インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
「…遅かったじゃないか。」
ラインより飛翔すること10分ほどのダンジョン入り口。その傍らにいるのは黒いフードを被った女性プレイヤー。その風貌が怪しいと、苛立ちのオーラを立たせていることで、普通なら近寄りたくないの一言に尽きるが、降り立ったイチカとユウキは何のためらいも無く駆け寄る。
「悪い悪い。ちょっと寝坊助さんがいてさ。起こすのに手間取った。」
「む……寝坊助はひどいんじゃないかな?」
「いや…飛びながら船を漕いでたのは誰だよ?しかも目が覚めたのも数分前だろ?」
「き、気のせいじゃ無いかなっ?」
若干声が裏返った。
事実、イチカの言うように、寝惚け眼で飛行していたユウキを途中まで文字通り牽引していたのだ。
少しの間寝ていたのだが、空気抵抗によって顔に当てられた冷たい風によって、ついさっきようやく目が覚めたのである。
「…まぁいい。今日はこの洞窟で私のレベリングに付き合ってくれるのだろう?」
これ以上放っておくと、またイチャコラされかねない予感がするので、フードの人物…マドカは話を本題に戻した。
「おう。…でも大丈夫か?ここ、結構難易度高いぞ?」
「なに、多少の差なら腕前でカバー出来る。…それに、ALOトッププレイヤーが二人もいるんだ。そうそう負けは無いはずだろう?」
「そだね。その為のパーティプレイだもん。」
さぁ!そうと決まればさくさくっと行こう!と言わんばかりにマクアフィテルを抜き取ったユウキは、右に左にステップを踏んでウォーミングアップを始める。このまま放っておいては一人で抜き出かねない。
「じゃ…改めて行くとしようか。…マドカ、PT振るぞ?」
「…わかった。」
未だ何処かイチカ…いや、一夏に対しての蟠りが残っているのか一瞬躊躇うが、それを差し引いてもマドカの中ではユウキの存在は大きいらしく、拒みはしなかった。
洞窟特有の鬱蒼とした空気の中を進むこと数分。
距離的に入り口から100メートルは進んだところだ。ジメジメとした空気と、そしてやや
「…おかしい。」
「どしたのイチカ?」
我先にと先頭を歩いていたユウキが、一夏の呟きに足を止めて振り返る。
「この洞窟、ここまでモンスターに出会わずに潜れない。」
「…まだ数分だぞ?偶々なんじゃないのか?」
「偶々、にしては出会わなさすぎるんだ。…ここの難易度の高さって言うのは、敵の強さだけじゃ無い。高いエンカウント率も起因しているんだ。」
この洞窟の難易度というのはそこだった。
SAOの時みたいに、レベルを上げ、充分なマージンを取っていれば、並大抵のモンスターにやられることなどほぼ無いものだった。
だがこのALOではレベルという概念はほぼ無く、装備もそうだが、プレイヤースキルの高低が雌雄を決する。その為、並大抵のプレイヤースキルでは、この洞窟のモンスターの湧き具合に太刀打ちできず、強いモンスターによる数の暴力によって、呆気なくリメインライトと化してしまうのだ。流石のイチカも、最初こそ数に驚きはしたし、この難易度で運営の性格の悪さを恨みもしたものの、リポップその物は他のそれと変わりない…むしろ、少し長い方だと感じたのは幸いだった。
「だとしたら…考えられるのは…。」
「他に誰か潜ってるって事?」
「そう考えるのが自然だな。」
それも、先行しているのはそこまで先では無い。リポップしない時間とは言っても、10分やそこらなので、湧き具合や敵の強さから見ても、追い着くことは容易いだろう。
「…ふむ。今日は私のレベリングに付き合って貰ったのに、敵が居ないのではな…。」
「どうする?マドカ。狩り場、変えるか?」
「いや…。」
イチカの案に対して、否と応じたマドカの口は、何処か獰猛な何かを思わせる物だ。
「先行されているのならば、先行し返してやれば良い。モンスターも先にタゲを取ってしまえば向こうも文句は言うまい?」
「そりゃまぁ…そうだが。」
「ならば話は早い。道なりに行けばモンスターとエンカウントすることも無いだろう。追い着き、追い抜くこともそう時間は掛からん。全力疾走で行くぞ。」
言うや否や、黒いフードを靡かせて、マドカは低姿勢による疾走で洞窟を奥へと駆け抜ける。
「あっ!待ってよマドカ~!」
そんな彼女を、ユウキがせこせこと追いかけていく。
やれやれ、と目の前の元気が有り余る2人を見送りながら、イチカはポリポリと頭を掻く。
「なんだかんだで、マドカもALOにのめり込んでるな~。」
某テロ組織のエージェントなどと微塵も感じさせないほどに、今の彼女は紛うこと無くただ1人のALOプレイヤーだ。飾り無く、ただ純粋にゲームを楽しめている彼女に、何処か嬉しさを感じていた。もしかしたら…これが素の彼女の一面なのかも知れない。冷徹無比と感じていたマドカの意外な一面に、どこか微笑ましくも思える。
「イチカイチカ~!!ちょ…ちょっと来て~!!」
そんなイチカのトリップをぶち破ったのは、少しテンパりかけていたユウキの大声だった。流石に洞窟内だけあってよく反響する。
何かあったのだろうか?
