インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
そしてちょっとだけイチャつかせてみせる
階層ボス戦
新生アインクラッドにおいてこれに挑む際の編成は、旧SAOのそれを引用している。7人パーティを7隊で組んだレイドで挑む。この点に関しては変わりない。
過剰と取られるまでの人数で挑まなければ倒すことは難しい。其程までに強力なモンスターが立ちはだかることを意味している。
それを7分の1…たった7人パーティで討伐しようというのだから、旧SAOを知るイチカにとってはぶっ飛びすぎた話である。
スキルの詳細はマナー違反なので聞かなかったが、ある程度のロールを聞いてイチカの導いた答えは決まっていた。
「…いくらスリーピングナイツが手練とはいえ…こいつぁ難しい、かな…。」
「やっぱりムリ、かな…?」
リーダーのユウキが眉をハの字にしてションボリすると、面々もそれに釣られて気落ちした表情を浮かべる。
「そもそもローテが難しいだろ?回復のビルドを組んでいるのはシウネーだけ。で、バフを振れるのはノリ…。タンクにテッチ。ディーラーにユウキ、ジュン、タルケン…んで俺。防御特化のテッチはともかく、4人の最前列がいては、シウネーやノリの負担が大きいってのが俺の見解かな。前衛に傾きが強すぎるよ。」
「でもPOTローテを入れたら…」
「それもアリだけど…いざって時の壁役がテッチだけなんだよ。俺は完全にディーラー重視の編成だしな。」
「むむむ…!」
「流石の俺もこんな編成でボスを倒したって言うのは…」
そこまで言いかけて…イチカは、はっと口をつぐんだ。突然黙って考え込む彼に、スリーピングナイツの面々は顔を見合わせる。
「いや……待てよ……あの時は今以上に無茶苦茶だったんだ……もしかしたら……」
「あの…イチカさん…?」
うんうん唸り出すイチカを流石に心配したのか、シウネーが声を掛ける。それが皮切りとなったのか、思案していたイチカは顔を上げ、ほのかに笑みを浮かべて頷いた。
「ちょっとゴリ押しになるかも知れないけど…可能性は無くはない、かな。」
「ほ、ホント!?」
テーブルから身を乗り出し、イチカに食い付かんばかりの勢いで、喜色の表情を浮かべたユウキが迫る。
「まぁな。一度ディーラーばっかりでボスを討伐したことがあってな。もしかしたら…って思ったんだ。…まぁ賭けみたいな物だけどな。」
「へぇ…そんなのあったのか。でもそんな情報あったっけ?聞いたことないけど…」
ジュンが思いのほか鋭いところを突いてくるので、少々イチカは引き攣った表情を浮かべる。
実を言うと、イチカの言うこの戦果。旧SAOの第74層のボス、グリムアイズと闘った際の話である。この時、無茶なボス討伐を行ったアインクラッド解放軍…通称『軍』のフォローに回ったとは言え、急場しのぎのパーティ編成で挑むことになった。
キリト、アスナ、イチカ…そしてクライン率いるギルドの風林火山。最も、風林火山はクライン以外、壊滅的状況の軍の救出に回っており、実質的にボス討伐に回ったのはダメージディーラーの4人だけ。それでもボスを倒すことが出来たのは、キリトのユニークスキルの二刀流、そしてイチカのユニークスキルである居合、この二つの貢献が大きかった。それでもその事を思えば、イチカとスリーピングナイツの面々は、まだ恵まれている方だとも思える。
…しかし、自身がSAO生還者であること。それは出来るだけ伏せておきたい事実。バレたり…尋ねられたりしたら答えはするが、自分から名乗り出ることは先ずしないようにしている。
何かしらの偏見を持たれるのが嫌だったからである。
それだけにジュンが勘繰りを入れたことでイチカは心中、冷や汗がタラリと流れていた。
「ジュン、イチカさんは協力して下さるんだから、変な詮索は止めておきましょう。」
「ん~、そうだな。ごめん、イチカさん。」
「いや、俺も思わせぶりなことを言いだしたからな。別に気にしなくても大丈夫だ。」
結構あっさりと引き下がってくれて、イチカ自身胸をなで下ろす。
まぁ兎にも角にも、この人数でのボス戦と言うのは苦戦必至には変わりない。
…もしかしたら、『居合』の封を解かねばならないかも知れない。
しかし居合を扱う絶刀イチカは…既に必要と考えては居ない。あの戦闘スタイルは、命を賭けて生き抜くために身につけたスキル。今のこの平和なALOに居合のイチカは必要ない。キリトが同じ理由で二刀流を封印したように、イチカもまたその力を使わないように誓いを立てている。
しかし…死がない世界ではあるが、もし仲間を護るために居合が必要とあるならば、その刃を抜くことに躊躇いはない。
…このスリーピングナイツ。
