インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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何とか間に合った!
はい、そんなわけでバレンタインですね!コンチクショー!
書いててうらやましいなんて思ってないんだからね!コンチクショー!
時系列とかアレなことは気にしないでね!コンチクショー!
でも早いとこ本編書き上げて、日常編したいんだからね!コンチクショー!
…そこはかとなくRー15あたりになってます。

…本編書いてますが、フェイタルバレットしてて中々筆が進まない…


番外編『彼女のキスはチョコの味』

男子進入禁止

 

そんな貼り紙がキリトとアスナの邸宅の玄関のドアに貼られていた。

キリトがいざログインしてみれば、マイホームでセーブしていたはずなのに、22層主街区からのスタートになっていたのだ。

何かの不具合かと首を傾げながらも、ログハウスへと飛翔したキリト。そんな矢先にこの張り紙だ。ドアを開けようとしても、システムロックがかかっているらしく、うんともすんとも言わない。

 

「…なんか、締め出された亭主ってこんな気持ちなんだろうかな?」

 

ぽつりと呟くが、誰も聞くものはいない。むしろ、静かすぎて虚しくなってくる。

 

「…仕方ない。イチカの家は…どうだろう?」

 

すっかりお隣さんとしての認識が強まったイチカと、ほぼほぼ同居に近い形になっているユウキの邸宅のドアをノックすると、やや待ってイチカがひょっこりとドアを開ける。

 

「よっ、イチカ。」

 

「キリト?どうかしたのか?」

 

「いや…締め出された。」

 

「は?」

 

現状を理解できぬイチカは素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトとアスナの邸宅 キッチン

 

テーブルの上には、今日この日のために集めに集めた素材アイテムがずらりと並び、そしてソレを調理するための器具が所狭しと広げられている。それらを囲むのは、いつもの女子メンバー。

 

「いい!?女の子にとって、今日は勝負の日よ!全てを得るか、地獄に落ちるかの瀬戸際よ!」

 

「あ、アスナ、地獄にって大袈裟な…たかだか…」

 

「たかだか…?このイベントをたかだかで一蹴する気なの?リズ?」

 

「あ、いや、そんなわけじゃ……」

 

ギラリと睨むのは、愛用のフリル付きエプロンを着けたアスナ。その目はかつてSAO時代に名を馳せた、閃光とは別の二つ名である、攻略の鬼を彷彿とさせる物である。

 

「恋する女の子にとって、一年の計は元旦じゃなくて、この日にあると言っても過言ではないわ!いいわね!?」

 

「り、リーファ…なんかアスナ怖いよ~…」

 

「う、うん。あたしもあんなアスナさん…初めて見た…かも。」

 

「まるで鬼教官みたいね。」

 

ここにいるメンバーの中で、ユウキ、リーファ、シノンは、攻略の鬼であったアスナを知らないため、先の二人はともかくとして、シノンまでどこか引かせるほどの迫力である。

 

「返事がないわ、いいわね!?」

 

『い、イエスマム!!』

 

「…よろしい!」

 

「ママ…今から作るものに、そんな重要性があるのですか?…確かにデータベースでは、男女にとってクリスマスに並ぶ重要イベントと聞いていますけど…」

 

「そうよ。これを成功させれば、2人の関係性はより一層深まるわ。でも逆にこれを失敗すれば……」

 

「し、失敗すれば…?」

 

アスナの物言いに、幼いユイはゴクリと固唾を飲み込む。

 

「…考えただけでも恐ろしいわね。」

 

「ひっ!?」

 

「アスナ、アンタとキリトの関係性は切ろうにも切れないんだから、そんな鬼気迫ってちゃダメじゃない?」

 

「そ、そうですよ!怖い顔して作っても、多分美味しい物は出来ませんよ?」

 

この中でも付き合いの長いリズベットとシリカの言に、アスナもハッとする。

そうだ、こんな焦った気持ちで作っても美味しい物が作れようものか。

今向いていたのは、キリトと関係が潰えないかの危機感、それに気持ちを込めようとしていた。

これではたとえ味と形が良くても、キリトへの想いを込めて作れたとは言えない。

 