「おう!今行く!」
もしかしたら、潜っていた例のプレイヤーと出会しでもしたのだろうか?
悪い足場に気をつけながら、ユウキの声が響いた方に急ぎ行く。十メートルは続く狭い洞穴を抜け、少しばかり開けた場所に出た。
周囲の壁は一メートル四方の穴だらけ、そして天井から鍾乳石が氷柱の様に突き出すその空間の真ん中で、ユウキはイチカに向かって手を振って、ここだとアピールしている。
「どうかしたのか?」
「これ!これ!」
ユウキが視線を移す先…彼女の足下にはぼうぼうと燃えながら地面近くに浮くそれは、妖精の魂とも言うべきリメインライトだった。
「…リメインライト?」
「うん!もしかして、先行してたプレイヤーじゃないかな?」
「だろうな。」
周りを見てみれば、他にリメインライトは見当たらない。仲間に見捨てられたか、あるいはソロなのか。
何にせよ、もし後者ならば、まだ半分も行っていないとは言え、ここまで単独で潜れるとなると、中々の手練れだろう。
「ねぇ、イチカ。」
「ん?」
「蘇生…してあげても良いかな?」
ユウキとしてはゲームといえども、流石に目の前で消えゆく命というのは捨て置けないのだろう。敵対者ならともかく、こうしてリメインライトが残っている間に出会うことが出来たのだ。イチカにとっても助けたいという気持ちは充分共感できるものだった。
「…そうだな。良いと思うぞ?」
そう応えたことで、ユウキの顔はぱぁっと明るくなり、早速ストレージを操作して復活アイテムである『世界樹の雫』をオブジェクト化する。青い半透明の瓶に詰められた蓋を外し、中に入れられたピンクの液体を、未だ燃えさかるリメインライトにトクトクと垂らしていく。中身を全て垂らし終えると、瓶の耐久力が尽きたのか、ポリゴンの破片となって霧散する。同時にリメインライトも、眩い輝きと共にその形を大きく変えていく。炎を象っていたそれは、四肢を形成し、人の形としてその姿を変えていく。色もリメインライトの色から、大半が白へと変わる。
うつ伏せに倒れていたのか、白く、そして艶やかな長い髪が、身体を覆うどころが地面にまで広がっている。
「あ…ありがとう。」
声からして女性プレイヤーか、ゆっくりと立ち上がりながら礼を言う彼女を見て、何処かイチカは既視感を覚えた。
「君は…」
「何かな?」
「…いや…。」
何処かで出会ったか?
