インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
少々リアルが立て込んでて執筆出来ませんでしたが、1週間程は時間が作れると思います。ので、頑張っていきますよ。
砕け散ったボスのポリゴン片が空気へと溶けゆく光景を、ただただボーッと見つめていた。
ひたすらに我武者羅に戦って、その先に得たものが未だに信じられず、未だに実感できず、長い戦闘の果てに終わったという余韻に浸ることしか出来なかった。
ややあって
「やったぁぁぁあ!やったよイチカァァァァッ!!!」
喜色満面の声と笑顔で、イチカに勢い良く抱き付くユウキ。
ようやく、ようやく念願叶っての1パーティでの階層ボス撃破。
それを成し遂げた喜びはユウキだけではなく、他の面々にも表情に表れており、それぞれが喜びを分かち合っている。
「おう、やったなユウキ。」
「皆のお陰で勝ててよかったよ~!」
「…だな、ここにいる誰か一人が欠けたとしたら勝てなかった。…チームプレイの勝利だ。」
「いやいや、本当に受け止めるイチカさんの指示と力がなかったらやられてましたよ。」
「そ、そ、そうです。け、け、謙遜しなくても…」
「いや、タルケンの槍が偶然あそこに当たったのもだし、ユウキのOSS、テッチとジュンのタンク、シウネーとノリのバックアップ。それらが揃ってこその勝利だ。元々勝てるチームに対して、俺はほんの少し後押ししたに過ぎないさ。」
「そう言われると…照れちまうな。」
と、ここに来てようやくボス部屋の入口、その重厚な両開きの扉が、大きな音を立ててゆっくりと開け放たれる。
そして…先頭のサラマンダーの男が見たもの。
それは、部屋の主が既に居ない、ただの広い空間。
加えて自身らに向かって満面の笑みでVサインを向けてくるスリーピングナイツの面々だった。
「そうだ!まだ大事なことが残ってます!」
気落ちした攻略ギルドの連中の後ろ姿を見送った後、改めて勝利の余韻に浸る中、シウネーが思い出したように真剣な面持ちで口を開いた。
残ってること?
はて、何かあっただろうか?
皆が何のことかと瞬きする中、先程とは打って変わってにっこりと頬笑んでこう言った。
「勿論、打ち上げです!」
「おぉ!良いね良いね!!」
「ぱーっとやろうぜぱーっと!!」
「ささ、幸いにも軍資金は沢山ありますし…」
「問題は何処でするか、だね。」
スリーピングナイツにはギルドホームがない。何処かの店でやるのもいいが、やはり打ち上げとあって、気を遣わずにわいわいやれるところが望ましいのも確かだ。
どうしたものかと悩むメンバーに、ふと思い付いたのか、イチカはとあるフレンドにメッセージを送る。
「ん?イチカ?誰かにメッセージ?」
「まぁな。もしかしたら、場所を借りれるかも知れないぜ。」
「ほ、本当ですか?」
「ま、代わりに阿漕な用件を出されるかも知れないけど、そん時はそん時だ。…お、返ってきたな。」
間髪入れずにメッセージを開くと、予想外に阿漕な依頼は無く、ほぼ対価無しで貸してくれるらしい。
「OKだとさ。貸し出せる準備をしてくれるらしいから、それまでに材料とか飲み物を仕入れようぜ!」
『了解っ!』
まぁそんなわけで、次の階層の転移門をアクティベートした後に、空都ラインへと買い出しに向かうこととなった。
空都ライン
最近になってアップデートされた複数の浮遊島からなるエリアの内、島一つ丸ごと街になっている。
その広さや賑わいはイグドラシルシティに劣るが、最新アップデートエリアとあって、かなりのプレイヤーが駐留している。
ラインのショップなどが立ち並ぶそのエリアに店を構えるダイシーカフェ。
アンドリュー・ギルバート・ミルズことエギルが、リアルと同じように開いたカフェテリアだ。
リアルやSAO時代からの知り合いは勿論、ALOからの新規のメンバーも足を運ぶ、中々の人気店だ。