「…そうね。少し…冷静さを失っていたわ。ごめんなさい。」

 

「ま、まぁアスナさんのお兄ちゃんに対する想いは重々わかってますので…。気持ちはわからなくはないですよ。」

 

「…ありがとう、リーファちゃん。…それじゃあ皆!気を取り直して、頑張って美味しいのを作りましょう!」

 

『おぉーー!!!』

 

やがて…キリトとアスナの家のリビングには、甘くもほろ苦い香りが漂い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし…あとは焼き上がるのを待つだけだな。」

 

所変わってイチカ(とユウキ)の邸宅。先日設置したオーブンに耐熱プレートと、その上に乗せた何らかの生地を投入し、焼き上げの時間を調整する。

男2人、エプロンを着用しての調理である。

 

「しかし…中々の数だな。渡す相手が多いと骨が折れる。」

 

「まぁ普段から世話になってるからな。現実でも仮想でも。」

 

「精神的なお礼はこれとして…現実でのお礼もしないとダメ、だよな?」

 

「そればかりは本命だけで良いんじゃないか?…あとは家族とか。」

 

「そんなもんか?」

 

「俺も千冬姉や、ALOしてない友達にはするつもりだよ。」

 

もっとも、男女比率のとんでもないIS学園に通うイチカだ。恐らく貰うものはとんでもなく多いために、来月のお返しが同じくとんでもないことになりかねないだろうが。

しかし見ていて未だ付き合いたてのカップルのような、それに近しい友人のようなイチカとユウキ、2人の距離感は、見ていて甘々な物だとキリトは言うが、そっくりそのまま、新婚夫婦のイチャイチャぶりを見せつけるお前らにブーメランを返してやるとイチカはいう。なんせ、夫婦イチャイチャだけならともかく、愛娘ラブラブまで見せつけてくれるのだから、なおのこと始末が悪い。

エプロンを外して、焼き上がるまでの手持ち無沙汰な時間を潰すため、テーブルにカップに入れたコーヒーを二つ置いて一息つく。

 

「…で?」

 

「で?って?」

 

「進展は?」

 

「え、えと……。」

 

「…もしかして、そんなに進展してないのか?」

 

「…べ、別にいいだろ!?俺とユウキの問題なんだし。」

 

「そりゃそうだな。」

 

まぁ幾ら下積みがあったとは言え、告白してその日にベッドインした目の前の黒ずくめの少年には敵わない。

だがイチカは、ゆっくりと、そして確かにその距離を縮めていこうと思っている。それに関してはユウキもわかっているのか、ヤキモキする事もなくイチカのそばにいてくれていた。

 

「まぁゆっくりとも大事だけど、時には押してみるのも大切だぞ?…まぁアドバイスの一つとして留めておいてくれ。」

 

「…わかった。サンキューな。」

 

「おう。」

 

窓の外にはチラホラと舞い降りる雪。

そして今日は2月14日。

聖バレンタイン。

男女が互いの気持ちを伝え合う絶好の日だ。

それだけではなく、普段世話になっている人への感謝と義理を伝えるのにも丁度良い日でもある。

 

「ユウキ、喜んでくれるかな。」

 

「…まぁ、お前がユウキに向ける思いはわかってるつもりだからさ。…喜んでくれるだろ。」

 

「…だと良いな。」

 

下手な女の子よりも乙女なイチカにキリトは若干引きながらも、彼と、そしてその思い人の少女の恋路が上手くいくことを切に願う。

ただその2人の気持ちが縮まるであろう時は、刻一刻と近付いてきていた。

 

 

 

 

 

さて、

オーブンに入れて焼いていたクッキーが焼き上がり、あらかじめ用意していた透明の小袋にそれぞれ詰め、相手のイメージカラーに合わせたリボンでラッピングしていく。プレゼントに相応しい蝶々結びで黙々と、世話になっている面々を想いながら。

