インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
甘酸っぱさを味わっていただけたら僥倖です。
暦はすでに年を明けて1月1日。
ALOでも現実と季節がリンクしているために、窓から見える外の景色には、しんしんと雪が舞い降りている。それに伴い、気候の設定も真冬に合わせており、突き刺すほどでは無いにせよ、かなりの寒さとなっていた。
だが、
「はふぅ……」
屋内ではあるが、向かって座るユウキの表情は蕩けきっていた。まるで、猫がマタタビを食らったかのように酔っ払うかの如く、力無く垂れている。
「ユウキ、ミカン食べるか?」
「食べる~…イチカ~…剥いて~…」
「それくらい自分でやれよ…」
「だって~…コタツの魔力には逆らえないもん~…」
そう、2人が向かい合って座るのは、日本人が冬に愛して止まない文明の利器、コタツ。漢字で炬燵。
何の因果か、偶々レアなクエストに挑戦出来たイチカがそれをクリアして、その報酬に得たのがこのコタツのオブジェクトアイテムだ。
キリトとアスナの邸宅ほど広くも、そして値段も高くも無いにせよ、年末に購入したマイホーム。先方の内装と同じく洋風のログハウスではあるものの、暖炉も無く、特にこれと言った趣向も無かったために、一部屋に畳を敷き詰め、そこにコタツを設置してみたところ、見事なまでに和風の一部屋が出来上がったのだ。
で、設置するや否や、遊びにきたユウキがコタツを見付けて目を輝かせて、その魅力と魔力に取り付かれてしまい、暇さえあればコタツムリをしに来ているのである。
閑話休題
ミカンの皮を丁寧に剥き、薄皮に付いた筋も取り去って、一房手に取ると、
「あ~ん…」
………まるでツバメの雛が餌を求めるかのように、口を開いて待つユウキ。
ヤレヤレと苦笑しつつ、イチカはその慎ましいとは言い難い目の前の少女の口にミカンの房を入れてやる。
モグモグと、数回咀嚼した後、ゴクンと音はしないにせよ、聞こえかねないように飲み込んだ。
そして次を求めて再び口を開くユウキ。
そんなやりとりが、ミカン1個平らげるまで続いた。
時間を見れば、丁度10時になろうかという時間。
「なぁユウキ。」
「え~?なに~?」
相変わらず力が抜けきったような声で応じる彼女。
このままコタツムリ状態が続くのも何だし、何よりもイチカ自身、ユウキと出掛けたいのもあった。折角の正月なのだ。現実の木綿季は入院中ではあるものの、ALOではこうして動ける。なので、正月ということもあり…
「折角の正月だ、初詣に行かないか?」
「初詣~?」
「おう。一年の計は元旦にあり、って言うからな。どうせなら行ってみようぜ。」
「ん~…そうだね~…あと五分待って~…」
「…それ、ダメなフラグだろ。…えぇい!」
このままではズルズルと行かないことになりかねないので、イチカはステータス画面を開き、マイホームの家具オブジェクトを操作して、コタツをストレージ内部には仕舞い込んだ。同時に、ユウキが垂れていたコタツの天板も消えてしまったので、ガクリと彼女が前のめりに伏せてしまった。
「い、イチカ!?何するの!?」
「いい加減コタツムリは止めとけって。たまには出掛けないとダメだぜ?」
「うぅ…寒いよぅ。」
見れば、ユウキの服装はかなりの軽装になっていた。部屋着として着用しているそれは、普段の戦闘時に装備しているクロークとはまた違い、少しゆったりとした物だった。ゆったり、とは言っても、活発なユウキに似つかわしい、動きやすさも見込まれた物である。
今までの服装よりも明るい配色の紫と赤を基調とした物で、クロークのスリットで見え隠れしていた健康的なユウキの脚が、ミニスカートと言っても差し支え無いくらいまでに短いソレから惜しげも無く晒されている。加えて、脚を投げ出してコタツに入っていたものだから、艶めかしいまでに彼女の脚がイチカの目に留まり、そりゃもう釘付けになっていた。
「イチカ、どーかしたの?」
