インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
お気に入り200突破!?
あ、ありがとうございます!
感謝感激雨霰とはまさにこのこと!
不肖、私めは、この評価に恥じぬように邁進していきます!
聞き慣れた電子音と共に、イチカから一夏へと戻った彼の視界には見慣れた天井が飛び込む。
軽く見積もって半日以上同じ体勢だったので、凝りに凝った体を動かすと、ゴキゴキと嫌な音が響いてくる。
…年寄りみたいだな、と何時もの一夏なら少し凹むだろうが、生憎と今の彼にそんな余裕はなかった。
「ユウキ……」
アミュスフィアを取り外して、ボソリと件の少女の名前を口にする。
一体何があったのか。
いきなり泣き始めて
いきなりログアウトして…。
何か気に障るようなことでも口にしただろうか?
…いや、心当たりその物は一夏にはない。
ただ…やはり思い当たるとすればユウキの『姉ちゃん』と言う存在か。
「シウネー達なら…何か知ってるのかな…」
聞いてみたい気持ちもある。
姉ちゃんと言う存在が、どうしてあの笑顔溢れるユウキをあそこまで悲しませる事になるのか。
だがスリーピングナイツの皆は、例えその存在を知っていたとしても話したりはしないだろう。朧気ながらも、彼、彼女等の絆と言う物は固いものだと感じている。
…じゃあ…どうする?
「…考えていても…どうにもならねぇのかな…。」
元々、ボス戦を手伝うという名目で一緒にいた間柄だ。それが終わって、何時もの日常に戻る、それだけ。…それだけのハズなのだが…。
「…あぁ!くそっ!何なんだよこのモヤモヤ…!」
割り切ろうと考えようとしても、頭にしがみついて止まないスリーピングナイツ……いや、ユウキ。
ほんの数日、共に冒険して、共に遊んだだけなのにどうしてこんなにまで…
「…とりあえず……シャワー…浴びるか。」
変に悩んでても仕方ないと割り切り、今は若干汗ばんでいる体を洗い流そう。
…どうせなら…冷たい水で頭をしゃきっとさせるために。
「どうした一夏!?動きが直線的すぎるぞ!」
アリーナでぶつかり合う白と紅。
右手の空裂が雪片を弾き、左手の雨月が横薙ぎに一夏の纏う白式雪羅を薙ぐ。
身体を反らすが、完全回避と行かずに胸元を掠めて
普段の一夏ならば、ここで一旦距離をとるものだが、今日の彼はどこか変だった。そう見ていた友人は語るほどに。
左手の複合兵装である雪羅からレーザークローを展開し、疑似二刀流で相対する紅椿を纏う箒に斬り掛かる。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
彼の剣捌き。
一番の得意剣術である居合は鞘が無い都合上使用できないが、それでも速く、そして美しさすら感じられる程に洗練されたものだ。それは剣舞を基盤とした篠ノ乃流を組み込んだと彷彿される程に、見る者の眼を惹き付ける。
だが今の一夏にはその剣舞を舞うような美しさも繊細さも、微塵と感じられないほどに荒く、そして雑だった。
「…ふんっ!」
雪片もクローも、何の苦無く捌く、躱す。
精密さの欠けた、まるで獣のような剣術など、いくら紅椿に慣れきっていない箒でさえ、見切ることなど造作も無かった。
返しとばかりに斬り返した事でガラ空きになった一夏の腹に、重い蹴りを放つ。
吹き飛ばされながらも、何とか体制を整えた一夏は雪片を構え直した。
「がっ!?…くっそ…!零落白夜!」
上手く当たらないからと逆上し、諸刃の剣を使用し始めた。
クローと零落白夜。その双方を同時に使用していることで、白式のSEはもりもりと無くなっていく。
「ハァァァァァッ!!!」
「…雨月。撃ち貫け。」
左手のブレードを突き出したことで、刃にソードスキルにも似た淡い光が纏う。
瞬間、まるで拡散レーザーのような赤い閃光がランダムな照準で発射され、一夏に降り注いだ。
「くっ、そぉっ…!!」
レーザーのようなエネルギーを切り裂くことの出来る零落白夜で、眼前に迫る雨月のレーザーを打ち消していくが、その度にただでさえ悪い燃費によって削られるSEの減少が加速していく。
こうなったら、と、雪羅をシールドに切り替えて、それを傘のようにして雨月のレーザーの雨を突っ切っていく。
一撃
一撃入れれば決着が付く。
イグニッションブーストによって吹かしたスラスターから、エネルギー粒子が舞い散り、一気に箒へと肉薄した。
「もらっ……っ!?」
勝利を確信して、零落白夜を発動した雪片を横薙ぎに振るう様に構えていたが、箒が消えると同時に腹部に衝撃が走る。
