インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第12話『集う仲間、預ける背中』

最初は耳を疑った。

忘れもしないあの声。

3年前から苦楽を共にした戦友であり、無二のライバル。

本来ここにいるはずのない…黒の剣士。

そんな彼が、背中越しでわからないが、恐らくは不敵な笑みを浮かべて後続隊に立ち塞がっている。

 

「「キリ…ト?」」

 

「え?あの人…2人の知り合い?」

 

イチカとユウキがぼそっと呟いた名に、ジュンが不思議そうに尋ねる。

イチカは掛け替えのない仲間として

ユウキにとってはアスナと同じく、辻デュエルで戦って特に印象が強かった剣士。

そんな彼が…駆けつけてきたのだ。

 

「おいおい黒ずくめ(ブラッキー)先生よ。流石のアンタでも、この人数相手にソロで食うのは無理じゃね?」

 

「…どうかな?やってみたことないから、わからないな。」

 

「そりゃそうだ。」

 

さすがにこの人数差でやり合おうなんてシチュエーションは、ギルド本部にでもカチコミを掛けない限り、味わえないものだろう。

あくまでも笑みを漏らすキリトに、サラマンダーの彼もつられて口許を緩める。

 

「ほんじゃ、たっぷり味わってくれ。………メイジ隊、焼いてやんな。」

 

集団後方に控えていた魔法戦主体のビルドを組んでいるメイジ数人が、遠距離における攻撃魔法のスペルを読み上げる。

 

高速

 

射出

 

爆発

 

それぞれが一撃でキリトを仕留めんと練り上げた魔法。

 

誘導弾

 

魔法の矢

 

それぞれが術者から射出され、複雑な軌道を描きながら、立ち塞がっているキリトへと高速で向かっていく。

 

「イチカ!キリトが…やられちゃう!」

 

「大丈夫だ。」

 

悲痛な叫びをあげるユウキだったが、対照的にイチカは落ち着いて成り行きを見守っている。

 

「アイツの反応速度は…伊達じゃない。」

 

肩に掛けていた黒い片手直剣ユナイティウォークスを抜き取ったキリトは、ニヤリと笑みを浮かべながら、その刃にソードスキルの青い光を纏わせる。

 

「へっ……!」

 

眼前に、魔法の矢が迫り、端から見れば万事休すかと思われた。

しかし彼は、なんの躊躇いも畏れも迷いもなく、剣を振り下ろした。

 

「ふんっ!!」

 

瞬間

甲高い金属音と共に、白い閃光が彼の前で割れ、遥か後方へと吹き飛び、そしてマナの光として霧散する。

間髪入れず、続く誘導弾を連撃にて次々と打ち払い、最後には爆発性のある弾丸を切り払い、爆煙が彼を包み込んだ。

直撃かと思われたものの、黒々とした煙の晴れた先に、スプリガンの彼が不敵な笑みを浮かべて立っていたことにより、それはなかったと判断する。

 

「うっそぉ……」

 

「ま、魔法を…切った?」

 

「偶然じゃ…なくて?」

 

攻略ギルドのプレイヤーも、果てにはスリーピングナイツも、目の前で起こったとんでもない事態に度肝を抜かれる。

 

「ん~…どんな高速魔法でも、対物ライフルの弾丸に比べりゃ遅いからな。」

 

流石にGGOで弾丸飛び交う戦場を駆け抜け、あえてブレードによる近接戦を挑んでいた彼は、弾丸を切り裂くという離れ業を披露していた。

それだけではない。

旧SAOにおいても、デュエルで武器破壊(アームブラスト)を得意としていた彼は、その圧倒的な反応速度を活かして、仲間の協力の下に編み出したシステム外スキル魔法破壊(スペルブラスト)

この希有な経験を経て編み出したこれを、現ALOにおいて扱えるのは、恐らくキリトただ1人だろう。

 

「な、なんだそりゃ……」

 

「こ、これだから……」

 

攻略ギルドの増援が、目の前で披露された圧倒的な技術に呆気取られる中、サラマンダーの男はいち早く我を取り戻し、指示を飛ばす。

 

「あ、相手は一人だ!陣形を立て直せ!魔法が無理でも、近接戦を挑みゃこちらに分がある!」

 