彼女達の想いを考え、そしてそれに応えるなら…或いは…。
「じゃあ兎に角、どんなボスが出てくるかは分からないけど…一度明日にでも迷宮区に行ってみよう。もし可能なら、偵察も兼ねてボスに挑んで、負けたなら対策を考えてみようぜ。」
「うん、ありがとうイチカ。」
軽食を済ませた面々は、一旦話を切って宿の外へと足を運ぶ。空は徐々に暗がり始めている時間帯となっていた。
「ありがとうございますイチカさん。…それとウチのノリがすいませんでした。」
「あ~、いや…どんなお菓子か確認しなかった俺にも責があるし…」
「でもいきなりのドロップキックは頂けません。ほらノリ。」
「ちぇっ…………悪かったなイチカさん。」
バツの悪そうに目を逸らしながら、素直に謝罪するノリ。最初こそおっかない人だとは思ったが、話してみれば何のことはない、リーダー思いの優しい女性のようだ。
「ノリさん謝らないで下さい。それに…イチカでいいですよ。」
「お、おう、じゃあ私もノリで良いからな。あと敬語もいらないよ。」
「じゃあ改めてよろしくな、ノリ!」
「よろしくイチカ!」
ガシッと固い握手をする2人。雨降って何とやら。仲間思い同士だからか、どことなく話してみれば気が合うのかも知れない。
柔らかな笑みを浮かべるようになったノリとイチカ。
それを見て面白くないのか、頬を膨らませる人物が一人。
「ほ、ほらイチカ!宿題があるでしょ!早くログアウトしないと!」
二人の間に割って入ったユウキは、ずいずいとイチカの背を押してノリから遠ざけていく。
「お、おう!ってそんなに切羽詰まってないぞユウキ。…飯の時間まで少しあるしな。」
「じゃあご飯までに宿題!そうすれば良いでしょ!」
「な、何怒ってるんだユウキ…」
そんな2人を見て、何かを察したシウネーは、複雑そうな顔をしながらも、『あらあらうふふ』と意味深な笑みを浮かべる。
「わ、わかったよ!それじゃあ皆、また明日な!」
「えぇ、それでは。」
「またなイチカ!」
「ご、ごごきげんよう」
「また、イチカ。」
「じゃあな~!」
ユウキを残したスリーピングナイツは、宿屋へと踵を返して中へと消えていく。
「………。」
「ど、どうした?ユウキ…。」
「…別に、何でも無いもん。」
プイッとそっぽを向いてしまう絶剣さん。
どうやらご機嫌を損ねておられるらしい。
頬を膨らませた顔は何とも小動物を思わせるほどの愛らしさである。
「ん~、また俺、なんかユウキを怒らせるような事したかな?」
「知らないもんっ。」
「やれやれ…参ったな。」
バツが悪そうにポリポリと頭を掻いたイチカの手は、なぜか吸い込まれるようにユウキの頭に乗せられる。
そして、優しく…ソフトにその髪を撫で始めた。
「わわ…っ、イ、イチカ…?」
「機嫌直してくれユウキ。なんか…こんな事しか出来ないけどさ。」
「……い、イチカ、これってセクハラなんだよ…?」
「うぇっ!?そ、そうなのか?」
「イチカって、女の子を撫でるのが常套句になってたりするの?」
女の子のご機嫌取りに、頭を撫でていれば良いとでも思っているのか。そんなイチカにユウキは舌からジト目で睨み上げる。
「い、いや…そう言う意味じゃなくて…。悪かった、嫌なら止め…」
「続けても…いいよ?」
「へ…?で、でもさ。」
「ボクが良いって言ってるんだから良いの!」
「わ、わかった、わかったって…」
「エヘヘ…よろしいっ!」
どうやら…頭を撫でる、と言うのがご満悦のようで、いつものような朗らかな笑顔に戻ったユウキを見て、自然とイチカも笑みがこぼれる。
そうして…
たっぷり十分ほどは撫で続けただろうか?
ユウキが満足いくまで撫で繰り回した結果、彼女の機嫌はすっかり直り、まさに上機嫌と言ったまでに上がっていた。
「ん~、満足満足!…イチカ、ありがとうね。」
「何がありがとうかわかんねぇけど…とりあえず、おう。」
「ボクもそろそろ落ちなきゃだから…イチカ、今日はこれでお別れだね。」
「…そうだな。そろそろ食堂の夕食時間になってるし…俺も落ちるよ。」
「じゃあイチカ!また明日ね!ボク達は大体同じくらいの時間にこの宿屋にいるからさ!」
「わかった。それくらいに尋ねるとするよ。」
「うん!じゃあイチカ!お休み!」
喜色満面で宿屋入口のドアを閉めるユウキを見送り、ふぅ、と一息。
「さて…俺も飯食って、宿題済ませるかな!」
それに明日のためにもしっかり休んでおかなければならない。
ボス戦の前日。
やはりこう言う日は変に緊張が走るのは、旧SAOの癖、その名残なのかも知れない。
もう少し気を抜かねばと思いつつ、イチカはログアウトボタンを押し、現実へとその意識を戻すのであった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。