インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
精神的にダウンして、ただいま絶賛休職なうです。
あ、気分転換に、シロの設定画的な何かを書いてみました。汚いので申し訳ないです。モチーフは、リリカルなのはの雲の騎士のバリアジャケットだったりします。
【挿絵表示】
「ぬわーっ!!」
囮役を買って出て、意気揚々とヴァルハザクに向かっていったにも関わらず、何処かの父親のような断末魔をあげながら、マドカは軽々とボスフィールドの端まで吹き飛ばされた。
ガラガラと、うち捨てられた骨々を巻き上げながら、その体躯を転がし、フィールドの壁面にぶつかって漸く止まったのだ。
「くそ…!私を本気にさせたな…!」
「おいマドカ!フラグおっ立ててる暇があったら回復しろ回復!」
イチカに言われて見れば、イエローゾーンの色を示しているHPゲージに漸く気付く。
確かに今のダメージ量からすれば、回復しないとやられてしまうだろう。
一時置いて少し冷静になったマドカは、ストレージから癒やしの妙薬を取り出して口に含む。
瞬時にして回復するHP。だがここにきて、マドカのHPも半分までしか回復しないようになってしまっていた。
「く……私もか…!」
だが、自身を囮にするという作戦上、状態異常に陥ったからと言えどもここでリタイアするわけにもいかない。
囮役のための軽装も体力半減によって、体力が満タンである数値であっても、一撃で仕留められてしまうだろう。
「いや…、ここで尻込みしていても仕方ないな。」
引き受けたからには任務を全うする。
それは現実でもここでも変わりない。
ならば…
「後は…征くのみっ!」
姿勢を低くし、短剣を逆手に構える。
狙うは奴の足。
素早さを生かし、その上でソードスキルのスピードで切り抜ける。
一撃離脱
ヒットアンドアウェイ
それを念頭に置いて立ち回るしかない。
「まずはこれだ…!」
駆けだしたマドカは、左手に持った短剣にソードスキルの光を煌めかせ、それを持つ腕を振り上げると同時に、振り返るヴァルハザクの右の目玉目がけて投げ付ける。
短剣投擲ソードスキルの『クイック・スロー』
その切っ先は寸分狂い無く、かの龍の妖しく光る琥珀のそれに物の見事に突き刺さる。目に異物が突き刺さるその激痛に、ヴァルハザクは顔を庇うように身を縮める。それを目視すると、手元に残った右手の短剣に先程とは違うソードスキル、その光を纏わせたかと思えばマドカはヴァルハザクの後ろ足、それをすれ違い様に切り抜けていた。突進タイプのソードスキル『ラピッド・バイト』だ。
その速度は、やはり4人で一番の軽装とだけあって最速にして俊敏だった。
「マドカ!スイッチ!!」
その声に反応してマドカはバックステップを踏み、ヴァルハザクから数メートル距離をとる。そこに超高速の突進によって踏み込んできたのは紫色の妖精。見事なまでのポジションチェンジに、マドカは思わず口元をつり上げる。
「やぁぁぁぁっ!!」
突き出したマクアフィテルがソードスキルの輝きを放つ。片手直剣の突進ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』その速度とシステムアシストによってヴァルハザクの赤々とした皮膜を持つ脇腹に深々と突き刺さる。
手応えは十分だ。
上位ソードスキルとされる『ヴォーパル・ストライク』は単発の攻撃なので、空振ると大きな隙を生んでしまうが、非常に大きな一撃を放てるものだ。その威力が嘘偽りではないのを証明するかの如く、先程のイチカによる『刹那』、マドカの連撃、ユウキのこの一撃により、ヴァルハザクのHPゲージの二本目の二分の一が消し飛んだ。
「ナイスだユウキ!」
ユウキにヘイトを向けようとするヴァルハザク、奴の眼下に潜り込んだイチカが、納刀した雪華を腰だめに構え、身体を捻るようにして力を貯める。一瞬で、まるで弓矢のように引き絞り、正に閃光の一撃を抜刀と同時に抜き放つ。その軌跡は、まるで三日月を思わせるように美しく曲を描く。ヴァルハザクの胸膜を始点に、人間でいう鎖骨、首、頸部を、まるで真っ二つに両断するように切り上げた。
ヘイトがユウキに移り、方向転換を始める予備動作、その一瞬に、恐らく弱点部位のそこに一撃を与えることに成功した。今の所、最大HP半減の状態異常に陥っていないのはユウキだけだ。防御はタンクにはほど遠いものの、それでも体力は一番多い。最悪、自身がマドカに代わり、引きつけ役をしようと試みる。
「おっと!!」
奴の脇腹からマクアフィテルを抜き取ると同時に、振り返る動作と連動して、爪による一撃でユウキを引き裂かんと薙ぎ払う。