無意識なのか、首をかしげるユウキの声にハッと我に返ったイチカ。思春期真っ盛りの彼にとっては目に毒なものである。悶々としていた煩悩を振り払い再びメニューを開くと、とある服装アイテムをユウキにプレゼントする。
「何、これ?」
「良いから、とりあえず受け取っとけ。」
「…?う、うん。分かった。」
アイテムを受け取ったユウキは、ストレージに移動したそれをスクロールして特定すると、概要を確認し始めた。
「い、イチカ、これって…!」
「まぁ初詣に出掛けるんだ。それなりの服装をしないとな。…とりあえず、俺は部屋から出るから、装備してみろよ。」
「う、うん。」
何処か戸惑いを隠せずにいるユウキを一人残して、イチカは和室に隣り合ったリビングに移動する。
さっきまでコタツでぬくぬくしていたので、少し肌寒いのもあるが、それでもこれから外に出るのだ。少しでも寒さに慣れておかなければならない。
「気に入って…くれるかな。」
誰に聞かせるとも無く、一人呟いた。
思えば押しつけにも等しいかも知れない。
でも、折角の正月だから、どうせなら楽しみたいと思うのはエゴなのかも知れない。
「い、イチカ…。」
趣味で和室に合わせてリビングとの隔たりを襖にしていたが、それを少し開いてそこから顔を覗かせるユウキ。恥ずかしいのか何なのか、少し顔を赤らめている。
「えっと…その……これって……。」
「どうだ?サイズとかは問題ないと思うけど。」
「い、いや、そうじゃなくって……」
どうにも煮え切らないユウキに、今度はイチカが首を傾げる番だった。
「ぼ、ボク、こんなの着たこと無くて……似合ってなかったら……嫌だなって……」
「大丈夫だ。俺は似合ってるって思ったからユウキにプレゼントしたんだぜ?…それに、ユウキは元が可愛いからな。…十中八九間違いなく似合ってるって確信してる。…だからさ、もっと自信を持って良いと思うぞ?」
「そ、そんな恥ずかしいこと、サラッと言わないでよ…イチカのバカぁ……」
流れるように可愛いなどと口にされて、赤みの掛かっていたユウキの頬は、更に紅く染まっていく。もはや沸騰寸前のようだ。
だが、ここまで言われてユウキも引き下がる訳にもいかない。
意を決して、ゆっくりと、その身を襖の陰から出してきた。
そして…彼女の姿に、イチカは息を飲んだ。
その身に纏うのは、ユウキのパーソナルカラーである紫の着物だった。紫の生地に、所々散りばめられた黄色い花柄の文様と、赤い帯がとても映えてみえる。コスチュームアイテムだからか、全て一環統一されており、足袋まで装備されている。
「………。」
「い、イチカ?…な、何とか言ってよぅ……、そ、その…あんまり見詰められると……恥ずかしいし、さ……」
「あ、あぁ…、わ、悪い。」
見惚れていた、などと言えば安直だろうが、実際その通りだった。
似合うだろうな~、と思って、紫を基調としてとある人物にオーダーしたのだが、思った以上に似合っていて、一瞬我を失ってしまうほどに惚けていたようだ。
「そ、その……すっげぇ可愛いし…似合ってる…。……想像以上…かも……。」
「う…ん………その……あり、がと…。」
髪型も、いつものようにハチマキをヘアバンドのようにしているストレートヘアのものではなく、首の付け根でお団子にまとめた物にしてあり、ヘアースタイルまでもコスチュームの一環に設定してあるようだった。
そして…あらわになったユウキのうなじが、イチカの煩悩を更に引き立てていく。
「い、イチカ。」
「は、はぃっ!?」
「その……いこ?」
「い、いこ、って…?」
「は、初詣っ!…行くん、でしょ?」
「お、おう…。」
少し小っ恥ずかしい雰囲気のままで、二人は玄関口へと向かう。外に出るその際に、イチカは黒いブーツをストレージから装備するのだが、ユウキが外に出ると、これまた用意が良いのか何なのか、着物と同じく紫の配色の草履までオブジェクト化してユウキの脚に装備された。
「…全く、準備が良すぎるんだかなんだか……」
「イチカ?」
「いや。こっちの話さ。」
