インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

57 / 96
ネタが多すぎて、シリアスからシリアルになってる気がしなくもない


第49話『白対白』

決勝トーナメント第二試合

Cブロック代表イチカ

    VS

Dブロック代表シロ

 

大歓声に包まれるリングに、2人のプレイヤーが。

片や白のコートに和装束のインプ。

片や白の騎士装束のプーカ。

両者何も言わず、3メートルほどの距離でただ見つめ合うだけ。

先日、共にレベリングをした相手が、今日は対戦相手なのだから、何処かしら思うところがあるのだろう。

 

「私は」

 

先に口を開いたのはシロだった。

 

「私はこの時を待ち望んでいた。」

 

「待ち望んで…いた?」

 

コクリとシロは静かに頷く。その目は、以前のような何処かほんわかした物はなく、ただ実直にイチカと相対することに全意識を向けているように見える。

 

「以前、貴方達とレベリングして、目的の一つを達成できた。でも、まだ足りない。」

 

「もっとレベリングや素材集めをしたかった、ってことか?」

 

イチカの憶測に、シロはただ首を横に振るう。

 

「私が、本当の強さを得るために。そして貴方と共にある未来のために。もっと、もっと貴方を知らなければならない。だから、この機会を待ち望んでいた。」

 

そう引っかかる言葉を残してシロは、その手に自身の得物である刀をオブジェクト化する。

以前のレベリング時や、予選の時のように菊一文字を展開するのかと思いきや、その予想は大きく外れることとなった。

 

「…それって菊一文字以上のじゃじゃ馬刀じゃねえのか?」

 

「ん、攻撃力も長さもレア度も、菊一文字の上位互換。」

 

「扱いにくさもだけどな。」

 

シロが取り出したのは、以前使っていた刀身1.5メートルの菊一文字よりも更に長身のものだった。

目測でおよそ刀身は2メートル。攻撃力やレア度の高さは、先程シロが言ったとおりに菊一文字のグレードアップという所のパラメーターなのに変わりない。

そして長さも。

ただでさえ長い刀身で振り回される菊一文字なのに、さらに刀身を伸ばすことで、リーチと扱いにくさをもグレードアップさせたのだ。

さすが日本企業。大艦巨砲主義を感じる設定だ。

 

「名刀・正宗。この刃で、貴方と戦う。」

 

「俺も負けるわけにはいかない。…悪いけど勝たせて貰うぜ。」

 

初手から本気で行く。

その気概を見せるかのように、鞘に納刀した雪華を腰撓めに構える。対しシロは、その馬鹿長い刀を下段に構え、いつでも迎え撃てるように少し腰を落とす。

 

『さぁ!ALO屈指の刀使いと名高いイチカ選手!そしてオウカ選手と同じく無名ながらも決勝トーナメントへ勝ち進んだシロ選手!二人には第一試合のような熱盛な展開を期待して…試合開始!!!』

 

試合開始のブザーと共にタンッ!と先に動いたのはイチカの方だ。

小刻みに、そして不規則にステップを踏み、間合いを計らせないようにしながらも徐々に距離を詰める。

攻撃速度は彼が上。しかしリーチはシロが上だ。

ならば正宗のリーチギリギリを維持しつつ、見計らって間合いを詰めるのがセオリー。あれだけ馬鹿長い太刀だ。さすがに距離を詰めてしまえば取り回しにくいだろう。

そう画策していた。

 

しかし、

 

「うぉっ!?」

 

あろうことかシロは自ら踏み込み、イチカの顔面目がけて正宗で突きを放ったのだ。その速度たるや、ユウキに迫る物を感じられる程に。辛うじて顔を横に逸らしたことで、耳の僅か数センチ横をその刃が風を斬り裂いて通過する。

…あと少し遅れていたら即死だった、かもしれない。

だがシロが踏み込んだことで、図らずもだが自然とイチカは自身の間合いへとその距離を詰めることが出来た。回避した勢いをそのままに右足を軸にし、回転という予備動作を経て、イチカは抜刀。シロの腹部に斬り掛かる。

しかし、伊達にここまで勝ち進んできていないらしい。左手のガントレットで防御することで、ダメージを最低限に抑えて再び間合いを取った。

が、ここで相手に時間を与えるのは得策ではないと判断したのか、イチカは雪華を納刀すると、間髪を入れずに再び間合いを詰める。小回りが利かない刀なら、その体勢のバランスは良いものではない。ならば絶え間ない連続的な攻撃で切り崩すのみ。

実践で培った踏み込みを生かし、その距離を即座に詰める。

恐らくシロは、イチカが踏み込むのを慎重になっていると思い込み、その行動に意表を突かれている。

 

そう、予想したはずだった。

 

「ぐっ!?」

 

右頬に鈍い痛みを感じた。

予期せぬ痛覚に、抜刀の体勢に入っていたイチカは蹈鞴を踏む。

なんだ?