落ち着いた店内の雰囲気が人気の秘訣らしいその店の扉をイチカは開いて中へ入る。普段なら客がそこそこ入って賑わいを見せているのだが、今日は客が一人も居ない。それどころか、店長であるエギルの姿も無い。
「うっわぁ……こんな良いお店…借りちゃって良いの?」
イチカに続いて入ったユウキが店内を見渡す。その後ろから、スリーピングナイツがぞろぞろと店内に雪崩れ込んできた。
「店長が良いって言ってくれたんだ。遠慮せず、存分に使わせて貰おうぜ。」
「でもイチカさん。材料ばかりを買ってきてますが…どうするんですか?」
「そりゃ決まってるだろ。」
心配そうにする面々に対して、イチカはストレージから材料を次から次へとオブジェクト化し、続いて愛用の包丁を取り出してニヤリと笑みを浮かべる。
「俺が作るんだよ。」
「い、イチカさんが、ですか?」
「なんだよタルケン。俺、こう見えてもスキルカンストしてるんだぜ?」
「でもわざわざ作らなくても、料理を買ってくれば良いんじゃないの?」
「いやいや、料理ってのは作りたてが旨いんだ。それは現実だろうの仮想だろうと変わらないと俺は思ってる。」
それにさ、と言いながら、目の前の食材に包丁を当てて手頃な大きさにカットしていく。
「この世界の料理行程は簡略化してあるけど、それでも俺は料理が好きだし、それを誰かに食べて貰って笑顔になって貰うのも好きなんだよ。…だから、スリーピングナイツの皆に俺の料理を食べて欲しいって言うのもあるんだ。…まぁ俺の我が儘だけどな。」
「家庭的な人なんですね。」
「まぁな。家事は大体俺がやってるし…」
カットし終えた具材を、鍋やフライパン、大きめの耐熱皿に仕分けし、調味料などを慣れた手つきで注いでいく。
見事な手際に、スリーピングナイツは感心しながら、彼の料理の出来上がりを心待ちにしていた。
「え、えっと…こ、こう言うのボク慣れてないんだけどなぁ~…」
「いえ、ユウキがスリーピングナイツのリーダーなんですし、乾杯の音頭を執るのは別に変なことじゃないわ。」
「よっ!リーダー!景気の良いのを頼むよ!」
「じ、ジュン!煽らないでよぅ!」
数個の客用のテーブルを組み合わせて出来上がった、簡素ながら大きなテーブルにイチカの作り上げた料理を運び終え、皆が樽ジョッキを手にして、あとは乾杯の音頭を待つばかり。どうせなら、と言うことで、リーダーであるユウキにお願いしようとなって今に至るわけである。パーティーこそすれ、幹事染みたことはやったことないユウキは、ガチガチに緊張しているのである。
「ユウキ、別に難しいことやカッコいいことを言えってわけじゃない。ボスを討伐した、そのユウキの気持ちを伝えて欲しい、それだけなんだ。」
「ボクの…気持ち?」
「うん、こう言うのは気持ちを皆で共感するのが大切かなって思うからな。」
「そっか…そう言う物なんだね。」
よし、と気合いを入れたのか、ユウキは手に持った樽ジョッキを強く握り、高々と掲げた。
「ボクは…ボスの討伐が出来て嬉しいし……何よりも…皆と出会えて、一緒に戦って…勝利の喜びを味わえた事が何よりも嬉しい…!ボクは…皆に会えて良かった!ありがとう!……じゃあ…乾杯!!」
『乾杯!!!』
溢れんばかりになみなみと注がれた酒的な飲み物が盛大に揺れるほどに、皆は勢い良く樽ジョッキをかち合わせた。
そして飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが始まった。
皆、システムによって擬似的に酔っ払ってしまい、ノリは何故か熱いと脱ぎたがり、テッチは爆睡、タルケンは何故か泣き出すし、シウネーはやたらと絡んでくる。ジュンに至っては常に笑っているという。見事に、脱ぎ上戸、寝上戸、泣き上戸、絡み上戸、笑い上戸が揃ってしまった。
「…見事なまでに皆酔いつぶれているな…。」
目の前の混沌とした空間に、イチカは苦笑を隠せない。そりゃまぁ、SAOもそうだったが、ALO内での飲酒は禁じられていないので、咎めることは出来ないのだが…。
勿論イチカも飲んではいるが、別段どうなるというわけでも無く、少々顔に赤みが増した程度である。
