ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第4話 そいね

 そろそろこの世界に来てからどれくらい経ったかカウントすることも億劫になってきた。いつまで経っても私が帰られるような様子はない。

 

「ねむい……」

 

 ついには夜間哨戒もだんだんと慣れてきた。帰ってきた後の眠気に抗うのは難しいけれど、それでも少しは前よりもちゃんとできるようになったと思う。

 

 途中でばったりと倒れてしまわないように、睡魔と戦いながら廊下を歩く。サーニャもこんな生活を続けていたのだろうか。だとしたら昼夜が逆転していたことにも納得だった。というか、私が元に戻っても体内時計は狂ったままなんだろうか。

 

 それにしても今日はずいぶんと哨戒に時間がかかってしまった。だんだん慣れてきたとはいっても、そこはついこの間まで戦いとは関係のなかった私だ。少しは多めに見てもらってもいいと思う。

 

「……ニャが…………んだ」

 

「でも……んじゃ…………ですか?」

 

 何か話し声が聞こえる。それに、たぶんだけれどサーニャの名前が聞こえた気がした。

 

 もしかして何か私が気づかないところで変なことをしたせいで、サーニャがいじめにあったりしてしまうんじゃ……。もし私のせいでサーニャが戻った後にひどい目に合わされたりするのは避けたい。

 

 こっそりと足音を忍ばせて廊下の角に。向こう側から見つからないように、慎重に耳をそば立てた。

 

「いいじゃないですか。エイラさんのベットにサーニャちゃんが寝ぼけて来ることもなくなって、ちゃんと自分の部屋で寝ているのなら」

 

「でもなー、リーネ。サーニャはいつも来てたんだぞ? ……もしかして私はサーニャに嫌われたんじゃ……」

 

「そ、そんなことないですよ! ほら、サーニャちゃんと夜間哨戒をよくしてるじゃないですか。嫌いな相手ならはっきり言いますよ!」

 

「でもサーニャは……はぁ」

 

「え、エイラさん!?」

 

「はっきり言うタイプじゃないからなー、サーニャは」

 

「それはそうかもしれないけど……でも絶対に大丈夫ですっ!」

 

 

 ………………。

 

 ともかくいったんその場を離れる。気づかれないようにこっそり、こっそりと。

 

 なんとか部屋に戻ってボフッとベットに倒れこむ。体を包む疲労感。すぐまどろみに身を委ねたいところだけれど、今はそれどころじゃない。

 

 サーニャはよくエイラのベットで寝ていた。寝ぼけて部屋を間違えていたようだ。思い返せば私がサーニャの中に入ったあの時、私はエイラの部屋で寝ていた。

 

 つまり、サーニャはしょっちゅう寝ぼけてエイラの部屋で寝ていた。

 

 でも私はあれ以来、一度もエイラの部屋に行っていない。もちろん、エイラのベットで寝ることもしていない。

 

 そしてそれが仇となった。まさか他人のベットに潜り込むなんてことをいつもしているとは思っていなかったけれど、どうやらこの認識は間違っていたみたいだ。

 

 けれど幸いなことに、この問題は解決することができる。

 

 私がエイラの部屋に寝ぼけたふりをして突入し、そのままエイラのベットで寝てしまえばいい。

 

 問題点をあげるのなら、私が下着姿で寝なくてはいけないこと。ひとりだからと自分に言い訳してなんとかここまで下着姿で寝てきたけれど、隣に人が寝ているとなると、私が持つかどうか。

 

 もしかして、あっちの父親や母親のように寝ている時でさえ、暴力を振るわれるんじゃないか。父親の友人と名乗る男たちに暴行されるのかもしれない。そんなことはもうありえないとわかっていても、刻みつけられた記憶が体の震えやめまい、吐き気、ひどい時は呼吸困難という形になってしまう。

 

