インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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皆様あけましておめでとうございます(今更)

一昨年から去年にかけては入院。
去年から今年にかけては風邪をこじらせるという、年末年始に体調崩してました。ボーッとしながらぼちぼち書き上げましたので、文章めちゃくちゃかもしれませんが、ご容赦の程お願いするとともに、今年もよろしくお願いします。


第45話『目指せ!鈍ちん脱却!』

『き、決まった!!決まりました~!!イチカ選手の神速かつ正確無比な抜刀により、スメラギ選手を両断!!不利かと思えた状況から、一太刀!たった一太刀で覆しました!!』

 

とんでもない第一試合となった。ALOでも名の通ったイチカ。恐らくは勝ち進むであろうと予想されていた彼が苦戦を強いられ、寧ろ敗北しかけた。無名のスメラギ優位で試合に進み、彼の勝利が濃厚となってきた状況で、無現の一撃によって形勢逆転。観客の誰もがその試合運びに感嘆の声を上げた。

大歓声を背に受けて、イチカは自身のコーナーの控室へと戻る。と、同時に、前面から強い衝撃を受けて軽く蹌踉めく。そして首に回されたそれが、誰かの腕であることに気付いた。

 

「バカバカ!イチカのバカ!」

 

解せぬ

勝ち上がったのに、なにゆえ罵倒されなければならないのか?

そんな思いが一瞬イチカの中で過るが、まぁあれだけ苦戦してたら心配をかけるのも当然が。

 

「悪いな。…心配掛けた。」

 

そう言って、抱き着いているユウキの頭をそっと撫でる。耳の傍らでは、泣いているのか鼻をすする音。あれだけみっともない姿をさらしたのだ。多大な心配を掛けたのは容易に想像できる。

そんなユウキをあやすように、イチカは彼女が泣き止むまでなで続けた。

 

 

 

 

 

「なぁアスナ。」

 

「ん、キリト君の言いたいことはわかってる。」

 

そんな2人を控え室の入り口から見守るのは、最強夫婦であるキリトとアスナだ。端から見れば、感極まったユウキが心配を爆発させてイチカに抱き着き、それを彼が抱きしめ返して慰めている、そんな微笑ましげな構図。

だが

 

「アレで、付き合ってないんだよな。」

 

「付き合ってないのよね。…ユウキってば、結局あの時の勢いはどうしたのよ…。」

 

以前のプローブ越しに、ユウキはアスナにイチカへの好意を打ち明けている。そして彼に想いを打ち明けることを話し合ったハズなのだが…。

のらりくらりと付かず離れずの関係のままである。…まぁ、それでもウジウジしていたあの時よりは幾分マシだが。

 

「まぁあの状態だと、くっつくのも時間の問題だろ。俺達は見守りに徹しようぜ。…だが少なくとも、ユウキのタイムリミットまでには…くっつけなきゃな。」

 

「…うん。」

 

ユウキの…紺野木綿季の身体を蝕むHIV……AIDSがその魔手を伸ばしているのは確かである。それだけに何時、更なるその牙を木綿季に突き立ててくるかが解らない。そうなってしまっては、人間の精神で動き回るアバターにも少なからず影響を及ぼすだろうし、告白するなんていう余裕すらもなくなる。

それでは後の祭りだ。折角の両想いなのだから、その好意を伝え合って、新しい幸せ噛み締めて欲しいとも思う。

 

「何かしら、良い方法は……むしろ、きっかけさえあればとんとん拍子に行くんだけど………お!」

 

「どうしたの?キリト君。」

 

「いやなに、ベタなんだけど、イケそうなきっかけがあるなって。」

 

「???」

 

「まぁ…後のお楽しみって奴さ。」

 

意味深な笑みを浮かべる恋人に、アスナは首を傾げることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウキに心配をかけた、という罪悪感からそれからの予選でイチカは、抜刀と共に無現を解禁。遍く敵を、正しく一刀の元に斬り捨て、試合時間ももはや一分を切る程のもので切り抜けていった。文字通りの一撃死により、余裕で予選を突破していた。