 

「でも悪いなイチカ。」

 

「何がだよ?」

 

「本当は俺も作らせてくれ、なんていうのは想定してなかったんじゃないか?料理経験…いやお菓子作りの経験の無い俺が一緒となると、材料もそうだけど、作るのに時間と手間を掛けさせただろ?」

 

キリトが入ってきたときには既に、殆ど生地が完成していた。そこに自身も何か作ると言い出したのだから、彼にとっては二度手間、そしてタイムスケジュールがあったなら、それを狂わせたことになる。

申し訳なさそうにするキリトに、イチカは苦笑を隠せない。

 

「いや、材料程度ならさして問題ないし、料理って誰かと作るのも楽しいもんだぜ?…まぁどうしても気になるなら、この前の27層のお礼、とでも思ってくれ。」

 

「…じゃ、そういうことにしておくか。」

 

初めてユウキ達スリーピングナイツの皆と挑んだあのボス。その一戦、いや、それにリベンジするためにボスに挑もうとした時に、攻略ギルドと一悶着あった。それを助けるために、キリト達はデスペナルティーを顧みず、数多の軍勢を相手に奮闘。自身らがボス部屋に突入するのを手助けしてくれたのである。結果として、リメインライトと化してセーブポイントに巻き戻ったのだが、相手ギルドの八割方の戦力を奪うことが出来た。

……ちなみに余談だが、最多撃破したのは、後衛にて魔法を駆使していたが、血が騒いで前線に出たウンディーネのあの人である。直線通路であったために、細剣スキルであるフラッシングペネトレイターの格好の餌食になったとかならなかったとか。

 

「ま、それは差し引いて、キリトには普段世話になってるしな。だからほら、これ。」

 

そう言ってイチカが手渡してきたのは、彼が手がけたチョコチップクッキーだ。生地に散りばめられたチョコチップもそうだが、生地に練り込まれたココアパウダー、そしてほのかに香るブランデーがたまらない。

 

「いい…のか?」

 

「まぁな。言ったろ?普段世話になってるって。遠慮しないでくれよ?」

 

「…わかった、ありがたく貰うよ。」

 

これは所謂『友チョコ』や『義理チョコ』だ。さして大きな意味は無い。ましてや薄い本が厚くなるような感情や今後の展開は全く持ってないことを記しておく。

しかし…

 

「運営も中々凝ったことするよな。」

 

「ん?何がだよ?」

 

「だってさ。バレンタイン期間は、料理スキル無効化されてるんだぜ?…これって、いかにもシステムに頼らずにチョコを作れって言ってるような物だろ?」

 

「そうだな。…作り方もリアルと変わらない、むしろ現実と謙遜無い程までに本格的だった。…システムに慣れてる人間にはつらいかもだけど、作り甲斐はあるだろうな。」

 

以前アスナも言っていた。

システムによって簡略化された料理で少し味気ない、と。

確かに普段料理する人にとっては物足りないだろうとも思う。

それだけに、今回の仕様でリアルのスキルが物を言うように設定した運営の努力には頭が下がるばかりである。

…一部では文句を言われそうな物だが。

 

「よし…こんな物だな。」

 

テーブルには一通り詰め終えたクッキーが所狭しと、色とりどりのリボンでコーディネートされて並べられていた。数が数だけに中々の圧巻である。

 

「あとは…まぁお隣さんの終わりを待つか。」

 

「いつまでかかるんだろな。…時間がわかれば一狩り行きたいところだけどさ。」

 

「ただいま~。」

 

噂をすれば、である。どうやら居候(仮)の帰宅のようだ。

テーブルに並べてあるクッキーをお互いに作った分に分けてストレージに仕舞うと、丁度ユウキがリビングのドアを開けて入ってきた。

 

「あ、キリト。来てたんだ。」

 

「まぁな。…自宅の締め出し食らったからさ。」

 

