インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
言い訳かも知れないですが、仕事で部署移動があって、慣れない環境での仕事により、休み時間に執筆する余裕がなくなってました。昨日と本日は休みなので一気にか書き上げることが出来ました。それではどうぞ
昼食を終え、洗い物や片付けを終えた和人、明日奈、一夏の三人は再び和人の部屋へと戻り、プローブの最終調整を行うことにした。パソコンのディスプレイには接続が完了したとの表示もあり、早速和人はパソコンと向き合って座り、作業を始める。
「さて…プローブの調整を始める訳だけど……ユウキ、いいかな?」
『………。』
「あれ?繫がってないのか?…それともマイクの調整が………お~い、ユウキ?」
『…イチカが…ボクを…イチカが…ボクを………』
耳を澄ましても聞こえないほどに、スピーカーから洩れる小さな声。取りあえず接続その物は問題ないらしいのだが、いつものユウキらしからぬ様子に和人と明日奈は顔を見合わせる。
「…なんか、様子が変じゃない?」
「そうだな。……まぁ、様子が変、と言えば、こっち側にも1人居るっちゃ居るけど…。」
半笑いで後ろを見れば、ベッドの陰に隠れてこそこそしている一つ年下の友人。パソコンに繋いであるプローブのカメラの丁度死角になっている。
「おいおい一夏。隠れて何やってんだ?」
「一夏君が頼み込んだことなんだから、ちゃんと見てないとダメじゃない?」
「あ、や、でも…そのぅ………」
結構ハッキリ言う彼にしては歯切れの悪い返し。ユウキと言い一夏と言い…。
「ど、どんな顔してユウキの前に行ったらいいのか分かんなくて……恥ずかしいんだよ…」
「乙女か!?」
SAOではボスへ物怖じもせずに勇猛果敢、そして
理由を知らない明日奈は、そんな彼を見かねてか和人にこそっと小声で尋ねてみることにした。
「ね、ねぇ和人君…、一夏君どうしちゃったの?ご飯の時から上の空だったし…一夏君らしくないというか…ユウキと何かあったの?」
「あ、うん……まぁその…思春期の男子は複雑なんだよ、色々と。」
「そ、そうなの…。」
まぁ男には男しか分からない心情と言う物があるのだろう。和人の言い分を聞き入れながらも、少し羨ましくも思う明日奈。
「まぁなんにせよ一夏君は放っておいても今の所問題ないとして。」
「さり気なくヒドいこと言ってるぞ。」
「でも事実でしょ?…今はユウキのプローブの調整をしておかないと日が暮れちゃうんじゃ無い?」
明日奈の言うことも尤もだ。優先すべきことを把握すること。さすがは血盟騎士団副団長と言ったところか。采配や指示の技量が光る。
「ユウキ、ユウキ。聞こえる?」
『ふぇっ!?…あ、アスナ?』
「お、ようやく答えたくれたなユウキ。さっきから呼びかけていたけど、全く返事が無かったからな。プローブの不調や回線を心配したぞ?」
『あ、ご、ごめんね?ちょっとその…考え事してて…』
「そうなのか。まぁ悩み事とかなら俺や明日奈、一夏も相談に乗るからな?」
『い、イチカ!?』
急に上擦った大声を出すと共に、『はぅぅ…』としぼんでいくような声と共に、ユウキは再びブツブツとひとりごとを言い始める。
そこで明日奈は気付いてしまった。
これは…2人の間に何かあった、と。
「…和人君。」
「え?な、何?」
「このままでも…移動してユウキと話すくらいなら問題ない?」
「あ、あぁ。こうして会話が成り立っているから問題は無いと思う。回線もWi-Fiだから…家の中なら…」
「じゃあ、少しユウキと2人で話したいの。縁側…辺りを使ってもいいかな?」
「わかった。カメラの調整はそのあとでいいか。」
カメラのレンズ調整は、メディキュボイド内部からのピント調節を口頭で言わなければならないために、ユウキのこの状態ではそれもままならない。それなら話を聞いて落ち着けてからの方が良いだろう。
「ありがとう和人君。それじゃ失礼するわよユウキ。」
プローブとパソコンを接続していたUSBコードを取り外すと、下部についていた固定用アームで肩を挟むように乗せた。この小さな機器で、本来スマホとかで会話できないユウキと離れていても話すことが出来る。和人やその仲間達の努力に改めて尊敬を抱く。
プローブが落ちてしまわないほどに固定されてのを確認し、踵を返す明日奈。部屋を出る手前、未だベッドの影で隠れている朴念仁改めヘタレの一夏を横目に、
「一夏君。」
「は、はい。」
「何があったのかは、私にはまだわからない。2人が何を考えているのかはわからないけど…。
2人で話し合う事も大事だと思うよ。今の状態では無理かも知れない。けど勇気を振り絞って前に踏み出すことも忘れないで。」
そう言い残して部屋を後にした。
正直、彼女の言うことも尤もだった。
無自覚でユウキに告白紛いの宣誓をして、それの意味に気付いて今度はヘタレてまともに顔を合わせたり話したり出来ない。
「勇気を振り絞って…か。」
「…まぁ、明日奈が戻ってくるまでは、少し気を落ち着けておけよ。…もしプローブ越しじゃ無くて面と向かって話したいなら、俺のアミュスフィアを貸してやる。」
「…悪いな和人。世話になりっぱなしで…。」
「気にするなよ。今度精神的にALOでお礼をしてくれたら十分だ。」
大切な友人2人による叱責と背中押しで…一夏の中で一つの決意が固まる。
(そうだ、ユウキも言っていた。
ぶつかってみなくちゃ、わからないこともあるって。
だったら俺は、真正面からぶつかってやる。
俺自身の気持ちと…ユウキに!)