余談ではあるが、チートの類ではないかと、嫉妬に駆られた観客の一部や敗者から運営に報告が入ったが、運営も同時にチートの可能性を疑って調査し、その結果が何の異常も無かったため、大々的にイチカの潔白が運営から発表されるという事態に陥っていたのは、本人の預かり知らぬことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

予選がつつがなく終わり、決勝トーナメントに進出を果たしたプレイヤーが、コロッセウムの受付ロビーにデカデカと映し出されていた。

 

Aブロック オウカ

Bブロック ユウキ

Cブロック イチカ

Dブロック シロ

Eブロック キリト

Fブロック ゼンガー

Gブロック Mr.ブシドー

Hブロック パトリック

 

「これはまた……そうそうたる顔触れだ…。」

 

対戦表のホログラムを、イチカはあんぐりと口を開けて見上げる。

オウカやユウキ、イチカやキリトは勿論のことだが、まさかシロが居るのは虚を突かれたと言っても過言ではないだろう。正直、彼女はこう言った催しに興味がなさそうだったからだ。

そしてF~Gブロックの面々は、少し、いや、かなりアクが強いメンツが揃っている。

まずFブロックのゼンガーは大剣使い。なんでも古来より伝わる示現流の使い手で、STR偏重のビルドによる高い攻撃力を有する。振りが遅いのかと思いきや、その卓越した剣技によって敵を悠々と薙ぎ払うという。本人曰く、「悪を断つ剣」なのだとか。

次にGブロックのMr.ブシドーは、赤い仮面の頭部防具『マスラオ』を付けて陣羽織を羽織るという、なかなか独特のファッションをしていたりする。芝居がかった物言いにより、とても濃い印象を与える人物だが、それより何よりも目を惹かれるのが、本気のキリトと同じく二刀流の使い手である、と言うことだ。本人曰く、左手の長剣は『ハワード』、右手の短剣は『ダリル』だとか何とか。ともあれ、珍しい二刀流というスタイルのみならず、剣技そのものも卓越しており、圧倒的な手数によって他を寄せ付けない。

最後にHブロックのパトリックは、本人曰く『スペシャルで、2000回で、模擬戦』らしい。詳細不明。

 

ともあれ、

予選が終わったことにより、ALOにおける最強プレイヤーが8人にまで絞られた。

ここで少し遅めの昼食時間を一時間ほど挟み、決勝トーナメントが開始される予定だ。空腹が限界に近いのか、心なしか隣に居るユウキの元気がない。その証拠に、先程から可愛らしい腹の虫が幾度となく鳴き、そのたびにユウキが顔を赤らめている。

 

「ハハッ、ユウキも限界みたいだし、そろそろお昼にするか。」

 

「ち、違うよ!これはその……」

 

「隠さなくていいぞ?お昼過ぎてるし、仕方ないさ。」

 

「う…うぅ……。」

 

「とにかく飯にしようぜ。正直俺も腹が減ってきたし。」

 

そう言うと、イチカはストレージを操作し、少し大きめのバスケットをオブジェクト化する。データ化したそれは、耐久力によって風味や味が多少劣化するが、料理スキルがカンストしているイチカの作ったそれは、恐らく作り上げて数時間は経っているにもかかわらず、バスケットの隙間から食欲をそそる香りを漂わせていた。その芳醇な香りは、周囲で空腹に苛むプレイヤーの視線を集めていたりする。

 

「ほら、皆見てるしさ、早く行こう。」

 

「う、うん……。」

 

ユウキはイチカに手を引かれ、妖精特有の尖った耳まで真っ赤に染めてつつ、周囲の視線を集めながらロビーをあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナやキリトと合流して昼食を終えた面々。ハーブティーで一息つきながら、時の流れるのを味わう。鳥がさえずり、そして澄み渡った空に暖かな日差し。かつてSAOで味わった、絶好の昼寝日和のそれと酷似しており、満腹感も相俟って瞼が重くなってくる。このまま時間一杯昼寝としゃれ込むのも一興とも思えるような空気の中で、キリトがその腰を上げた。