「あはは。まぁ今日は仕方ないよ。もう終わったからさ、アスナ達が呼んでたよ?」

 

「おう。じゃあそろそろお暇するかな。」

 

「じゃあな、キリト。皆の分はまた後日にでも持って行くよ。」

 

「わかった。そう伝えとく。」

 

そう言うと、キリトはほぼユウキと入れ替わるようにイチカの家を後にする。…向こうに行けば、恐らくはほぼ全員からの本命を貰うのだろう。…中々のモテ男のようだ。

 

「とりあえずユウキ、何か飲むか?」

 

「あ、うん。じゃあカフェオレお願いしていい?」

 

「了解っ。」

 

そう言ってイチカはキッチンへと向かう。その後ろ姿を見送り彼が死角に入ると、椅子に座ったユウキはストレージからあるものを取り出した。

白い包装紙でラッピングされた小さな四角い箱。両手で持つと、程よい、10センチ四方のそれをユウキはじっと見詰める。

自然と、胸の鼓動が早くなるのを感じる。

顔が紅潮するのを感じる。

 

どうやって渡そう?

 

どう言って渡そう?

 

そんな自問自答が彼女の中で次々と思い浮かぶ。

 

受け取ってもらえなかったらどうしよう?

 

仮に受け取ってもらえても、美味しいと言ってくれるかわからない…。

 

そんな負のスパイラルにはまっていくユウキは思わず小さな溜め息を漏らす。

 

「…どうかしたのかユウキ。ため息なんかついて。」

 

「ふぇぁっ!?」

 

驚き、見上げれば、互いの愛用するマグカップを両手に持ったイチカが目の前に立っていた。

少し心配そうにユウキを見詰めながら、テーブルに湯気が立つカフェオレを置いてくれる。

向かいにイチカもゆっくりと座ると、カフェオレを一口口に含む。ユウキも釣られて白い箱をテーブルの傍らに置くと、カフェオレを一口。程よい甘さとミルクたっぷりのまろやかな味わい。そしてほのかに口に広がるコーヒーの苦みが、ユウキの気持ちを落ち着かせてくれる。

 

「少し、浮かない顔だな。」

 

「へ?そ、そうかな?」

 

「…何か失敗でもしたのか?」

 

「えと…そのぅ……。」

 

煮え切らないユウキの返事に、イチカは思わず首を傾げる。目を泳がせ、まるで失敗を叱責されるのに怯える子供のようにも見える。

 

「う…ぅ…………イチカ…ごめん…。」

 

「へ?ど、どうしたんだよ?いきなり謝るなんて…」

 

「……これ…。」

 

立ち上がって手渡してくるのは、先程の白い箱だった。

箱の上面には、『St.Valentine』と達筆な英語が描かれたシールが貼られている。

 

「これって……。」

 

「う、うん…、ボク…アスナ達と、チョコを作ってたの…。」

 

「これ…俺に?」

 

「う、うん。」

 

「開けても良いか?」

 

「………うん。」

 

少し考えた先、そして意を決したかのような返事に、彼女の落ち込み具合はチョコにあると確信した。

綺麗にラッピングされた包装紙を、出来るだけ破らないように丁寧に広げていくと、中には球状…とは言えない、いや、多少歪ではあるが形の崩れたチョコトリュフが、紙状の箱に入れられていた。

 

「…ごめん。もっと綺麗に作るつもりだったんだけど、上手く丸くならなくて…。」

 

「…もしかして、チョコを丸める時に手を冷やさなかったんじゃないか?」

 

「よく、わかったね。」

 

「俺もおんなじ失敗をしたからな。」

 

世話になっている人、と言うことで、SAOに囚われる前、バレンタインに千冬を労ってのトリュフを一夏も作ったことがあった。だが、手を冷やさずにチョコを丸めようとしたことにより、手の体温でチョコが溶け出してしまい、トリュフは見るも無惨な形となってしまったと言う、思い出すのもチョコの味も苦い思い出だった。