そう尋ねようとしたが、その雰囲気によって出掛けた疑問は再び喉の奥へと戻っていく。
その身には白い女騎士を思わせるような装備。凛々しい女性プレイヤーが身に纏いそうな物だが、目の前の少女は凛々しいと言うよりも、愛らしいという印象が強く見受けられる。だが、彼女の容姿はシリカと同年代と思わせるほどに幼いが、それでも似合っていないと言うよりも、寧ろ別な意味でしっくりくる。
「リメインライトになったときはどうなるかと思ったけど、お陰で助かったよ。ここまでは順調だったんだけど、結構なモンスターに囲まれちゃって…。」
「そりゃそうだろ。ここのいやらしい所の一つはモンスターの数なんだ。ソロだと結構喰われる名所なんだぜ?」
だがソロだとしても、ここまで彼女が単独で潜り込んだとしたら、目の前の幼い少女はその容姿とは裏腹にとんでもない実力者と言うことになる。
「…で?どうするの?追い着いちゃったんだけど…。」
「そうだな。そっちもレベリング目的なら、一時的に俺達とパーティ組まないか?」
奥に行くに連れて、モンスターの沸きも多くなる。そうなればソロは勿論、3人のパーティでも厳しい。それならば1人でも多く組んで行けるなら生存確率も上がるはずだ。もちろん、誰でも良いというわけでもない。動きが悪いプレイヤーなら、ヘタすれば共倒れ…言い方は悪いかも知れないが、足を引っ張られる事もある。だが目の前の少女はここまでソロで潜ってきた。実力は充分だと言えるだろう。…まぁ連携ともなれば話は別になるのだが…。
「おい、お前ら。」
先程から黙っていたマドカが、スラリと短剣を抜き取る。それも2本、逆手に構えて。
「お話ししてるとこ悪いんだがな。団体さんが歓迎してくれるみたいだぞ?」
周囲に反響するのは、獣の唸り声。洞窟の壁に音がぶつかり合い、幾重にもなって木霊しており、一匹どころか、何十匹も居るような予感がする。
「パーティは構わんが、まずこいつらを始末するのが先決だと思うのだが?」
「そうだね。…貴女の言うとおりかも。」
互いが互いに背中を向け合い、周囲の何処からでも現れてきても大丈夫なように警戒する。イチカは雪華を、ユウキはマクアフィテルを構える。
「どうやら…囲まれてるかな?」
「…だろうな。」
「あぁもう!タイミング悪い!」
ただでさえ強力なMobだと言うのに、もし壁の穴という穴から湧き出そうものならば、それこそ万事休すと言うものだろう。
無意識のうちに、互いが互いの死角を補うかのように背を預け、四方を警戒する中で、白髪の少女も自身の得物を抜き取った。
それは刀。
だがそれは普通の刀では無い。
イチカの扱う刀の雪華。これは大方柄を合わせて100cm…刀身は約75cmと、歴史の中で大体の日本刀の平均的な長さとなっている。
だが、目の前の少女のそれは、あまりに異質なほどに長かった。
そしてそれは刀を扱うプレイヤーなら、その長さから来る取り回しの悪さに関して酷評を下すレアドロップの武器。
『菊一文字』
先に述べた雪華と比べれば、その刀身は2倍近い150cm。素早い剣戟を求められる刀としては、その長さは致命的なまでに取り回しを悪くしており、重さも洒落にならない。それだけに誰も彼もが装備しないという、不遇のレアドロップ。誰も装備しない=露天売りにもならないため、大体入手すれば、不遇といえどもレアドロップなので、NPC店売りにするのがセオリーであった。
しかし…目の前の少女は、自身の身長以上の刀を構え、これから現れるであろうMobと相対する腹積もりのようだった。思えば、ここに来るまでソロ潜りをしていたのだから、菊一文字を扱うのに慣れているはずだ。イチカですら扱うのを諦めたあのじゃじゃ馬刀をどうやって…
「…来るよ!」
ユウキの言葉に、イチカは思考を現実に戻すと共に、目の前に迫ったオオカミ型Mobの頭部を切り飛ばす。ゲームなのでHPと言う概念もあり、一撃で首を跳ねることは出来なかったものの、すんでの所で切り払うことが出来た。
…どうやら、先のMobは鉄砲玉の役割だったのだ。奴の攻撃を皮切りに、穴という穴からMobが次々と飛び出してくる。
「うぇぇ!?何この数!?」
「驚く暇があれば手を動かせユウキ!…あぁ!くそっ!」
さしものマドカと言えど、数の暴力には対応しきれないのか、フードをMobの爪によって剥ぎ取られてしまう。どうにもこうにも、この数は流石にマズい。
「ハァァッ!!」
そんな中で、バカ長い菊一文字の刀身からのソードスキル・旋車によってMobが10体ほど吹き飛ばされ、洞窟の壁に強かに背を打ち付けた。
圧巻の一撃に、イチカ達は気を取られる。囲まれた状況でそれは危険行為であったが、気を取られたのはMobも同じであった。どうやら、仲間の受けた攻撃によるヘイト集中も備わっているらしく、Mob達の狙いは白髪の少女へと向いていく。
「オイオイオイ。」
「死ぬわアイツ。」
「って2人とも!悠長にしすぎでしょ!?援護援護!!」
ネタに走る織斑兄妹にツッコミを入れつつ、自身にヘイトが来ていないMobを切り裂いていくユウキ。ボケつつも、しっかりと刀と、そして双短剣で敵を切り裂いていく腕利きの2人、更に広い攻撃範囲でヘイトを一気に集めていく少女によって、上手い具合に敵は鎮圧されていくのであった。
白髪の少女の持つ武器。元ネタわかる人いるだろうか。
最近PS4のドラクエ3を始めました。
戦士♂を作って、イチカと名付けて、種によるステ振りして、出た性格『むっつりスケベ』
即採用しましたよ。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。