インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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え?サブタイがネタバレ?何のことやら。


第42話『デュエル開始!キバオウ死す!』

少し時間は遡り…

 

「ねぇシャルロット、まだ繋がんないの?」

 

シャルロットとラウラの部屋にあるソファに座って足をぶらつかせながら、鈴は不服そうに口を開いた。

 

「も、もうちょっと待って。このコードを繋いで…よし!」

 

PCから伸びるプラグを壁掛けの大型テレビに差し込むと、数個のウインドウを開いたPCのディスプレイと同じ映像がテレビに映し出される。

 

「あとは…うむ、嫁から預かったURLで…。」

 

PCに向き合っていたラウラはマウスやキーボードを駆使して目的のサイトを開く。

ALO公式サイト。

そこに繋がったブラウザから、メモに書かれている項目を探し出してクリック。

動画再生用ソフトを起動させ、フルスクリーンでの再生を選択する。

 

「あ!映りましたわ!」

 

セシリアの声に作業を終えたシャルロットとラウラは、それぞれ自身のベッドに腰を下ろして、映し出される映像に目をやる。

そこに映されたのは、色彩鮮やかな人間…いや、妖精のキャラクター同士による激戦の火蓋が切って落とされた時だった。

 

「へぇ~、これが一夏と木綿季がプレイしてるALOなのね。」

 

リアルな、それこそ現実かと思わせるようなそのクオリティに、鈴のみならず、その場にいた誰もが釘付けになる。

正直なところ、誰もがフルダイブタイプのゲームには、かじり程度の知識しかなかった。意識を飛ばしてもう一つの現実を味わう。だが、以前のSAO事件によって、未だフルダイブする一夏に理解は出来ても、そのゲーム自体に余り良い印象を持てずにいた。

だが目の前のクオリティは、想像していた物よりも遙かに高く、悪い先入観を吹き飛ばしかねない物だった。

 

「凄いな…今のゲームというのはここまでリアルな物なのか。」

 

ゲームのアバターとは思えないほどの、なめらかに動いて目の前で繰り広げられる応酬に、箒は思わず息をのむ。

 

「これは…一夏達が夢中になるのもわかるかなぁ」

 

同じく魅入っていた簪の言葉に、その部屋にいた誰もが示し合わせたかのように頷く。

 

 

そもそも彼女らがこうしてALOのデュエルトーナメントを見ているのには、とある切っ掛けがあった。

 

『皆にもVRMMOの魅力を知って欲しい。』

 

そんな一夏と、そして木綿季の言葉だった。

食事時、いつものようにあつまった面々にそう告げて、URLを記入した紙を渡してきたのは土曜日のこと。

翌日から始まるALOのイベントが、公式サイトを通じてネットで生配信される。一夏も木綿季も参加するので、良かったら見て欲しい。と言うのだ。

そんな二人の言葉に、箒達は顔を見合わせて目を丸くしていたが、特に予定もないのでこうして皆が集まって、その生配信とやらを視聴することになったのだ。

ちなみに、

生徒会長である楯無も視聴希望していたのだが、布仏虚に捕縛され、残った生徒会の仕事を片付けるために生徒会室に連行されていたりする。

 

そんな回想を語っている内に、映像の中の試合は一つ終え、次の試合の準備に掛かっていた。

 

「す、凄い試合だったわね。…なんなの?あの浅黒い肌のプレイヤー…。魔法使ったら、『魔法に頼るか!雑魚が!』って魔法で反撃とか…。」

 

「しかも戦いが激しすぎて、余波が観客席に及んでいましたわね。巻き込まれた方、大丈夫でしょうか?」

 

先程のミカとバルバトス双方による激戦は、予選一回戦とは思えぬほどの激戦だった。その激しさに、リングは破壊され、その巻き添えに最前列の観客席にいたプレイヤーが巻き込まれて、リメインライトにさせられるというアクシデントがあった。

死屍累々となった観客席の中で、一人の銀髪の浅黒い肌のプレイヤーが倒れていたのを見たミカは、ブチ切れたのか怒濤のラッシュでバルバトスを攻め立てる。が、バルバトスも負けじと食い下がり、結果として引き分けとなったのだった。

 

「最初からこんな凄い戦いとは…。ALO、侮りがたいな。」

 

「うん。最初からクライマックス…。」

 

各々が初戦の凄まじさに驚く中でも次の試合の準備は進み、漸く予選二回戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は戻る。

 

コロッセオのリング

そこには数多の剣…否、刀が突き刺さっていた。

その数はゆうに十本は軽く超える。

 