だが、目の前にあるトリュフ。あの経験があったからこそ、これがどれ程自分を想って作ってくれたのかがよくわかる。

一つ手に取ってみれば、形は歪な物であれ、しっかりとコーティングもしてあり、問題は見てくれだけなのだともわかる。

そんなトリュフを、イチカは迷うこと無く口へ放り込んだ。

苦みのある外のチョコが口の中で溶け出し、更にその中から生クリームを混ぜ合わせたまろやかなチョコの風味が口いっぱいに広がっていく。

 

「ど、どう…かな…?」

 

無言で咀嚼するイチカに不安を抱え、おどおどした様子で味の感想を聞いてみる。

しっかりじっくりと味わったイチカは、チョコをゴクリと飲み込む。同時にユウキも緊張からか、同じく固唾を飲み込んでしまう。

 

…やっぱり、見てくれが悪いのがダメだったのかな。

 

そんな絶望にも似た思いを抱くユウキに、ややあってイチカは口を開いた。

 

「うん。すっげぇ旨いよユウキ!」

 

「へ…?」

 

「なんて言うのか…味もそうだけど…ユウキが一生懸命作ってくれたのがよくわかるよ。…ありがとなユウキ。」

 

「え…そ、そんなので…いいの?」

 

「おう。月並みだけどさ。そりゃ見てくれは良いと言えないけど、しっかりとトリュフの味になってるし、ユウキが頑張って作ったって言うのが伝わってくる。…だからこのトリュフは、世界に一つだけの、ユウキが作ってくれた最高のトリュフだって、俺は胸を張って言えるよ。」

 

実際、味もそうだが、しっかりチョコを溶かして、ダマが残らないよう、丁寧に手を加えてある。形は関係なく、自身を想って作り、ただただ旨いと感じれる最高のチョコがそこにはあった。

 

「だから…ありがとなユウキ。こんな嬉しいバレンタイン、初めてだ。」

 

「うんっ。」

 

先程のベソをかきかけていた顔は何処へやら。溢れんばかりの眩しい笑顔が目の前にあり、釣られてイチカも笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだユウキ。」

 

トリュフを食べ終えたイチカは、ストレージを操作して、先程のクッキーをオブジェクト化すると、ユウキに渡した。彼女のイメージカラーに合わせた、紫の水玉模様のリボンでラッピングされている。

 

「これ…ボクに?」

 

「あぁ。皆にも配るのと一緒の奴なんだけどな。」

 

「へぇ…食べてみていい?」

 

「もちろんだ。」

 

聞くや否や、リボンをシュルシュルと解いて、中のチョコクッキーを一枚手に取る。チョコの香りと、そしてほのかに香る芳醇な香りが食欲をそそる。

 

「いただきまーす!」

 

パクリと口に頬張るユウキ。サクサクと、心地よい咀嚼音がリビングに響く。口いっぱいに広がるチョコの味。そして鼻を抜けていくブランデーの香り。ゴクリと飲み込んだユウキは、目を輝かせてとびきりの笑顔を浮かべた。

 

「美味しいっ!」

 

「そりゃ良かった。…ブランデーの風味は大丈夫か?」

 

「うん!なんかほろ苦い感じだけど、むしろそれがボクの好みだよ!」

 

幸せそうに次々とクッキーを食べていくユウキを見て、イチカにも幸せな思いが伝染してくる。少し冷めたカフェオレを飲みながら、ユウキの食べっぷりに幸せを感じるイチカ。

 

「ご馳走さま~。」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にやらクッキーを完食してしまったようだ。本当に美味しそうに食べるものだから、バレンタインでなくともまた作ろうと思ってしまう。

 

「あ~!お腹いっぱいっ!」

 

「お粗末様。片付けておくから、ユウキはソファでゆっくりしておけよ。慣れない料理で疲れただろ?」

 

「え?あ~…うん。正直言うと、ね。」

 

「じゃあ尚のことだ。くつろいでていいからさ。」

 