 事実として、ハルトマンさんが医務室で私の横に転がった時に私は症状が出ていた。それでなく、この前は水着ーーなぜか黒のビキニだったーーを着させられて浜辺に行った時は、肌を露出しすぎたせいかめまいがして、日射病と勘違いしたエイラによって基地に戻されたりしていた。

 

 だからといってこの問題を無視し続けることはできない。

 

 前にエイラの部屋で頭痛がした時といい、エイラは私の体調に異変があると気づけばすぐに行動している。つまりエイラの行動力、洞察力は並大抵ではない。今の段階でもっとも私がサーニャではないと気づく可能性が高いのはエイラだ。

 

 それは……なんというかとても言いづらい話になるけれど、隠し通すために、私はエイラと同じベットで寝るしかないということだ。

 

 下手に私がサーニャと違う行動をすれば疑われる。そして正体に気づかれたら確実に私は問い詰められる。そうなったらおしまいだ。私がサーニャの体に入っていることを口にしたら最後、私もろともサーニャの存在がこの世界から消えてしまう。

 

 私のせいでサーニャが消えてしまうことは避けなくてはいけない。それは私の果たすべき責務だ。

 

 なら、私のやらなくていけないことは決まっている。でも明日から、明日からにしよう。もう眠気が限界だった。

 

 だから今日はもう、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今夜も夜間哨戒。

 

「はあ……」

 

 この世界に来てからというものの、ため息の数が増えている気がする。でも仕方ないことだと思う。

 

 明け方の空に少しずつ太陽が顔を出し始めていた。眠気はもちろんある。でも今日に関してはそんな強敵である眠気に圧勝している要素のおかげで、すぐに寝落ちしてしまうことはなさそうだ。

 

 まだ基地に着くまで距離がある。いつもなら、ふかふかのベットが待っていると思うと基地に着くことが待ち遠しかったけれど、今日はちがう。

 

 どれだけ気の進まないことだって避けて通れないものもある。いやだですべてがまかり通る世の中じゃないことくらいは、私もとっくに悟っている。

 

 だからはっきりと言葉にしてしまおう。

 

 

 私は今日、エイラと寝る。

 

 

 …………なんだかとっても誤解を招きそうなので、念のため言っておくと、いっしょのベットで寝るだけだ。そう、それだけ。

 

 ストライカーユニットを所定の位置に収めると、収納に押し嵌めたフリーガーハマーから手を離す。装着していたストライカーから足を抜いてトン、と床に足をつけた。ひんやりとした感触が足の裏に伝わる。

 

 報告を終えて、いつものように廊下を歩く。でもサーニャの部屋には戻らない。いや、正しく言うなら戻れない。

 

「もうついた……」

 

 まさかもう着いてしまうなんて思わなかった。いつもと同じペースで歩いているはずなのに、まさかここまで早くエイラの部屋まで来てしまうとは。

 

 ドアの前まで着いたのに、ドアノブに手が伸びない。でも廊下でずっと立っているのも不自然すぎる。

 

 2、3度ほど深呼吸。いい加減に覚悟を決めるんだ、私。

 

 軋まないようにエイラの部屋のドアを開ける。それからこっそりと中に忍び込んだ。お願いだからエイラが起きませんように。

 

 スヤスヤとエイラが寝息を立てて眠っている。ゆっくりとベットに近づきながら、ネクタイを外した。次にマントと一体型になっている上着のボタンを外して胸元をはだける。そのままするりと脱ぎ捨てた。そして最後に残った黒のストッキングも脱いでしまえば、私が身にまとっているものはブラとショーツ、いやズボンのみだ。

 

「うぅ……」

 

 恥ずかしい。いくら同性とは言っても、下着姿はハードルが高すぎる。水着も限界ギリギリだったのに、それよりもハードだ。

 

 一歩、二歩とベットに向かって歩みを進める。もしかしたら、今まで生きた人生の中で一番、気が張っていた時間だったかもしれない。

 

 そして気を張りすぎたことがアダとなってしまった。

 

「あうっ」

 

