インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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ユウキが少年漫画並みに熱血してきている件について。


第46話『決勝トーナメント開幕!』

穏やかな昼食の一時を終え、再びコロッセウムの観客席には数多の観客であふれかえる。試合開始前にもかかわらず、彼ら彼女らのボルテージは臨界寸前であり、場内は割れんばかりの喧噪や歓声に包まれていた。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

『それではこれより、第1回ALO統一デュエルトーナメント、決勝トーナメントを開始します!!』

 

アナウンサーの声に、先程から場内割れんばかりの歓声が上がる。

 

『激戦に次ぐ激戦、熱戦に次ぐ熱戦!それらを勝ち抜いて、この大舞台に立つ面々!予選とは比べものにならないほどの決闘を見せてくれるでしょう!…それでは!決勝トーナメント第一試合!先ずはAブロックより、その腕は数多の刀を次々に壊し、そして振り回す!そう!彼女こそは!空前絶後の!超絶怒濤のハイスペックルーキー!闘いに愛され!闘いを愛したプレイヤー!オウカーーー!!!』

 

「…なぜにサンシャイン風の紹介なのだ…。」

 

アナウンサーの紹介文に頭を抱えながら、スプリガン特有の黒衣を靡かせてリングに上がる。その彼女の凜々しい佇まいに、男性は畏怖を覚え、女性は黄色い悲鳴を上げる。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「オウカお姉様ーーー!!」

 

「あぁ!お姉様の闘いがまた見れるなんて、もう私死んでも良いわ!」

 

「怒濤の勢いで上がってきた噂のオウカお姉様の闘いをナマで見るために、別鯖から来ました!」

 

「姉御ー!!負けんといてやー!!!」

 

デシャブる、とはこのことか。どうやら現実も仮想も、この扱いは変わらないらしい。…若干一名、彼女の虜になったサボテンが居たようだが。

しかし、とんだALOデビューになってしまった、と心中で深い深いため息をつく。

だが、見る物を惹きつける圧倒的な強さというのも、大きな魅力であり長所でもあるのだが、生憎とオウカのリアルはその弊害で男性経験に恵まれていなかったりする。

 

『さぁ!対するは、かつて数多のプレイヤーとデュエルで剣を斬り結び、その戦績は無敗!繰り出されるは、最大11連撃のOSS!そしてその剣閃から、付いた二つ名は絶剣!!ユウキーーー!!!』

 

どもども、と自身に向けられる大歓声に苦笑いを浮かべて手を振りながら、ユウキはリングへと上がる。予選の時も、先んじて轟かせていた彼女の名は大きな歓声となっていたので、慣れたものである。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

「ユウキちゃーん!!!!」

 

「俺だー!結婚してくれー!!」

 

観客席でユウキに声援を送ろうとスタンバっていたイチカは、最後の1人の言葉に得も知れぬ感情が生まれる。

ドロドロと、そしてドス黒いそれは、今までに感じたことのないものだ。

気付けば、近くで見ていたキリト達に何故か羽交い締めされていた。聞けば、雪華の柄に手をかけて、今にも件のプレイヤーを斬滅しに行こうとしていたらしい。それもドス黒いオーラを浮かべながら。

 

ともあれ、

 

相対するリング上の2人は互いに目を合わせ、その火花を散らせる。

片や、年長者から来る余裕。

片や、これから始まるだろう激戦から来る緊張の眼差し。

だが後者に関しては、緊張から来るガチガチの堅さはない。寧ろ、ほどよい緊張なのか、その目にはギラギラとしたものを滾らせ、勝利をもぎ取らんとしている。

 

(ほう…。)

 

表には出さないが、オウカは感心していた。

予選では、初戦のアレがよほど効いたのか知らないが、ガチガチの、それこそ壊れかけのロボットか何かと思わせるような悪い動きのプレイヤーの相手ばかりで、何処か退屈にも似たものを感じていた。そして、『彼女の目的の一つでもある』ユウキと相対することとなったはいいが、そのユウキが奴らと同じく、緊張から普段の動きをとれないのではないかと、心の何処かで思ってしまっていた。

だが、目の前の少女はそんなものを予想させない、むしろ、存分に楽しませてくれると期待してしまうほどに闘志を滾らせていた。

 