ハイパーセンサーによって箒の位置の把握は容易だった。
既に、背後へ切り抜けていた。
恐らく、剣道の技の一つである抜き胴により、一夏の腹を切りつつ、背後へ抜けたのだろう。
「まだ…っ!?」
振り返り、反撃しようとしても、白式の動きがガクリと無くなってしまう。
雪片の零落白夜も、雪羅のシールドも、その光を失い、スラスターからのエネルギーも枯渇し、徐々に加工していく。
視界の端にあったSEは…既に
「い、一夏…な、何なのよさっきの戦いは!?見てらんないじゃないの!?」
「うん、ボクも鈴の言うことには同感だよ。…剣術の素人のボクの目からしても、今の一夏の剣は荒々しいっていうか…」
「…一夏…どうしたのだ?お前が手合わせして欲しいと言うから戦ってみれば…。」
アリーナの隅で、ISスーツのみになった一夏と箒、そして観戦していた鈴とシャルロットが集まり、先程の戦闘について思うところがあったらしく、それぞれが意見を出し始める。
ALOからログアウトし、シャワーを浴びた一夏は、食堂で軽く食事を済ませていると、3人と鉢合わせた。
聞けば、これから昼辺りまでISで自主練をするという。モヤモヤとしていた一夏は、身体を動かしてスッキリしてみようと、その自主練に参加を申し立てた。
一夏に思いを寄せる3人は、これを断るハズもなく、寧ろ『歓迎しよう、盛大にな。』と言わんばかりに受け入れてくれた。
だが…
結果はご覧の有様である。
本来の太刀筋とは程遠いまでの一夏のそれは、剣道で全国レベルの箒にことごとくあしらわれ、物の見事に敗北してしまった。
そして一夏らしからぬ雑な剣技は、3人に違和感を持たせるには充分すぎる程であった。
「悪ぃ…、ちょっと…雑念でも入っていたみたいでさ…。」
「…確かにお前の剣技は、純粋に目の前の戦いに入り込んでないように感じたな。…むしろ、心ここにあらず、というのか。」
剣は己の心を写す、と言うが、剣の道を進む箒には、直接彼と試合ったことで、より鋭敏に感じたのだろう。
勿論、…恐らくはこの中で一番付き合いが長い、と言うのもあるが…。
「…昨日までは何も無かったのにね。なにかあったの?」
「………。」
「黙ってちゃ解んないでしょ?…解決できるか解んないけど、相談くらいには乗るわよ?」
友人が自分を案じてくれている。
それはとても優しく、甘美な言葉だ。
「いや、何でも無いさ。ちょっと長い間ログインし続けたからさ、それで寝不足なのかな。それで変にハイになってるんだよ。」
「あんた…こんだけ心配させてゲームのしすぎが原因ってオチな訳?」
「全く…節度を以て時間を決めてやれとあれほど言ったにも関わらず、一夏、お前という奴は…。」
「でも、珍しいね。そこまで深くやり過ぎること、一夏、今までなかったのに?」
「俺だって…そう言うときくらいあるさ。…滅多な事ではしないけどな。」
こればかりは事実だ。
昨夜の夕食も省いて、ユウキ達の願いのために奔走して、喜び合って、気付けば朝だ。
向こうで少し寝たとは言え、遊んでいた時間が長いので、事実夜更かしと言うことになるだろう。
「次はもう少しマシな戦いをして見せるさ。鈴、次の相手、頼めるか?」
「べ、別に良いけど…その代わり、無茶だけはするんじゃないわよ。」
「わかってるよ。」
今はただ…身体を動かして、この胸の変なモヤモヤを取り払いたかった。
…しかしそんな時に、白式のプライベートチャンネルに、匿名からのメッセージが入る。
「悪い、ちょっと待っててくれ。」
メールのようなこの機能は、今まで使う必要が無かったのだが、ここに来て名も名乗らない人間からのメッセージと言うのは、余り良い予感はしない。
しかし気になる。
「…誰からだ…?プライベートメッセージなんて…。」
まるで仮想世界にいるような感覚で指をスライドさせて、そのメッセージを開封する。
『ユウキについて話がある。1200に○○港3番倉庫へ来い。』
ユウキ
その言葉にビクリと背筋が張った気がした。
ユウキとイチカ、その友好関係について知る者はいないはず。ましてやリアルで織斑一夏=イチカであることを知る人物は、SAO帰還者学校にいる一部のメンバーのみ。そして彼等、彼女等はISを所持しておらず、IS所有者のみが扱えるプライベートメッセージを送信することは出来ない。
…だが、ユウキについての話に、冷静さを欠いている一夏が食い付かないはずもなかった。
「悪ぃ!急用が出来た!鈴!模擬戦はまた今度な!箒もシャルも、付き合わせて悪かった!」