外に出てみれば、先程まで振っていた雪は止み、辺り一面に銀世界を作り出していた。
家の周囲の木々には白銀の装飾を纏い、遠くそびえる山々にも真っ白な雪景色。
「わぁっ!凄い!」
「見事に積もったもんだな。」
今日はイチカのマイホームからのログインだったので、よく雪が降っていたのは見えていた物の、ここまで積もっているとは思わなかったようだ。
「イチカ!帰ってきたら雪合戦しようよ!雪合戦!」
「それも良いけど、まずは初詣だな。帰ってからの予定はそれから立てても良いだろ?」
「えへへ、そうだね。」
まぁ、ユウキと遊ぶのであれば何でも良いけどな、とイチカが雪にはしゃぐ彼女を見ていると、お隣の家のドアが開く音がした。
「わぁあ!凄いですパパ!辺り一面雪ですよ!」
「ホントね!ほら、お正月なんだから、少しは出掛けましょ!」
「い、いや、俺は寝正月が一番…。」
「「あ。」」
「「「…あ。」」」
お隣の家から出てきたのは、桃色の着物を着たリアルサイズのユイと、赤い着物を着たアスナだった。そしてアスナに手を引かれていやいや出てきたのは、いつもと変わらぬ真っ黒のキリトである。
「イチカ君にユウキ。あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうございます、お二人とも!」
「あけましておめでとう!アスナ、ユイちゃん!キリト!」
「あけましておめでとう。」
「あ、あぁ。あけましておめでとう…。」
正月早々、寝正月を決め込んでいた事がバレて、少々バツの悪そうなブラッキー先生。そんな彼にお構いなく、アウトドア寄りなアスナと、年相応なユイは元気いっぱいだ。
「もしかして、2人も初詣に行くの?」
「えぇ。折角の正月ですしね。そちらも?」
「そうなのよ。キリト君が寝正月って言うからね。少し引っ張ってきたの。」
「あ、あはは…。」
かく言うユウキも、先程まで寝正月とまではいかなくても、コタツムリ状態となっていたために苦笑するしか無い。
「そうだ!どうせなら五人で行きましょ?」
「いや、いいんですか?親子水入らずの中に俺達が入っても…」
「良いと思うわ。キリト君はどう?」
「いいんじゃないか?…知らない仲じゃ無いしな。」
「だってさ。ユウキ、いいか?」
「もちろんだよ。皆で行った方が楽しいし!」
「じゃ、ご一緒させて貰います。」
「決まりね!」
「じゃ!いきましょー!」
ユイの号令と共に、五人は連れ立って…キリト達親子と、それから一歩引いてイチカとユウキは歩いて行く。
目の前では三人がユイを中心に、子を挟んで手を繋いで仲睦まじく歩いている。
「パパとママの手、温かいです!」
「ユイの手も温かいな。ホカホカだ。」
「ふふっ。」
そんな三人の空気に当てられてか、ユウキはそっと、隣を歩くイチカの手を掴む。
いきなりの行為に、イチカはビクリと身体を跳ねさせた。
「……寒いんだから……手…繋いで。」
ユウキも恥ずかしいのか、イチカから目を逸らしてボソボソと消え入りそうな声で言葉にした。
よっぽど恥ずかしいのか、それとも寒さからか、ユウキの耳は真っ赤だ。
「…わかった。」
自身の手を掴んでいたユウキの手。その指とイチカの指をしっかりと絡ませ、離れないように少し力を込める。
恥ずかしさで沸騰しそうだった。
でもそれ以上に、隣を歩く大好きなその人の手の温もりが、暖かく、そして愛おしかった。
「いこ…イチカ。置いて行かれちゃうよ?」
「…おう。」
サク…サク…と、降り積もった新雪に二人の歩んだ跡がしっかりと残っている。
今年も…これからも…二人で足跡を残していこう。そう、誓い合うかのように。
とりあえずイチカのマイホームは、キリアスの愛の巣のお隣にしました。
で、描写が出来てないですが、ユウキの部屋着のイメージとしては、ゲームのホロウリアリゼーションの服装をイメージしていただければと思います。
初詣本編…どうしようかな
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。