「うん。ありがとねイチカ。」

 

ほぼ同時に立ち上がり、それぞれ洗い場とソファを目指して移動する。

マグカップ二つ洗うのと、テーブルを拭くだけなのでたいした手間は無い。

物の数分もかからない内に双方を済ませたイチカはエプロンを外すと、ソファに座るユウキの隣に腰を下ろした。椅子とは違い柔らかなクッションが、イチカを受け入れてくれた。

 

「ふぅ~…。」

 

「お疲れ様っイチカ!」

 

座るや否や、腕に抱きついて労を労ってくれる。労ってくれるのだが…。

 

「えへへ~。」

 

今度は身体に抱きついて、胸板に頬をこすりつけてくる。

おかしい

いつもテンションが高めとは言え、ここまでスキンシップをとるほどユウキは積極的ではない。

 

「ゆ、ユウキ?どうかしたのか?」

 

「ん~?何にもしないよ~?」

 

「そ、そうなのか。」

 

だが何処か違和感がある。

少し間延びした声に、少し紅潮した頬。…こんなユウキを過去に何処かで見たことがある。…あれは確か…

 

「ねぇイチカ。さっきのクッキー、すっごく美味しかったよ~?」

 

「そ、そうか。良かったな。」

 

思い出すのに集中させる暇も無く、ユウキが話しかけてくる。相も変わらず、間延びした口調である。

 

「イチカは食べたの~?」

 

「いや…味見で少しかじっただけで…」

 

「じゃあそんなに食べてないんだ~?」

 

「ま、まぁな。」

 

「じゃあさ、ボクがお裾分けしてあげる~!」

 

言うや否や、ぽふっとユウキによってソファに押し倒されたイチカは、一体何をされたのかを理解する暇も無く、彼の唇は柔らかな物によって塞がれた。

 

「な…んむっ……!?」

 

なんだ、と言おうとした矢先に、ユウキの唇によって塞がれたのだ。柔らかな彼女の唇の接触がイチカの顔を紅潮させるには充分すぎるものだった。

 

しかし…

 

今日のユウキさんはひと味違った。

 

「む…むむぅ……!」

 

「ん…ちゅ……る……。」

 

口を開き掛けたままキスをしたからか、あろうことかその隙間からユウキは舌を腔内にねじ込ませてきたのだ。

突然のことにイチカは目を見開き、そしてされるがままとなる。

絡み合う舌と舌。

混ざり合う唾液と唾液。

それによる卑猥な水音が、2人だけの静かなリビングを支配していた。

 

ややあって…

 

口を離したユウキとイチカの間には、唾液によるキラリと光る銀の糸が成され、それは突如としてぷつりと切れる。

未だ何をされたのかわからないイチカ。

そしてそんな彼に馬乗りになって、顔は紅潮し、目元をとろんとさせて見下ろすユウキ。

 

「…どう?イチカ~。」

 

「……へ?」

 

「クッキーの味、した~?」

 

そんなもの味わう余裕なんて無い。まぁほのかに口に残るチョコの味と、ブランデーの風味があるのも確かであるが…

 

…ん?

 

……ブランデー?

 

「ま、まさかユウキさん…」

 

「ん~?」

 

「酔ってらっしゃいます?」

 

「ボクは酔ってないよ~?」

 

嘘だ。

思い出したが、27層ボス攻略の打ち上げの時に酔ったユウキのそれと同じ雰囲気である。

今回のことでも何となく察したが…どうやら彼女は、酔うとかなり大胆なスキンシップをとるようになるらしい。がしかし、そんなことが理解できたからと言って、現状がどうなるわけでは無く…

 

「イチカ、もっかいしよ~?」

 

もはやまな板の鯉どころか、ソファのイチカと成り果てた彼にとって、ありのままを受け入れるしか無い。

理性を保ちながらユウキのディープなキスに耐えて、それは彼女が寝てしまうまで、軽く一時間は続いたそうな。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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