「なんのつもりや…?」

 

そんな光景を作り出した本人…オウカに向かい、キバオウは憤りを隠すことなく尋ねた。

何せ彼女は、試合開始と同時にストレージを操作して、手持ちの武器を、恐らく全てをオブジェクト化したのだ。

 

「なに。私は初心者だからな。勝つための腕前や能力を埋めるために工夫したに過ぎない。」

 

そう、相手は始めて数日の初心者。周囲に突き立てられた刀も、中堅どころが使う物ばかりだ。始めて数日で中堅の扱う武具を装備や所持するまでに成長しているのは確かに舌を巻く。

だが、キバオウにとってそのようなことは些末な事だった。

何せ、相手は初心者。意気揚々とデュエルトーナメントに参加したはいいが、初戦が初心者などとは笑えない冗談だ。もし勝てば、初心者に対して大人気なく本気を出したと。負ければ、初心者に負けた。そんな言葉で後ろ指を指されるだろう。よしんば勝てたとしても、苦戦しよう物なら、また侮蔑のネタになる。つまり、勝っても負けても顰蹙を買うことに変わりないのだ。

 

「まぁそう憤るな。…いくら私が初心者だからといって退屈させようなどとは思わんさ。」

 

「…なんやと?」

 

「…つまり、初心者などと侮って貰っては困る、と言うことだ。」

 

手近にあった刀を抜き取り、脱力しながらも形だけの下段の構えを見せる。緩やかな動きだが、しかしそれでいて隙もない。

そして何よりも、肌を刺すような闘志を感じるのだ。仮想世界にも関わらず、鳥肌が立ちかねないほどの。

 

「行くぞ、キバオウとやら。

 

 

 

 

 

武器の耐久力は十分か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、正に電光石火。

オウカはその踏み込みを以てして、瞬時に刀の間合いに入るや否や、リングの石畳を刃で削りながら、キバオウを両断するかの如く下から切りあげる。

その一連の流れが余りにも早く、キバオウは身体を反らして二枚に下ろされるのを避けるのが関の山だった。

 

(ち、致命傷は避けたか…。)

 

キバオウとしても、肝が零下あたりまで冷えた気がした。

地面を削ることによって、石畳を擬似的な鞘とし、振り上げる瞬間の剣閃を早めた、いわば即席の居合。

 

「居合擬き…刀と言い、気に食わんわ!アイツを思い出すんや!」

 

身体を反らしたことで後方に蹈鞴を踏んだことにより、人一人分の間合いが開く。そこを埋めるようにキバオウはソニックリーブで踏み込んで一閃する。オウカは残心しているのか振り上げたままの状態が最後に見えた。あの体勢からなら普通なら防御が間に合わずに直撃出来るはず。そうすれば大きな優位性(アドバンテージ)を得られる。そう確信したキバオウは口許を釣り上げて、ソニックリーブを気持ち後押しするかのように腕を突き出した。

 

 

 

 

だが生憎と彼女は()()ではなかった。

 

 

キィン!という剣がぶつかる甲高い音。

 

アバターが斬られるような効果音ではない。

 

その音を聞いたとき、キバオウの視界は天と地が逆転していた。

 

(な、なんや?何が起こったんや?)

 

まるでスローモーションのように反転した視界がゆっくりと動き、それはやがて青一色の空が支配したところで背中に大きな衝撃が走った。肺から空気を吐き出され、その不快感にキバオウは顔を顰める。

オウカはソニックリーブによって繰り出された剣を、振り上げた刀、その返す刃でハエ叩きの如く叩き落とした。その勢いでキバオウは、まるで浴びせ蹴りのモーションの如く空中で前転回転し、地面に倒れたのだ。

だがキバオウ本人は、その痛みと何が起こったかを理解する暇もなく、そして目の前には倒れた自身に刃を突き立てんとするスプリガンプレイヤー。

一瞬で危険を察したキバオウは、地面を転がってそれを避ける。

間一髪、先程まで頭があったところに、刃が深々と突き刺さった。

 

「…良い反応速度だな。」

 

だがオウカは、その刃を抜くことはなかった。

未だキバオウは立位をとれていない。つまりフットワークを活かせない。絶好の攻め時にも関わらず、彼女は追い打ちをかけてこない。そんな状況にキバオウは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「三回でお釈迦か。…やはりままならんな。」

 

突き刺さった刀が光を放つ。それはソードスキルのそれではない。光と共に刀のポリゴンはぼやけ、次の瞬間には粉々のポリゴン片となって砕け散った。すると一番手近にあった刀に手を伸ばし、それを引き抜く。先程と違う刀なので、軽く右手で一振りし、その感触を確かめる。