が、そこはキリトに迫る反射神経を持つ絶剣。身軽に見事なまでの後方宙返りでヴァルハザクの一撃、その軌跡を眼下に見やりながら一旦距離をとる。その視界内を白い小柄な影が飛び抜けると共に、真正面に向いたヴァルハザクの顔に、シロによる見事なまでの唐竹割りが入った。僅かながら、ヴァルハザクの頭殻に食い込んだ菊一文字、それを支点にして左脚でヴァルハザクの右目にブーツのつま先による蹴りを入れる。
夥しいまでの出血を模した赤いポリゴンを撒き散らす。そしてシロの蹴りによって、目玉に突き刺さっていたマドカの短剣が解放されて、円を描きながら宙を舞った。
「ナイスだ…!」
まるで、このことを見越していたかのように、マドカは空中でこれをキャッチすると、そのままの勢いで両手で逆手に構えた短剣をヴァルハザクの背中に突き刺す。
「ふっ…骨ばかりで丁度良い。ここがお前の墓場となる!」
背中というマウントポジションを取ったマドカは、滅多刺しよろしく、短剣をザクザクと抜き、そして刺し続ける。ヴァルハザクが背面への攻撃手段がないと踏んだ決断だった。
だが、ヴァルハザクとてただでやられるつもりはない。身体を振るい、マドカを振り落とそうと藻搔き、そして暴れる。
「くっ…無駄な抵抗を…!」
だが必死に抵抗する分、かなりの勢いでヴァルハザクのゲージが減少しているのも確かだ。吹き飛ばされないようにマドカはしがみつく。だが、しがみつくと言う行為=至近距離で奴の霧をモロに食らう事態に繋がっており、見る見るうちに体力が削られていく。
「マドカ!一旦離れて回復して!」
「まだだ!まだ終わらんよ!」
ユウキの警告を無視して、ヴァルハザクの背に裂傷を与えていくマドカ。確かに一方的に攻撃出来るのは魅力的だが、現に体力がレッドに染まってきているのは看過できないのも事実だ。
「この……!」
もはや数ドットを残したところでの渾身の一太刀。力一杯、両手の刃を奴の背に食い込ませる。その一撃によってヴァルハザクは大きな唸りを上げながら、その巨大な体躯をもたげさせながら地響きと共に横たわらせた。
「やった!やったよ!マド…」
歓喜するユウキ。倒れた勢いで飛び退いたかのようにヴァルハザクから離れたマドカ。だがその身体は力無く、まるで吹き飛ばされたように、錐揉みながら宙を仰いでいた。
「マド…カ…?」
「ふ…ふふっ……」
乾いた笑い声だった。
その声と共に、マドカのアバターは徐々に光を帯びていく。
今まで幾度となく目にしてきたその現象。
それは誰しも起こりうるもの。
それは…戦闘不能。
しかし、マドカの顔には悔しさを感じることはなかった。
浮かぶのはただただ、やり遂げたという満足感による笑み。
「ふっ…!やはり私は、不可能を可能に…!」
そんな言葉を残し、ガラスが飛び散るようなSEと共にマドカの身体はポリゴンの結晶となり四散した。
残るのは、彼女のイメージカラーと思える黒々と燃え盛るリメインライトのみだ。
「マドカ…くっ!」
唖然として、そして彼女が散った事実を噛み締めて、三人は顔をしかめる。だが彼女はその犠牲と共に大きなチャンスを残してくれた。
しかしこれを活かしてヴァルハザクを討伐しなければ、その犠牲も無為になってしまう。
「二人とも!何が何でもコイツを潰すぞ!何が何でもだ!」
「イチカ…。」
「マドカの作った最大のチャンスだ!これを利用しない手はない!」
「同感。正直、ここで畳みかけないと、全滅させられる…かも。だからユウキ、今は倒すことだけに集中…。」
「…うん!」
先程の連携とマドカの猛攻もあって、残るヴァルハザクのHPゲージは一本に差し掛かった。
今奴は転倒している。最高にして、もしかしたら最後のチャンスになるかもしれない。もし、削りきれずに新しい攻撃パターン…ないし、強化でもされれば、一人減ってしまったメンバーで戦い抜けるかと言えば、無理だと断言できる。ならばこのチャンスに、ありったけの攻撃をたたき込んで決着を付けるのが理想的だろう。
「狙うは…顔面っ!」
やはりセオリー通りに頭部に集中させるのが効率的と各々判断していたようで、司令塔たるイチカの号令、それと同時に頭に向かって三人は全力で走り出した。
一分一秒
いや、コンマ一秒ですら惜しいと感じるまでに、三人の表情は鬼気迫っていた。
残る自身らのHPゲージはレッドに差し迫ってきている。
だが回復などする暇も惜しい。
やるか、やられるかのデッドオアアライブ。
削りきれなければ…敗北の二文字。
「叩く…うぅん。斬る…徹底的に。」
全力で自身の間合いに駆け入ったシロが、ブレーキを掛けながら右手に持った菊一文字の刃を上に向け、右半身を引き、刃の先をヴァルハザクに向ける。
左手は地に向けられた峰の中腹に添え、その構えはただ繰り出されるのが突きであることを容易に想像させる。
だが、ただの突きではない。この構えにより、その刃に光が灯り、ソードスキルの輝きが周囲を照らす。
「先ずは…一撃。」
