インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
時系列的には、木綿季がIS学園にプローブ越しに通学しているときになります。細かい事情、設定はノーノーです。
本編のリハビリ程度です。こんなネタで良ければ。
夜も明け切らぬ朝。
IS学園の一室で、目覚まし時計のアラーム音が鳴り響く。
眠りの中にあった意識は、そのけたたましい音によって夢から現へと強制的に戻される。
包まっていた布団からモゾモゾと手を出し、アラーム音の元凶であるスマホを手探りに探す。
意識がほんの少し覚醒してきたことによって、寝る際に枕元に置いていたことを思い出し、自身の頭の上を探していくと、滑らかな質感のそれに手の甲が当たった。問答無用でそれを引っ掴み、アラーム音を停止させると、起きねばならない使命感と、もっと寝ていたいという誘惑が襲い来る。
「ん……もう朝か。」
むくりと身体を起こし、目をゴシゴシとこする。が、それでも目を開けさせるには達せず、次に鈍った身体を解すためにぐっと背伸びするに至る。すると、脳が身体を動かさねばと活発になり、意識もより鮮明に覚醒してきた。…少し声が高いのは、喉が乾燥でもしているからだろうか?
ゆっくりと目を見開くと、カーテンの隙間から差し込む日の光に誘われるように、ベッドから降りて窓際へと脚を進める。
シャッとカーテンを滑らせて開け放つと、丁度水平線から太陽が昇りきったタイミングだった。見慣れた光景なのだが、それでも得も知れぬ解放感というものを感じざるを得ない。
今日は土曜日。明日も続いて学校は休日だ。ゲームをするのも良いが、勉強は元より、ISの鍛錬に時間を割くのも良いかもしれない。
『ん…ふぁ……おはよ…一夏。』
備え付けの机上にある充電器でバッテリーを回復させていたプローブから、自身が好意を寄せる少女の声が聞こえる。丁度彼女も目が覚めたようで、どこか間延びした話し方だ。
「おう、おはよう木綿季。」
窓から振り返り、プローブの方へ向き直る。
その時だった。
妙に感じていた頭の重さが確信、そしてその理由が眼に入った。
振り返った勢いによる遠心力でふわりと舞ったのが、艶やかな黒髪。見下ろせば、はらりと勢いを失って肩に掛かったそれは、『やや膨らんだ胸元』辺りまでのセミロングだ。
おかしい。
髪の毛は基本的に短めでカットもしているし、昨晩も確かにいつもと変わらぬ長さであったはず。
にもかかわらず、何がどうしてこうなったのか?一晩でここまで伸びるとか、日本人形じゃあるまいに…。
そして先程眼に入った、看過できないもの。
『え…っと……キミは…誰?』
そんな木綿季の疑問。
「何…言ってるんだ?俺は一夏…だ…ぞ?」
そう歯切れが悪くなってしまったのは、自身の中でも認めたくない事実に、今直面しているからに他ならなかった。
そう…。
再び胸元を見やる。
…そこからは怒濤の早さで洗面所に駆け込んだ。旧SAOのステータスによる速さもかくやといわんばかりに。
そして…
洗面所の鏡に映る自身の姿に、一夏は…ポツリと呟いた。
「キミは…誰だ?」
それは現実逃避にも思えるかも知れない。だがそうでもしなければ混乱と錯乱によってどうにかなってしまいそうだと思ったから。
…何せ
目の前の鏡に映るのは、男である織斑一夏ではなく、セミロングの黒髪、そして本来の自身の身長より幾分低い体付きの…端から見ても美少女が立っていたから。
…どうしてこうなったのか。
昨日まで健全な男子であったことには変わりない。
にも関わらず、一夜にして、所謂『性転換』的な減少が起きていたことは紛れもない事実。
何がどうしてこうなるのか?
様々なパターンを想定した結果として、一人の人物に辿り着く。
『もすもす邪神モッコス。やあやあ、いっ君!どうだい?束さんお手製の『オンナニナール』、略して『オ〇ニー』は?』
「その壊滅的なネーミングセンスはどうかと思いますよ束さん。」
とりあえず通信をしてみたところ、何も聞いていないのに開口一番自白してくれた。
やっぱりウサギの仕業だった。
『夜中にこっそり、そしてプスッとね?まぁ安全性はバッチリの新薬の実験にモルモ…もとい、被検体にいっ君は選ばれた訳なのだよ。』
「言い直した意味がわかりません。…と言うか、安全面において、身体はともかく、精神的にはかなりキましたけど。」
『そこはほら、アレだよ。いっ君の『鋼の魂』。これに尽きるのさ。漢の夢じゃない?性転換って。』
「人によりけりだと思いますけどね。」
『それで…束さん。その…一夏は元に戻るんですか?』
怖ず怖ずとプローブから木綿季の消え入りそうな声が漏れる。流石に好きな男の子が、自身と同じ女の子になってしまっては、混乱するのが普通だろう。
『大丈夫だよゆうちゃん。想定では一日で効果は切れるから。今日一日だけだけども、我慢してくれたら、薬の効果も切れて元に戻るよ。』
『そ、そうですか。…良かった。』
「いや、俺的には良いのかどうかわかんないんだけど。…今日一日って言っても、一日どうやって過ごすんだよ?」
『まぁまぁ。いっ君、部屋に衣装ケースが増えてるでしょ?中を確認してみなよ。』
確かに部屋の片隅に、小さいながらも衣装ケースがポツンと鎮座してある。…昨晩まであんなものなかったはずなのに。
言われたとおり、衣装ケースの蓋を開けてみると…
純白のフリルが付いた上下お揃いの……所謂女性用下着…ランジェリーがたたんであった。
「…なんでさ。」
『え?だって今日一日ノーブラでノーパンで過ごすわけにいかないじゃん?だからそれ付けて今日は過ごして貰おうかなって。いや~、束さんてば気が利くね~!』
下着その物には、家事が全く出来ない姉に代わって洗濯していたため、見慣れているのは事実だ。…だが、姉のものではないという先入観を捨て置いたら、目の前の物に顔を赤らめていく。
『いっ君…いや、今日一日はいっちゃん。まさかノーブラノーブラで過ごすとか、アブノーマルな性癖はないよね?』
「ぐっ…!」
確かに服を着れなければ食堂や購買にも行けないので、選択の余地はなかった。こういう時に限って冷蔵庫の食材のストックが無くなりかけなんて…。
『それじゃ束さんはそろそろ切るね!バイビー!』
一夏の思いとは真逆に、かなり軽いノリで通信を切った束。残されたのは、目の前の絶望に打ちひしがれる一夏と、どう声をかけるべきか悩む木綿季。
目の前の下着を着用するか否か。だが女体化しているとは言え、これを着けると言うことは、自身の中で大切な何かが失われるような…そんな気がしてならない。
「俺は…どちらを選べばいい?白式は何も応えてくれない。教えてくれ、木綿季。こんな時、どうすればいいか、判らないんだ。」
『…えと………着れば良いと思うよ。』
木綿季の、ある意味男前な決断に、一夏はひと息つくと、意を決してパジャマのボタンに手をかけた。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。