和人が見た一夏のその目は奇しくも、旧SAOで彼が見せた剣豪としての目と非常に酷似して見えた。
秋本番を迎え、そして肌寒さが昼間にも目立ち始めた昼下がりの秋空の下。
縁側から見える植え込みは、秋さながらの色を彩りはじめ、その季節の到来を感じさせるようになってきていた。
そんな景色を一望できる家屋の縁側に、明日奈は腰を下ろして庭を一瞥した。
「ねえ木綿季。」
『な、なに?アスナ…。』
少し落ち着いたのか、返事はしてくれた。未だ少し上擦った声ではあるが、それでも大分マシであることに変わることはない。何せここに来るまで一言も発することも無かったのだから…。
「何があったのか、私に教えてくれないかな?」
『な、何がって……何…?』
「誤魔化せないわよ?一夏君のこと。」
『っ…!!』
やはり思うところがあったのか、一夏という名前に反応したように、ユウキは言葉を詰まらせてしまった。顔を見なくても動揺しているのはヒシヒシと感じる。
「私が言うのも何だけど、一夏君て何事にも堂々としていることが多いのよ。そんな彼があそこまで腰が引けてるって言うのは、よっぽどのことがあった。そしてタイミングを同じくして木綿季、貴女も様子がおかしくなってる。…それが偶然の一致なんて、私には到底考えられないわ。」
『え…と……そ、それは…。』
「今回のこともね?一夏君が木綿季の為を思って和人君を頼ってるの。なのに、一夏君もそうだけど木綿季、貴女までそんな調子じゃちょっと格好付かないと思うわ。」
昨日、メディキュボイドに接続されたアミュスフィアを外した一夏は、息つく間もないほどに病院を飛び出して和人に連絡を入れた。以前、和人が高校で研究しているテーマの中に、ユイのように仮想世界の中にいても現実世界を見聞きできるような機器を開発している、と語っていた。それを思い出して、いてもたっても居られなくなって電話して事情を話せば、二つ返事でOKをもらえた。
そこからの和人は物凄い集中力だった。
電話を切る前に、ユウキのメディキュボイド。そのIDとアクセスパスワードを、倉橋医師の許可を得て教えて貰うこと。それを指示すると、夕食と入浴を済ませるや否や、寝る間を惜しんでプローブの調整を行った。何せ、文字通りにプローブのモニターをしてくれる人が現れたのだ。聞かされた木綿季の病状においては両手を挙げて喜ぶことは出来ないが、しかし木綿季の想いを叶えることも出来るし、今までテストに付き合ってくれたユイとは別にプローブの使い心地の感想を聞くことが出来るまたとない機会。
和人も躍起になった。
そして日曜の10時。
徹夜の甲斐あってか、あとは一夏の持ってくるIDとそのパスワードを入力して、木綿季が調整を手伝ってくれれば、晴れてメディキュボイドに調整されたプローブの完成だ。
が、
そんな矢先に木綿季がこの調子では、IDとパスワードの為に倉橋医師に頼み込んだ(事情を話せば、彼は快く承諾してくれたが)一夏や、徹夜の和人の尽力が意味を成さない。
明日奈の言葉で改めてその事に気付かされた木綿季は、再び黙り込んでしまう。
ややあって
意を決したかのように、木綿季は口を開く。
『…ねぇ明日奈。』
「ん?」
『明日奈は、さ……ボクの身体のこと…一夏から聞いた、よね…?』
「…えぇ。ある程度は、ね。」
『そっか…じゃあボクの命のことも…知ってる、よね?』
「…そう、ね。」
自身より三つも年下の少女。その命の灯火がもうすぐ消えてしまう運命にある。その事実を知ったとき、明日奈は思わず涙を流してしまった。
にもかかわらず、明るく振る舞える木綿季に明日奈はただただ言葉を詰まらせることしか出来ない。
『ボクね。』
そんな沈黙を破ったのは木綿季の方だった。
『もうすぐ消えちゃう命だから…友達も必要以上に仲良くしないようにしよう。線引きをしておこうって…皆…スリーピングナイツの仲間達と決めてたんだ。もちろんその中には、和人や明日奈も入ってた。』
どこか達観したような声の木綿季。
まるで自身の寿命が見えているかのような。そんなどこか悟っていて、でもどこか哀しげな物。
『でも…何でかな…?一夏と居たら…その誓いを忘れちゃうくらいに暖かくて、楽しくて、夢中になっちゃってた。』
「木綿季…多分それは…」
『うん、分かってる…多分…うぅん、ボクはきっと一夏を…好きになっているんだ…。それが…ようやく解ったんだ。』
一緒に過ごして、そしてずっと一緒に居てやるって言われて…。
その頃からだろうか?