「さて…ユウキとやら。」

 

「ん?何かな?」

 

集中しているのか、いつもの朗らかな声ではなく、低く、重みのある声で応じるユウキ。

 

「お手柔らかに頼むぞ?」

 

「冗談。手を抜いたりなんかしたら、一瞬で畳みかけられちゃうよ。」

 

ジョークのつもりだったのだが、ままならないものだ、通じなかったらしい。

 

「ボクは…勝ち抜いて、イチカと戦うんだ。たとえ技量が負けていたとしても…ボクは貴女には負けない…絶対!」

 

「その意気や良し。…ならば私はそのお前を全力で倒そう。お前という戦士に恥じぬよう、な。」

 

そしてどちらからともなく実体化させる各々の得物。

片や片手直剣マクアフィテルを鞘から抜き取り。

片や地に突き刺さる数多の刀の一本を抜き取り。

半身を引き、その時を待つ。

歓声は止んだ……否、聞こえなくなった。

自身の意識は、目の前の圧倒的な強者にのみ。

 

『それでは!決勝トーナメント第一試合!!始め!!!!!』

 

瞬間、ユウキとオウカは土煙を残して姿を消す。と、同時に響いたのは、甲高い金属音。先程まで2人が立っていた位置のほぼ中間地点で、剣を切り結んでいた。互いの動きがシンクロしたことに妙に嬉しさを覚えながら弾いた刃を返して、これまた同時に斬り掛かる。が、やはりここは仮想世界に慣れているユウキに一歩軍配が上がった。身体の動かし方を熟知。それも日常動作レベルで一日の殆どを用いて反復している彼女のそれは、全プレイヤーの中でもトップクラス。浅くではあるが、オウカのボディに下からの一閃によって、赤いダメージエフェクトが入る。と同時にノックバックが生まれたことで、僅かばかりにオウカの剣閃にズレが生まれ、ユウキの頬の横数ミリの位置を突いた。

初手はユウキに辛うじて軍配が上がることとなった。しかしダメージを与えたといえどもごくごく僅かなもの。これから切り返しなどどうとでもなる。

だがこの相手が空振りをし、そして自身が先に動いている今なら、更にラッシュをかけられる。

そう判断したユウキは、切り上げたマクアフィテルの重さと勢いを使い、身体を反転させる。紫のクロークがふわりと舞い、そのままの流れで左脚を軸にし、オウカの脇腹にミドルキックをうちこむ。体術系のソードスキルを持っていないために、威力はそれ程でもないが、それでも一発は一発だ。

 

「ぐ…ぅっ!?」

 

予想だにしなかったユウキの連携。低ダメージといえど、クリーンヒットによるシステムノックバックで、オウカは数メートルその身を退かせる。

 

『おぉっと!?予選をノーダメージで切り抜けてきたオウカ選手!その記録がついぞ破られました!!』

 

オォォォォォ!!!

 

オウカの圧倒的な強さを見てきた観客に、まさかの大歓声が生まれる。これまで完封に完封を重ねてきたオウカのHPゲージが、僅かといえども減少したのだ。

流石に決勝トーナメントに残るだけ、そして絶剣と謳われるだけあり、その技量に誰もが惹きつけられる。

 

「く…クク……!油断したつもりはなかったのだがな…。」

 

思わずオウカは笑みを零してしまう。

現実ではそうはいかなくとも、このALOでは自身に太刀打ち出来るプレイヤーはいるのだ。事実、目の前の年頃の少女がそうなのだから。

 

「やはりこの世界に飛び込んで正解だったよ。…これは、私の弟がのめり込むのも得心がいくと言うものだな。」

 

「…弟?」

 

「さぁ、続きと行こうか!とことんまで楽しむとしよう!ユウキ!」

 

そう言い終えたオウカ、そのアバターが一瞬ブレてその場から搔き消える。

刹那、風を切る音が耳に入り、警戒してサイドにステップを踏む。

しかし、

 

「くっ!」

 

脇腹に鈍い感覚。

見ずとも解る。

斬られた。

咄嗟に避けていなければ即死だったかもしれない。

 

「ほう、直撃を躱したか。いい反応だ。」

 

避けた先に居たオウカ。

感心こそされていても、ユウキにとっては寒気しかしない。

反撃とばかりにマクアフィテルで薙ぐが、その手応えはない。代わりとばかりに左肩口に再びダメージによる僅かながらの痛みが走った。

 

(は、速い…!?)