何か食らったのか?

目の前には黒々と装飾された正宗の柄の先と理解したのは数瞬後。 

意表を突くつもりが逆に突かれてしまったことで、その動きに大きな隙を生んでしまった。

 

「イチカ!!避けろ!!!!」

 

だがオウカの一際大きな声で我を取り戻したイチカは、咄嗟にバックステップを踏む。

しかし、リーチが破格の正宗の縦一閃は並大抵のステップでは躱しきれないものだ。

再び感じた痛みは、右肩から腹にかけての、辛うじて深くはないものだった。

あそこまで踏み込んでおいて咄嗟の回避でこの程度で済んだなら、幸運と言うべきなのだろうが、生憎とそんな自身の幸運を賞賛する暇はなかった。

自身の視界に影が映る。

嫌な予感を感じたイチカは咄嗟に再び飛び退いた次の瞬間、上空からイチカを串刺しにせんと、切っ先を地に向けて構えたシロがリングに深々とその刃を突き刺した。

 

「…約束の地へ行けなかった。」

 

「…約束の地って、あの世かよ。」

 

SAOではないので死にやしないが、それでも背筋がぞくりとする言い回しである。ちんまいのに色々危ない少女だ。

が、冷静に考えてみればこれはチャンスだ。その長い刀身が深々とリングに突き刺さっている。あんなのを食らっていたときのことを想像すると背筋に薄ら寒い物が走るが、だが明らかに抜き取るのに手間がかかるはずだ。

 

「はぁっ!!」

 

お返しと言わんばかりに、反撃の一閃の構えに入る。今の状況なら直撃させられるはずだ。

が、そう思った矢先に、再びピリッとしたような嫌な予感を覚えたイチカは、抜刀を中断して間合いを取る。

瞬間、

轟く破砕音と共に、リングがまるで掘り返されるかのようにその石材が巻き上げられた。その中心にはシロが持つ正宗の長い刀身がキラリと光る。

 

「…むぅ。意外と鋭い。」

 

奇策としての自信があったらしく、それが功を奏さなかったことでシロが若干むくれる。対しイチカも、自身の嫌な予感が当たったことに驚いていた。何となく感じたままに避けただけなのだが、それが幸運にも上手く回避できた。まぁこれもSAOでの実戦経験の賜物だろうと自身で納得する。

だが、かといって事態が好転しているわけでもない。一撃顔面に殴打を食らったのと、身体にかすったとは言え斬撃を受けたことで、ダメージ比はこちらが大きい。長いリーチと巧みな剣術でガントレットへの一撃以外果たせずに居る。

思っていた以上に難敵だった。

決して侮っていたわけではない。

だがその技量は、予選の強敵であったスメラギに迫る物を感じさせる。

 

(…さて…どう攻めたもんか…。)

 

おそらく攻めたところで、シロの剣術に型がない以上、直感で反撃してくる。型がない以上、良くも悪くも柔軟だ。それだけに厄介そのものである。

 

「来ないなら…こっちから行くよ。」

 

「ぐっ!」

 

踏みこんだシロは、正宗のリーチを生かして、イチカの反撃が及ばない距離を維持して攻めてくる。

その懐に飛び込もうにも、カウンターで柄の先による殴打。攻めあぐねている、と言うのがイチカの現状だった。

 

(防戦するには問題ないけど…!)