そうして前線に出て来るのは、大盾を装備したタンク隊だ。

かつて旧ALOで取られた、近接戦重視のプレイヤーに対する陣形。

タンク隊で防ぎ、斬り込ませることなく、メイジ隊やアーチャーで遠距離攻撃を繰り出し、タンク隊の後ろに控えたヒーラーが、タンク隊の体力を回復させる布陣。単体なら、これに為す術も無く、ジリ貧に持ち込まれて最終的にやられるのが関の山だろう。

しかしキリトはそれに臆することなく、ストレージから背中にもう一本の剣を携える。

鍔と一体化した黄金の刃

青い柄

それは、ゲーマーなら欲して止まない、最高峰の剣。

エクスキャリバー

それが…二刀流としてキリトが抜き放つ。

 

「二刀流…キリト…本気、なんだな。」

 

このALOで抜き放つことはないと踏んでいたその構えは、まさしくキリトの本気。

負けられない戦い…つまり、仲間のためにその刃を抜くとしていた彼が、今この場でそれを解き放った。

エクスキャリバーも彼の中では、自分のためではない、仲間のために戦うと決めたときに抜き放つと誓いを立てていた。

そして…彼にとって今がその時なのだろう。

 

「二刀…流…?ボクとのデュエルで…あんなの無かったよね…?」

 

「複雑な事情と理由があるんだよ。キリトにも…俺にも……。」

 

そうしてイチカも…雪華の刃を鞘に収め、納刀する。

しかし、戦いを止めるためではない。

道を切り開くため、

そして背中越しに、自分達のために力を貸してくれる仲間のために、

イチカは『禁じ手』を使うと決めた。

 

「おぉ~い!」

 

そんな中で…聞き覚えのある声が、遥か後方…攻略ギルド増援の最後列辺りで発せられる。ザク!ザク!と何かを斬りまくってる音を聞くに、最後方のプレイヤーを斬りまくってるのだろうか。

 

「俺様も居るぜ!」

 

「遅いぞクライン!何やってんだよ!」

 

「悪ぃ!迷子になってた!」

 

クライン

旧SAOからの友人で、イチカと同じくカタナを使う野武士面の男だ。

女好きであるが、その明るく気さくな性格は、殺伐としていた旧SAOにおいて、イチカやキリトにとっては有り難い物だった。

 

「クラインさん、一人で行きすぎですよ。」

 

「だってよぅ、ダチのピンチなんだぜ?急がずにどうするんだよ!」

 

「まぁ気持ちは判るわよ。だからって突っ走るのは頂けません。」

 

どうやらクラインが先行したのか、後から駆けつけてくれたアスナに窘められている。

まさか後方を突かれることになったのが意外だった様で、攻略ギルドの陣形が崩れ始めた。

そんな彼等に追い打ちを掛けるように、クライン、アスナの後方から、複数の光の筋が飛来し、まるで雨のように相手に降り注いだ。

 

「全く…知らない奴の助けに行け、なんて言われたから何事かと思ってみたけど…後でちゃんと説明しなさいよね!」

 

「わかってるよシノのん!後方は任せたからね!」

 

「はいはい。」

 

呆れ半分に、シノのんと呼ばれた水色の髪のショートヘア女性ケットシーが、弓に矢をつがえ、再び矢の雨を降り注がせる。浮き足立ったそこに、クラインとアスナが切り込み、次々とリメンライトを生み出していく。

 

「す、すごい…。」

 

「後ろは…任せて大丈夫そうだな。…俺達の目的はひとつ!目の前の奴らをぶっ潰して、ボス部屋に辿り着く!いいな!」

 

『了解!!』

 

威勢の良い返事を聞いて、イチカも思わず笑みを溢す。そんな中で、背中越しに見える黒の友人がこちらを見ていた。

そんな彼の背は、あの頃(旧SAOの時)から変わりなく、これ以上に無く頼もしかった。

 

(ありがとう…クライン…先生…名も知らぬケットシーさん……キリト…!)

 

(行って来い…イチカ…!)

 

心中で感謝の言葉を語る中で、背中越しにそんな言葉が聞こえた。

 

本当に…俺は幸せ者だな。

強い姉が居て…

これ以上にないくらいの、最高の仲間達に恵まれている。

 

背を預け合ったイチカとキリト

 

 

どちらからともなく、まさしく二人は同時に踏み出し、斬り込んだ。

 

 

後方で黒と黄金の刃が、

 

こちらでは白銀の刀刃が。

 

 

旧SAOの帰還者なら、二人が揃った時をこう呼んだだろう。

 

 

 

『白騎士と黒騎士の再来』と…。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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