仕掛けてくる?

だが何をしようとも…勝つのは俺だとキリトは心中で叫ぶ。

 

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 

ホリゾンタルの硬直が解けぬ中、『左手のエクスキャリバーにソードスキルの光が輝き出す』。

キリトが編み出したシステム外スキル『剣技連携(スキル・コネクト)』。これによってホリゾンタルの硬直を無効化し、次のソードスキルに繋げたのだ。

放たれるはレイジスパイク。対するイチカは身体を丸くし、動きを見せない。

このまま当てる…!ソードスキルを放った以上、もう止められない。

顔を上げたイチカと目が合う。

その眼光に宿る意思に、背筋にゾクリとしたモノが走る。だが、それ以上に、『その口』に装備しているモノが異常だった。

雪華である。

左手で鞘を持ち、雪華の柄を口にくわえて抜刀することで、居合として形を成したのだ。

 

(そんな奇策で来るのかよ…!)

 

右手を吹き飛ばされても諦めず、挙げ句にそんな型破りな攻撃で来るなんて思いもしなかった。

でも、だからこそ…

 

(やっぱりお前は…最高の親友(ライバル)だな…!)

 

そして

 

 

 

 

 

一閃

 

 

 

 

最後の一合。その展開に誰しもが目を見開き、そして焼き付けた。

2人の剣士の、最強を賭けた一戦を。

そしてその決着を。

 

どちらが勝ったのか?

 

最後の一撃、どちらに軍配が上がった?

 

皆が固唾を呑んで見守る中、それは訪れた。

 

2人の剣士は光に包まれ、その姿は泡沫のように揺らいでいく。

 

そして…

 

同時にエンドフレイムを散らすことで、その答えとなった。

 

『な、なんと!同時に戦闘不能!?よもや決勝戦でまさかの引き分けです!!これは予想だにしなかった展開!!2人とも素晴らしいデュエルを見せてくれました!!しかし!優勝者は1人!このままでは再試合と……え?何々カンペ?……え?マジっすか?…ええの?ホンマに?』

 

マイクを付けたまま何やら揉めてる実況者に、会場内はざわつき始める。

再試合なのか?と、甦生されたイチカとキリトを含め誰しもが予想するが、実況者が発表した内容は、それをある意味裏切るものだった。

 

『太っ腹!運営太っ腹です!ただいま運営から試合結果に対する判定が下りました!今回の優勝者は!!

ダラララララララララ……ダン!!!

キリト選手とイチカ選手両名!!

つまり、

 

同時優勝だぁぁぁ!!!

 

瞬間、

今日一番の歓声がコロッセウムに響いた。




ふぅ……(真っ白)

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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