 

避けて、駆け抜け様に切り抜ける。

防御と攻撃の一体となった、正にカウンターのような流れ。

この2撃で、先程の先制攻撃のダメージ量を尽く巻き返されてしまった。

余りの速さに驚きを隠せずに居ると、間髪入れず太股に剣閃が走り、朱に染まる。

 

(驚いている暇があったら、避けろ…反撃しろ…!でなければ、負けるぞ…!)

 

そうだ、ボクはこの人に勝って、大好きなイチカとまた戦うんだ。

この大舞台で!

心ゆくまで!

 

(ほう…!)

 

この本気の速度に退き気味になるかと思いきや、その目には不屈の闘志を感じさせるほどの強さを宿し続けている。

やはり弟が見初めるだけのことはあると、オウカは…否、織斑千冬は密かに嬉しく思う。

 

一夏が欲しいなら、奪うつもりで来い。

 

確かそのようなことを臨海学校の際に言ってはいたが、現実で一夏に思いを寄せる面々は『織斑千冬という絶対存在』に逆らうことを恐れて挑みかかってこなかった。

仮想世界でもその力の一端を見せたが、それによって現れたのは現在と変わらない畏怖と羨望の眼差し。

やはり仮想世界といえど変わらないのか。

そう落胆していた矢先に、このユウキはイチカと戦うために自身を倒そうと挑みかかってきている。それも力を目の当たりにしたにもかかわらず、だ。

 

(面白い…面白いぞ!ならば私という存在を乗り越えてイチカをもぎ取って見せろ!)

 

だがそう簡単にやられてやるつもりも、与えてやるつもりもオウカには毛頭無い。

やるからには全力で、そして力を出し尽くして。

まぐれか否かは解らないが、縦の一閃を躱され、リングにめり込んだ刀が霧散する。こうなればオウカは僅かばかりの時間といえども武器がなくなる。

最小にして最大のチャンス。そう判断したユウキはマクアフィテルを構えてソードスキルであるホリゾンタル・アークを発動させる。左右で往復の薙ぎ払いの2連撃を放つこれは、新たな刀を取りに行こうとサイドに避けると踏んでのチョイスだ。

だが、オウカがその隙をカバーする手立てを立てないはずがない。

リングにめり込んだ刀によって出来た亀裂に、拳を思い切り叩き付ける。

圧倒的な力によって、一瞬と言えど衝撃波が放たれる。リングの亀裂は更に広がり、その一撃は瓦礫を舞い上げ、オウカを中心に小さなクレーターが出来上がるほどだった。

生じた衝撃波によって軽く吹き飛ばされたユウキは、ホリゾンタル・アークをキャンセルさせられ、距離を取ることを余儀なくされる。

僅かな隙すら潰しにかかっている。

光明が小さくなる感覚に見舞われるユウキだが、目の前の強者はそれを許してくれない。

 

「さて、仕切り直しと行こうか?」

 

両手に刀を携えたオウカ。

両手武器であるはずの刀による二刀流。

確かに不可能ではないが、システム制限によりソードスキルは発動できなくなっている。

しかし目の前のオウカは、先程までソードスキルを使わずに戦っていた。…つまり、ソードスキル使用不可の仕様も、さしたる問題ではない。

だがそれを差し引いても、両手武器を片手に持つと言うことは、重量による攻撃速度低下や正確性低下のデバフがかかるはずだ。それを承知の上での二刀流なのか。

 

「ふっ!」

 

だが速い。

間合いを詰めるそれは、やはり目で追い切れるか妖しいほどのものだ。

だが、

やはり二刀流によって僅かばかり速度が落ちているようにユウキは感じる。

攻撃速度低下を物ともしない袈裟切り。

一刀による先程の速度なら、よしんば避けられたとしても掠めていただろうそれを、ユウキは直撃することなく回避した。

 

「むっ…!」

 

引いていた左手の刀で貫かんと顔めがけて突き出すも、マクアフィテルを添えることで顔の横へと逸らす。

ギャリギャリと金属同士が火花を散らして擦り合う中、ユウキはその小さな体躯を屈ませる。

刀を突き出したオウカは、ユウキに対して身を乗り出しており、弱点設定されている頭部がガラ空きだ。

 

「てぇい!!!」

 

アッパーの容量で、右拳による一撃がオウカの顎に撃ち込まれる。が、実際に当たったのは拳ではなくマクアフィテルの柄の先。拳による物に比べてマクアフィテルの攻撃力の一部が乗せられているため、斬撃ほどでは無いにせよ、それなりのダメージは与えることに成功する。

よし、ここでラッシュを…!