 

激しい剣戟に対し、攻めあぐねているのは確かだが、直撃は受けては居ない。

剣戟は速い。

しかし何とか防げる。

だが攻め手が見つからない。

 

「だったら…!」

 

イチカは、攻め込むには小さい、だが確かで僅かな間隙を突いて腰に差していたピックを抜き取り、投擲する。

まさかの投剣に意表を突かれ、正宗をそちらの迎撃に当てたことにより、イチカは何とか長太刀の攻撃範囲外へと抜け出すことに成功した。

かといって何をするでもなく、その暇にイチカは雪華を納刀し、腰の後ろへ回す。

如何したものかとシロは元より、観客はどよめき出す。

イチカと言えば刀というイメージで根付いている為、居合のポジションから刀を外したことが予想外だったのだ。

そして、さらに会場はざわめくことになる。

腰に回した刀と入れ替わるようにその両手に構えられたのは、先程投げられたピックだ。指と指の間にその短い柄を挟み、両手合わせて六本の装備である。

 

「…ピック?」

 

目を丸くするシロや観客をよそに、イチカは両手のそのピックを予想通り投擲してきた。

少し反応が遅れたものの、身を屈めて迫り来る投剣を躱す。

 

「その僅かな死角を…突く!」

 

一瞬とはいえ、イチカから目を切ってしまったことにより、その姿を見失う。そして次の瞬間には、背後からその声が響いたのだ。

見上げれば、両手にピックを逆手に構えたイチカが手を振り上げていた。

 

「ぐっ!!」

 

振り下ろされるピックを避けるべく飛び退く。

だがタンク型の装備が祟ったのか挙動が少し遅れ、ピックが掠めた両肩口に深くもないが浅くもない切り傷を負うこととなった。

だが攻撃を受けたことに戸惑っている暇はない。

次いで飛び退いた先に再びピックが投擲されたのだ。今度は先程と違い二本だけだ。ならば避けるのは容易い。今度はイチカから目をそらさぬように正面から正宗で弾き飛ばした。

次ばかりは隙は突けない。

そう踏んだシロは甘かったと後悔する。

 

【汝、幻惑の霧を纏え。】

 

魔法のスペル

気付いたときにその詠唱が完了した矢先に、シロとイチカの間には、ポフンという気の抜ける音と共に、もうもうとした黒煙が広範囲に発生し、二人を包み込んでいく。

 

「これは…!」

 

今まで魔法の類を使用してこなかったイチカが?

いや、

逆に言えば、スメラギを含めてピックや魔法を行使しなければ、持ちうる全てを行使しなければ勝ち得ない。

シロはそんな相手と言うことだ。

 

(ここで焦りは禁物だ。…この霧に紛れて仕掛けてくるのは明白。冷静に…冷静に…!)

 

そう自身落ち着かせて居た矢先に、眼前の霧に黒い影が映り込む。人一人、それこそイチカほどの影。死角を突くであろうという考えを逆に突いてきたのか。

そして飛び出してきたのはやはりイチカの姿。

 

(でも、これは幻惑の霧。だったら!)

 

雪華を抜刀し、今にも縦一閃に斬り裂こうとするイチカを、シロは意に介さない。

 

(これは…ブラフ…!)

 

物の見事にシロの予想が当たったのか、雪華の刃を受けたにもかかわらずダメージは皆無。むしろ雪華…いや、目の前に現れたイチカそのものが、刃が当たったと同時にその姿が揺らぎ、まるで何もなかったかのように消え失せた。

 

(そして…本命は…!)

 

シロの背後でキラリと何かが光る。

恐らくは抜刀した雪華の刃に光が当たったことで反射したのだろう。そしてそれは幻ではなく本物であるという証左だ。

読み通りだと言わんばかりに、シロは正宗のその切っ先を、背後から迫り来る雪華のその先、イチカが居るであろう場所に向かい、勢いよく突き込む。

 

 

 

 

 

しかし、

 

(えっ…!?)

 

勢いをつけて突き刺した。

そのつもりだった。

しかし、

 

(手応えが…全く……ない…!?)