 自らが脱いだストッキングに引っかかって足がもつれた。そしてバランスを崩した私の身体はエイラのベットへと倒れ込んでいく。

 

 待って。せっかく音を立てないように気をつけて部屋に入ったのに、これじゃ意味が……

 

 そんな私の祈りは通じなかった。無情にも私の身体はエイラのすぐ横にドサッと音を立てて倒れ込んだ。

 

「うわぁっ!」

 

 ああ、そしてエイラの目が覚めてしまった。仕方ない、けれどこうなったらもう打つ手はひとつ。

 

 私はベットに倒れると同時に寝落ちした。そうやってごまかすしかない。

 

「サ、サーニャ!?」

 

「……」

 

 目を細くしてベットにうつ伏せで転がり続ける。寝たふり、寝たふり。

 

「ハァ……今日、だけだかんなー」

 

 口元をちょっと緩ませてエイラが起き上がる。それから隣の毛布に手を伸ばしたところまで見て、そっと目を閉じた。

 

「これでいっか」

 

 目をつぶっているからわからないけれど、たぶん毛布が私にかけられた。

 

「あー、もう。まったく……」

 

トン、とベットから飛び下りたらしい足音。こっそりと首だけ動かして、目を薄く開けた。

 

 私の視線の先でエイラが私が脱いだ服をざっくりと畳んでまとめてくれていた。

 

「ホントに……今日だけだかんなー」

 

 ちゃんとまとめておけばよかったと少し後悔。いつもなら畳んでおくのに、今日に限って意識を寝ることに持っていかれすぎてすっかり忘れていた。かあっと頬に熱が集まる感覚に、今すぐ両手で顔を覆いたい衝動に駆られる。

 

「ふわぁーあ。おやすみ、サーニャ……」

 

 ベットにエイラが寝転がった振動が伝わる。そしてすぐに寝息を立てて寝てしまった。

 

 まさか最後につまづいてしまうなんて思わなかった。でもうまくいったから結果オーライということにしておこう。

 

 それにしても、前に寝たことがあるけどエイラのベットはけっこう大きい気がする。それだけじゃなくてふかふかだし、いい匂いもする。いい柔軟剤をつかっているのかもしれない。

 

 夜間哨戒の疲れが出てきたのか、眠たくなってきた。でも、エイラのベットでもう転がっているわけだし、やるべき課題は達成している。なら、このまま寝てしまったって……

 

 寝てしまえている?

 

 驚いてベットからはね起きないようにシーツを握る。毛布が震えたけれど、エイラが起きる様子はない。

 

 隣に(エイラ)が寝ている。しかも私は下着姿。それなのに息の乱れすらない。私は落ち着いてベットに転がっていられている。

 

 どうして? なんで私はこんなに落ち着いていられるの?

 

 考えられるのは、サーニャの影響が出ているからかもしれない。サーニャはエイラの部屋にしょっちゅう寝ぼけて突入していたということは、ほかの人よりも心を許していたはず。それが私にも影響しているなら、この状況にも納得がいく。

 

 でも、これは私としてはすこぶるいい状態だ。これでエイラの隣で寝ている時も、常に症状が出るかもしれないと怯える必要はない。

 

 そして、これでエイラに疑われるかもしれない要素をひとつ減らせる。しかも私が安眠できるのなら、それに越した事はない。

 

 どうして症状が出ないか、ちゃんとした理由がわかったわけじゃない。でも今はこれでいいと思う。それにもう考えはまとまらない。

 

 エイラのベットは寝心地がよかった。だからすぐに私は眠りに落ちてしまった。




ペテルブルク大戦略、見に行ってきましたよ!!

何あれ! 最高じゃないですか! エイラーニャが、エイラーニャが!! 下原さんとジョゼさんが!! ロスマン先生が!! ああ、あんなものを見てしまってはいずれ書くしかなくなるじゃない! 時系列的にもやれますし。これはもうスオムスからペテルブルクまでのエイラーニャを書くしかありませんね!

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