 

「イチカ、ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

少しまどろみに沈みかけていた意識を浮上させ、名を呼んだ友人に目を向ける。

 

「少し、話があるんだ。」

 

「話?」

 

「あぁ。出来れば場所を移して話したい。…いいか?」

 

ここでは話せないようなことなのか。キリトの不可解な言葉に戸惑いながらも、彼の話というのが気になったイチカはその腰を上げる。

 

「解った、じゃあ行くか。」

 

「私達はここでゆっくりしてるから、またここに戻ってきてね。」

 

「あぁ。じゃあ少し行ってくる。」

 

黒と白、その2人が広場の奥へ向かう背中を、芝生でゴロゴロしていたユウキはじっと見ていた。

 

「…何の話なんだろうね?」

 

「男の子同士ならではの話ってあるんじゃない?」

 

恋人である自身とは別に、同性という意味でも比類無きほどの信頼を置くイチカに、本人も気付かない程度に小さな嫉妬が生まれる。恋人になったら大抵は独り占めしたいという願望が生まれるが、それは敵わないものであるとまざまざと示されていた。

 

「じゃ、ユウキ。私達は私達で、女の子同士でのOHANASHIをしましょうか?」

 

「へ……?」

 

そう笑顔で言ってのけるアスナに、何処か薄ら寒いものを感じずには居られない。

 

そして…

 

かつて桐ヶ谷家での誓いに対する、半ばお説教が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺で良いか。」

 

人気が少ない、それこそ広場とは真逆のサイドにある日陰。コロッセウムが日光を遮り、朽ちかけのオブジェクトの外壁か点在するこの場所で、キリトはその足を止めた。

 

「それで、なんなんだ?話ってのは。」

 

着いてきたイチカは、足を止めるや否や本題に入る。やはりわざわざ2人だけになって話すべきことがある、と言うのは気にせずには居られない。

 

「いや、一つ確認したいことがあってな。」

 

振り返るキリトのその目は、いつもの穏やかさがなく、どこかイチカを射貫かんと見つめる。

 

「イチカ、お前は先週、ユウキのことが好きだと、そう言ったよな?」

 

「う…!お、おう…。」

 

思っても見なかった質問に、イチカは一瞬ビクリと身体を震わせる。

 

「…で?いつ告白するんだよ?」

 

「え、と…そ、それはだな…。」

 

言葉を濁しながら目線を逸らすイチカ。どうやら何も考えていなかった様で、そんな彼にキリトは軽くため息をつく。

どうして、こと恋愛に関してはこうも奥手なのか、と。

 

「仲良くやってるのは…まぁ見てるこっちが恥ずかしいと思うくらいで良いんだけどな。」

 

見てるこっちが恥ずかしい。

普段イチャついてるキリトとアスナ。そんな言葉がどの口で言えるのだろうかと、内心イチカは毒突くが、口にすると厄介そうなので言葉を飲み込むことにする。

 

「まぁ告白するにもタイミングって奴があるよな。」

 

「そりゃまぁ…そうだよな。」

 

「…で、絶好の告白の機会があるわけだが、利用しない手はないと思うぜ?」

 

キリトは思うところがあるのか、口許をニヤリとさせる。

だが、イチカは彼の意図することが察することが出来ず、目を点にして首を傾げる。

 

「…絶好の、機会?」

 

「…お前、モテる割には、こういうパターンとかにも弱いよな。」

 

「???」

 

益々疑問の渦に飲まれるイチカの恋愛事情にほとほと呆れながらも、これも彼の美点かと無理矢理キリトは自身に納得させる。

 

「いいか…?」

 

そうしてキリトは説明を続ける。

超鈍感から鈍感へと進化しつつある親友に、ラノベで培った告白のシチュエーションというものを。

そんな彼の話に、イチカはまるで目から鱗とでも言わんばかりに目を輝かせて聞き入っていた。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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