しかしメンバーがこれだけ変な酔い方をするのだ。…リーダーのユウキは…。
「えっへへ~、イ~チカっ、飲んでる~?」
考えた矢先にぽふんと、背中から抱き付いてくる。そんなユウキの顔は酔っているのが明らかなほどに赤く染まっているのだが、他の面々に比べればいつもより少々ハイテンションな位で、変な酔い方をしているようには見受けられなかった。
「イチカの料理、すっごく美味しいよ~!さすがにスキルカンストは違うなぁ~!」
「いや、最初の頃は俺も失敗ばかりだったぞ。反復練習の賜物だな。」
「ボスの討伐も手伝ってくれたし~、料理も作ってくれたし~、ホントにお礼を言っても言い切れないよ~!」
そう言って、抱き着く力を強めてくるユウキは、胸のプレートアーマーを外しているために軽装。先程からイチカの背には、少々柔らかな物がぐいぐいと押し付けられているわけで。
「あの…ユウキさん?」
「ん~?なぁにイチカ?」
「当たってるんですけど…」
「当たってるって…なにが~?」
判ってて聞いているのか、それとも本当に自覚無しなのか。なんにせよ、論理コードがあるとは言え、理性的に少しよろしくない。
それはまぁ…小ぶりに変わりない。しかし無いわけではないのであって…
「その…オムネがですね…。」
「意識しすぎだよ~、イチカのえっちぃ…。」
あれ?またデジャヴってる?
自分に負が無いはずなのに、何故か自分が悪いかのように…。
「ねぇイチカ………ボク、イチカと…ボスの討伐が出来て……良かったよ…」
「ユウキ…?」
先程と打って変わり、少ししんみりとしたユウキの雰囲気に、思わずイチカも呼びかけてしまう。
「もうすぐ…皆とお別れする時間が来るまでに……忘れられない思い出が出来て……今までに無いくらいのワクワクした冒険が出来て……もう思い残すことがないくらいだ……」
「んな…大袈裟だろ…?これからまだまだ生きていたら、もっともっとスゴいこともあるハズさ。」
だが…ユウキの声には…大袈裟だとか、大々的に言っているだとか、そんな物が感じられず、イチカの言葉にも否定はせず、顔を伏せてしまって表情が見えなくなってしまった。
「それでもボクは…ボク達は、こうしてこの世界に生きたアカシを…シルシを残せた…、それが何より嬉しいんだ…。」
「………。」
「ねぇイチカ。皆や…キミと生きた今日をボクは…忘れないから…。だから…ボクが…ALOから居なくなっても……忘れないって、約束してくれる?」
お願い…いや、むしろ祈りのようにも聞こえた。
何がここまで彼女を思わせるのか。
『今はまだ』それを知ることが出来ないイチカには、唯々戸惑いながらも…
「…当たり前だろ?ユウキも…スリーピングナイツの皆も…俺の大切な仲間だ。…忘れないよ。」
こう返すことしか出来ない。
しかし、その言葉に満足したのか、ユウキは伏せていた顔を上げ、いつもの満面の笑みを浮かべた。
「ありがと…イチカ………大好…き……だ…よ……。」
徐々に消え行く声、そしてやがてユウキはスヤスヤと寝息を立てて、文字通り寝落ちしてしまった。
目の前にも酒で溺れた連中が、死屍累々と言わんばかりに酔っ払って寝ている。
…少々散らかった机を見て、片付けねばと言う使命感が芽生える。しかし、抱き着いたまま寝てしまったユウキを起こしてしまいかねないので、動こうにも動けずにいた。
「……仕方ない、起きるまで待つか。」
こちらも少し酔いが回っているのもあるし、椅子の上で寝づらいかも知れないけど、この際文句は言えない。首に抱き着いているユウキを自身の膝の上に座らせると、女の子特有の甘い匂いと柔らかな肌の感触が否が応でも伝わってくる。仮想世界と言えど、こんな所までリアルにしなくてもと思うが、丁度良い抱き枕が出来たことで、イチカはユウキと抱き合いながら、微睡みの中に沈んでいくのだった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。