一夏を仲間の1人としてでは無く、1人の男性…異性として見始めたのは。
『…おかしいよね…もうすぐ死んじゃうボクが…人を好きになっちゃう…そんなの…絶対ダメなのに…。』
「木綿季…。」
『このままじゃ…ボク、おかしくなっちゃうよ…!一夏に好きだって言いたい…!でも…もうすぐボクは…居なくなる…。ボクは…どうしたら良いんだろう…。』
残る命
自身の恋心
そんな現実、自身の気持ちの狭間で、木綿季は苦しんでいる。
途方も無いジレンマ、葛藤が、木綿季の心を強く、強く締め付け、重くのし掛かる。
それは涙として流れ落ち、スピーカー越しに声が震え始める。
好きだと言いたいが、言えない。
そんな矛盾の中に、木綿季は囚われている。
「木綿季。」
『……明日奈?』
「木綿季が自分の身体のことで…負い目を感じて、一夏君に少し遠慮してるのは分かったわ。でも、人を想う心に隔たりなんているのかしら?」
『隔たり…?』
「一夏君は木綿季の身体のことを知っているんでしょう?…だったら簡単よ。想いを…木綿季の気持ちをぶつけてみればいいわ。」
『でも…ボクは…。』
「もうすぐ居なくなる?…そんなの、関係ないわよ。…確かに辛いかも知れない。でも、燻っているよりも、自分に正直に裏も表も無く、とにかく前へ進んでいく。その方が木綿季らしく思うわ。」
『ボク…らしい?』
「えぇ。何となく、ね、どんどん前に行って、壁にぶつかっても、とりあえず壊せるかどうか試しそうなのが木綿季って感じだもの。」
『ボ、ボク、そんな脳筋じゃ…』
そこまで言って、はっと木綿季は言葉を詰まらせた。
例1
迷宮区探索時
行く先行く先出会うモンスターを片っ端から薙ぎ倒し、迂回ややり過ごすと言ったことを全くしなかった。
例2
ぶつかってみなくちゃわからないこともある、と言う持論。
例3
一緒に戦ってくれる人を探すためのOSSをかけた辻デュエル
…明日奈の言うとおり、脳筋仕様となっている自身を自覚し、仮想世界で木綿季はガクリと膝を着く。
こんな…ハズでは…
「ゆ、木綿季?」
『へ、へいき、へっちゃらだよ…うん、大丈夫…。』
しかし、だからといって明日奈の言ったことも尤もだ。
ぶつかってみなくちゃわからないこともある
それが木綿季の中で大きな物であることには変わりは無いのだから。
『ありがとう明日奈…。そう、だよね。ウジウジ悩むなんて…やっぱりボクらしくないや。…ちょっと…その、怖いけど。ボク、頑張って前へ進むよ。…一夏と、向き合ってみせる。』
「うん、その方が木綿季らしいわ。…応援、してるからね。」
『でももうちょっと時間が欲しい、かな。もう少し心の準備…したいし。』
「えぇ、良いわよ。…でも、気持ちを切らさないでよ?」
『分かってるよう…。…じゃあ緊張を解すために、明日奈と和人の恋について聞かせてよ!』
「えぇっ!?だ、駄目よ恥ずかしい!」
『え~?成就した人の話を聞いたら、勇気が湧くかな~って思ったんだけどなぁ~…』
中々に痛いところを突いてくるものだ。
さすがに旧SAOやALOでの甘く、そして酸っぱい恋愛談など、ホイホイと人に聞かせるようなものではない。
しかし結果として結ばれた2人だからこそ、木綿季はそこを突いてきた。
成功例を聞かせる。
告白したい木綿季にとって、成功例の話を聞くと言うことは、この上なく魅力的な物なのだろう。顔を見なくても、キラキラと目を輝かせているに違いない。
だがここで断れば、気持ちが切れてしまう可能性もある。
話すべきか、話さざるべきか…
明日奈の中で嫌な葛藤が芽生える。
たっぷり数十秒、考えた末…
「じ、じゃあ…その、ちょっとだけ…」
『わぁい!じゃあさじゃあさ…!』
今まさに和人と明日奈…キリトとアスナの小っ恥ずかしい馴れ初めが、無垢な少女に打ち明けられようとしているなどと、黒ずくめの少年は知る由も無かった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
-
兄さん。
-
兄貴。
-
一夏。