飛び上がった勢いそのままに、切り札であるマザーズ・ロザリオを繰り出そうと思考したが、それは強制的に断念させられた。

 

「か…はっ!!」

 

腹に走る嫌な感覚。

ダメージを受けた証左である赤い視界エフェクト。視界の隅のHPゲージが見る見るうちに減少していく。

 

(直…撃…!?)

 

吹き飛ばされながら自身の腹部に目をやると、正に横に一閃されたダメージエフェクト。切断のデバフこそ無いのが不思議なくらいの一撃だ。

軽く数メートルは吹き飛ばされたユウキは、ゴロゴロとリングを転がって、リングの端ギリギリで止まった。

 

「ぐ…うぅ……!」

 

一瞬意識が飛びそうになったがどうにか持ち直すことが出来た。痛みによる視界のぼやけの中、イエローに突入したにもかかわらず、未だ減少が止まらないHP。

 

(止まれ…止まれ止まれ止まれ…!止まって…!)

 

このまま0になってしまえばその時点で負け。そうなってしまっては、イチカと戦うことが出来なくなる。

 

嫌だ…

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

止まれ、止まってくれ。

天に願えど結果は変わらない。しかし、望むならばとただひたすらに願う。

 

レッドに入った。

 

負ける…負けちゃう…!

ボクは…イチカと…!

 

気付けば涙を流していた。

それ程までに強く願う。

残りレッドのスペースも半分を切る。

 

「~っ!!」

 

もはや声にならない。

もう…数秒しか保たない。

ギュッと目を閉じ、負けたくない思いをただ募らせる。

 

 

 

 

 

どれくらい経ったのか?

目を閉じたままそうふと考えた。

リメインライトになったのだろうか?

目を開けて確認したいが、それも怖い。

HPゲージの確認すら怖い。

目を閉じていても視界の隅にはそれがあるのだが、そちらに視線を向けたくない。

0になったHPを見たくない。

敗北を、見たくない。

ただぎゅっと目を閉じているユウキの耳に、大きな歓声が徐々に入ってくる。

 

あぁ、試合終了の歓声かな?

やっぱり負けちゃったのかな。

 

…だが、それはユウキの想像を良い意味で裏切る形となった。

 

『首の皮一枚!首の皮一枚繋がった!!!ユウキ選手!僅か数ドットのHPを残して、辛うじて敗北は免れたァァァ!!!!!!』

 

実況の喧しい声がゆっくりとユウキの目を開かせる。

ぼやけた目の前には、マクアフィテルを握る自身の手。

力を入れればまだ動く。

足も…問題ない。

だがダメージの余韻からか、膝が若干笑っているらしく、マクアフィテルで杖のように支えて、ゆっくりと立ち上がる。

 

「…削りきれなかったか。」

 

未だ二刀を構えるオウカ。そのHPは未だグリーン。割合にして四分の三残っている。

 

「ならば一撃を以てして屠ろう。…良い戦いだった。」

 

何を勝った気で居るのか。

こちとらまだ負けたわけじゃない。

まだ逆転のチャンスはある。

 

(あと、一撃でも掠めたら終わる…。)

 

もはや完全回避以外に防ぐ方法はない。

だが二刀という手数を超える方法はもう限られてきている。

もはや躊躇は出来ない。

切るときが来たのだ。切り札(マザーズ・ロザリオ)を。

 

(ボクは…この人に勝ちたい!…絶対に…勝つ!)

 

圧倒的な不利であれ諦観はしない。

イチカだって第一試合で逆転したのだ。

ここでひっくり返さずに何とするか。

 

(やるんだ…!ボクの全力で!)

 

瞬間、

ユウキは自身の中で何かが弾けた感覚に見舞われた。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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