 

雪華の刃の反射光は確かに本物だ。ならばその先にイチカが居るはずだ。だが、その確定事項であるはずの事態が存在し得ないのだ。

困惑するシロの耳に、カシャン!という雪華がリングに落ちる音が響く。

この霧に紛れて、メインウエポンである雪華で斬り掛かってくる。

そう予想していた。

だが目の前の刀、それを持つはずの少年の姿はない。

 

「手加減は出来ない…シロ、覚悟してもらう!」

 

声が聞こえる。

普段の彼と変わらない声。

なのになぜだろう、

まるで底冷えするかのような恐ろしさを感じるのは。

そして、

彼は懐に飛び込んでいた。

その右手を手刀に、

そしてその手刀にソードスキルの光を纏わせて。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

手刀から相手を貫く体術ソードスキル『エンブレイザー』

体術ソードスキルの中でも、とりわけ高い威力を持つソードスキル。

かつて旧SAOで、血盟騎士団に所属していながらも殺人者に堕ちたクラディール。キリトが彼を屠った際に使ったものだ。

その知識がシロの中にあったのか、食らえばマズいと咄嗟に正宗を、そして左手のガントレットを盾にして防御へ移行する。タンク装備の彼女の敏捷性ででは避けることは出来ない。ならば防御態勢に移行することで、少しでも生存性を高めようと判断したのだ。

 

「貫けぇぇぇ!!」

 

正宗の刀身に、極限まで研ぎ澄まされた手刀が突き刺さる。しかも偶然か否かシロが構えたのは、刀身の脆い箇所で刀の弱点である峰の部位だ。本来刀は峰で衝撃を受けることを想定していない作りになっている。峰打ちを聞いたことがあるだろうが、腹などの柔らかい部位を叩いているので、折れるのを極力避けられているのだ。なので、ここを叩かれることは即ち弱点を突かれると言うこと。

名刀と呼ばれるには実に儚く、そして呆気ないまでに単純な音を立てて、その長い刀身は真っ二つに断たれる。

だがイチカの手刀はそこでは終わらない。

刀が折られたことで目を見開くシロ。眼前に迫るエンブレイザーが、次いで左手のガントレットを穿つ。

そこからは…経験したくない感触だった。

確かにあるはずの腕、なのにその感覚が無い。一瞬で左腕がガントレットごと捻り切れて飛び、その断面は桃色の光に包まれている。目の前で宙を舞い飛ぶ自身の腕が、まるで別の何かのようだった。

そして…

ドスリ、という鈍い音と、胸に何かがめり込んだ感触が同時だった。

自身の呼吸が苦しくなり、喉から空気が強制的に排出される。

視界が、感覚が徐々にぼやけてくる。

これ以上無いくらいの手刀が、シロの胸部を文字通り貫いた。

それは急所。人間でいう心臓に当たる部位をイチカは貫いた。

 

(…こんな戦い方、出来たんだ。)

 

刀一本で戦うイメージが根強く残っている為、シロにとってはこの戦い方は全くの予想外だった。

一撃の下に斬り捨てる戦法は、現実だろうと仮想だろうと変わらないと踏んでいた結果だ。

だが如何だろう。

今の彼の戦いは、二年という命を懸けた戦いで培われた洗練されたものだ。付け焼き刃の戦法とは訳が違う。

 

(…うん、こんな戦い方が出来るなら…私は…)

 

自身を負かした少年、その勇姿を見届けたとき、シロのHPは0へと至る。その姿をエンドフレイムへと変え、同時に勝者のアナウンスが走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々どうして、日本のサムライと言う物は面白い。」

 

観客席の一角で、陣羽織を羽織った仮面の男が試合の行く末を見守っていた。その両腰には、長短一対の片刃剣が収められている。その独特のオーラは、このALOという世界で一層浮いていた。

 

「あのイチカと言う少年!まさに修羅…いや、何処か仕事人と言うような物々しさすら感じられた!抱き締めたいな!少年ンンン!!」

 

声高々に、彼は自身の意味不明な性癖?を暴露し始めた。その内容に、一部はヒソヒソと距離を取り、一部の女性プレイヤーは鼻息荒くメモをとる。

 

「しかし、私が勝ち進み、そして当たる相手であるキリトという彼とも戦いたいものだ。このような巡り合わせ、自分が乙女座であった事を、これ程嬉しく思った事は無い!!」

 

もはや誰も止められない!彼の欲望と興奮は既にメーターを振り切っている!

 

「今日の私は!阿修羅すら凌駕する存在だ!」

 

この日、類い希に見る変人プレイヤーが、このサーバーほぼ全てのプレイヤーに認知されることとなる。

そして、

勝って興奮冷めやらぬイチカと、

次の戦いに備えてアップするキリトに、

途轍もない悪寒を感じさせたのはここだけの話である。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。