 

「さ、三回で耐久力切れやと?どんなナマクラ使うてんねん。」

 

「いや、正真正銘新品さ。だがなぜか()()に使っていてもすぐに壊れてしまうのでね。数でカバーしようというわけだ。」

 

オウカの言葉にキバオウ本人はもとより、キリト達にも驚きが走る。

 

「さ、三発で武器が壊れるとか…おかしくない?」

 

「あぁ、()()なら店売りの物でも何十回と斬ろうとも耐えきれる。今さっき壊れた武器も、耐久力は平均的な物の筈だ。」

 

「じゃあ何で…?」

 

「確証はないけど…」

 

ここで、オウカと一度パーティを組んだことのあるキリト。

 

「彼女の武器の振りの速さ。それが関係してるかもしれない。」

 

キリトが言うには、オウカの剣閃の速さは、ALOの中でも群を抜いて速い。それこそ一撃の速さは、イチカの居合のそれ程でも無いにせよ、迫るほどの物だ。だが、振る速さが速い=ぶつけたときの摩耗も激しいものとなる。ましてや、雪華のようなオーダーメイドの武器ならばまだしも、店売りの武器の耐久力はそこまで高くはないために、オウカの剣戟の激しさに耐えられないようだ。

 

「は、はは……ボク…勝てる気しないんですけど。」

 

「安心しろ、俺もだ。」

 

因みに…オウカのブロックはA、ユウキはBとなっており、互いに勝ち進んでいけば顔見知りの中では、彼女と最初にかち合うのはユウキだったりする。

 

「ゴメンねイチカ、再戦の約束、守れそうにないや。」

 

アハハ…と半ば死んだ目をするユウキはもはや別人だったと、後のイチカは語る。

 

 

 

 

 

 

「何なんや…」

 

オウカの鋭い一閃が、キバオウの脇腹をかすめる。

 

「何なんや何なんや…」

 

間一髪で躱したつもりが、頬をかすめてHPを微量減少させる。

 

「お前は…何なんやぁ!」

 

決死の思いで反撃し、片手剣を一閃するが、既にオウカはそこには居らず、背後から斬り付けられる。

余りの実力差にキバオウは苛立ちを隠せない。勝つことを揺るぎないものだと思っていた矢先に、とんでもないダークホースと当たってしまったのだから。

 

「私はただの初心者だが?」

 

「お前のような初心者がおるかい!」

 

「事実だ。何なら…後日にでも運営に問い合わせるが良い。」

 

そう言い終えたとき、オウカの刀が再び四散した。これで6本破損したことになる。リングに突き刺さった刀は徐々に減ってきているが、それに伴ってキバオウのHPも半分を切っている。刀の弾切れまで耐えようかとも思ったが、刀の減り具合と自身のHP。その減少比はHPの方が多い為、このままでは破れるのがオチだ。

 

(なんか…なんか逆転の策は…お!)

 

一縷の望み

そんな言葉と光景が見つかった。

二人の周囲に、オウカの予備の刀は無かったのだ。ほぼ定位置で剣戟を繰り出して居たために、周囲の刀はあらかた使い尽くしており、最寄りの刀でも目測五メートルはある。

 

(チャンスや!得物を手にするまでに仕留めたら…!)

 

ここが好機!とばかりに、キバオウはオウカにダメージを与えようと片手剣を振りかぶる。これでダメージを与え、こちらに流れを傾ける。それしかない。ここを逃せば負けは免れない。

一気に踏み込み、オウカを切り捨てんと意気込む…

 

 

が、

 

間合いに入った時に、キバオウは身体に悪寒を感じた。

 

あの時…

 

デスゲームの時にも感じていた嫌な感覚…

 

つまり第六感からくる勘というものを。

 

考える前にキバオウの身体が動き、防御態勢を取る。

 

その動きは2年という年月、SAOというデスゲームで戦場を生き抜いてきたプレイヤーならではのものだった。

 

急所である(チン)を守り、反撃に備える。

 

格闘技術の基本をキバオウは習得していた。

 

だが--

 

 

ドグチァッ!!!!

 

「ッッッッッッッ!?!?!?!?」

 

もう一つのチンは守れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キバオウ オウカの格闘攻撃が急所に入り戦闘続行不能により敗北。

 

 

 

 

奇しくも、コロッセオに居た男性観客。

その誰もが一人残らず縮こまったのは言うまでも無い。




キバオウのトドメ、とある漫画のネタです。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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