返事を聞く間もなく背を向け、急ぎアリーナを駆け出る一夏。その背を見て、3人は呆けるしかなかった。
誰が差出人なのか
なぜユウキを知る人物がISを所有しているのか
そんな疑問はかなぐり捨てて、一夏は急ぎ学園を後にした。
潮の香りが充満し、潮風によってそこらかしこにサビが目立つ古臭い鉄製の倉庫。
とは言え、使用頻度は少なくとも、使用している企業はあるらしく、一夏を乗せたタクシーと入れ替わりに、4tトラックが敷地から出ていくのが見えた。
タクシー運転手には、なぜこんな寂れ掛けの倉庫に行くのかというような怪訝な目を向けられたが、切羽詰まった一夏の目に押され、唯ならぬ事態と察したのか、急ぎ車を走らせてくれた。
「…えらく古いトコに呼び出されたもんだな。」
タクシーが走り去り周囲を見渡せば人一人おらず、遠巻きに車のクラクションや、波が港のコンクリートにたたきつけられる音が響くだけ。
不気味
その言葉に尽きるまでに。
一夏がこうして姿を現せども、メッセージを送った相手は待ってはいない。時計を見れば11時50分。10分前集合は厳守できたはずだ。
「…おぉい!!誰が呼び出したか知らないが、来たんだから姿ぐらい現せよ!!」
何が、誰が出て来ても良いように、ガントレットにしている白式をいつでも起動できるように構える。
大声で呼び出した割には何も返してこず、一夏の声が空しく木霊するだけだ。
…悪戯か?…いや、ISを使ってまで呼び出したのだ。なんらかの接触は…。
「ふん、一人で来るとは…お前に危機感と言う物は存在し得ないのか?能天気というのか、間抜けというのか……はたまた阿呆か?」
ぐさぐさと突き刺さる物言いが、一夏のメンタルに対して的確なダメージを入れてくる。
…この声…仮想世界で聞いたときもそうだが、
…そう、
「お前……亡国機業の……M…!」
忘れもしない、姉と恐ろしいまでに似た顔を持ち、自身を恨み、命を奪わんとしている少女だ。
黒いフードに、黒のジャケットに黒のパンツ。
………………自身の親友を彷彿されるようなチョイスだ。
「
「今になって気付いたが……やっぱりお前は…」
「……今頃気付くか。鈍いな。…そうだ、私が『マドカ』だよ。」
つい朝方まで仮想世界で共に過ごしたフレンドが、自身の命を狙っていたテロリストだった。何も知らぬとは言え、そんな相手と時間を共にしていたことに、一夏は驚愕を隠し得ない。
だが、ここは現実。
相手が…いつISを展開してくるかはわからない。
彼女の実力の高さは身に染みている。
勝てる可能性は極めて低いだろう。
しかし…
「…何をそんなにいきり立っている?」
「は……?」
「私はメッセージに載せたろう?ユウキについて、だ。」
「…ユウキ…だと…?」
「そうだ。軽く、だがな。ALOのサーバーにハッキングをかけて、ユウキのアカウントを調べ上げ、そしてアクセスポイントがどこにあるか突き止めた。」
「ハッキングって……違法だろ?」
「私にとっては、その程度は子供の悪戯程度の悪さでしかない。」
「威張るところでもないんじゃ…。」
…こんなキャラだったか?とても自身の命を狙った少女かと思うが…
「…まぁ詳しい話は道中話すとしよう。」
そう言って少女…マドカは倉庫の影から、大型のバイクを持ち出してきた。それにさも当然のように跨がり、自身のヘルメットを装着する。色は服装に合わせてメタリックブラックで統一されており…、ここまで黒にこだわるとなるとガチのようだ。フードはというと消えており、もしかしたらISの拡張領域にでも格納したのかのもしれない。
「…乗れ。」
もう一つのヘルメット(白)を投げ渡し、後ろに乗るように言う。
全く状況が読めない一夏は唖然とする中、苛立ってきたマドカは声を荒げ始める。
「ユウキに逢いに行くのだろう…!だったら呆けてないでさっさと乗れ阿呆!」
「アッハイ。」
…こう言うところまで千冬姉そっくりだなぁ…。
そんな思いが駆け巡りつつ、一夏はマドカの後ろに跨がり、ヘルメットを装着する。
「…良いか?腰に手を回していれば良い。……もし変なところを触ったら……」
「さ、触ったら……?」
ドスの効いた声で言うマドカに気圧され、ゴクリと一夏は固唾を飲み込む。
「ユウキに言いつけてやる。」
端から聞けば、特に何も無いような物だが、一夏にとってはこの上なく恐ろしいことに思えて仕方なかった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。