瞬間、システムアシストによる挙動により、シロの身体は消え、甲高い音響と共にヴァルハザクの左目に深々と突き刺さる。
システムアシストによって瞬時に間合いを詰め、渾身の一突きを放つそれは、片手直剣ソードスキルのヴォーパル・ストライクや、細剣ソードスキルのリニアーを彷彿させるものだが、刀のこれは違った。
突き刺した刃、音速の刺突の余波として無数の真空波がヴァルハザクの身体を切り刻んでいく。
刀最上位の奥義にカテゴライズされるソードスキル『散華』
それは風に華が舞い散るかの如く剣戟を刻む、多段ヒットソードスキルだ。
奥義、と聞けば、強力な物というイメージがあるが、もちろん威力は最上位ソードスキルと銘打つだけあって最高峰の物だ。並大抵のMobなら、直撃で大抵は一撃で消し飛ばすことが可能だ。しかし、その分デメリットとして、技後の硬直とスキルのリチャージが長いため、ここぞというチャンスに生かされる。
そして、この最後のチャンスとなろうタイミングで使うのは、もはや定石だろう。
「シロ!スイッチ!」
長い硬直と言っても、何秒掛かるものでもないため、ユウキが踏み込んできたほんの僅かな暇でそれは解け、深く突き刺した菊一文字の刃を抜き放ち、バックステップで間合いを開ける。
入れ替わり、ユウキがマクアフィテルの刀身に紫の閃光が走った。
「やぁぁぁぁあっ!!!」
赤い鮮血のエフェクトが未だ消え切らぬその間に、神速の突きがヴァルハザクの顔面に突き刺さっていく。
技名、それに違わぬ刺突が刻む軌跡のそれは、正しく
最も自信を持ち、最も信頼するOSS、自信の切り札であるマザーズロザリオ。
「これで…ラストォ!!」
十字架の交錯点に、渾身の11撃目を突き刺す。
大きな唸りを上げて、ヴァルハザクはその身体を捩るが、未だ起き上がれていない。が、HPも削り切れていないのも確かだ。
「イチカ!トドメ、任せたよ!!」
「あぁ!任された!」
再びスイッチし、ユウキと入れ替わってイチカがその間合いを詰める。体を左に引き絞るように捻り、前進をバネにしてその力を溜めていく。
「最大最後のチャンス…コイツを抜く…!」
納刀した雪華に意識を集中し、ソードスキルを発動させる。
白銀
その神々しいまでの発光エフェクトを経て、イチカの意識は手先に集中する。
以前、千冬に見て貰った、僅かなブレの残った太刀筋。
その全てを払拭する、イチカの中で最高で、そして最大の一閃。
SAOで培った剣技。
死線を潜り抜けて磨き上げた、その剣閃。
それは敵を斬り、その脅威を『絶』つ『刀』。
「これが…俺の……
その一閃は全てを穿つ、
その一閃は全てを拓く、
その一閃は全てを断つ。
しかし、その刃を捉えることは出来ない。
それは、見る物に『無』という『現』実の感覚しか与えない。
故に『無現』
チン…。
鞘口と鍔がぶつかる音だけがボス部屋に響いた。
シロも、ユウキも、ソードスキルの閃光が輝いたのは見た。
だがそれだけだった。
剣戟や斬撃を見ていない。
刃を抜いたまでは見た。
しかし、斬る動作までは見えず、気付けば納刀していたのだ。
唖然とする二人に、残心するイチカ。
長く感じる静寂だけが、その場にあった。
「あ………!」
数分に感じていた…いや、現実には数秒の間だった。
ユウキの声が、静寂を打ち破った。
横たわり、藻搔いていたはずのヴァルハザクの身体が、ピクリとも動かなくなっていた。
ややあって
その頭部に赤い亀裂が走った。
その亀裂は鼻先、頬、首へと伸び、胸部や腹部へと広がっていく。
やがてその亀裂は文字通りヴァルハザクの身体を真っ二つにするように伸びきった。
一筋の、全くブレのない、見事なまでの一閃。
イチカが求め、そして現実で千冬が賛辞を送ったその剣閃。
奇しくもそれは、このボス戦という逆境で真の完成に至った。
両断されたヴァルハザク、その身体はやがて白い輝きを放ち、無数の輝く結晶となって砕け散った。
それはまるでイチカのOSS、その完成を祝福する花吹雪のように舞い散りながら。
今回、SS、OSSの独自解釈が入っています。
イチカがOSS『無現』の完成と、今回の最後に入りましたが、OSSは、登録した動作のシステムアシストに上乗せして、プレイヤースキルを反映するようにしています。なので、システムアシストに逆らって、ある程度の軌道調整も出来れば、今回のように洗練されたプレイヤースキルを加えて、さらなる強力な物に昇華も出来る。…まぁアニメのマザーズロザリオ見てたら、システムアシストに逆らわないと、ユウキがアスナに放ったマザーズロザリオの最後の一撃を寸止め出来ないんじゃないかと思ったので。
…とにもかくにも本編、中二っぽい文章やな…。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。